青山は4階の真ん中で攻めあぐねていた。
鏡の壁はレーザーの反射を考えればおいそれと攻撃できない上に、床を攻撃すればヘタすると相手に怪我をさせかねない。
この男、なんならこの場で一番レーザーキャビテーションの威力にビビっていた。
「火力も高くて派手だけど、人に向けるには美しくないよね!」
『なんか、ごめんね?』
通信機越しに篠澤から謝罪が入る。何を隠そうこの技を青山に教えたのは彼女だった。
曰く「僕が煌ける新技」とかいうよくわからない要望を聞きこの技を提案したが、どうやら青山的にはNGだったらしい。
「それで、僕はどうすれば?」
『ん、そのまま時間稼ぎをお願い』
「ウィ!」
青山は篠澤からの要望に快活に返したが、実はすでに限界が近かった。
原因は個性の副作用である。
青山優雅の個性『ネビルレーザー』は、その発動時間と規模によって腹痛という形で限界が訪れる。
試合が始まってすでに3分が過ぎていた。その間に打ったレーザーの総照射量は、個性を授かってからの過去最高を記録していた。
「うぐぅ!」
青山は通信機を切った後、訪れた腹痛に声を漏らす。
篠澤からは事前に無理しなくても良いと言われていたにも関わらずこの状態だ。それなりにプライドの高い青山は、なんとなく弱音を吐くところを見られたくはなかった。
「ふ、ふふ。僕はまだ輝けるよ!」
青山優雅は不敵に笑う。
たとえ冷や汗を流そうが、腹痛に顔を青ざめていようが、彼もまたヒーローに憧れた一人の男だった。
さて、鏡の壁が出来上がって30秒ほど経った頃。ついに状況が動く。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「へぁ!?」
壁越しにも伝わる障子の雄叫びと共に、鏡の壁が動いた。
それも少しなんてレベルではなく、床や天井のタイルを剥がしながら勢いよく青山に向かい迫ってきたのだ。
このままでは押し潰されてしまう。そう考えた青山は反射的に個性を使った。
「ネビルレーザー!」
床の水面に当たったレーザーは再び勢いよく爆発し床に穴を開ける。
そして押し寄せてきていた壁はその穴へ落下し……途中で止まった。
「今です!」
「どっせぇぇぇい!!」
八百万の合図と共に壁が倒れる。
壁の下側には峰田の個性であるモギモギボールがくっついており、そこが起点となって壁が橋のように床を塞いだのだ。
そして壁が無くなり開けた廊下から、厚手のジャケットを羽織った三人が飛び出してくるのが見えた。
なぜそんな姿をしているのか、その答えを青山はすぐに理解することになる。
「はぐぅ!?」
青山の足元を冷気が通り過ぎる。
その結果。一気に下半身が冷えた事により、ただでさえ決壊しかけていたお腹がより一層悲鳴を上げ始めたのだった。
「申し訳ありませんが、弱点は徹底して攻めさせていただきますわ!」
「くらえやぁぁぁぁ!!」
八百万と峰田がそれぞれ一つずつ、それに足して障子が二つの同じ謎の機械を持ち、その機械から伸びる噴射口を青山へと向けた。
その機械の正体は、八百万が個性で作った小型クーラーである。
短時間に空気を冷やすことだけに特化したそれは、瞬く間に廊下の気温を下げていく。
青山は這い上がってくる腹痛の波に襲われながらも、意地を通してさらなる一撃を放つ。
「まだ、まだぁ!」
青山のレーザーが床の水面にあたる、そして通算3度目の爆発が……起こらなかった。
「ホワッツ!?」
「確保ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その光景に驚く青山の隙を逃さず、飛び込んで来た峰田が持っていたテープを青山の両手と一緒に胴体へ巻きつける。
それと同時に、通信機から一連の戦いを見守っていたオールマイトの声が聞こえて来た。
『青山少年確保! ヴィランチーム、残り2名だ!』
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ! やってやったぜ!」
これ見よがしにガッツポーズをする峰田をよそに、青山は尻餅をつきながら呆然と呟く。
「な、なんで僕のSparkling Explosionが……」
「その、それはレーザーキャビテーションのことですの? でしたら、このクーラーが原因ですわ」
八百万がポンと手にしている自作のクーラーに手を乗せた。
「レーザーキャビテーションの原理は、レーザーの照射による急激な沸騰現象ですわ。すなわち、水温が低ければ低いほど発生し辛く威力も下がります」
今回、八百万が考えた作戦は以下の通り。
壁を前後に展開して自分達を囲い、その中の空気と水を限界まで冷やしておく。
そして壁ごと移動することで青山の行動を誘導し、その中の空気を開放することで青山の弱点である腹痛を誘発しながら、同時に最も警戒すべきレーザーキャビテーションの対策を同時に行なっていたのだ。
「あとはスピード勝負でした、青山さんが困惑してる間に数の利を活かした特攻で確保。以上が私の作戦でしたの!」
「……なるほどね、見事にしてやられちゃったよ!」
青山はいつも通りのテンションで何食わぬ顔のままウインクをしていた。
その態度の裏にどのような感情があるのかは、本人にしかわからない。
「さて、それでは急いで上に向かいましょう!」
「このまま一網打尽にしてやるぜ!」
先程の何も出来なかった試合と違い、敵チームの1人を確保したという確かな手応えを感じた八百万達の士気は確実に高まっていた。
そんな彼女達へ青山から「待った」と声がかけられる。
「あ、あの。盛り上がってるところ悪いけど、この拘束を解いてくれない?」
「はぁ? お前なに言ってんだ?」
「青山さん。申し訳ありませんが制限時間もありますので、試合が終わるまではお待ちいただいてもーーー」
八百万の言葉を、「ぎゅるるるる」という音が遮った。
「も、漏れちゃう」
『よし、八百万少女。いったんタイマーをストップするから青山少年を解放してあげて!』
「わ、わかりましたわ!」
強烈な腹痛に顔を真っ青にさせた青山の拘束を急いで外す。
まさしくやる気に水を差されるようなトラブルを受けながら、授業は進展していくのだった。