「合体! ゲッターアークだ!!」
「ハジをかくなよ、拓馬、そんときゃあ、地球が丸ごと吹っ飛ぶぜ!」
「ハ、ハジ……? う、うわあああァァァーッ!?」
マーズが叫ぶ。
拓馬の一声で、空を駆ける三機がたちまち一直線に並び、その間隔を急速に狭める。
機体が音速に近づく中、後部から三号機が突き上げるようにドッキングし、
一気に押し上げられた二号機の眼前に、巨大な一号機の尻がグングン迫る。
ゲッター乗りの訓練時における死亡原因の大半は、合体時のサンドイッチである。
全身に強烈なGがかかる中、身動きが出来ない自機の前後から、
鋼の悪魔が挟み撃ちにするのだ。
いかに冷静さとタフネスを併せ持ったマーズであっても、
初見でこの恐怖に耐えるのは不可能であった。
そんなマーズの驚愕をよそに、機体はまるで、変幻自在に展開を始め、
数珠つなぎとなった三機から、手足が瞬時にズドンと生える。
同時に先鋭的な頭部が二股にジャキリと分かれ、先日の悪魔の顔面が覗く。
瞬く間に、三台の戦闘機は上空へと舞い上がり、
鋼鉄の肉体を備えた真紅の戦鬼へと変貌した。
「チェンジ! ゲッタァー アークッ!」
「おお、やはりそれが本当の姿かッ!」
ウラヌスの巨大顔面の中で、老紳士が驚きの声を上げる。
仲間の一人から、真紅の悪魔が変形できる可能性が高い事を知らされていた彼ではあったが、
実際に常識外れの変形合体を目の当たりにして尚、冷静な識者を気取る余裕は無かった。
「行くぜェ、ダルマ野郎!」
ウラヌスが動きを止めた隙を捉え、アークが稲妻の如く巨大顔面へと迫る。
帯電する両肩のハッチが開き、凶暴なトゲボール付きの長柄が二本、
ドジュゥ、という音とともに勢い良く飛び出す。
同時に棍を包む薄手の金属が展開し、無骨な刃がジャキリと生え揃う。
「二天一流! ゲッタアァァ トマホォークッ!」
「なんと、戦斧だと! ……だが」
鈍重なウラヌスには、天空からの一太刀を免れる余力は無い。
だが、巨大達磨は回避どころか、身動き一つせずに戦斧を待ち構える。
鉄塊の一撃が唐竹割りに打ち下ろされんとした瞬間、それは起こった。
「な、なにィ!」
突如、ビュゥウウウゥゥン、という音とともにウラヌスが輝きだし
ドーム状の光のオーラが達磨の全身を包み込んだ。
渾身の力を込めた筈の大斧は、対手の頭上でピタリと静止し、
切っ先から、ほどばしるエネルギーが稲光となって拡散する。
「ど、どうなってんだ!? トマホークが届かねぇ!」
「バリヤーだ! アイツは周囲にエネルギーの障壁を展開して、
攻撃を受け止めているんだ」
「そんなのアリかよ? こっちは物理攻撃だぜ」
一方、六神体の装備が期待通りの成果を上げた事に満足し、
老紳士はニヤリと笑うと、なおも頭上で悪あがきを続けるアークに対し、
不敵に言葉を投げかけた。
「フフ……、接近戦なら六神体に勝てるとでも思うたか?
愚かな、ここは既にウラヌスのフィールドよ」
監視者の言葉に合わせ、周囲の四本の柱が急速に出力を増し、
文字通り逆巻く竜と化した四本の竜巻が、アークをすり潰さんと四方から圧迫する。
「ぐっ、うわあッ!」
コンクリートや鋼材すらも瞬時に粉砕する真空の渦に呑まれ、
さしものゲッターも上空高く打ち上げられ、強烈な衝撃が搭乗者達を襲う。
「ウオオ!」
操縦桿を握り直した拓馬が、かろうじて機体を立て直す。
その間にも、すでにウラヌスは、眼下の猛吹雪の中へと姿を消していた。
「ク、クソッ! 無事か、マーズ!」
「…………」
「お、おい! 返事をしろ、マーズ!?」
「あ……、ああ、 僕は平気、だ」
獏の呼び掛けに対し、頭を一つ振ってマーズが起き上がる。
思わずほっと、胸を撫で下ろした二人であったが、
彼が虚勢を張っているのは、傍から見ても明白であった。
拓馬が思考を瞬かせる。
バリヤーを持たないゲッターでは、何度突撃を繰り返したところで、同じ結果となるだろう。
さりとて、この猛吹雪と竜巻の中では、ビームでは十分な威力は望めない……。
「なあ拓馬……、この場は一度出直さねぇか?」
「何だと、獏! このまま尻尾を巻いて逃げろってのか?」
「だが、マーズは怪我は尋常じゃねぇ!
分かってんだろ? もし、マーズに万が一の事があれば」
「…………」
「ダ、ダメだ……!」
肺腑から絞り出すようなマーズの主張に、拓馬の腕がピクッと止まる。
スクリーンの中、大きく息を荒げながら、尚も決死の形相で、マーズが言葉を紡ぐ。
「能力を知られた以上、ヤツはもう、回りくどい手は使ってこないだろう。
ここで僕たちが退いたなら、アイツは戦いの場を選ばない。
もしも、この竜巻が都市部で炸裂したなら……」
三人の脳裏に、先のタイタンの脅威が思い出される。
大きくひしゃげた戦車、瓦礫と化したビル群、燃えあがる道路、
オイルと硝煙と血の臭い、そして泣き叫ぶ少女……。
「だが、どうすりゃ良いってんだ?
今の俺達には、もう打つ手が……」
「――手は、あるぜ」
きっ、と顔を上げ、拓馬が断言する。
その瞳が、ある種の覚悟を宿している事に、二人は気付いた。
「ゲッターキリクで行くぞ、獏」
「なんだとッ!? バカな事を言うんじゃねぇ!
そんな事をしたら、マーズの負担は……」
全く要領を得ない拓馬の発言、そして獏の大げさな態度に戸惑いつつも、
マーズははっきりとした口調で、二人の会話へと割り込んだ。
「何だか分からないが、アイツを止められる可能性があるなら……、
拓馬、獏、僕のことは気にせずに、思い切りやってくれ!」
「マーズ……」
「へ、良い根性してやがるぜ! お前はゲッター乗り向きだよ、マーズ」
――と、
不意に雪風の中に殺気が煌めき、三人が会話を止める。
直後、ドシュウゥッ、と言う炸裂音が吹雪を破り、巨大なアンカーが高速で眼前に迫る。
「オープゥン、ゲエェぇット!!」
拓馬がレバーを振るう。
ゲッターが貫かれたかに思えた刹那、機体が再び三機に分解し、
目標を失ったアンカーが虚空へと消える。
だが、次いで生じた烈風の渦が拓馬達を襲う。
「くっ!?」
自動制御ゆえに体勢を立て直す事が出来ず、
マーズを乗せた白銀の機体が、きりもみ状態となって落下を始める。
「行くぜェッ! マーズッ!」
「くぅッ、な、南無三!」
後方から突っ込んできた黄色の機体が絶妙なコントロールで連結し、二号機の回転が止まる。
さらに後方、爆走する真紅の機体が、一直線に二機を貫く。
新たな変化を始めたゲッターの前に、凄まじいスピードで白い大地が迫る。
「ウオオォオォォ!!」
ドワォッ!!
――と、爆音を轟かせ、舞い積もった雪が天まで噴き上がった。
・
・
・
「おお、ヤツを仕留めたか!」
大地を揺るがす衝撃と、立ち上る雪柱に、監視者が歓喜の声をあげる。
モニター越しに見た吹雪の中には、確かに動く物の姿は見当たらない。
だが……
「……おかしい、マーズが死んだのならば、なぜ、ガイアーが爆発しない?」
或いは、マーズが接触の直前で脱出した可能性も考えたが、そこで男は新たな謎に気付いた。
何故、現場には残骸はおろか、金属片一つ落ちていないのか?
あの悪魔が地面に激突したことだけは、間違いが無い事実であるのに。
その時、不意に男は吹雪の中に、奇妙な耳鳴りを聞いた気がした。
ギイィイイィイン、と言う金属音と、強固な岩盤がぶつかり合って軋む不協和音。
音は次第に大きくなり、やがて、足元から突き上げるような衝撃がウラヌスを揺るがす。
刹那、男は全ての真相を理解した。
「――ッ! 地下かッ!?」
「チェンジ! ゲッターキリクッ!!」
直後、拓馬の雄叫びが大地を揺さぶり、
岩盤をぶち破り積雪を巻き上げ、巨大な鉄塊が飛び出し……。
―― 否 !! それは、それはドリル!
右腕に破壊の螺旋を備えた白銀の悪魔が、竜巻の届かぬ地の底より神体を襲う。
「おおおおお!」
咄嗟に監視者が神体を動かす。
達磨の周囲が再び金色のオーラに包まれ、鼻先寸前で螺旋を押し留める。
「なんというロボットだ! これが、これがゲッターかッ!?」
「ウオオ、こっから先は根比べだぜ!」
右手のドリルが唸りを上げ、閃光を散らしてバリヤーに喰い込む。
同時にウラヌスの生みだした四本の竜巻が、キリクのボディを徐々に圧迫する。
「フ、フフ、惜しかったな、ゲッター
残念だが、その捨て身の一撃も、ウラヌスには届かぬ!」
「ぐっ、これでもダメなのか?」
「いや、まだだッ!」
「何!?」
突如、キリクのドリルが狂ったように回転を増し
全身で達磨を押し上げ始める。抵抗する対手の顔面に、螺旋の一撃がチリチリと迫る。
「マーズ! 自動操縦を解いたのか?」
「フフ、いかに未知のロボットとはいえ、結局は二本の腕で動かす兵器だ
素人でも、腕を動かす事くらいは出来るさ!」
「何てヤツだ…… お前、やっぱりゲッター向きだぜ」
戦いは、まさに小細工抜きの潰し合いへと変容した。
ドリルが達磨の鼻先を掠め、竜巻のプレシャーでキリクの全身がキリキリと軋む。
「クッ、いいだろうマーズ、こうなれば、死なば諸共よ!」
相討ちを覚悟したウラヌスが、ゆっくりとその大口を開く。
ガラ開きとなった口中より、鈍い輝きを放つアンカーが姿を現す。
「バリヤーが破られた瞬間、至近距離でこのアンカーを浴びせてやる。
これで詰みよ、マーズ、そしてゲッター!」
「ぐっ、こいつは……!」
「やべぇ、今度こそダメか」
「いや……」
不意にマーズが、ふっ、と、その場に似つかわしくない笑みを漏らす。
「どうやら、間に合ったみたいだ」
直後、閃光と共に光弾が上空より降り注ぎ、強固なバリヤーが一瞬の内に弾けて消える。
驚き後方を仰ぎ見た監視者の視界に映ったのは、
おびただしい貝類や藤壺の類に全身を覆われた、両腕を広げる偶像の姿だった。
「何ッ!? まさか、ガ……」
巨神に気を取られたその一瞬が、男の命取りとなった。
その瞬間、障壁を突き抜けた螺旋の一撃が、
ガラ空きとなった口中へ、深々と唸りを上げて突き刺さる。
「ぐ、ぐおおああアァァァッ!!」
「よし! コイツでとどめだ……」
「いや、早くこの場から離れるんだ」
「何……? うおっ!」
突如、ウラヌスのボディがぐらりと揺らぎ、
周囲の岩盤ごと、根こそぎ上空へと吸い上げられていく。
喰い込んだドリルを強引に引き抜き、出力を最大にしてキリクが距離をとる。
「な、何だ!」
拓馬も獏も、思わず驚きの声を上げる。
突如生じた超重力の中心にいたのは、金色の輝きを放つ件の神体。
超神はがしりと達磨を捉えると、たちまち真昼の太陽の如き輝きを放ち始めた。
「愚かな、あくまで人類に味方するか、マ……」
監視者の言葉は最後まで続かなかった。
黄金色の輝きの中で、巨大な達磨は瞬く間に機能を停止し、
やがて、その巨体が粉々に砕け、塵芥へと還っていった。
「す、凄ぇ…… あれほど強大だったダルマ野郎が、たったの一撃で……」
「そう…… あれが、あれこそが、ガイアー……
異星人達の計画の中心となるハズだった、究極の……」
「……? おい、どうした! マーズ!?」
「しっかりしろ! マーズ!」
拓馬も獏も即座に気付いた。
モニター越しに崩れ落ちるマーズ、そしてシートを染め上げた血の量に。
「マァァァァズゥッ!」
拓馬の必死の叫びも、既にマーズには届かない、
ただ最強の神体のみが、金色の輝きを放ちながら白銀の機体を見下ろしていた……。