「そ、それでこれからどうするつもりなの……ですか?」
「敬語じゃなくてもいいよ?」
「あ、はい……」
改めて現状を認識した緑谷出久は、緊張によりしどろもどろしていた。
「じょ、女子とこんなに近い距離に!? って馬鹿野郎、篠澤さんは善意で協力してくれてるんだ。そんな不純な目で見るなんて……」
「出久、うるさい」
「ご、ごごごごめんなさい! 名前で呼ばれちゃった……」
元3ポイントロボットに揺られながら数分。
会場入り口付近にはすでに他のロボットの姿はなく、二人はポイントを求めて突き進んでいた。
「そろそろ接敵してもおかしくない。出久は準備して」
「じゅ、準備って?」
「私じゃロボットを倒せない、だから出久にやってもらう」
「自信満々に言うことじゃないよ!?」
近年まれにみるドヤ顔に緑谷がつい突っ込みを入れてしまう。
それに篠澤は、わかってないなぁと首を振った。
「自慢じゃないけど1ポイントのロボットでも戦ったら、私は一か月は入院することになる」
「本当に自慢じゃないよ!? それに僕はケガしてるわけだし……」
緑谷がいまだにジクジクと痛む右拳をかばいながら呟く。
こうしてロボットに揺られる衝撃だけでも相当に響くのだろう。依然としてその額には脂汗が滲んでいた。
「確かに……困った」
「こ、困ったって。何か策とかがあったわけじゃないんだ」
「うん……ちょっと考える」
そういって篠澤は目を閉じる。
当然、操作していたロボットもその足を止めるのだが……
『ヒョウテキハッケン、ブチコロガス!』
その瞬間を狙いすましていたかのように横合いの路地からロボットが現れる。
相手のロボットは止まるそぶりを見せずに、一直線に二人へと襲い掛かってきた。
「ロボット!? 篠澤さん、とりあえず移動をーーー」
「横から失礼!」
緑谷が急いで逃げようと声をかけた時、突然後ろから七色に輝く光線が現れ敵ロボットを貫いた。
「獲物を横取りしちゃったかな?」
聞こえた声のほうを向けば、そこには金髪をなびかせた妙にキラキラと輝いている少年がウインクと共におへそを突き出すようなポーズで立っていた。
「い、いや。助かったよ、ありがとう!」
「ノン、感謝はいらないよ! お互いに頑張ろうじゃないか!」
金髪の少年はいつの間にか取り出していたバラを加えながらその金髪を「ファサァ」っと払う。
「まあ、君たちと会うことはもうないだろうけど」
「ッ!」
「それじゃあ、アデュー!」
それだけを言って走り去っていった少年に緑谷は歯噛みする。
今の言葉は暗に「君達は合格できないからもう会わないだろう」という意味を含んでいることが分かったからだ。
「……クソッ! ごめん篠澤さん、やっぱり僕は先にーーー」
「ん、出来た」
いつの間にかロボットから降りていた篠澤が、先ほどの少年に破壊された敵ロボットの残骸をいじっていた。
緑谷がまた同じように操ってロボと戦うつもりなのかと考えたところで、ポンと何かを手渡されたことに気が付く。
「篠澤さん? これは……」
「即席の装備品。これで出久も多少は戦える」
ロボットの外装とコード類を合わせて作られたガントレット。
それが篠澤がこの一瞬で作り上げたものの正体だった。
「名付けるなら……『お守りガントレット』間に合わせで壊れやすいから、上手く使ってほしい」
「い、いいのかなこんなの貰ってしまって。篠澤さんに得なんてないのに……」
「得かどうかじゃないよ。ヒーローってそういうもの……だよね?」
「疑問形なんだね」
緑谷は篠澤から渡されたガントレットを嵌めて軽く拳を握る。
ガントレットとは言ったものの、実態はコードを無理やり緩衝材にしてそれに鉄塊が巻き込まれているだけのもの。
しかし、握ってみれば驚くほどに手になじむ。確かにこれなら何度かロボットと殴り合えるかもしれないと希望を抱いた。
『テッキホソク、デストロォォォォイ!!』
「……早速、来た」
素早い動きで肉薄してくるのは1ポイントの敵ロボット。
直線的な動きで迫ってくるそれを迎え撃つように予測線上へ左拳を置く。
「壊さないように、力を抑えて……」
『ソノクビ、ウチトッタリィィィィ!!』
「SUMAAASHU!!」
『ガピィ!』
拳を受けたロボットはもんどりうって吹っ飛び、フラフラと頭部を揺らした後に倒れ沈黙する。
緑谷はビリビリと痺れる拳を抑えながらも2、3回ほど握り直し、まだ動かせることを確認した。
「まだいける! ありがとう篠澤さん、これならいけるよ!」
「そう……なら……よかった」
「し、篠澤さんどうしたの!?」
振り返ればなぜか何もしていないのにロボット同様に倒れ伏していた篠澤に、すわ敵襲かと緑谷は慌てて駆け寄る。
「ふ、ふふ。流石に疲れた。もう一歩も動けそうにない」
「全然動いてないよね!?」
「出久は私のことを舐めすぎ、そのガントレットを作るのに一週間分の体力は使った」
「噓でしょ……」
これには流石の緑谷も若干引き気味になるものの、すぐに行動を開始した。
「と、とりあえずロボットに乗ってれば動くことはできるよね?」
「ん、そのくらいなら何とか……頑張る」
緑谷は、まるで後期高齢者を介護するかのように優しくロボットの上に篠澤を寝かせる。
借りてきた猫どころか、干されるがままのタオルのような状態ではあるが、篠澤は何とか体を固定して再びロボットを動かし始めた。
「ふふ、試験はまだまだこれからなのに……ままならないね」
「だからなんで嬉しそうなの……」
『『『モクヒョウカクニン、ブットバァァァァァァァス!!』』』
そんな風にコントをしてる間にも、進行方向からは複数のロボットが次々と迫りくる。
しかしそれを見ても、もう緑谷の瞳に怯えの色はなかった。
「出久、いける?」
「うん、大丈夫! はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バッと勢いよく飛び出した緑谷と敵ロボットの拳が重なり合う。
『キエテナクナレェェェェェ!』
「壊さないように抑えて……SUMAAAAAASHU!!」
ヒーローの卵は、いまようやくその殻を脱ぎ始めたのだった。