ガイアーが飛ぶ。
大陸を東に、舞台は再び日本へ――、
「ガイアー、お前は自分の主人を、どこへ連れて行こうとしているんだ……?」
並走するアークを寄せながら、拓馬が超神の懐を覗き込む。
マーズの状態は最悪に近い。
背面の傷口より始まった腐敗は徐々に拡大し、今や色男の面影もない。
体中のあちこちがむくれ、紫色のぶよぶよとしたただれに覆われていた。
もっとも、深刻なダメージを負っているのはマーズだけではない。
拓馬の駆るアークもまた、胸甲が無残に砕け、その出力はまるで安定していなかった。
日本-エジプト間の連続飛行と、息つく間も無い神体との連戦、幾度にも及ぶ大技の使用が、
ゲッター線兵器の傑作たるアークを蝕み、じりじりと限界まで追い込みつつあったのだ。
残す神体は、後二体……。
「拓馬、この方向は……」
「ああ」
レーダーの位置を確認しながら、拓馬が頷く。
当初、進路を北東にとったガイアーの目的地を、日本と考えていた二人だったが、
ここに来てガイアーの行先は本土を逸れ、本州の南海上を突き進んでいた。
「やっぱり、目的地は秋の島新島、か?」
「……!、 拓馬、前方に何かいるぞ」
「なんだと……、あれは?」
二人が疑念の声を漏らす。
遥か水平線の彼方、視線の先には、手品のように宙に浮かぶ小さな黒点が一つ、
風に流され漂うようなゆったりとした動きで、二体の元へと向かってくる。
物体は近寄る程に大きくなり、外見も仔細になっていくが、
その奇妙なシルエットは一切変貌しない。
ただひたすらに大きく、黒く、重厚そうな鉄の球体。
アークやガイアーに匹敵するサイズの黒球が、音一つ立てず中空を漂う様は、
あたかも皆既日食を目の当たりにした時のような、
どこか非現実じみた違和感を少年達にもたらした。
「あれも、神体なのか……?」
マーズの状態を知られぬよう、アークを動かし黒球の視界を遮る。
張り詰めた静寂が、両者の間に満ちる。
黒球はしばらくの間、
ゲッターのダメージを観察するかのように、等距離を保ちながら後退を続けていたが、
不意についっ、と旋回し、北東の方角へと流れるように動き出した。
「野郎、俺達を誘っていやがるのか……」
「罠だぞ、拓馬」
獏が冷静に言う。
六神体とガイアーの間に覆しようの無い性能差がある事は、
先のウラヌスとの一戦で明白であった。
いかにマーズが昏倒しているとはいえ、
ガイアーがバリヤーで周囲を庇護し続けている限り、神体は手を出す事は出来ない。
ゆえに敵は、まずはアークをガイアーから引き剥がし、
各個撃破する作戦に切り替えたのであろう。
「そんな事は分かっているさ、だが、アイツがやろうとしている事はブラフじゃねぇ」
「…………」
黒球の向かった進路の先にあるのは、日本の首都・東京である。
人類殲滅をもくろむ監視者達は、計画の過程で文明を破壊する事も厭わない。
ゲッターが追走してこなければ、
黒球は迷いもせずに東京を焼き払い、次の獲物を探すであろう。
「行くしかないさ。
このまま秋の島新島について行ったところで、今の俺達は何の役にも立てねぇ。
マーズの事はガイアーに任せて、俺達はあの黒球を止めるんだ」
「……勝てるのか、今のアークで?」
「……行くぞ!」
きっ、と拓馬が顔を上げる、その瞳には、ある種の覚悟すら宿っていた。
アークはゆらりとガイアーから離れると、
しばし、その背を見送った後、決闘の地を目指し、雄大に翼を広げた。
・
・
・
「やれやれ、ようやく外へ出られたか……」
地の底より這い出してきた岩倉が、半日ぶりの太陽を眩しげに見上げる。
秋の島新島の火口は、今なお黒煙を噴き上げてはいたが、
大地の鳴動はほぼ収まり、小康状態と呼べるレベルまで回復していた。
「しかし、自衛隊はどこに行ったんだ?
彼等がいないんじゃあ、地下に閉じ込められているのと変わらんぞ」
高台に上り、周囲の海をぐるりと見回す。
先日まで付近の海域にいた筈の三台の巡洋艦は、既に影も形も無い。
いかに島が危険な状態であるとはいえ、
秋の島新島の探索は、人類の命運を賭けた任務だった筈である。
こんなに簡単に捜査が打ち切られるなど、にわかには考え難い事態であった。
「やはり、カムイ君の推測した通り、本土で何かが起こったんだろうか……」
そこまで考えたところで、岩倉がふっ、と自嘲の笑みを漏らした。
わずか半日かそこらの間に、
十近くも年の離れた異世界の少年に、頼り切りになっている自分に気付いたのだ。
事実、先行して島内を探索していたカムイの協力が無ければ、
岩倉は未だ、地下室の密室で悪戦苦闘していた事だろう。
岩倉に出来る事と言えば、カムイが自衛隊の一団と鉢合わせになって一悶着おこさぬよう、
彼に代って地上の様子を探ることぐらいであった。
「まったく、我ながら情けない話だな。
いかん、いかん、何とか彼の力にならなければな……」
――と、
ぼんやりと上空を見上げた岩倉が、不意に島に近づいてくる飛行物体に目を留めた。
あわてて岩陰に身を隠し、様子を探る。
「飛行機…… いや、あれはロボット、か……?」
機影が近付くにつれ、岩倉がその奇妙な外見に気付く。
六神体ではない、彼は地下のデータベースで、カムイと共にそのロボットの映像を見ていた。
外装こそ貝殻や藤壺の類にびっしりと覆われてはいたが、
両腕をクロスし、祈るように飛ぶ独特の姿勢を、よもや見間違うはずが無かった。
「ガイアー! と、言う事は、マーズが乗っているのか!?」
喜色満面の岩倉が、上着を大きく振って注意を促す。
その動作に気付いたものか、ガイアーは機体を旋回させ、
ゆっくりと近くの海上へと着水した。
岩倉も息せき切って海岸沿いへと駆け寄る。
「――うっ!? マ、マーズ!!」
ガイアーの差し出した右手を興奮気味に覗き込んだ岩倉が、
予期せぬマーズの変わり果てた姿に、思わず驚きの声を上げる。
「しっかりしろッ 何があったんだ!? マーズ」
「…………」
岩倉の必死の呼びかけにも、マーズは応じない。
予断を許さぬ状況である事は明白だった。
「何とかしなければ……、マーズ、気をしっかり持てよ!!」
・
・
・
「彼がマーズ、ガイアーの操縦者、か……」
岩倉が背負ってきた赤髪の少年を、ハ虫人類特有の赤みがかった瞳が、まじまじと覗き込む。
マーズの腐敗は今や全身に広がり、全身が紫色のただれに覆われ、
元の容貌を察する事すらままならない。
「こんな状態になっても生きているとは……、
さすがは無性生殖人間の肉体、と言ったところか」
「そ、そんな事より、早く手を打たないと、マーズが……」
「落ち着け、岩倉
この室内にある設備の機能は、先刻確認していただろう?」
「あ……」
言われて岩倉も思い出す。
かつてマーズがセットされていたこの部屋には、
彼が傷を負った場合の、治療のため装置が存在していた。
「隣の部屋の水槽だ。
学習装置の情報が正しければ、あの中に入っている緑色の培養液が、
マーズの肉体を再生してくれる筈だ」
「そ、そうか! そうだったね」
「アンタは早くマーズを水槽へ、その間に俺は、この島の防衛機能を調べておく」
「防衛機能を?」
「ああ、マーズをここまで追い込んだのが件の監視者達ならば
やつらは必ず、無防備となったそいつを仕留めに、ここに攻撃を仕掛けてくる筈だ」
そこまで言って立ち上がると、
カムイは室内に据えられていたヘッドギアを被り直し、巨大なモニターの前へと向かった。
・
・
・
――マーズを収めた円筒状の水槽が稼働を始めてから、八時間。
「マーズ……」
無音の室内に、ボコボコと言う水泡の音が響く。
岩倉の期待通り、回復は絶望的にすら思えた全身の膿も殆どが癒え、
マーズの皮膚にはハリのあるピンク色が戻りつつあった。
が、いまだその意識は回復の兆しを見せない。
「マーズ、一体何があったんだ? 拓馬君たちは……、ゲッターは無事なのか?」
「…………」
「折角、カムイ君が見つかったって言うのに……」
ゲッターロボは、三人のパイロットがいてこそ真の力を発揮できる。
かつて拓馬が、岩倉に聞かせてくれた言葉であった。
だが、もしもゲッターが、真の力を発揮する事無く六神体に破壊されていたならば、
マーズは今後、これ程の重傷を負わせた敵を相手に、
単独で戦いを挑まねばならない事になる。
「早く目を覚ませ、マーズ、ガイアーも待っているぞ」
ポツリと呟きを残し、岩倉は静かに部屋を後にした。
「まだ寝ていなかったのか? 岩倉」
「カムイ君……」
室内に戻ってきた岩倉に対し、
視線はモニターに向けたまま、ぶっきらぼうにカムイが尋ねる。
「襲撃は必ず来る、休めるうちに休んでおいた方がいい」
「……その言葉は、そっくり変えさせてもらうよ。
防備も大切だが、根を詰めすぎて倒れてしまったら元も子もないよ、カムイ君」
「ああ、俺はもう、これで休ませて貰うよ」
ふぅ、と大きく息をつき、カムイがカプセルへと腰を落とす。
やがてモニターに表示されていた島のマップに、グリーンのランプがちらほらと点り始めた。
「これで、防衛機能は働くのかい?」
「いや……、マグマの凝固や岩盤の堆積で、自動制御が働かないようだ。
装置は手動に切り替えたから、万全とまでは言えないが、ある程度の抵抗は出来る筈だ」
「……それにしても、凄いな、君は」
淀みの無いカムイの説明に岩倉が深いため息をつく。
「わずか十日足らずの間に、異星人の言葉を解読して、
彼らのテクノロジーを使いこなして見せるなんて
君たちの世界の人間は、みんな君みたいに頭の回転が早いのかい?」
「前にも行った通りさ、特に難しい事をやっている訳ではない」
さも当然、といった風にカムイがコンソールをまさぐる。
ブゥゥゥン、と言う音と共に画面が揺らぎ、そこに達磨型のロボットが映し出される。
「異なる文明とはいえ、同じ知的生物がまとめたデータだ
言語のルール、資料を効率良くまとめるためのパターンと言ったものは、自然と似てくる。
例えば、この文章なら、一番上はロボットの固有名称、
そのすぐ下の項目は、体長に重量、出力といった基本スペックとなる」
「ふむふむ」
「それら、データ整理上の不文律と、添付された映像を照らし合わせれば、
ある程度、意味の拾える単語が出てくる。
そう言った単語の意味を別の文章に当てはめ、文章全体の意味を推測する。
そこから未知の単語の意味を拾い、さらに別の文章に当てる……。
突き詰めていけば、膨大だが単調なパズルのようなもので、
時間さえあれば誰にだって出来る事だ」
「いや……、それをこの短期間でやるのは、やはり普通は無理だよ」
つまるところ、知力や体力よりも執念の問題なのかもしれない、と、岩倉が思う。
絶対に元の世界に戻ろうという使命感。
カムイだけではない、拓馬や獏にしても、ゲッターのパイロット達はみな
性格や主張は違えども、信念を貫く意思、
そして生に対する強烈な執念をその身に宿していた。
「……だが、それにしたってまだ、全ての情報を把握できている訳ではないがな」
「えっ?」
「例えば、このガイアーに関する項目だ。
意味の分かっている単語は『爆弾』『マーズ』それに『死』
これだけを組み合わせても、全体の文章の意味にまとまらない。
何か、重要な項目である事だけは、間違いが無さそうだが……」
「……!」
「どうした? 岩倉、心当たりでもあるのか?」
「そうか、君にはまだ知らないんだったね。
それは多分、ガイアーの体内の爆弾が起動する条件を示しているんだ」
「何ッ! マーズの命令以外に、爆発の可能性があると言うのか?」
岩倉が切り出した深刻な話に、カムイが珍しく動揺を見せる。
ゆっくりと、岩倉がモニターの前に立つ。
「以前、マーズ自身が教えてくれた話だ。
何らかのトラブルにより、マーズがガイアーに命令を下せなくなった時のために、
あらかじめガイアーには、マーズの指令以外に、
爆弾を起動させる条件がプログラムされている、と」
「……まさか!」
「ひとつはガイアーが破壊された場合。
そしてもう一つは、マーズが死亡した場合……、おそらく、その項目の意味するところだ。
ゆえに監視者は、マーズに対して闇雲に攻撃を仕掛けてくるんだ」
「何だとッ!? ……くそ! そんな事がッ!?」
ガンッ、と、カムイが右拳をカプセルへと叩き付ける。
普段の沈着冷静なカムイらしからぬ取り乱しように、岩倉が思わず目を見張る。
(いや、無理も無い……。
彼は元の世界に戻ることを目標に、過酷な作業を一人で続けてきたんだ
ここでマーズが死ねば、これまでの努力が水泡に帰す事になる)
カムイの動揺は、彼の持つ責任感の強さゆえと、この時、岩倉は推測した。
だが実のところ、この時のカムイが真に恐れていたのは、
手中にある対ゲッター線用の兵器のデータが失われる事であった。
遥か未来に、あまねく宇宙の生命に仇を為すであろう人類を止めるため、
ゲッターにまつわる全ての因縁を破壊する。
それこそが、岩倉にも語っていない、カムイの本当の目的であった。
そしてその目的のためには、ゲッターアークは、
この地で六神体と相打ちになるのが望ましい。
ゲッター線研究の第一人者・早乙女博士の残した最後の遺産であるアークは、
カムイにとって、現状、もっとも危険な潜在能力を秘めた兵器であった。
だが、もはや事態を静観している訳にはいかなくなった。
監視者達は知らないのだ、遥かな時空の彼方にある、もう一つの地球の存在を。
仮にアークがガイアーもろとも消滅したとしても、
別時空にあるゲッターの因果を葬り去る事は出来ない。
最終的に、ゲッターと人類を消滅させるためには、
この場はアークを助け、マーズを勝利へ導かねばならないと言う事になる。
ゲッター殲滅を誓いアークから降りてカムイにとって、痛烈な皮肉がそこにはあった。
「……ちょっと待て、岩倉、まだ二つだ」
「えっ?」
「ガイアーの項に関して、未解明の文章は三つある。
これらが爆弾の起動条件を説明していると言うのなら、後の一つは何だ?
ガイアーが爆発する条件は、もう一つある筈だ」
「な、なんだって!? それは、急いで調べないと……!」
「ああ、いくつかの単語は、既に意味が判明している。
この文章が爆弾の起動条件を示しているというのならば、
あとは、単語をを入れ込んでやれば……」
カムイが脇の手帳を取り上げ、したためられた単語をモニターの文章と照らし合わせる。
ややあって、白紙にペンを走らせ始めたカムイの指先を、息を呑んで岩倉が見守る。
「――ッ! そんなッ! これが、事実だというのかッ!?」
「……恐らくは間違いない。
仮に俺が異星人の立場であったとしたら、ガイアーが人類に奪われた場合の備えとして
やはり、同様の措置を施しておくだろう」
「だが、これでは…… これが最後の条件だとしたら、人類に打つ手はないじゃないか!?」
「…………」
その時であった。
突如として、室内にけたたましいサイレンの音が鳴り響き、沈黙を打ち破った。
思考を切り替えたカムイが、赤色灯の点滅を横目にモニターの前へと立つ。
「な、何だッ!? カムイ君!」
「チッ! 奴さん、ついにお出ましのようだ」
手早くスイッチを切り替え、モニターの映像を上空へと向ける。
三本のサーチライトが夜空を照らし、集結した焦点に招かれざる来訪者の姿を映し出す。
それは、まるで潜水艦、いや、UFOといった方が近いであろうか。
中華鍋をふたつ張り合わせたかのような、丸みを帯びた円盤型のフォルムに、
角のように突き出したレーダーと、
頂部にそそり立つアンテナのような突起が見る者の目を引く。
その一方で、黒色のボディには、コミカルな目鼻の紋様が施され、
奇抜な外見と相まって、傍目には悠然と空を泳ぐ深海魚のように見えた。
「あのフォルムは、第五神体【ウラエヌス】か!」
「さっきの話は後回しだ、まずはアイツを何とかするぞ」
ウラエヌスの巨体を凝視しながら、迷いの無い動きでカムイが装置を動かす。
ウィーン、という機会音ともに、カモフラージュされた島中のハッチが開き、
マーズを守るべく配された、異星人のテクノロジーが姿を見せる。
「よし…… 行け!」
カムイのスイッチ操作に合わせ、銀色の砲塔から熱線が一斉に放たれ、
大型のポッドからはミサイルが、ドミノのような淀みない流れで次々と飛び出していく。
万全な状態ではないとは言え、手動制御による連続攻撃が天空の一点に炸裂する。
真昼の如き閃光が天を焦がし、爆音と衝撃が大地を襲う。
「おお! やったのかッ!?」
「いや、おそらくは……」
天を覆いつくす黒煙が徐々に晴れ、やがて、二人の前に絶望的な光景が現れる。
視線の先の映ったのは、球状をなして輝く金色のオーラと、
その中央で静止する鋼鉄の神体であった。
「やはりバリヤー、情報通りだな…… ダメージはほとんど無し、か」
「れ、冷静に分析している場合では無いよ!
防衛機能が通用しないんじゃあ、ここが落ちるのは時間の問題じゃないか?」
「……岩倉、俺がアイツを引きつけている内に、マーズを連れてガイアーの元へ行け。
覚醒したマーズがガイアーを動かしさえすれば、形勢は逆転する」
「何だって! ……だが、それでは」
岩倉が思わず二の足を踏む。
カムイの言葉を逆手に取るなら、
マーズが目を覚まさない限り、現状を打破する手段は無いという事になる。
それだけではない、仮にガイアーを動かす事が出来たとしても、
その前にこの部屋が攻撃に曝された時は、カムイの命は無い。
「構わん、行け! 俺もこんな所で死ぬ気は毛頭無い。
しばらくヤツを足止めした後、隙を見て脱出を図るさ」
「……分かった、くれぐれも無茶だけはしないでくれよ、カムイ君」
カムイの覚悟を知った岩倉は静かに頷くと、マーズの眠る部屋へと踵を返した。
・
・
・
「防衛装置……、
太古の昔からマーズを守り続けた忠実なプログラムが
今や、すっかり狂ってしまった主人をかばい、我々の前に立ちはだかるとはな……」
運命の女神がもたらした皮肉な現実に、長髪の監視者が舌打ちをする。
カムイ達の存在を知らない彼は、
攻撃はあくまで防衛システムの自動制御によるものと判断していた。
「だが、ガイアーが出て来ないというと言う事は、マーズはまだ回復していないようだな。
それならば、ヤツが覚醒する前に、一気にケリを付けてくれよう」
意気高揚した監視者がウラエヌスを動かす。
たちまち神体は空中を泳ぐが如く自在に旋回し、地上からの一斉放火をたやすく避ける。
そうして第三射への間隙を縫いながら、機体を降下させて反撃の態勢をとる。
男の操作に合わせ、頭部の突起が提灯鮟鱇のように輝きを放ち、
ピュピュッという独特の怪音とともに、熱線放つ砲塔の一つに炸裂する。
強烈な閃光が、砲身を周囲の岩盤ごと粉微塵に砕いて消滅させる。
「クッ」
カムイが、射角を調整し斉射を行う。
だが、神体は再びバリヤーをめぐらして、砲火の中を悠然と飛び交い、
防衛装置の死角に回りこんでは各個撃破を繰り返す。
ウラエヌスの執拗な攻撃に対し、攻撃は次第に散発的なものとなっていく。
「うむ、いかに強固な武装と言えども、所詮は対人類戦を想定したもの。
六神体の力ならば、赤子の手を捻るような物よ」
弾幕が薄くなったのを見た監視者が、本拠地に攻撃を加えるべくウラエヌスを駆る。
上空で静止してバリヤーを解き、攻撃態勢に移ろうとする神体に対し、
カムイも火力を集中させ迎撃を行うが、
今や半減した防衛装置の火力では、敵の装甲を破るには至らない。
やがて、ウラエヌスの頂部が、再び眩い輝きを放ち始める。
「目標は島の中心だ、この一撃で……」
「よし! 今だ、ガイアー!!」
「何ッ!?」
怪光線が放たれんとした刹那、突如として後方の海中からきらめきが溢れ
流星群のような光弾が、無防備となった神体の脇腹を襲った。
ドゥッ、という重低音とともに、光弾の一つがウラエヌスを貫き、
反動で狙いを反らした光線が大地を抉る。
「さあ! 今だガイアー、岩倉さんを安全な所まで運ぶんだ」
「ぐっ…… し、しまった! すでに回復していたのか、マーズ」
水柱を上空に吹き上げ、マーズ達を抱えたガイアーが海上へと浮かび上がる。
体勢を立て直したウラエヌスが、追撃を加えんと反射的に機体を返す。
「何処を見ているッ! こちらの機能はまだ死んではいないぞ!」
「なッ!? うっ、グオッ!!」
監視者の注意がガイアーに注がれた一瞬を、カムイは見逃さなかった。
間髪いれずに撃ち込まれたありったけの砲弾が、神体の装甲の裂け目へと飛び込んでいく。
閃光と爆発が再び夜空を焦がし、黒煙を吹き上げる機体がグラリと傾く。
この一撃が致命傷となった。
「う、ううっ、おのれ、マーズ……」
電気系統がショートを起こし、黒煙がコックピットを包む中、
遠ざかっていくガイアーの背中を、長髪の監視者が食い入るように見つめる。
「もはや、このダメージではガイアーを追う事は叶わんか…… ならば!」
男の執念により、かろうじて持ち直した神体が、
弾丸を撃ち尽くし、無防備となった秋の島新島の大地にふらふらと迫る。
監視者が最後の力を振り絞り、手元のレバーを思い切り引く。
ガゴン、と言う音とともに、ウラエヌスの釜の底が抜け、
投げ出された黒色の弾丸が、ゆっくりと地上に吸い込まれていく。
「フフ…… これで…… マーズは何も学べぬ……」
一瞬、大気に静寂が満ち……、
直後、視界を奪うほどの強烈な閃光が、秋の島新島の海域を包み込んだ。
・
・
・
「マ、マーズッ!? これは……!」
「ガイアー! 岩倉さんを守れ!」
閃光、爆音についで、凄まじいばかりの衝撃波が、バリヤー越しに二人を襲う。
轟音が耳をつんざき、目も開けていられない程の光が溢れる。
地上の終わりを迎えたかのような強烈な爆発が通り過ぎるのを、
ガイアーの掌の内で、歯を食いしばって二人が耐える。
――やがて衝撃は突き抜け、周囲に再び静寂が戻った。
「岩倉さん、大丈夫でしたか?」
「あ、ああ…… しかし、今の爆発は…… うっ!?」
掻き消えていく黒煙の先に、信じがたい光景が広がっていく。
視線の先にあったのは、壊滅的な打撃をうけた秋の島新島、
いや、それは既に島と呼べるほどの物ですらない。
かろうじて残った陸地の中心には、黒煙を吹き上げる火口は既に無く、
天空から巨大なスプーンで抉り取ったかのような虚穴に、
荒れ狂う海が大渦を巻き起こしていた。
「秋の島新島が消滅…… 核を、使ったのか?」
「あ、ああ…… なんと、なんという事だ……」
眼下のおぞましいばかりの光景に、力無くした岩倉が、へなへなと倒れこんだ。
放心したかの様な岩倉に気づき、マーズが慌てて体を支える。
「岩倉さん! しっかりして下さいッ! 大丈夫です、秋の島新島は無人の……」
「いや、違うんだ、マーズ……」
「え……?」
「島には、カムイ君が……、未来から来た、拓馬君たちの仲間が残っていたんだ。
だが、この惨状では、もう……」
「――!? そ、そんなッ!!」
岩倉の衝撃的な発言に、マーズもまた、顔色を失い絶句する。
しばらくの間、二人は無言のまま、秋の島新島であった海上を見下ろしていたが、
やがて、岩倉はキッ、と表情を変え、頭を振るって立ち上がった。
「マーズ…… よく聞いてくれ、
カムイ君が秋の島新島で調べ上げた、ガイアーに関する重要な情報を伝えておくよ」
「ガイアーに関する情報、ですか?」
ごくり、とマーズが唾を飲み込む。
その情報が極めて深刻なものであろう事が、
どこか思いつめた表情の岩倉から、ありありと窺えた。
長い沈黙の後、岩倉は大きく息を吐き出し、その言葉を口にした。
「ガイアーの体内の爆弾が起動する条件は、実は、もうひとつ存在していたんだ。
本来、ガイアーをサポートする筈だった六つの神体、それら全てが機能を停止した時、
ガイアーのコンピューターは、マーズが寝返ったものと判断して、
……その体内に眠る爆弾を、自動的に起爆させる」