激突!! ゲッター対ガイアー   作:いぶりがっこ

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第五話

 

――その時、誰もが皆あっけにとられ、返す言葉も無くその場で凍りついた。

 

目を丸くして、眼前にいる赤毛の少年の顔をまじまじと覗き込む拓馬。

反応に困り、ぽかんと口を開け呆然とする、岩倉と春美。

思わずケーキを喉に詰まらせ、激熱のコーヒーを相手に必死で悶えている獏。

 

発言の主、マーズは、ただニコニコと周囲の様子を窺っている。

 

「あの…… マーズ、もう一度、聞いてもいいかしら……?」

 

「ええ、いいですよ」

 

かろうじて立ち直った春美の要望に応じ、マーズが再び、その台詞を口にした。

実に、あっさりと……。

 

「僕は明日、地球を爆破するかどうか、決断を迫られているんです」

 

「…………」

 

再び、周囲が沈黙で満ちる。

春美も岩倉も、マーズがこの場面で冗談を言うような少年では無いと思っていたが、

彼の発した言葉は突拍子の無い冗談としか考えられず、

しかも、冗談としては全く笑えなかった。

一同が反応に困るのも無理からぬ事であろう。

 

「僕は、太古の昔、この星に飛来した異星人達によって建造されたとある兵器の鍵なのです。

 頭が良く進歩の早い地球人が、生来の好戦的な資質を失わないまま、

 宇宙に進出する時代が来てしまった場合に、

 地球ごと人類を消滅させる為の切り札…… それが僕に与えられた役割なんです」

 

「…………」

 

もはや、誰一人、口を開く事が出来なかった。

あまりにも非現実的な台詞に、岩倉と晴美はマーズの正気を疑い、互いに顔を見合わせた。

 

長い長い、気まずい沈黙の果て、乾いた笑いを浮かべながら、岩倉が言葉を紡ごうとした。

 

「はは…… おいおいマーズ、いくら何だって、そんな……」

 

「ゆるせねぇっ! そんなムチャクチャ! やらせてたまるかよッ!!」

 

岩倉の言葉を遮り、突如としてテーブルが叩き付けられる。

カップが反動で勢い良くハネ上がり、手付かずのコーヒーがテーブルに飛び散る。

 

「ちょ、ちょ、ちょっとぉ! 何やってるのよ、拓馬君!?」

 

「あ、いや…… つい」

 

突然の拓馬の剣幕に抗議しつつ、春美が慌しく片付けを始める。

これにより、微妙な空気がようやく動き出す。

 

「信じて…… くれるのか、拓馬? 僕の話を……」

 

「ん? 嘘をついてるワケじゃねぇんだろ?」

 

「それはそうだが……」

 

あまりの話の早さに、これにはマーズの方が言葉に詰まる。

彼が全ての真実を包み隠さず話したのは、

どうせ話したところで、頭から信じてもらえる筈がない、という考えがあったからだ。

ゆえに、自分の話を笑い飛ばそうとするであろう彼らに対し、

どれだけ信憑性の高いロジックを提示できるか、

マーズは筋道立った説明の出来るよう、万全の準備を整えていたのである。

それが、まさか初手から信じきってしまうような熱血バカがこの世に存在しようとは、

想像だにしない事態であった。

 

尤も、これはマーズの知る所ではないが、拓馬達とゲッターアークは、

まさにその【人類の進化を憂う異星人】達と、長年死闘を繰り広げてきたのだ。

しかもその宇宙人達は、危機的状況にある未来を変えるため、

時空を超えて地球へやってきた、というオマケつきである。

彼らの無茶苦茶さ、理不尽さに比べれば、マーズの説明は、

極めて簡潔で、理路整然としたものだとすら、拓馬には思えた。

 

「ちょっと待ってくれよマーズ

 君の言葉、何か証明するものでもあるというのかい?」

 

「この間の怪ロボットですよ、岩倉さん」

 

岩倉の常識的な突っ込みに対し、ようやく調子を取り戻したマーズが本題に入る。

 

「十日前、東京湾に上陸した謎の怪ロボット、

 アイツの本当の名前は名前はタイタンと言います。

 アレは、人類の兵器の進歩の度合いを偵察する事を目的とした、異星人の偵察機です」

 

「そんな、バカな」

 

「それだけではありません。

 タイタンが核…… 人類の兵器で消滅した事を受け

 地球を破壊するためのロボット、ガイアーと六神体が、既に動き始めています」

 

おもむろにマーズが立ち上がり、テレビの電源を入れる。

タイミング良く画面に映ったのは、ワイドショーの実況中継であった。

 

『……えー、こちらが現在のピラミッド周辺の状況です。

 ご覧いただけてますでしょうか? 画面中央、

 一週間前まで、確かにここに佇立していた筈のスフィンクスが、影も形もありません。

 現場にはただ、おびただしい瓦礫の跡を残すのみとなっています。

 現地の人々にとって、まさに青天の霹靂というべき今回の事態に、エジプト政府は――』

 

「あら、そのニュースって、この間のやつね?」

 

片づけを終え広間に戻って来た春美が、興味深げに画面を覗き込む。

 

「本当に不思議な話よね

 ここ一週間くらい前から、同様の事件が世界各地で起こっているんでしょ?

 オーストラリアの山脈が真っ二つに割れたり、

 ペルー山岳地帯の人面岩が忽然と消えたり……」

 

「更に、チベット、中国、バハマ諸島を含め、計六ヶ所

 タイタンが消滅した直後に、これらの消失事件が立て続けに起こっています。

 加えて言えば、これらのモニュメントが造られたのは、全てが同年代、

 件の異星人たちが、地球を訪れていた時代と重なるんです」

 

「……! それって、つまり」

 

「ええ、恐らくはあれらのモニュメントの中に、六神体が封じられていたんです。

 そして、タイタンからのデータが途絶えた事を感知して動き出した。

 ……僕が任務を全うして、ガイアーにセットされた爆弾を爆発させるか

 あるいは、人類に加担して彼らの敵となるか、決断の時を待っているのです」

 

「そんな……、そんな事って……」

 

「……つまり、何千年も前から、人類は滅びる運命が決まっていたって言うのかよ?」

 

静かだが、少年とは思えないほどの凄みを感じさせる声に、一同の視線が集まる。

先程の一過性の暴発とは違う。

拓馬の瞳に、何千光年も彼方にいるであろう異星人に対する、本物の怒りが満ちていた。

 

「拓馬……」

 

「マーズ、そんなゲス野郎どもの言う事なんぞ聞く必要はねぇ!

 六神体とやらがナンボのモンだか知らねぇが

 そいつらにゃ、ゲッターの恐ろしさをたっぷりと思い知らせてやる、なあ、獏!」

 

「オオ!」

 

相棒の激情を知り、獏があえて軽快な調子で応じる。

 

「俺たちゃァ未来からの侵略者だって退けてきたんだ。

 数千年前の骨董品なんぞ、ゲッターで埋め戻してやるぜ!」

 

若者たちの溌剌としたやり取りが、周囲を圧迫していた見えざる重しを取り除く。

空気がふっと軽くなり、春美たちも一つ、安堵のため息を漏らす。

 

「そうか!

 君たちには未来の人類が造った兵器【ゲッターロボ】があるんだったね

 確かに、あのタイタンとの戦いぶりなら」

 

「でも、不思議な話ね。

 太古の昔に建造された異星人の兵器に、

 未来から来た人類のロボットが立ち向かうなんて……」

 

「…………」

 

「マーズ?」

 

はっ、と春美が息を呑む。

記憶が無いとはいえ、かつての同胞と敵対せねばならぬ、

マーズの心中はいかなるものであろうか?

 

だが、次にマーズの発した言葉は、彼らにとって思いもよらぬものであった。

 

「……ゲッターに、本当に六神体を止められる力があるのかい?」

 

「何だと!」

 

マーズの言葉を挑発と捉え、拓馬が身を乗り出す。

だが、すぐに拓馬は言葉の意図に気付いた。

マーズの瞳の奥にあったのは嘲りではなく、未知なる存在に対する畏れの色であった。

 

「本当に、あの機体が六神体を凌駕する力を秘めていると言うのならば、

 それは、恐るべき事だと思う。

 そんな力は人類に、いや、宇宙全体の営みにすら悪影響をもたらすだけではないのか?」

 

「……マーズ」

 

「拓馬、それに獏、あの悪魔のような兵器を使い、

 過酷な戦場を生き残ってきた君たちだからこそ聞かせて欲しい。

 ゲッターロボの、そして、ガイアーと六神体がやろうとしている事の是非を」

 

「それは……」

 

先程までの沈黙とは異なる、息苦しいまでの緊張感が周囲に満ちる。

マーズは無条件に人類の味方をしてくれる存在では無い。

今は地球人に好意を持ち、人類の側に立ってはいるが、

彼が手にしているのは、本来なら地球を破壊する為に造られた兵器なのだ。

岩倉も春美も、その事実を改めて思い知らされていた。

 

「……悪ぃ、俺にもその答えはわからねぇ」

 

「拓馬……」

 

「ただ――、もしも俺達の世界にゲッターロボが存在しなかったら

 人類はとっくに侵略者達の手によって滅ぼされていただろう。

 歴代の研究者やパイロット達も、進んでゲッターを怪物にした訳じゃねぇ。

 人々の平和を守るために、より強力な兵器を造り続けるしかなかったんだ」

 

――だが、これまでがそうでも、これからもそうであるとはとは限らない。

 

結局、拓馬にはマーズの前で、

自分たちのしてきた行いの全てを肯定する事は出来なかった。

なぜなら拓馬達は、監視者達が最も恐れた未来……。

ゲッター線の庇護を得た人類が、星々の命を蹂躙しながら無限の進化を続ける、

おぞましい未来の到来を知ってしまっていたのだから。

 

それに、操縦桿を握りしめる度に感じてきた、震えるほどの高揚感。

ゲッターを求め、その圧倒的な存在感に血を滾らせてきた自分がいた事も否定できなかった。

 

「――いや、いいんだ、却って安心したよ

 君たちが何のためらいも持たず、あの機体に乗っていたのではないと判って」

 

「マーズ、それじゃあ……!」

 

「ええ、岩倉さん。

 僕は、ガイアーを人間を滅ぼすためには使いません。

 確かに、人類は争いの歴史を幾度となく繰り返し

 歴史の中で、残忍な行為を幾度となく行っています――」

 

「でも、人々はそれらの行為を、平然と行って来た訳ではないわ。

 過ちに気付いた時、先人達はそれを告発し、戒めをこめて史書へと記してきた。

 彼らのおかげで、現在では世界の誰もが、戦争がどれ程愚かな行為か知っているわ」

 

春美の言葉に、マーズが静かにうなずく。

 

「人類には、自らの行いを改める力があるように思います。

 それを将来の可能性だけで、地球に住まう三十九億の命を奪う権利は、僕にはありません」

 

「マーズ!」

 

「協力してくれるかい? 拓馬、獏」

 

「ったり前だろ! こちとら地球人の一員だぜ

 手を出すななんて言ったらぶっ飛ばすぜ!」

 

「へへ、みっつの心が一つになれば、ってな」

 

気の良い笑いを見せ、拓馬が、獏が、マーズの差し出した拳骨に、こつんと拳を合わせる。

三人の若者のやり取りが、周囲に再び活気をもたらす。

 

「ところでマーズ、監視者達の使う六神体とは、一体どのような力を持った兵器なんだい?」

 

岩倉の言葉に、やや俯いてマーズが首を振る。

 

「残念ですが分かりません。

 監視者の一人は、大陸一つを消し飛ばすほどの力を秘めた兵器と語っていましたが

 それ以上の事は、僕には……」

 

「そうか……」

 

「ですが、こちらにはゲッターとガイアーがあります。

 ガイアーは本来、六神体の中心にあって、

 対人類の決戦兵器となるためのロボットでした。

 未来人の兵器であるゲッターロボと協力すれば、十分に数の差を埋められる筈です」

 

そこで言葉を切り、ふっと、マーズが壁の時計へと目を向ける。

現在、午後一時二十五分。

監視者達の本拠・ニューヨークとの時差は十四時間……。

 

「ともあれ、六神体の能力はすぐに判明する事でしょう。

 今はただ、彼らの出方を窺うしかありません……」

 

 

――同時刻。

 

広大な夜景を望む摩天楼の一室では、

かつてのマーズの同胞達が『その時』を待ち続けていた。

 

「……あと、三十分ですか」

 

「随分と気の早い事を言う。

 全てはマーズが正気を取り戻していれば、の話だろう?」

 

「だが、マーズがどちらを選択したとしても、

 こいつをやるのは、これが最後になるだろうよ」

 

やや緊張した風の同僚達の会話に割り込み、件の監視者が、年代物のワインの酒瓶を掲げる。

ふっ、と、男達の間に微笑が洩れる。

 

「それでは、最後の任務の前に、ひとつ乾杯と行きますか」

 

テーブルに用意された六つのグラスに、鮮やかな赤紫の液体がなみなみと注がれる。

しばし、男達は感慨深げな表情でグラスを見つめていたが、

やがて、中央の老紳士が静かグラスを掲げた。

 

「思えば任務とは言え、我らも随分と長い間、地球を監視し続けたものじゃの」

 

老紳士同様、他の男達も、ゆっくりとグラスを掲げる。

 

「それでは…… 我々が任務を全うしえた事に、また、宇宙の平和のために、乾杯!」

 

「乾杯」

 

上等なワインの持つ芳醇な香りを楽しみつつ、一同がグラスを傾ける。

舌に心地よい甘みと酸味の中に、ほのかな渋みが混じるように感じるのは、

単に、ワインの持つ個性だけが原因ではないだろう……。

 

 

 

やがて、年代物の柱時計の頂点で、短針と長針が重なり合い、

ボォン、ボォン、という鐘の音が、室内に響き始めた。

男達は、一言も言葉を発せず、ただただ時計の方を注視し続ける。

 

ゆったりとした鐘の音がひとつずつ刻まれる度に、

男達の中で、郷愁が緊張に、緊張が失望に、そして失望が殺意へと変化していく。

 

―― 十回、

―― 十一回、

―― 十二回、

 

ついに鐘の音は止み、室内の静寂の中に、秒針の時を刻む音がのみ響き続ける。

それでも尚、男達はまるで、彫刻の一部にでもなったかのように、ピクリともしない。

 

「……やはり、マーズは任務を果たせなかったようですな」

 

片眼鏡の男が、殆ど口を付けぬままに灰の塊と化した葉巻を、灰皿の上へと落とす。

傍らの男が、無言でサングラスを抑える。

 

「――それでは、我々の手で任務を果たさねばなるまい」

 

言いながら、老紳士が徐々に右手に力を込めていく。

バリン、という乾いた音とともに、手の内のグラスが割れ、

赤紫の液体と真紅の鮮血が交じり合って、テーブルの上へはたとこぼれる。

 

他の男たちも老紳士に倣い、静かな室内に、

バリン、バリンという、グラスを砕く音のみが響き渡る。

 

室内に静寂が戻ったとき、そこには、

幽鬼の如き冷徹な殺意を瞳に宿した、六人の修羅の姿があった。

 

「それでは諸君、行動開始だ。

 マーズが、そして、あのゲッターとやらが、

 六神体とガイアーの関係に気づく前に、全ての決着をつけるのだ」

 

老紳士のその言葉を最後に、六つの影がゆらりと動き、

物音ひとつ立てず、一人、また一人と部屋を後にしていく。

 

全ての監視者が去り、室内には、テーブルに散乱したガラスのきらめきと

秒針を刻み続ける古時計の音のみが残った……。

 

 

 

 

 

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