篠澤広のままならないヒーローアカデミア   作:唯野本仁

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連続投稿です。
見ていない方は前話もご覧ください。


ヒーロー基礎学③

 

「……核は入り口から一番遠い部屋にあるそうだ」

「なるほど、ありがとうございます障子さん」

 

 ヒーローチームとなったCチームの面々は、現在盗聴にいそしんでいた。

 

「なんか卑怯じゃね?」

「そ、そんなことありませんわ! 事前の諜報をすることで迅速な対応をすることもヒーローの仕事ですわ」

 

 その様子を後ろから見ていた峰田の突っ込みに八百万は心外だと態度で示した。

 そんな八百万の様子に、障子もフォローを入れた。

 

「先生も事前の準備時間を設ける話はしていた。先ほどだって俺たちはヴィランとしての準備で罠を仕掛けていた、ヒーローとしての準備で諜報することは間違いではないだろう」

「まあ、そういうもんか」

 

 峰田もそこまで気にしていた訳ではないのか、障子の言葉にすぐに同意を示す。

 先ほどまでの取り乱しようを誤魔化すように八百万は咳ばらいを一つする。

 

「オホン……ひとまず状況を整理いたしましょう。まず、私たちの個性に関しては篠澤さん達にバレているでしょう」

「そうだな」

「さっきの試合も見られてたしな」

「ええ、逆に向こうの個性については何か情報はありませんか?」

 

 八百万がそう問うと、すぐに峰田が言った。

 

「青山は分かるぜ、あのヘソビームだろ」

「個性把握テストでも使っておりましたわね」

 

 全員の脳内に、100m走で走ることなくビームの反動で移動していた青山の姿が浮かんでいた。

 

「持続時間は数秒程度ですが、速度と破壊力はなかなかのものでしたわ。奇襲には気をつけるべきでしょうね」

「でも後二人はよくわかんねえ。わかるのは篠澤がロボットの操作ができるってことくらいだな」

「……いや、口田の個性に関しては少しわかるぞ」

「まじで!?」

「以前、少しだけ個性について話す機会があってな」

 

 同じ異形系としてのよしみか、お互いに話す機会のあった障子と口田の二人。

 口田に対しやや申し訳ない気持ちを抱きながらも、障子はチームのためにその内容を口にする。

 

「細かい話まではしていないが、どうやら口田は動物達と会話ができるらしい」

「まあ! とても羨まし……もとい凄い個性ですわね」

「なるほどな……はっ! つまり鼠とかに頼んで女子のパンツの色を把握できるってことか!?」

「いや、口田はそんなことしないだろう」

「……不潔ですわね」

 

 峰田のあまりの発言に、八百万にいたっては汚物を見るかのような目で峰田を睨んでいた。

 

「すまんが口田の個性について知っているのはこれくらいだな」

「いえ、助かりますわ。なにも情報がないよりははるかにましですもの」

「あとは篠澤の個性か……」

 

 峰田の呟きに3人が同時に首を傾げた。

 彼らが知っている情報をまとめると、篠澤は体力もなく力も弱い。日常生活でも頻繁に息を切らし、登下校の際に道端に倒れこむ姿が目撃されているというくらいのもの。

 

 あえて個性らしい話をするならば、人伝越しに聞いたロボットを操作できるという事だけだった。

 

「電子機器に干渉する個性でしょうか?」

「少なくとも肉体強化系の個性でないことは確かだな」

「……まあ、そんなに構えなくてもあの身体能力じゃ大した脅威にはならないか」

 

 峰田のその言葉に友人として少しばかり思うことはあったが、実際にそれを否定できるほどの情報がないため八百万は言葉を飲み込んだ。

 

『よし! そろそろ準備はできたかな? まもなく試合を開始するぞ!』

「もうそんな時間ですの? いけませんわ、速く作戦を考えませんと」

「……とは言ってもどうする? 話を聞く限り相手は籠城をするつもりのようだが」

「そうですわね。今回、純粋な身体能力で勝っているのは障子さんのいるこちらのチームですわ。であれば正面戦闘に持ち込むことさえできれば自力で勝るのはこちら側。つまり……」

「速攻の奇襲だな!」

 

 希しくもその方法は自分たちが負かされてしまった方法と酷似したものであった。

 しかし、だからこそその厄介さは身に染みて理解している。

 

 折角の得たチャンス、二回も何もできずに負けることはヒーローの卵としてのプライドが許せない。

 それゆえに八百万はわずかなリスクを承知で決断をした。

 

「全員で一気に目標の部屋まで詰めますわ! 今度こそ私達の力を見せるんですのよ!」

「なんか八百万を見てるとちょっと和むな」

「……そうだな」

 

 障子の同意はどちらに対してのものだったのか。

 少なくとも、やる気に満ちた八百万のぷりぷりとした様子が可愛らしいものであることには間違いはなかった。

 

『それでは、第四試合開始!!!』

 

 そしてオールマイトの号令と共に、この日最後の屋内戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 試合開始直後、八百万達は一階の廊下を走りながら会話をしていた。

 

「入り口から一番遠い部屋という事は、南階段から最上階にあがってすぐの部屋ですわ。一気に行きますわよ!」

「最短で行くのかよ? 罠がありそうなもんだけど」

「待ち伏せは考えられますが、私や峰田さんと違い相手チームにそこまでトラップに適した個性は無いはずです。どちらかと言えば変に警戒して時間を使ってしまう方が相手にアドバンテージを与えることになるかと……障子さん、なにか聞こえたりは?」

「いや、特に変化は……待て、階段の影に何かがいる」

 

 障子の警告に全員が立ち止まり、影になっている階段の向こうに視線を向けた。

 

「青山さんでしょうか?」

「いや、かすかだが鳴き声と羽ばたきの音が聞こえる……おそらく口田の個性で集まった鼠と鳥だろう」

「ただの動物ならそんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?」

 

 そう言って峰田が無警戒に一歩を踏み出した瞬間。

 障子の展開していた複製腕の聴覚が何かを弾く様な音を拾った。

 

「ッ! お前たち、伏せろ!」

「は?」

 

 突然の障子の警告に反応できなかった峰田と八百万の二人を、障子が複製腕を広げて覆い倒す。

 その直後に3人の頭上を光り輝くレーザーが掠め、その背後の壁に黒い焼け焦げた跡を残して消えた。

 

「あ、青山さんの個性ですか? ですがいったいどこから!?」

「知らねぇよ! ……っておい後ろ!?」

 

 突然の状況に混乱しながら立ち上がろうとした峰田が見たのは、背後の方から迫る新しいレーザーの存在だった。

 

「くッ!」

「危ねぇ!!」

 

 床を転がるようにしてレーザーを回避する。

 いったい何が起こっているのか。状況を整理するために八百万が辺りを見渡した時、あることに気が付いた。

 

「……これはまさか!」

「八百万、何かわかったのか?」

「待ってください、まだ確証は……」

「おいおい、のんきに話してる場合じゃないって! 次が来るぞ!」

 

 前後だけでなく、体を寄せていた近くの部屋の扉すらも突き破ってレーザーが迫ってくる。

 混乱に次ぐ混乱。転々と変化していく状況の中、八百万の声が廊下に響き渡った。

 

「皆さん、あちらの中に入りますわよ!」

「だ、だが八百万。あそこは……」

「緊急事態ゆえ仕方ありませんわ!」

「まじかよ、ラッキー!」

 

 そう言って八百万がある場所に駆け込む。

 それに嬉々として峰田は続き、一瞬の躊躇のあと障子も続いてその中に足を踏み入れた。

 

「……」

 

 中に入って数秒が経つも、追撃のレーザーがないことを確認して全員がふぅと一つ息を吐いた。

 

「さてと、ここに来たからにはまずやることがあるな」

「……待て、峰田。何をするつもりだ?」

 

 いやな予感がした障子は複製腕を使って峰田の肩を掴んだ。

 

「何ってもちろん見学に決まってらぁ! 八百万が入っていいって言ったんだ、公認で中を見る機会なんて今後あるかわからねぇ……オイラは今しかできない体験を味わいてぇんだ!」

「……まあ良いのではないですの」

「おっしゃぁ! ほら、放せ障子!」

「あ、ああ……」

 

 まさか八百万が許可を出すと思っていなかったのか、意外そうな表情をしながら障子は掴んでいた峰田を放す。

 解放された峰田は、すぐに小躍りをしながら奥の方へと向って行った。

 

「ヒャッハー、女子トイレがオイラを待ってるぜ!」

「……よかったのか?」

「まあ、あくまで授業で使う仮施設のもの。誰かが使用しているわけでもないのであれば好きにして構わないと思いますわ」

 

 言葉ではそう言いながらも、実際に女子トイレの中で目を輝かせる変態の姿には言い表せない嫌悪感がにじみ出ていた。

 

「しかし、なぜトイレ内に入ったら攻撃が止んだんだ?」

「それは窓がないからですわ」

「窓?」

 

 八百万の発言に改めて辺りを見渡せば、なるほど確かにトイレ内には人工灯の光があるだけで窓は無いようだった。

 

「おそらく口田さんの個性を使った鳥などの偵察で私達の位置を把握していたのでしょう。であれば動物の視線が通らないトイレ内であれば攻撃が飛んでこないのも当然ですわ」

「なるほど……」

 

 ひとつの疑問が解消すると、障子の中でまた新たな疑問が首をもたげてきた。

 

「俺たちの位置を把握した方法は分かったが、いったいどうやって攻撃をしてきていたんだ? レーザーを打てるのは青山一人だけのはずだろう?」

「その答えもあれを見ればわかりますわ」

 

 八百万はある場所を指し示す。

 その指先に視点を合わせてみると、障子もすぐに違和感を覚えた。

 

「これは……鏡が無いのか」

 

 指さした先には横に並ぶ洗面台部分。

 しかしそこには、本来あるはずの鏡が一枚残らず剥がされた跡があったのだ。

 

「青山さんのレーザーを鏡で反射して狙撃をしていたのですわ。障子さんが聞いた小動物の痕跡はおそらく鏡を動かして微調整するための要因ですわ」

「そんなことが可能なのか? 言葉にすれば簡単だが、あそこまで正確な狙撃を実際に見たわけでもなく伝言のような形で成立させるなんて無理があると思うが……」

「ええ、そこで篠澤さんの個性について見当が付きましたの」

「篠澤の?」

 

 ここまで出てこなかった篠澤の名前に疑問を抱くが、八百万はすぐにその答えを出した。

 

「おそらく篠澤さんの個性は雄英高校の校長である根津先生と同様の、知能強化型の個性ですわ」

「知能強化型、なるほどそれでロボットの操作という話が出ていたんだな」

 

 この個性社会でも珍しい知能強化型個性。

 それは単純に頭がいいとかのレベルではなく、常人には理解の及ばないほどの思考能力を持つことができる個性。

 古い時代には人はIQ値が20以上離れていると会話が成立しないという俗説があったが、知能強化型個性持ちは通常の人に比べて3桁レベルでIQ値が異なる場合があるほどだ。

 

「篠澤さんの知能でリアルタイムに弾道を計算し、口田さんの指示で動物たちが鏡を動かす。それに合わせて青山さんがレーザーを放つ。これが先ほどまでの攻撃の種明かしですわ」

「改めて聞いても信じがたいな……考えていた以上にFチームは強敵ということか」

 

 決して楽観視していた訳ではないが、障子は普段の篠澤の様子にどこか油断していたことを自覚したのだった。

 

「さて、それでこれからどうする? 種がわかったからと言って相手の攻撃が止むわけではない」

「それについては私、考えがありますの!」

 

 そう言った八百万の表情は挑戦的に輝いていた。

 

 

 

 

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