初ハーメルンでタグや仕様も分かってません。
――ユグドラシルで〝黒壁〟という名前を聞けば、様々な意見が聞けることだろう。
『悪魔が憑依した女』――まったくその通りである。
『素材集めを手伝ってくれた。優しい女の人。でも顔はマジでキモい、異形種かよ。ねーわ』――概ねその通り。
『うざかったライバルのギルドをぶっ壊してくれた。後日、俺達も同じことをされた。最悪』――本当にその通りなのだ。
その大半が酷評ばかり。だがその中には、〝偽の批評〟も含まれている。
それは先述の通り、彼女と〝仕事〟をした経験があるプレイヤーからの批判だ。
黒壁は報酬さえ用意すれば、汚い行為を代わりに行ってくれるプレイヤーだった。
特に人気だったのは、素材集めに、プレイヤーキル、そしてギルドの破壊行為。
隠密に特化した彼女は、潜入という行動も得意の一つだった。
だから彼女に依頼をして、恩を感じている。しかし他者から繋がりがあると思われたくない人々は、上辺だけでも黒壁を非難した。
比較的評判の〝良かった〟彼女は、悪役プレイという意味では順風満帆なゲーム人生を送っていた。
とあるギルドの潜入を行うまでは。
「あ、もしかして……」
「あれ、黒壁さん?」
「……わー、お久しぶりです。モモンガさん」
現在。とあるダンジョン内。
黒壁は依頼を受けて、代理で素材採集にやってきていた。
本来であれば彼女が受けるべきではないような、レベルの低いダンジョンだ。初心者が頑張って周回するような場所。
だが彼女がそんな依頼を受けざるを得ないのは、先日のギルド潜入が関係する。
そしてその関係者たる目の前の人物――モモンガ。
彼もこのようなダンジョンにいるような人物ではない。
「あーっと、えーっと、モモンガさんは、お、お一人ですか?」
「はい。ここの隠しアイテムに用がありまして」
「……よかったー。たっち・みーさんもいるものかと……」
「あー……」
黒壁はびくびくと怯えながら、モモンガの後ろを覗き込んでいた。
彼女の行ってきているプレイスタイルは、たっち・みーとは相性が悪い。それに先日のギルド潜入――アインズ・ウール・ゴウンへの侵入行為もある。
この場に彼がいたら、穏便には済まないだろう。
黒壁は様々なギルドやプレイヤーからの依頼を受けて、ギルド〝アインズ・ウール・ゴウン〟への侵入を試みた。
結論から言えば、彼女の仕事は失敗に終わった。
いや、失敗なんて可愛い言い方では済まされないほど、情けない惨敗。
最初から勝てる見込みはたいしてなかったが、潜入虚しく敗走することとなった。
なぜ承諾してしまったのかと問われれば、複数のギルドから、それなりにヨダレが出るような報酬を差し出されたからだ。
正直潜入直後には、黒壁は依頼のミーティングの際に戻りたいとも願ったほどだ。
報酬に目がくらんだ己を罰したいほど。
それに黒壁のこのプレイスタイルは、日頃の鬱憤を晴らすためだ。現実世界で犯罪に手を染めるよりも、ずっと簡単だから。
そんなストレス発散のために、己を犠牲にする必要もない。
圧倒的で絶対的な強者を前にしたのであれば、撤退するのも一つの手段なのだ。
とはいえ、黒壁が逃げ帰ったことにより、彼女の信頼は地の底にまで落ちた。
もともと異形種の彼女が、自分の得意とする仕事をこなせなければ、評価が下がるのは当然のこと。
そうして現在。彼女の実力に似つかわしくないことをしているのであった。
「大人ってあそこまでプライドを捨てられるんだな、って笑いましたよ。みんなも呆れすぎて見逃したと言うか」
「そりゃそうですよ。こちとらストレス発散で遊んでるんです。お宅みたいなガチのところにボコられて、ゲームでも心折りたくないですよ」
黒壁が敗走できたのは、たまたま居合わせたメンバーがまだ良心的だったこと。
そしてそれなりのお値段の課金アイテムを、贄として差し出したこと。
受け取った側は喜びと『そこまでする?』という妙な冷静さと白け具合を得た。
あまりの情けなさに、黒壁の逃走を許してしまった。
「いやぁ、最初から断るべきでしたよね。ナザリックに潜入だなんて。今考えれば馬鹿なことをしたものですよ。仕事も減ったし……」
「あー、だから今〝おつかい〟をしてるんですか」
「そうなんです。初心者からお小遣いをもらって、代わりに来てます。落ちぶれたものですよねー」
「そ、そんなことは……」
黒壁も、ナザリックまでとはいかないが、自分の拠点を持っている。
とはいえ殆ど保管庫のようなものだ。
嫌われ者の彼女は仲間と呼べる仲間もおらず、ギルドも満足に属していない。
拠点には手に入れた装備やアイテムを保管するだけと、NPCが幾らかいるだけ。
しかしそれでも、自分の作った場所だ。管理はしたいし、強化もしたい。廃れないように維持もしなくてはならない。
「い、いや。でも結構攻略されて、みんな驚いていましたよ」
「本当ですか!? ちょっとはやったかいがありましたねー。できれば次は敵対ではなく、案内してもらいたいものです。余裕はなかったですけど、作り込みに感動したんですよ」
「あはは。お待ちしてますよ」
それから、黒壁とアインズ・ウール・ゴウンとの関係は、知人のような形で続いた。
顔見知りのギルドメンバーと拠点の外で出くわせば、会釈や挨拶くらいはするようなそんな関係だ。
隣人のような遠くもなく近くもない関係。
黒壁は自分の名声を回復するために奮闘し、モモンガを始めとするアインズ・ウール・ゴウンのメンバーもそれぞれ活動を続けていった。
特に深い関係でもない簡単な付き合いは、徐々に薄れていく。
そして時は流れ、ユグドラシルのサービス終了がやってきたのだった。
◇
「終わっちゃうのか……」
黒壁は自分以外は誰もいない拠点で、独りごちる。
――今日はユグドラシルのサービス終了の日。
結局、最後の最後まで彼女は仲間などおらず、小さな交流のあるプレイヤーが幾らかいたくらいだった。
それらもまたサービス終了日が近付けば、ログインすらしなくなる。
ストレス発散で始めたゲームだったが、ここまできて寂しくなるのはそれだけ楽しんでいたからだ。
課金をしてせかせかと管理してきたこの城は、もう二度と見ることはできない。
NPCが欲しくて城を手に入れたものの、一人で管理するにはあまりにも広すぎた。
城内を歩きながら、『よくもまぁ、ここまで頑張ったな』と自分を褒める。
黒壁は書斎に入ると、デスクのそばに佇んでいるNPCを見つけた。
他のプレイヤーにも褒められたことのある、非常に美人な彼女。名前をキャプラ。黒壁の好みを詰め込んだ美女。
漆黒のドレスに、乳白色のふわりとした頭髪。瞳は彼女の本来の姿を表すかのような、横長の瞳孔をしている。
「はぁー、やっぱり可愛い。最高傑作とも言える、好きだなぁ」
もう見納めだと思うと、名残惜しい。
黒壁はキャプラに見合うアイテムを集めるために、それはそれは苦労したものだ。
キャプラの存在もストレス発散の一部。
見目の良い自分好みのNPCが拠点にいれば、仕事の疲れだろうと吹き飛んでしまう。
動く気力すらない時は、NPCを書斎に集めてただひたすら見るだけの時間を作る時もあった。
ただ見つめてぼんやりとしているだけなのに、溜まっていた疲労がどんどんなくなっていく気がしたのだ。
だがそれも今日で終わる。
時計の数字が、ゆっくりと動いている。
「じゃあね、キャプラ」
残り数秒となったところで、黒壁は動いた。本当に最後だからと、黒壁はキャプラをそっと抱きしめたのだ。
触れた瞬間、サービスが停止するようなタイミングだった。
――しかし、数秒、十数秒と経過しても目の前は変わらず。
黒壁の視界に映されているのは、自分で作り上げた書斎の風景だ。
不思議に思っていると、腕の中にあるものがモゾモゾと動き出す。布が擦れて、ミルク系の甘ったるい香水のような匂いが鼻を抜ける。
「ん? 匂い?」
違和感を覚えて、黒壁はキャプラから離れようとした。
しかし物凄い力で抑え込まれ、再び両腕はキャプラの体に巻き付いた。
改めて抱きついたキャプラは、人のようなぬくもりを感じさせた。
――おかしい、ユグドラシルにそんな機能が?
そう思ったのも束の間、腕の中に収めているキャプラが身じろぎをし、呼吸をし始めた。
「あぁ♡黒壁様♡ずっと触れたかった貴女に、触れていただけるだなんて……♡」
「ん!? ちょ、なに!?」
強い力で押さえつけられているせいで動けない黒壁は、頭だけを動かしてキャプラを見やる。
するとはぁはぁと興奮しながら、顔を赤らめているNPCがそこにいた。
口が動いて、行動をしている。
「いつも貴女が仕事をなさる書斎で行為に及ぶだなんて、はぁあ♡……興奮致します……♡またここで仕事をした際には、今日のことを思い出すのですね♡」
「ま、まって、キャプラ! ステイ!」
「はぁい♡」
無理矢理キャプラを引き剥がすと、黒壁は少しだけ距離を取った。
黒壁のレベルは100で、キャプラも同様に100だ。
だが黒壁はキャプラに比べて、腕力があまりない。キャプラを攻撃型として育成したからということもある。
更に言えば隠密と俊敏性を重きにおいた彼女は、メインアタッカーでもあるキャプラよりも力が劣ってしまうのだ。
だから最初に抑え込まれた際も、抵抗ができなかった。
キャプラをまじまじと見れば、赤らんだ表情で黒壁を見つめている。
舌なめずりをするその仕草は、間違いなく獣。――いや、彼女の本来の姿からすれば獣をなのは当然なのだが。
それに先程も、ゲーム内のコマンド以外で命令ができた。
黒壁の中の混乱は、余計に深まるばかりだ。
「キャプラ、その……他のNPCを集めてきてくれませんか?」
「黒壁様? どうしてそのような喋り方をなさるのです?」
「……え?」
キャプラは笑顔のままだったが、嫌悪のような感情が向けられていた。
ピリピリとした視線に、黒壁は少しだけ気圧される。この雰囲気を、黒壁は以前も見たことがある。
現実世界の友人の〝解釈違い〟というやつだ。まるで鬼か悪魔にでもなったかのような形相で、キャラクターらしからぬ行動に対して憤怒する。
であればどうやって接するべきか。
一瞬の間に、黒壁は思考を巡らせる。王のような振る舞いなんてできないし、かといって上司のような振る舞いだって無理だ。
短い間にぐるぐると脳みそを、様々なキャラクター像が駆け巡る。
――その時ふとよぎったのは、昔に見た男装の麗人の口調。
柔らかな口調の中に、人を惹きつけるようなカリスマ性を秘めたもの。これならば、と口に出した。
「――キャプラ、ほかの者を客間に集めてくれるかい?」
「畏まりました♡」
キャプラが立ち去ると、黒壁はズルズルと崩れ落ちた。
震える手で顔を覆えば、人間の顔ではない感触がする。自分が、虫の異形種になってしまった――鏡を見ずとも分かる。
混乱と、困惑と、焦燥と。黒壁の心の中は、様々な感情が渦巻いていた。
改めましてボヌ無音と申します。
2年前くらいからあったネタをコネコネしていい感じに作り直しました。
本当はアインズ様の仲間だったり、もっと親しい仲にしたかったんですが、己の中のオタクが解釈違いだと喚いていたので話が設定が何もかもが変わっていきました。
最初の最初だと、
オリ主の転移先がバハルス帝国付近
ワーカーとして生活→ナザリック侵入の依頼が来る
アインズ様vsフォーサイト→終わった辺りでオリ主登場
「お久しぶりです、モモンガさん」
「黒壁さん?」
みたいな話を想定していました。
アインズ様出てくるまでに飽きそうだったんでボツ。
気が向いたら出します。