篠澤広のままならないヒーローアカデミア   作:唯野本仁

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雄英高校の日常②

「それでは、第一回お弁当パーティ開催! イエーイ!!」

「「「イエーイ!!」」」

 

 葉隠の言葉に教室中が湧きたつ。

 

 雄英高校に入学してから数日がたち、おおよその生徒達が新しい生活に慣れてきたこの頃。

 1年A組の教室では以前に計画したお弁当パーティーが行われていた。

 

「いや、テンション高」

「耳郎ちゃん、パーティーだよパーティー! ここでテンション上げなきゃどこで上げるのさ!」

「ちょ、近い近い。見えないけど顔近いって!」

 

 ぐいぐいと押しあう葉隠と耳郎の二人を見ながら、参加者の面々がくっつけた机の上に各々の弁当を広げ始める。

 そんな光景を眺めながら蛙吹がポツリと呟く。

 

「ケロ。それにしても、結構な人数になっちゃたわね」

 

 元々は数人で予定していたお弁当会だったが、人から人へ話は広がり、いつの間にか爆豪や轟を除いたクラスのほぼ全員が参加するほどの大所帯となっていた。

 しかし雄英高校に来てヒーローを目指すようなコミュ強な面々からすれば、こういったイベントは喉から手が出るほどに待ち望んだもの。

 当然この場に来ている芦戸も例外ではなかったようで……

 

「だって梅雨ちゃん。せっかくの機会だし、まだまだみんなと仲良くなりたいじゃん!」

「ええ、確かにそうね」

 

 とそんな風なやり取りをしているのだった。

 そして視線はいそいそとお重箱を並べている八百万へと向かう。

 

「ヤオモモも全員分のお弁当の準備とかありがとね!」

「いえ、皆様に喜んでいただけるのであればこれくらいどうという事はありませんわ。むしろまだまだ準備不足と言えるかもしれません……」

「凄い張り切りようだ!?」

 

 次から次へと鞄から出てくるお重の数はどんどんと増えていき、ついには教室中央に並べた机二十個分の全てが料理で埋め尽くされたのだった。

 

「さぁ、皆様どうぞお召し上がりください!」

「満漢全席?」

 

 篠澤がぽつりと呟いたのは、古来中国にて皇帝が食したと言われる三日三晩かけても食べきれぬほどの料理の山を指す言葉。それはまさにこの現状にこれ以上ないくらいマッチしている。

 

「ケロ。お弁当会というよりは、もはや立食パーティーの域ね」

「凄~い!! これ全部食べていいの!?」

「ええ、今日のことを話したら家のシェフ達が腕を振るって作っておりましたの。ぜひお食べください!」

「わっほ~い!」

 

 いただきますの言葉も漫ろにさっそく料理に向って行く芦戸や葉隠達。

 篠澤もそれに続く形で端っこの方の料理を小皿に取り分けていく。

 

「あれ? 篠澤さんはそれだけでいいの?」

「うん。もう十分だ、よ」

 

 5種ほどの料理を各一口分づつ盛り付けて取るのを止めた篠澤に、同じように少し輪から離れていた緑谷が声をかけるが本人は満足した様子を見せている。

 そんな篠澤の元に料理をテンコ盛りに盛ったお皿を片手に持った透明な人影、葉隠が近寄ってきた。

 

「学食の時も思ったけど、篠澤ちゃんは小食すぎだよ! もっと食べないと大きくなれないよ!」

「それは難題……」

「大丈夫! 篠澤ちゃんならやればできる!」

「透からの期待が重い」

 

 まるでお節介な親戚のおばさんのごとく、食べねい食べねいと葉隠の手によって食材がドンドンと篠澤の皿に増やされていく。

 そして結果として皿を持った篠澤の腕がプルプルと震えはじめるのだった。

 

「お、お皿も重い……」

「ケロ。流石にそのレベルの貧弱さは治した方がいいわね」

「ふふ、梅雨が辛辣」

「し、篠澤さん。こっちの席開いてるよ」

 

 流石に耐えきれなくなったのか、篠澤がフラフラとした足取りになったところを緑谷に連れられ何とか椅子に座り一息を吐く。

 みんなもある程度料理を取ったらしく、自然と全員が席に着き示し合わせたように手を合わせる。

 

「それじゃあ、いただきま~す!」

 

 全員が食前の挨拶を合わせて、ようやくお弁当会が始まるのだった。

 みんながワイワイと話し始める中、篠澤の隣に座った麗日が不思議そうに話しかける。

 

「でも広ちゃんって本当に食が細いよね? 普段食事はどうしとるん?」

「おにぎりとかパンとか……足りない分は栄養剤で補給してる、よ?」

「それ絶対に一食一個だけよね? もっと食べんといかんよ?」

 

 心配そうに語る麗日ではあるが、当の本人も金欠を理由に餅だけで食事を終えることもある欠食児である。

 だがこの時点でそんな彼女の私生活を知る者はいないので、そんなお前が言うなという案件は流されるのだった。

 

 そして、その話を反対側で聞いていた蛙吹が一つの疑問を抱く。

 

「篠澤ちゃんは好きな料理とかはないのかしら?」

「好きな料理……」

 

 篠澤が箸をおいて沈黙する。その端麗な顔で眉を寄せながら「むむむ」と小さく唸る。

 そうして、彼女にしては珍しく考え込む様子を見せた後にスッと顔をあげた。

 

「激辛カレー、とか?」

「い、意外過ぎるチョイス。全然イメージできへん……」

「失礼だけど、死にかけている様子が目に浮かぶわ」

「本当に失礼だ、ね」

 

 苦言を呈す篠澤だが、その顔は何故か微笑みを浮かべていた。

 

「う~ん、ウチは辛いものはそんなに得意や無いなぁ……ちょっと聞くのが怖いけど、どんなところが好きなん?」

「痛くて痺れて熱くなって、翌日に胃腸が荒れるところだ、よ」

「想定以上の返ししてくるのやめて欲しいんやけど!?」

 

 篠澤は過去に感じていたであろう感覚を思い出したのか、妖艶に口元を緩めていた。

 もはや食事というよりは性癖の話の域に突っ込んでいる返しに、麗日の頬が思わず赤くなる。

 

「ちょっとちょっとお二人さん。女の子が昼間っからなんて話してるのさ!」

「葉隠さん!? あたし被害者なんやけど!」

 

 葉隠に横から窘められたことに憤慨を覚える麗日であった。

 

「あ~、もうこの話は辞め。違う話しよ!」

「そうね……だったら好きなヒーローの話でもしましょうか」

「梅雨ちゃん!」

 

 麗日が雑な話題転換をすかさず拾い話を広げてくれた蛙吹に、まるで救いの女神を見たかのような視線を向ける。

 そしてそのチャンスを逃さずに、すかさず会話を展開していく。

 

「あたしはやっぱ13号先生やね。同じ重力系の個性やし!」

「確かブラックホールの個性のヒーローね。考えてみると私も同系統の異形系個性のヒーローは好きよ。例えば海難ヒーローのセルキーとか」

「やっぱり自分と似た個性のヒーローは好きになりがちよね!」

「ぼ、僕はやっぱりオールマイトかな」

「うん、デク君はそうやろね」

 

 やはりヒーロー科の生徒であるだけあり、全員がヒーローの話題には事欠かないようで次々に話題が広がっていく。

 

「広ちゃんはどうなの? 好きなヒーローっている?」

「篠澤さんと似たような個性と言えば、やっぱり根津校長先生だけど……」

「校長。可愛いよ、ね」

「可愛い……かなぁ? まあ、そうかも……」

 

 麗日が遠目にしか見たことのない校長の姿を思い出しつつ呟く。

 小学生くらいの大きさの鼠をデフォルメしたような見た目は、まあ良いように言えばマスコットらしさがあるかもしれない。

 

「でもそう言うってことは、やっぱり根津校長が好きなヒーローってことなん?」

「違う、よ」

「違うん!?」

 

 麗日の脳裏の中で、梯子を外されて落ちていく校長の姿が幻視された。

 

「好きなヒーローは……『owl(おうる)』だ、よ」

「おうる? う~ん、ごめんちょっと知らないかも」

「そっか……」

 

 その言葉にしょんぼりとする篠澤だったが、そんな彼女にすかさずフォローが入る。

 

「owlは東北を中心に活動しているヒーローだね! フクロウ化の発動系の異形型個性を持っていて、昼にアイドル活動をしつつ夜にヒーローとして活躍しているアイドルヒーローだよ! アイドルとしても人気もさることながら、その個性を用いた潜伏や奇襲を得意としていて主に誘拐事件や夜間に行われるヴィラン活動を抑止する実力派のヒーローなんだ。同じ鳥類系の個性を持っている『ホークス』の後輩で年齢が近いこともあって話題を取られがちだけど新進気鋭のヒーローとして期待を持たれてる若手ヒーローだよ」

「お、おおう。ありがとねデク君……」

 

 怒涛のヒーローオタクの登場にドン引きを隠せない麗日であった。

 

「ケロ。確か広ちゃんは秋田の出身よね? 同じ東北地方のヒーローだから憧れてるって事かしら?」

「ある意味ではそう言える、かも」

「なにか好きになったきっかけでもあったん?」

「うん」

 

 篠澤が小さく一つ頷く。

 

「アメリカから帰国して、少しの間実家に帰省してたんだけど。その時にowlがライブしてたの」

「なるほど。その時にファンになったのね」

「うん」

 

 愛らしい容姿を持ちながら、飛び上がり空を駆け声援を一身に浴びるそのヒーローの姿は、オールマイトとはまた違う強烈な印象を篠澤の中に刻み込んでいた。

 彼女は正義(ヒーロー)としての精神性をオールマイトに見て、偶像(ヒーロー)としての姿をowlから学んだのだ。

 

「しかしアイドルヒーローかぁ。広ちゃんも将来はそっち方面を目指すの?」

「うん」

「いいと思うわ。広ちゃんは綺麗だからとっても人気が出そう」

「ちょっと不思議なところもあるけどミステリアスで妖精みたいだもんね!」

「……みんなが恥ずかしい事を言う。出久、助けて」

「え、えぇ! 僕ぅ!?」

 

 羞恥に顔を染める篠澤からの剛速球ストレートに、先ほどまで水を得た魚のように生き生きしていた緑谷は、まさにナード全開に慌てふためくのだった。

 

 どこにでもあるような平和で微笑ましい青春。

 その光景はいつまでも続くかのようなフリをして、いつでも崩れかけの世界の上に成り立っていると彼女たちが知るのはそう遠くない未来の話だ。

 

 

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