初めてのヒーロー基礎学。
その授業は初っ端から大荒れに荒れた。
「まじで緑谷すごかったよな、クレバーっていうか何っていうか……」
「自傷とはいえ腕折るのはやばくない? ただの授業だよこれ」
「それだけ彼が本気だったという事だ、ボクは彼のその姿勢は尊敬するべきだと思うぞ!」
第一試合に行われた緑谷チーム対爆豪チームは、それを見ていた生徒たちに多少なりとも影響を与える結果となった。
試合開始すぐに起こった爆豪の奇襲から始まり、それを凌ぐ緑谷との苛烈なインファイト。
上階にて別行動をしていた4人の戦闘に対して緑谷の一階から貫く特大の奇襲による決着。
まるで映画の出来事のように劇的な流れにそれを眺めていた少年少女たちはそれぞれの思いを抱く。
学ぶことも、見習うべきではないところもあったが、それは確かに熱い戦いだった。
「おい、尾白……どうだったんだよ?」
「な、なにがかな?」
「しらばっくれるんじゃねぇぞ、このラッキースケベ野郎が!! 葉隠のデカ乳の感触はどうだったって聞いてんだよ!」
「せ、戦闘中だったんだ!! プロテクター越しだしそんなに覚えてないよ!」
「うるせぇ! オイラのセンサーが言ってるぜ、お前ほどのムッツリ野郎なら絶対に覚えてるってな! むしろあれは狙ってたんじゃねぇのか!?」
「お、尾白君……」
「ち、違う! 葉隠さんそれは誤解だ! あれはワザとなんかじゃなくて!!」
一部では甘酸っぱいようなトラブルもあったようだが……
まあ、あれは見習うべきではないものだ。
しかし、続けて行われるBチーム対Cチームで行われた第二試合は、先ほどの第一試合とは真逆に展開的にも物理的にも冷めたものになった。
「さ、さささ寒い!」
「轟、ビルごと凍らせるとか半端ないな!?」
試合開始直後に、轟が放った氷の波が建物の6割近くを覆い隠した。
その冷気は、離れた場所で室内越しに観戦していた生徒たちにも届くほど。
そんな威力の一撃を受けたCチームは言わずもがな……
八百万は膝付近まで凍り付いた足に顔をしかめる。
その周りには僅かながらに反応できたものの、触腕の一部が凍り付いた障子と低い身長が災いし顔以外のほぼ全身が氷に覆われた峰田が居るのだった。
「い、痛ぇよ……」
「くっ! こうなったら氷を砕いて」
「障子さんお待ちください! いまなにか氷を溶かせるようなものを!」
「そんな暇ねぇよ」
コツコツと音を立てて轟が部屋に入り、その後ろを瀬呂と耳郎がコッソリと続いて来る。
「耳郎の索敵から一瞬で建物ごと氷の拘束。No2の息子エゲつね~」
「あはは……ごめんね、ヤオモモ」
「……悪いな、レベルが違いすぎた」
八百万と峰田のトラップや障子の索敵も貫いて、まさに完封。
しかしその立役者たる轟の顔に喜びはなく、その表情はどこか別の場所を見るかのような空虚なものだった。
続く第三試合。
Eチーム対Gチームは、先ほどまでとは異なり実に授業らしい拮抗した戦いとなった。
ヒーローチームとなったGチームが特攻をし、切島と常闇を前線に蛙吹がそれを補佐する連携でヴィランチームを徐々に追い詰めて行き、試合開始3分で砂藤を捕獲した。
このままの勢いでヒーローチームが勝利するかと思われたが、上鳴の苦し紛れの全力放電に蛙吹がダウン。
その威力に引き気味になってしまった常闇を芦戸がすかさずに制圧した。
上鳴が個性の反動でリタイアし、最後は芦戸と切島の一騎打ちとなったが、芦戸の個性である酸液に対し切島の硬化という固くなる個性は相性が悪く。
結果としては切島が攻めあぐねたまま時間切れとなり、ヴィランチームが勝利することとなった。
そして第三試合までの総評が終わり、オールマイトが口を開く。
「さあ、これで三試合目が終わったが、まだ最後の訓練があるぞ! Fチームと戦うチームを改めて決めようと思うのだが……これはCチームにやってもらおうかと思う!」
「先生! 対戦相手はクジで決めるのではなかったのですか!?」
「いや、そう考えては居たんだけどね?」
第一第三試合とは異なり、開始一分程度で終わってしまった二試合目。
勝ったBチームはともかくとして、Cチームの面々はその実力を発揮することができていなかった。
「そういった面を含めて、あらためてFチームとの戦いで屋内戦闘というものを学んで欲しいと思う!」
「なるほど、そういった理由が……横やり失礼いたしました!」
「いいよ!」
軽快なテンポで飯田とオールマイトのやり取りが終わり、いよいよ篠澤たちの番が訪れたのだった。
「じゃあ、Fチームの代表にヒーローチームかヴィランチームかのクジを引いてもらおうか!」
「ウィ、ここはボクに任せてもらおうかな!」
そう言って有無を言う間もなく意気揚々と青山がクジの入ったボックスに手を入れる。
篠澤と口田はお互いに一度視線を合わせて、まあいいかと苦笑を見せるのだった。
「このボクにふさわしいヒーローチームを引いてみせるよ!」
赤いマントをはためかせながら、青山はクジを引き抜いた右手を高々と天に突き上げた。
「うん、Fチームはヴィラン側だね! さっそく建物内に入って核爆弾の配置をしてくるんだ!」
「……ウィ」
青山のその背中は物理的には煌めいていたが、どこか煤けて見えた。
場所は移りグラウンドβにある建物のうちの一つに篠澤たちはいた。
篠澤は軽く確認して作成した簡易地図を見ながら、青山と口田の2人と膝を突き合わせていた。
「ハリボテを置いた部屋はここ、単純に入り口から一番遠い部屋にしておいたよ」
「う、うん……そ、それで対策とかはどうするの?」
「対策なんて必要ないさ!」
「えっと……青山君?」
「なぜならボクがいるからね!」
「あ、あはは」
青山の独特なテンションの高さに口田はただ乾いた笑いを返すことしかできない。
基本的には物静かな篠澤も合わさって、何とも言えない気まずさが漂うチームの完成である。
「さっきの轟クンだったかな? 彼みたいにボクの個性で一網打尽にしてあげるよ!」
「……そう上手くいかないと思うよ?」
「ウィ?」
篠澤は気楽そうに言った青山の発言にちらりと目線を向ける。
「さっきの試合、相手に焦凍が居なかったら誰が相手でもCチームが勝ってたと思うよ」
「そ、そうなの?」
「うん……もちろん状況にもよるけど、Cチームがヴィランチームになった時点でほとんどの人は手が出せなくなる」
八百万の個性『創造』によって生み出される物体には制限がなく、原始的なトラップや電子機器など対人戦において相手を無力化する手段が無数にある状態。
その上に拘束力に特化した峰田の個性である『モギモギ』に、感覚器官を強化できる障子のパワーと索敵能力。
Cチームは、派手さこそないものの堅実で相性のいい個性を持ったチームなのだ。
これらが合わさったCチームを打倒するには、それらをすべて封じるような大氷結のような反則技以外に勝ち目は薄い。
轟がどのような判断であの状況を作り出したかは定かでないが、結果的には最適解を出したと言って過言はないだろう。
「な、なるほど……」
「総合力で見ればCチームもかなり上位に入る。だから優雅には助けられた」
「ん、ボクかい?」
篠澤の言葉に青山は不思議そうな顔をする。
「うん……Cチームがヴィランチームだったら私たちに勝ち目は無かった」
Bチームとの試合中、ヴィランチームだったCチームは準備時間中にいたるところに罠を設置し、待ちの構えをとっていた。
かねてから籠城作戦というのは攻める側が圧倒的に不利、そのうえでトラップを制限なしにおけるCチームはまさに水を得た魚。
轟の氷結がなければ、相手チームはまずハリボテを設置した部屋に行くことも難しかったはずだ。
「でも今回は私たちが守る側、これならまだ勝ち目はあるよ」
「なるほどね。まあボクは分かってたけど!」
青山が大袈裟な身振りで返事をしていたその陰で、口田は篠澤が静かに微笑んでいたのを目撃していた。
「ふふ……」
「し、篠澤さん?」
その天使のような微笑みに、なぜか口田は寒気を覚えるのだった。