激突!! ゲッター対ガイアー   作:いぶりがっこ

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第十六話

誰もが、声一つ上げる事が出来なかった……。

 

明確な害意を有した、監視者マーズの突然の攻撃。

人類を守るための要石とも、あるいは諸悪の根源とも言われた赤髪の少年が、

確かに地球の命運を左右するだけの力を有していた事を、

人々はまざまざと思い知らされていた。

 

そして、目前に迫った地球消滅の危機を防いだのは、

惨劇を招いた当事者の片割れである筈の、真紅の悪魔だった……。

 

錯綜する情報に、立て続けに巻き起こる異常事態。

何が彼らを突き動かし、かかる対峙に至ったのか?

居合わせた人々に、それを知る術は無い。

 

ただ一つだけ確かなのは、今後の地球を待ち受ける運命は、

青銅の巨神と真紅の悪魔、二体の戦いの行く末に委ねられた、と言う事だけであった。

 

そんな彼らの予感はしかし、厳密言えば正しくは無かった。

少なくとも現時点において地球の運命を握っているのは、

二体の巨大ロボットの決着では無く、乗り手である若者達の拳であったのだから……。

 

 

 

「お前は手を出すなよ、獏」

 

作業着を脱ぎ捨て、

タンクトップから剥き出しとなった右肩をグルグルと回しながら、拓馬が言い捨てる。

一方、喧嘩を吹っかけられた側であるマーズは、

眼前の拓馬の『奇行』に対し、ただ冷然と視線を投げかけていた。

 

「……どうしてもやるのか、拓馬?

 今さら僕達が殴り合う行為に、一体、何の意味があるって言うんだ?」

 

「意味ならあるさ、今のお前には分かりはしないだろうがな」

 

「いや、無意味だ。

 知っているだろう、僕達の体の作りは、地球人のそれとは根本的に違う。

 生身で殴りあったのでは、一方的な結果をもたらすだけだ」

 

「ハン!」

 

マーズにとっては明確な断定、

それゆえに痛烈な挑発を、パキポキと指を鳴らして受け止める。

 

「随分と言うようになったじゃないか、マーズ

 無性生殖人間がナンボのもんか、拝ませてもらおうかッ!」

 

「!!」

 

その一言をゴングに、拓馬が大地を駆ける。

野獣のようなしなやかな跳躍で、風を巻いて一足跳びにマーズへと迫る。

咄嗟にガードを上げて右拳を受け止め、後方に逃れて勢いを殺す。

マーズを体を泳がせた隙を見逃さず、拓馬が畳み掛ける。

 

「オオッ!」

 

大きく体を捻り、左拳を投げ出さんばかりに打ち下ろす。

身を逸らしたマーズの鼻先を、ぶうぅぅぅぅんと拳圧が通過する。

ガラ空きになったボディに、勢いのままに拓馬が回転蹴りを浴びせる。

 

「くっ」

 

右肘で蹴り足を受け止め、更に後方に下がるマーズに対し、一気呵成に拓馬が攻める。

迷いの無い拓馬の猛攻に、さしものマーズも思わず目を見張る。

拓馬の身体能力が並々ならぬものである事は分かっていたが、

その動きは、先日立ち会った時よりも遥かに疾く、鋭く、荒々しいものであった。

 

拳、脚、肘、膝、頭……。

 

一つ一つの動作こそ素人のケンカ殺法そのものであったが、

人類の範疇を超えた身体能力の高さが、

かえって一連の攻撃を、何が飛んでくるか分からない、回避困難なものとしていた。

 

だが……、

 

確かに拓馬の戦闘力は想定外な代物ではあったものの、

それはマーズにとって、誤算と呼べるほどの攻撃では無かった。

 

「ハァッ!」

 

「――ッ!! ぐっ……!?」

 

猛攻の間隙を縫って、まさしく超人的な動きでマーズが飛ぶ。

大きく開いた拓馬の胸元にピタリと右手を添え、全体重を乗せて大きく踏み込む。

奇しくも初めて出会った時と同じ、掌底での一突き。

ただし、あの時とは違い、マーズは狙いと威力を絞り、

十分な余裕をもって一撃を叩き込んだ。

 

「ぅッ あ……」

 

心臓にピンポイントで叩き込まれた衝撃に、

拓馬の体は電撃でも浴びたかのように大きく仰け反り、二、三歩後方によろめいた。

 

この時、マーズが力に任せて拓馬を吹き飛ばさなかったのは、

躊躇いでもなければ強者の余裕でもない。

狙いすました渾身の第二撃を叩き込むべく、最適なポジションへと拓馬を『運んだ』のだ。

 

大きく揺らいだ拓馬の懐深くに、マーズが踏み込む。

右肩で壁を作りながら腰を落とし、半ば合金化した左腕を走らせる。

地面スレスレから天空へと突き抜ける、鋼鉄のアッパーカット。

鉄槌の一撃は、差し出された両腕の間隙を突き破り、一直線に拓馬の顎を捉えた。

 

拓馬の体は勢いのままに宙を舞い、

人形のようにグルンと一回転して、やがて、ズシャリと地面に叩きつけられた。

 

 

「分かっていただろう、拓馬、

 こんな事が、一体何になるって言うんだ……?」

 

「……へっ、口数のわりには、大したこと、ねぇな……」

 

「!」

 

まるで独り言のような呟きを漏らすマーズの足首を、ガシリ、と拓馬が握り締める。

尋常ならざる拓馬のタフネスに、マーズが目を丸くする。

 

「驚いたな……、あの一撃を受けて、まだ意識があるとは」

 

「あの一撃……? ハハッ、とんだ素人だな」

 

「…………」

 

「ケンカってぇのはこっからが本番だぜぇ、マーズ

 魂の篭ってねぇ素人の拳なんかじゃ、ハエ一匹……」

 

ゴギャッ

 

拓馬のへらず口は、更なる暴力によって報われた。

 

二足歩行を常とする生物の構造上、最も強固な部分である、踵の骨。

肉体の中で、鈍器に使うのに最も適したその部位を、

大きく振り上げ後頭部へと打ち下ろす。

シンプルかつ凶悪な攻撃に打ちのめされながら、

しかしなお、拓馬はマーズの足を捕らえて離さない。

 

右足首に伝わる握力から明確な意志を感じ取り、マーズが再び足を振り上げ、踏む。

ガス、ゴス、という鈍い音がテンポ良く響き、大地が砕け血に塗れるが、

マーズはなおも一切の顔色を変えず、

何の鷹揚も無く、ただただ淡々と、踏む、踏む、踏む、踏む、踏む。

 

合わせて七発、

既に意識を失っているであろう拓馬の肉体が、ピクピクという痙攣を止めたのを確認すると、

マーズは振り上げた左足をゆっくりと下ろし、力無くした拓馬の右手を払った。

 

「……なァ、そうだろう?

 こんな事をして、一体何になったって言うんだ、獏?」

 

言いながら、マーズがくるりと振り向き、真紅の悪魔と対峙する。

呼びかけられた獏は、未だゲッターの掌の上。

拓馬の言いつけを律儀に守っているのか、これほどの惨事に対し、獏は眉一つ動かさず、

腕組み仁王立ちの不動の姿勢のまま、マーズをじっと睨みすえていた。

 

「分からないのは君もだ、獏。

 何故、この結果が分かっていながら、拓馬の事を止めなかった?

 何故、ゲッターを動かす事無く、窮地の拓馬を見殺しにした?」

 

「…………」

 

「たった一人でゲッターに乗り込んで、勝機が残っているとでも思うのか?」

 

獏は答えない。

ただ、あくまで無言で腕組みを解くと、

天高く突き上げた右の人差し指を、ゆっくりとマーズへ……、

いや、マーズの肩越し、背後の空間へと向けた。

 

「……!」

 

パラリ、と礫片が零れ落ちる音がして、何物かがマーズの背後に影を成す。

 

「まさか……!」

 

「ウオオオオ!!」

 

バゴン!

 

という乾いた音を立て、

石版のように分厚いコンクリート板が、マーズ目掛けて叩きつけられる。

咄嗟に両腕をクロスさせて一撃を受け止め、

反動で沈むマーズの上に、砕けた砂礫が降り注ぐ。

 

「た、拓馬!? お前……」

 

「忘れたのか! 俺は不死身だと言っただろうが!?」

 

叫びながら、砕け散ったコンクリート片をマーズの顔面へと浴びせる。

視界が塞がれたマーズの懐へと飛び込み、奥襟をとって拓馬が崩しにかかる。

バランスを失ったマーズが、何とか踏みとどまって押し返そうとした刹那、

拓馬はさっと身を翻し、マーズの体を一気に引き寄せて空中へと巻き上げた。

 

掴み、崩し、引き寄せ、払い、巻き上げる――。

 

終始野獣の様だった拓馬の動きの中で、

その一連の攻防だけが淀みなく、鮮やかなものですらあった。

 

(コイツ、本当は柔道の方が得意なのか?)

 

呆然と、場違いな思考を巡らせている間に、

マーズの体は空中を半回転して、瓦礫の海へと叩き付けられていた。

 

「うぉらァ!」

 

再び野獣に戻った拓馬が、馬乗りとなってマーズに襲い掛かる。

攻防のイロハもへったくれも無い、勢いのままに殴って殴って殴って殴って殴って、

必死に固めたガードの上から、マーズの後頭部を容赦なくコンクリートへと叩きつける。

 

「分からない……、拓馬、こんな野蛮な殴り合いに、何の意味がある?」

 

「テメェ! 眠てェ事を言ってるんじゃ……」

 

ざわり。

と、マーズの長髪が不自然に揺らめいたのを見て、拓馬の血の気が引く。

反射的に逸らした顔の脇を、ドシュウ、

と音を立てて高速の毛針が、拓馬の右頬に数条の赤い線を刻む。

 

猛攻が止んだ一瞬を見逃さず、マーズが右足を引き抜いて、拓馬を勢い良く蹴り飛ばす。

勢いのままに2メートルほど吹き飛んだ拓馬は、

大地に片手を突いて体勢を立て直し、再びマーズと向かい合った。

 

拭い取った頬の血をベロリと舐め取り、拓馬が不敵に笑う。

 

「へへ…… ようやく本気を出す気になったか?」

 

「拓馬、いい加減、魂胆を言え」

 

「あん?」

 

「分かっているだろ、仮にこの決闘を君が制したとしても、何の意味もない事を。

 戦いに敗れた僕が息絶えれば、その時、地球は消滅する。

 いや、そうじゃない、こうして戦っている暇だって、僕が一声上げさえすれば……」

 

「へっ! そう思うんだったらよォ、とっとと試して見ればいいだろうが!」

 

「……何?」

 

「逆に聞くぜ、マーズ、そこまで分かっているなら、なんで地球をふッ飛ばさねぇ?

 なんで俺の茶番に付き合おうとする?

 お前が何の感情も無い機械の一部だってんなら、迷う必要はないだろうが」

 

「それは……」

 

「教えてやろうか、お前はまだ、何の決断もして無いんだよ、マーズ」

 

「……ッ!?」

 

困惑するマーズに対し、ぷっ、と奥歯を吹き捨て、拓馬が更に吠える。

 

「お前はまだ、人類を滅ぼすことを躊躇っているんだよ

 プログラムでも何でも無ェ、お前はただ、ゲッター線の恐怖から逃げる為に、

 発作的に地球を吹っ飛ばそうとしただけだからな

 心に迷いがあるから、俺の下らない提案に流されて、結論を保留しちまったんだろうが」

 

「ち、違うッ!?」

 

「感情の無いフリなんかしてるんじゃねえ、お前は俺が気に入らないだけだろうが!

 ゲッターのパイロットである俺の事を完膚なきまでにブチのめして

 その上で、人類を滅ぼす自分の大義に自信をつけたいだけだろうが!」

 

「…………」

 

「何が監視者だ、もっともらしい事を言いやがって。

 そんなチンケな根性で、人様に迷惑かけてるんじゃねぇ!」

 

「違うッ!」

 

 

カッ――。

 

と、マーズの叫びと共に閃光が生じ、光弾の一撃が、彼方のビルの一角を消し飛ばす。

崩れ落ちる上階と共に、ズズン、と大地が揺らぎ、周囲の人々の間にパニックが起こる。

だが、拓馬はなおも怯む事無く、じっとマーズを睨み据えた。

 

「どこ狙ってんだ、カスリもしないぞ?」

 

「ああ……、遊びは終わりだ

 次の一撃で君を殺して、そして……、人類を滅ぼす!」

 

「おお! やって見ろッ!

 俺の頭はここだ、外すんじゃあねぇぞッ!!」

 

「拓馬……!」

 

マーズはなおも、何か言葉を紡ごうとしたが、それは言葉にならず、

やがて歯を食いしばると、右腕を静かに掲げた。

 

同時に、主の意を汲み取った後方のガイアーが輝き始め、

その周囲に、三つの光弾が出現した。

 

「さあ、これで終わりだッ! 拓――」

 

「 や め て ェ ! マ ー ズ ッ !! 」

 

「「!!」」

 

突如、戦いの舞台に割り込んで来た少女の悲痛な叫びに、二人が同時に振り向く。

 

「し! しまッ……」

 

「――ッ!? バッカ野郎がァ!」

 

少女の身を守るべく、反射的に拓馬が走る。

同時に、集中力を欠いた光弾が、二人の周囲に降り注ぐ。

 

閃光、衝撃、爆音――。

 

永遠のように長い時間の果て、

やがて砂塵は晴れ、マーズの視線の先に、拓馬に抱え込まれた少女の姿が映った。

ひとまず、ほっと胸を撫で下ろしたマーズであったが、そのうちに彼の表情は曇り、

冷徹な監視者にあるまじき沈痛な面持ちとなって、少女を見据えた。

 

 

「……春美さん」

 

「どうして…… どうしてなの、マーズ? 

 どうしてこんな事を!」

 

「…………」

 

何故、どうしてこのタイミングで、彼女はこの場に現れたのか?

気まずい現実から逃避するように、マーズが思考を泳がせる。

やがてマーズは、先の攻撃の直前に、

現場に近づいてくるヘリのローター音を聞いたの思い出した。

 

「そうか…… あなたが、連れて来たんですね、岩倉さん」

 

「マーズ……」

 

ゆっくりと、マーズが振り返る。

その視線の先には、大きく息をつきながら、瓦礫の山を掻き分けてくる岩倉の姿があった。

 

「岩倉さん……」

 

じっ、と非難めいた瞳を岩倉に向ける。

命の保障を出来ない死地に少女を導いた岩倉の行為を、マーズは卑劣なものと感じた。

そして同時に、自分の中にそんな感情が残っていた事を不思議に思った。

地球が爆発してしまえば、どこにいたって同じ事だと言うのに。

 

そんなマーズの視線の意味に気付いているのだろう。

岩倉は気まずそうに瞳をそらしながら、口を開いた。

 

「……済まない。

 先刻の君の態度から、もしやと思ってね。

 万が一の時、君の決意を揺るがすためには、これ以外の手段を思い付かなかったんだ」

 

「…………」

 

「だ、だが! 一つだけ信じて欲しい!

 僕はただ、人類を守るためだけに、君を止めようと言うんじゃないんだ。

 折角、感情を得て人類を守ると言ってくれた君が、

 人類に絶望して感情を閉ざしてしまうなんて

 そんな風に全てが終わってしまうなんて、余りにも悲しいじゃないか!?」

 

元より、岩倉の行為を非難する資格は、マーズには無い。

全ては何の覚悟も持たぬままに、人類を滅ぼそうとした自分の責任なのだから。

 

「お願い! もう止めて、マーズ!」

 

悲しみを宿した春美の叫びが、沈黙を引き裂いてマーズを貫く。

 

「マーズ、あなたは言ってくれたじゃない?

 人類には、自らの行いを省みて、改めるだけの力がある筈だって……

 そのあなたが、拓馬くん達と殺し合わなきゃならないなんて、そんなのッ!?」

 

「……春美さん、僕、は……」

 

「お願い! もう一度だけ私達を信じて。

 私達のところへ戻ってきて、マーズ!」

 

岩倉の慧眼は、確かに間違いが無かった。

春美の無垢な叫びは、拓馬の拳よりも深く、強く、マーズの心を抉った。

 

春美を殺したくは無かった。

岩倉を殺したくは無かった。

拓馬を、獏を殺したくは無かった。

出来る事なら、このまま彼らの優しさに溺れて、自らの行為を謝罪してしまいたかった。

 

だが……。

 

『ハハ、ひか、り、が……』

 

自らが傀儡であることも知らぬままに、ゲッターに取り込まれた哀れな同胞の声が、

どくり、と呪詛のようにマーズを襲う。

 

合金と化した左腕を改めて見つめる。

同胞達との戦いの中で体験したゲッターのおぞましさを許容する事だけは、

どうしても今のマーズには出来なかった。

 

「どうしたァ!? マーズッ!

 テメェの信じたもんは、その程度の物だったのか!?」

 

センチメンタルな空気を引き裂く拓馬の叫びに、ハッ、とマーズが顔を上げる。

 

「た、拓馬くん!? 一体何を言っているの?」

 

「マーズ! テメェ、

 女の子の泣き落としで揺らぐ程度の覚悟で、人類を滅ぼそうとしていたのかよ!

 フザけんな! ゲッターの力をナメてんじゃねぇぞ、クソ監視者がッ!!」

 

「……拓馬、君は」

 

突然、マーズには拓馬の思考が理解できた。

拓馬は、マーズが人類を滅ぼそうとした事よりも、それが、ゲッターの恐怖に対する、

『逃げ』から生み出された決断であった事に怒っていたのだ。

 

拓馬は先刻、マーズが自分の事を気に入らないだけだと指摘したが、何の事は無い。

拓馬の方こそ、マーズの出した『逃げ』と言う選択肢が気に入らなかっただけだったのだ。

 

『お前がそれを望むならば、それだけの力を持つのならば、

 そして、宇宙全体を揺るがす運命を背負う覚悟を持つと言うのならば……、

 構わぬ、人類諸共、我等を焼き尽くして見せろ! 監視者マーズよ』

 

遥か異世界で聞いた異形のゲッターの言葉が、マーズの脳裏によぎる。

 

強固な意志を宿した人間が、やがて、

その意志を実現できるだけの力、ゲッターへと辿り着くのか、

あるいは、更なる進化を望むゲッターの意思が、強い意志をもったパイロットを選ぶのか。

拓馬を始め、時空の果てで垣間見たゲッターの乗り手たちは、

いずれもがゲッターを受け入れ、

あるいは拒絶出来るだけの覚悟を持った者たちばかりであった。

 

「どうした! マジで地球を滅ぼすのは止めるのか?

 だったら早くこっちに来て、二人に対して土下座しねぇか!」

 

「――黙れ!」

 

「何!?」

 

キッ、とマーズが顔を上げる。

その瞳には、既にプログラムとしての存在を超えた、ある種の煌きが宿っていた。

 

「いいだろう、拓馬! お前の挑発に乗ってやるッ!」

 

「マーズッ!?」

 

「決闘だ! ゲッターに乗れ、拓馬!

 僕は君とゲッターを真っ向から打ち倒した上で、人類を滅ぼす!」

 

そう言うと、マーズは後方へと高らかと飛び跳ね、ガイアーの掌へと着地した。

やがて青銅色の胸元がゆっくりと開き、

マーズの肉体が、再び神体の中へと取り込まれていった。

 

結局、マーズは決断を下す事は出来なかった。

それ故に、彼は全ての選択を、最強の神体と、ゲッターの刺客との闘いへと委ねたのだ。

だが、その心中からは、既に一切の迷いは消え去っていた。

 

『十分だろ、乗れ、拓馬』

 

戦闘を不可避と知った獏がゲッターを動かし、拓馬の前に左手を差し出す。

 

「へっ、アイツもようやく吹っ切れたみたいだな」

 

「拓馬くん……」

 

「大丈夫だよ、春美ちゃん、アイツだって本当は分かっているよ。

 ただ、ちょっとだけフテくされているだけさ」

 

「でも……」

 

「ちゃんとブン殴って、アイツを連れ戻してくるよ。

 ここは危ないから、少しだけ下がっていてくれ」

 

そう言うと、拓馬はそのままヒラリとコックピットの中へと乗り移った。

 

「さあ、早く非難しよう、春美ちゃん」

 

「岩倉さん……」

 

「ここから先は、彼らを信じるしかないよ、行こう」

 

 

 

 

 

『……たくっ、結局やりあうんだったら、あんな無茶するんじゃねぇよ、拓馬!』

 

そう毒つきながらも、獏の声は、奇妙に明るいものであった。

 

「仕方ないだろ! ああ言う事は、ちゃんとハッキリさせとかねえと気持ち悪いだろうが」

 

応じながら、拓馬が手元のスイッチを動かす。

機内が徐々に高揚感に包まれ、真紅の悪魔の両眼に、ただの機械にあるまじき輝きが灯る。

 

「さあ、最終決戦だ! 行くぜ、アーク」

 

拓馬の叫びと共に、

上空で待ち受けているであろう神体目掛け、ゲッターロボが一陣の風となった。

 

 

 

 

 

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