「はい、というわけでみんなお疲れ様!」
「「「お疲れ様です!」」」
「うんうん、元気でよろしい!」
最終試合も終わり、オールマイトからの総評の時間である。
試合を終えた篠澤達とクラスメイト達がいる中、先程の試合を振り返りながらオールマイトが語り出す。
「さて、先程の試合だけど。誰がベストプレーだったかな!」
「はい!」
「はい、飯田少年どうぞ!」
オールマイトの問いかけに素早く手を挙げた飯田は、指名されると同時に意見をスラスラと述べる。
「全員が活躍した良い試合だったと思いますが、やはりベストを上げるとすれば篠澤クンでしょう! 最初から最後まで試合の展開を操作し、見事にチームを勝利へと導いていました!」
「ふふ、照れる、ね」
と言いつつもどこか自慢げな様子の篠澤であった。
「俺はやっぱり青山だな。1対3の状態であれだけ時間を稼いだのは漢らしかったぜ!」
「メルシィ!」
「なあ、オイラはどうだったよ?」
「ヤオモモも凄かったよ! 見てて一番活躍してたし!」
「芦戸さん、ありがとうございますわ」
「口田ちゃんや障子ちゃんもよかったわ。どっちもチームを支える役割をしっかりと果たしていたもの」
「まさにいぶし銀ってやつやね!」
「あ、ありがとう」
「なあ、オイラは?」
飯田の発言を皮切りに観戦していたクラスメイト達の素直な感想を聴かされ、少し照れ臭く感じる面々であった。
そんな様子を見守りながら、オールマイトが口を開く。
「みんなの言う通り、先程の試合は両チームとも甲乙付け難い素晴らしいものだった! 心理的な駆け引きや個性の応用等、これが初めての戦闘訓練とは信じられないな!」
そう言いながら、オールマイトは大袈裟な身振りで人差し指を立て空を指差した。
「しかし、現代社会においてヒーローとは常に評価に晒される存在! ゆえに、敢えて先程の試合でのベストを決めるとするならば!」
オールマイトが両手を胸の前で水平にしグルグルと回す。
その光景にここにいる全員が、どこからかドラムロールの音がする錯覚を感じた。
「んんんんん、篠澤少女! 君がベストプレイヤーだ!!」
「……おぉ」
ビシィ、と指差された篠澤が少し面を食らったような表情になる。
そんな彼女の顔を見ながら、オールマイトがニッと笑った。
「相手を理解し、味方をよく知り、勝利を目指すための状況を作り出した手腕が素晴らしかったぞ!」
「ありがとう」
「しかし、いかんせん戦闘スキルが無さすぎるな。最強になる必要はないが、最低限の抵抗ができる程度に体を鍛えないとな!」
「うん、それはそう」
「それと誰かが負けることを前提にする囮作戦は控えた方がいいぞ! 今回は訓練だが、本来ヴィランに負けるという事はそれだけでリスクある行動。篠澤少女ならもっと被害のない作戦を考える事もできるはずだ、精進しなさい!」
「ッ……はい」
褒める所は褒め、叱る所は叱る。
それがオールマイトがズボンのポケットに隠した『猿でもわかる教師のなり方』から学んだ彼の教育方針だ。
そして篠澤への評価が終わると同時に、終業のチャイムが鳴り響いた。
「む、もう終わりか。名残惜しいが今日の授業はここまで! 各自教室に戻り相澤先生を待つように! 私は保健室にいる緑谷少年に総評を伝えに行ってくるよ! それでは、お疲れ様でした!!」
「はい、お疲れ様でした……って速!?」
切島が礼をして頭を上げた時には、既にそこにはオールマイトの影すら無く、ただ砂埃が舞っているのだった。
「さすがオールマイトだぜ! 行動全部がパワフルだな!」
「ケロ、なんだか妙に急いでるようにも見えたけど」
「NO.1ヒーローはあれぐらいのスピード感が必要って事だな!」
「そういうものかしら?」
こうして初めて受けたオールマイトの授業の感想を語り合い始めた生徒達。
そんな中で、八百万がそっと篠澤に近づいて来ていた。
「篠澤さん、少しよろしいでしょうか?」
「百、どうしたの?」
気疲れとシンプルな体力的な疲れもあり、1人壁にもたれ掛かろうとしていた篠澤に八百万が申し訳なさそうに続ける。
「お疲れのところすいません。先程の試合、どうしても気になることがありまして」
「別にいい、よ。なにが聞きたいの?」
「篠澤さんの作戦についてはおおよそ把握できたのですが、口田さんが潜伏していたのはなぜ一階の角部屋でしたの? たまたまでしょうか?」
「たまたまじゃない、よ。甲司はあの部屋じゃないといけなかった」
「それは?」
「ぼ、僕の個性のせいだよ」
「あら、口田さん」
自分の名前が出たことに気がついた口田が、八百万へ答える。
彼は篠澤に視線を向けると「ここからは僕が話すよ」と続けた。
「ぼ、僕の個性は『生き物ボイス』って言って、動物に簡単なお願い事ができるんだ」
「お願いですか?」
「う、うん。その、命令したりする強制力はないってことなんだけど……」
口田甲司、個性『生き物ボイス』
あらゆる動物と会話することができ、その際にお願いする事によって対象の行動を誘導する事ができるぞ!
ただし、個性の限界かはたまた本人の性格ゆえか。強制的な命令では無く誘導に近い効果しか発揮されない。
仲の良い友達の言う事だし、一応聞いてやるか……くらいのテンション感という事だ!
「そ、それで僕の個性は機械なんかを通すと動物達に上手く伝わらないみたいで……」
「そういう事でしたのね。一階の階段付近の鏡の方向を随時変更するためには、口田さんが近くにいる必要があったんですのね」
「正解だ、よ」
篠澤がそう言うと共に、口田もブンブンと首を大きく縦に振る。
その答えに八百万は悔しげに呟いた。
「迂闊でしたわ。確かに、考えてみれば遠隔で私達の位置を把握しながら精密な指示を出すなんて芸当は無理ですもの。誰かが近くにいる事を察するべきでしたわね……」
「し、仕方ないよ。八百万さんは僕の個性の事はほとんど知らなかった訳だし」
「ですが篠澤さんであれば出来たのではありませんか?」
篠澤は彼女のそんな言葉に首を傾げた。
「う〜ん、確かに出来るかも知れないけど……実際にその状況にならないとわからない、よ?」
「それは……そうですわね」
「状況が違えば考えも結果も変わるから。気にし過ぎは良くない」
「ありがとうございますわ」
篠澤の言葉に自虐じみた笑みを浮かべながら、八百万は礼を述べた。
どうにも彼女は今回の試合で自分に対して不甲斐なさを感じてしまったようで、どうにも気落ちしてしまっているらしい。
「どうした、の?」
「申し訳ありません、こんな空気にするつもりでは無かったのですが」
「百……」
落ち込んだ様子の八百万の姿に、なんと声をかけるべきか戸惑う篠澤。
ここに来て彼女自身の交友関係の浅さからくるコミュニケーション不足が発動していた。
「その……」
「篠澤さん、私が言うのもなんですがそのような顔をしないでくださいませ」
「うん?」
「あなたは勝者なのですから、もっと胸を張っていただかなくては私の立つ瀬がありませんわ」
「……なるほど」
篠澤は八百万の言葉に深く頷いた。
そして八百万の服の裾を引っ張り、彼女と視線を合わせる。
「ねぇ百、百」
「はい、なんですの篠澤さん?」
「じゃあ百に改めて言う、ね?」
「なにをですの?」
困惑する八百万を前に、篠澤は俗にいうダブルピースをしながら今日一番のドヤ顔を浮かべた。
「わたしの勝ち、いぇい」
「な、な、な……」
まさかそこまでド直球に勝ち誇られると思っていなかった八百万は、珍しく言葉も出ない様子だ。
「ふぅ、それにしても疲れた」
「疲れたって、篠澤さんはほとんど動いていなかったではありませんの!」
「うん、実はそんなに疲れてない」
「いったいなんなんですの!!」
あまりにもマイペースな篠澤の言葉に、八百万のキャラが崩壊し出していた。
そんな彼女の顔から、先程までの鬱々とした表情が消えた事を確認して篠澤は笑う。
「ふふ」
「篠澤さん、なにを笑っているんですの!」
「まあまあヤオモモ、ちょっと落ち着きなよ!」
「きゃ、あ、芦戸さん?」
二人のやり取りを聞いていた芦戸達が、いつの間にか周りに集まっていた。
その事実に、先程までのやり取りを思い出した八百万が恥ずかしさで頬を染めた。
「み、見ていたんですの?」
「ケロケロ、こんな場所で話してたら嫌でも目に入っちゃうわ」
「でもよ、なんか良かったぜ! あれだライバルって感じだな!」
「……ライバル」
篠澤と八百万、二人の視線が自然と合う。
そして僅かな空白の後、すぐにどちらからともなく笑い出した。
「ふふ……百、また勝負しようね」
「もちろんですわ。次は私が勝ちますわよ!」
「ううん、次も私が勝つ、よ」
笑い合う二人の間には、もう気まずい雰囲気は残っていなかった。
これにて屋内戦闘訓練編は終わりです。
次はUSJ編かぁ……
そしてこれが今年最後の投稿になります。次回以降はある程度の書き溜めが出来てからの投稿になりますので、お待ち頂けると幸いです。
それでは皆様、良いお年を。