激突!! ゲッター対ガイアー   作:いぶりがっこ

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第八話

「なんだとッ! ゲッターを拘束する!?」

 

静かな病院内の一室を震わし、少年の怒声が響き渡る。

拓馬の剣幕に、居合わせた春美がビクン、と体をすくめる。

だが、拓馬の眼前にいる軍服姿の司令官―― 病院の敷地を取り囲んだ自衛隊の長は、

少年の凄まじい眼光に怯みもせず、淡々と言葉を紡いだ。

 

「これは日本政府の決定なのだよ、拓馬君。

 君達の証言の真偽はともかく、あのロボットの性能は、一個人が所有するには強大過ぎる。

 そうでなくても、ここ一連の事件で、世間の不安は高まりつつあるのだからね」

 

チラリ、と男が窓の外を見やる。

白一色の世界の中、六階建ての立派な病院のビルディングを覆うように佇立する、

真紅のロボットの姿が、嫌が応にも視界に入る。

 

真紅の悪魔が都内に出現したとの情報により、

病院の敷地は自衛隊の一団により封鎖されていたが、

既にその周囲には、マスコミの取材は元より、事態を傍観する野次馬、

政府の陰謀を糾弾する政治団体、果ては終末思想を唱える宗教家まで、

多様な群衆達が集い、混沌のるつぼと化していた。

未曾有の寒波による残雪の影響が無ければ、混乱はこの程度では済まなかったであろう。

 

「……ともあれ、状況が状況だ、

 巷には、君達のゲッターとやらを、件の怪ロボットと同一視している人も多い。

 ここで、独断で好き勝手に動かれて、情勢を混乱させられては困るのだよ」

 

「で、でも、拓馬君達の判断が間違っていたとは思えません!

 この場合、病院に駆けつけるのが遅くなって、マーズの身に何かあったなら、

 地球も一緒に消滅してしまうところだったんですから」

 

拓馬達を庇おうとする春美の弁護を、男が一蹴する。

 

「それは、彼らの証言が真実ならばの話ですよ、お嬢さん」

 

「何だと!」

 

少年達の剣幕をよそに、指令の男はあくまで冷然と言葉を続ける。

 

「落ち着きたまえ、別に、君たちの言葉を信じていない訳じゃない

 ただ……、君たちが独断で行動した結果、事態はどうなったかね?

 本来守らねばならなかったはずの少年、マーズは酷い重傷を負って、

 今だに目を覚まさぬままではないか」

 

「!?」

望外の反撃に、思わず拓馬が言葉に詰まる。

確かに、六神体の動きをいち早く掴むため、政府の協力を得た方が良いのではないか、

という議論は、岩倉やマーズと幾度となく繰り返していた。

 

だが、ゲッターやマーズの扱いがどうなるかが分からない上、

情報公開の為の時間もツテも無い事から、結局は実現に至らなかったのだ。

当時の拓馬達にとっては、人知れず戦いの準備を整えておくだけで精一杯だったのだが、

もし、当初から政府の協力を得る事が出来ていたなら、

現在のような惨事には至らなかったかもしれなかった。

 

「君達の証言の真偽、そして今後の対応については、

 現在、政府首脳部が検討している。

 先の事は我々大人に任せて、君達は結論がでるまで羽を休めておくといい」

 

「フン!」

 

指令の言葉に、珍しく鼻息を荒くして獏が立ち上がる。

 

「お偉いさんがたも、随分悠長な事を言うもんだ。

 すでに残りの五神体も、日本に迫っているかもしれねぇってのによ」

 

「どこに行くんだね? 山岸獏君」

 

「便所だよ! 取り調べももう十分だろ?」

 

それだけ言うと、獏は勢い良く扉を押し開け

振り返りもせず、大股でずんずんと部屋を後にした。

入れ違うように、白衣の男がおずおずと室内に顔を見せる。

 

「パパ!」

 

「おっさん! マーズの容体は?」

 

「ああ、まだしばらくは目を覚まさないだろうが、とりあえず、命に別条は無いよ」

 

院長の言葉に、一同がほっ、と胸を撫で下ろす。

だが、院長はそこで「それにしても……」と、顔色を曇らせた。

 

「まったく、今回ほどやりにくい患者はいなかったよ。

 彼が一命を取り留めたのは、その持ち前の頑健な肉体のおかげなのだが、

 それゆえに、既存の人間の為の治療法では、十分な効果を望めないのだ。

 なにせ、毛髪の一本からして人間とは異なる生命、

 レントゲンにかけても頭部が映らない生物とあっては、

 どのような治療を施せば良いのかすら、分かりはしない」

 

「それじゃあ、今後マーズが重傷を負っても、直す手段が無いって事なのか?」

 

「そんな、まだ、彼の命を狙う敵は、五体も残っているのに……」

 

拓馬達の懸念をよそに、指令があくまで冷静に口を開く。

 

「ともかく、彼が目を覚ますまでは、我々の手で厳重に警護します。

 君達の話が正しければ、ガイアーに埋め込まれた爆弾さえ取り除く事さえ出来れば……」

 

その時、突如として開け放たれた扉の音に、男の言葉は遮られた。

一堂の注目が集まる中、

顔色を変えて室内に飛び込んで来たのは、一人の若い自衛官であった。

 

「どうした? 騒々しい」

「す、すいません! ですが……!」

 

男が何事か耳打ちをする。

その内に、司令が不意に瞠目し、その顔から血の気が一気に引いていく。

その自衛官のもたらした情報が、

何かとてつもなく不吉なものである事は、傍目にも明白だった。

 

「よォ、一体なにがあったってんだ、おっさん?」

 

「……そ、それは」

 

「六神体が、とうとう本格的に動き出したんだよ、拓馬君」

 

「!」

 

前方の二人からではなく、後方から聞こえてきた答えに、皆が一斉に振り返る。

大きく息を乱しながら現れたのは、スーツ姿の新聞記者・岩倉であった。

 

「拓馬君、たった今、社に入ってきたばかりの情報だ。

 落ち着いて聞くんだ…… エジプトが――」

 

「よせッ! その情報を伝えるには早過ぎる!」

 

一切の余裕を失った軍服の姿を、岩倉はじっと一瞥したが、

すぐに視線を拓馬に戻すと、言葉を続けた。

 

「――エジプトの首都・カイロが、一夜の内に焼失したそうだ」

 

「焼失……? それって、どういう」

 

「言葉の通りだよ

 大規模な火災だとか、何らかの事故だとか、そんな生易しい物じゃない。

 ビルも、橋も、道路も……、カイロにあった全ての建造物が

 突如発生した超大な高熱によって、

 全てが灼かれ、熔け落ちて、無残な廃墟と化したそうだ」

 

「そ、そんな……!」

 

岩倉のもたらした情報のあまりの突拍子の無さに、一堂が絶句する。

その時、何事かに気付いた拓馬が、はっ、と顔を上げた。

 

「ちょっと待て……! エジプトって、確か」

 

「そう、まさに先日、スフィンクスが謎の消失を遂げた地だ」

 

「クソッ! やっぱり六神体の仕業かッ!?」

 

そう叫ぶが早いか、既に拓馬は、病室の外へ飛び出そうとしていた。

だが、その眼前に軍服の姿が立ち塞がる。

 

「……何だ? おっさん、

 まだ、俺達の事を疑っているってのか?」

 

「いや、こうなってしまっては、もはや詮索など無意味だろう

 巨大都市ひとつを焼き払う程の力を持った勢力が、人類に敵意を向けている以上、

 人間の味方を名乗る、君達の言葉は信じざるを得ない」

 

「ふん、そいつが分かっているなら、とっととそこを……!」

 

カチャリ、

 

ゆっくりと眉間に突き付けられた銃口に、拓馬は口を閉ざし、無言で対手を睨みつける。

ざわり、と周囲を包む空気が一変する。

 

「ちょ、ちょっと! 何をする気なの!?」

 

「出来れば私も。こんな手荒な事はしたくはない……、

 だが、ここで無謀な行動によって、君達を失う訳にはいかないのだ」

 

「おっさん、アンタ……」

 

「せめて、敵の思惑が分かるまでは、短慮は自重してくれ!

 スフィンクス、そして、残りの四体の情報が入るまでは、ここで待つんだ」

 

息苦しいまでの重い空気が室内に満ちる。

永遠にも続くように思われた緊張感の中、拓馬が何事か口を開こうとしたが、

次の瞬間、ズンッ、という震動がひとつ、室内を襲った。

 

「きゃっ!?」

 

「な、何事だ!」

 

「……へっ、やりやがったな、獏の野郎!」

 

拓馬はニヤリと笑うと、すかさず身を翻して窓を開け放った。

果たして窓の外には、混乱する群衆を掻き分けながら、

病棟へ向けて移動するアークの姿があった。

 

『乗れ! 拓馬ッ!』

 

「おうッ!」

 

「ま、待て、待つんだ!」

 

今にも飛び出さんばかりに身を乗り出した拓馬に対し、司令官が慌てて銃を構え直す。

それでも拓馬は臆する事無く、端目で男の次の言葉を待った。 

 

「落ち着いて考えるんだ!

 神体はまだ、五体も残っているのだろう?

 もし、これが罠だったなら……、いまだ目を覚まさないマーズが討たれたらどうする?」

 

「……だから、エジプト全土が燃え尽きるところを

 指をくわえて見ていろって言うのか?」

 

「歯がゆいのは私も同じだ

 だが、全ては地球の全人類のためだ、だから……」

 

「フザけた事を抜かしてんじゃねぇッ!

 お前には、マーズの気持ちが分からねぇのか?」

 

突然の拓馬の激昂に、雷に打たれたかのように場が静まり返る、

予想外の問い掛けに皆が沈黙する中、拓馬が吠える。

 

「何のために、アイツがかつての仲間を裏切り、

 命がけで戦っていると思ってんだ?

 人間って言う生き物に、期待しているからだろうが!

 アイツが目が覚ました時、

 俺たちが異国の人々を見殺しにしたと知ったら、アイツはどう思う?」

 

「…………」

 

「……人類のために戦っているマーズのためにも、

 アイツを失望させるワケにはいかないんだよ。

 それが、アイツに対する俺たちのスジの通し方だ!」

 

拓馬の言葉は、ともすれば人類の運命よりも、

自身のケジメを優先仕掛けないような危うい思考であった。

 

人類三十九億の運命と、エジプト一国。

両者を天秤に掛けた時、究極的にどちらを選ぶべきかは、分かりきった事である。

ましてや、一異星人の感情とでは、本来ならば比べるべくもない。

 

――にも拘らず、その場に居合わせた者は誰一人として、

 飛び出していく拓馬を止める事が出来なかった……。

 

 

「見ろ、あの少年が飛び出してきたぞ!」

 

「くっ、総員、構え! アイツらを行かせるなッ!」

 

窓から飛び降りた拓馬を受け止め、アークが頭部のコックピットへと導いていく。

危険な悪魔の暴走を止めるべく、

ロボットの右手の中の拓馬へ向け、取り囲む自衛官が一斉に小銃を構える。

 

「よせッ! 室内で少女が人質に取られている」

 

「!?」

 

「人命優先だ、ひとまずこの場は、そいつらの好きにさせてやれ!」

 

窓から響いてきた声に、兵士たちの動きが思わず止まる。

驚く拓馬を乗せた右手がゆっくりと上昇を続け、窓の真横を通過する。

その時、無限の可能性を信じる少年の瞳と、

少年の可能性を信じたい大人の視線が、空中で交錯した。

拓馬はニヤリと笑みを見せると、そのまま振り向くことなくコックピットへと飛び込んだ。

 

『よぅ、お前、春美ちゃんを人質にとったのか?

 まったくとんでもねぇヤツだな』

 

相棒を冷やかす大柄の少年の声がコックピットに響く。

へっ、と拓馬が笑う。

 

「……なぁ、人間も、まだまだ捨てたモンじゃねぇよな」

 

『あん? なんか言ったか、拓馬?』

 

「なんでもねぇよ!  さて、目標・エジプト向けて一直線と行こうか!」

 

『エジプトか…… そういや俺たち、地底も宇宙も未来も行ったが

 海外だけは初めてじゃねぇか?』

 

「そういや、そうだったか……

 よし、海外初のエジプト土産は、スフィンクスの首級だぜ!」

 

威勢の良い掛け合いを機内に響かせながら、

アークが大きく腰を落とし、大きな杭のような八枚の翼をバサリと広げる。

 

「行くぜぇッ!! ゲッターアーク、発進!!」

 

バシュゥ、という炸裂音を轟かせ、取り囲む群衆を吹き飛ばしながら、

真紅の悪魔が瞬く間に上空へと消えた――。

 

 

「岩倉さん、一流新聞社の記者であるあなたが、

 なぜ、彼らの言葉を信じる気になったのか、今なら分かりますよ」

 

「…………」

 

外のパニックとは別世界のように静まり返った病院内の一室で、

ポツリと指令の男が言った。

 

「我々にも、彼ら少年たちのために、力になれる事があれば良いのだが……」

 

「……もしかしたら、力になれる事があるかも知れませんよ?」

 

「うん?」

 

ゲッターの去った空を見つめながら、軍服の嘆きを聞いていた岩倉が

ふと、思いついたアイディアを口にした。

 

「秋の島新島ですよ。

 マーズが眠っていたあの地にいけば、

 マーズ、そして六神体に関する情報を得られるかも知れません」

 

 

 

 

 

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