夏海 現(なつみ うつつ)の横向き日記   作:endoendo

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5月32日/存在しない話

 何も買えません。

 当たり前です。

 存在しない日です。

 虚構です。

 偽証です。

 私が小さな頃、頭の中に思い描いていた王子様のようなものです。

 私が困った時は助けにきてねと約束した人です。もっとも、本人にはせいぜい雨の日に傘を届けるぐらいしかできないと言われてしまいましたが。

 彼は人工甘味料のように優しく、甘く、それ故に成長していくにつれ作り物であることを悟ってしまい、どこかへ旅立ってしまいました。

 今はきっとまた別の夢見がちな少女の頭の中に住み着いているのでしょう。或いは今でも絵空事を思い描く私の友人がとっ捕まえて監禁しているのかも。

 まぁとにかく、この日のものとして書く日記は真っ赤な嘘ということです。

 

 ですが、日記を過去を振り返る手段として書いているのなら。

 既にその時期の事を忘れてしまっていたのなら。

 過去を振り返る術がこの日記しか残されていなければ。

 

 ……或いは真実として扱われてしまうのかもしれません。

 

 

*****

 

 

 日記なんて極論、暇つぶしに書くぐらいがちょうどいいのだと思っています。忙しい時に無理に書くべきではありません。つまり、暇なら普通よりも増えることだってあり得るということです。

 今日は……そうですね。久しぶりに王子様に会いました。

 相も変わらず、私に都合のいい優しい王子様です。

 ですが、変わったこともありました。彼は自分が作り物なことを自覚していたのです。だからといって悲観するとかそういうことはありませんでした。

 そんなの、彼には似合いませんから。

 どうして作り物だと知ったのか、と尋ねてみると「それは君が知ったからだよ」と答えます。

 どうしてまた来てくれたのか、と尋ねてみると「約束だからね」と答えます。

 約束ってなんだったっけ、と尋ねてみると「今は内緒」と答えます。

 大切な人と話しているような、自分自身と話しているような、不思議な不思議な時間でした。

 

 

*****

 

 

 5月31日 天気:雨

 いつも不定期に手紙を小学生の頃お世話になった先生に送っていました。昔の私は今よりだいぶ子どもで、周囲よりも更に子どもで、特別な助けが必要だったのです。そんな腫れ物な私と向き合い、導いてくれた先生でした。

 今日、先生の筆跡ではない返事が来ました。

 喪中の葉書でした。

 悲しいとは感じなかったと思います。

 何か感情を抱くには時間が経ちすぎていましたから。

 でも、今日は何もうまくいかない1日だったように思います。

 不思議ですね。

 

 

*****

 

 

 6月1日 天気:晴れ

 今日は朝起きた時点で昨日よりはだいぶ調子が戻っていたように思います。

 もしかすると夢でいいことでもあったのかもしれません。

 覚えていませんが。

 覚えていないなら好き勝手に想像すればいいのかもしれないですね。

 後で考えておきましょう。

 まぁ結局のところ、後ろを向いても見えないほどの過去に対しては、横を向いて誰かと語らうぐらいしかできませんからね。

 

 そういえば、久しぶりに昔妄想していたオリキャラのことを思い出しました。

 もしかすると、私の中で雨が降っていたのかもしれません。

 彼のことを考えるのは決まってそういう時でしたから。

 ……彼の存在は嘘だとしても、彼がいた日々は真実だったと今でも思っています。

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