「いま、何ポイントくらい?」
「えっと……多分28ポイントかな。もっと急がないと!」
意外にもすんなりと溜まっていくポイントに喜びながらも、時折周囲から聞こえるポイント数に合格までは厳しいと焦りを隠せない緑谷と、疲れ果てたナマケモノこと篠澤はそれなりに順調に試験を続けていた。
しかし、二人の少年少女が元試験用のロボットに乗りまわし試験会場を爆走。そのうえで協力してポイントを稼いでいる様に見える姿は良くも悪くもひたすらに目立つ。
そうなると思うことのある人物も出てくるわけで。
「君達! 栄えある雄英高校の受験で不正を行うなど、恥ずべき行為だぞ!?」
「うっ、この人は……」
走るロボットに並走しながら絡んできた人物の顔を見て緑谷は頬を引きつらせる。
黒髪をしっかりと整えたガタイのいい、緑谷にとっては見覚えのあるメガネの少年。
何やら因縁ができてしまったのか、その人物は受験日の今日一日で公然の場の中、2回も頭ごなしに注意されたことにより苦手意識を植え付けられた少年だったのだ。
「そ、その……僕たちは」
「言い訳は無用! この件は試験後にしっかりと先生方に報告をさせてもらうぞ!」
こうなった理由を説明しようとするも一蹴。
やっぱり苦手だ……と緑谷はすっかり意気消沈をしてしまったが、この少女は違う。
「不正って?」
「君たちのやっていることだ! 試験の場において共謀するなど、皆が各々の力で合格を目指す中で恥ずかしくないのか!」
「……?」
ロボットに揺られながら心底わからないといった表情をする篠澤に、さらに沸点の下がった少年は声を上げる。
「ヒーローとして正々堂々と戦うべきと言っているのだ! 清廉潔白こそがヒーローを目指すものに必要な事。そんな方法で試験を合格して君達は誇れるのか!?」
「うん」
「なっ!? き、君は誇りというものがないのか!」
少年の言うことをかみ砕きながら篠澤は答えた。
「ん、まず私たちは不正をしてない」
「何を言って……」
「最初に試験の説明があったときポイント数で争うという説明はあったけど、協力しちゃいけないなんて一言も言われてない……よね?」
「むっ、確かに。いや、待て。そういった共謀を起こさないために同校の受験者を別会場に分けているんじゃないか?」
「それは生徒側の勝手な憶測にすぎない」
「……なるほど」
メガネの少年はその論法に納得を示したようで、一度深くうなずく。
「そもそもポイントを奪い合うという試験の仕様上、共闘におけるメリットよりデメリットのほうが大きいから受験者視点でやる選択肢を持つことが少ないだけ。個性によっては共闘を視野に入れる人もいるはず」
「確かに、その通りのようだな」
そう呟いたのちメガネの少年は走り続けながらも、一瞬の躊躇もなく頭を下げた。
「すまない、こちらの勘違いで不快な思いをさせてしまった! 謝ってすむものではないが謝罪をさせてほしい!」
「別にいいよ? 出久もそうでしょ?」
「え、あっもちろん! 気にしないでください!」
「ありがとう! それでは邪魔をした、試験がんばってくれたまえ!!」
そういうが否や、すさまじい勢いで走り去っていった少年に二人は何とも言えない雰囲気になった。
「……面白い人だったね」
「面白いというかなんというか……凄い人ではあったね」
「うん」
「あっ! こんな風にゆっくりしてる場合じゃない、急いでポイントを稼がないと!」
あまりのインパクトにやや呆然としていたが、少年が言っていたように今もまだ試験中。
改めて気を取り直しポイントを稼ごうとしたその瞬間。
「おぉぉぉぉぉい、君達ぃぃぃぃ!!」
「……あ、さっきの人」
「ま、まだ何かあるのかな?」
先ほど消えていった方向から煙を上げながら少年が戻ってきた。
まさかまだ何か文句があるのかと構えていると、次の瞬間には予想外の言葉が聞こえるのだった。
「逃げろぉぉぉぉぉ! 奴がくるぞぉぉぉぉぉ!!」
「へ?」
緑谷が間抜けな声を上げたと同時に、二人の耳に爆音が響く。
ドゴォォォォォォォン、という轟音と共に視界の先にあったビルが文字通りにはじけ飛んだ。
「で、で、ででで」
「おぉ……」
「デカァァァァァァァァ!?」
目測で100Mはあるんじゃないかと見まがうほどの巨体。
受験生たちの前に現れたこの試験における最大の難関、0ポイントヴィランが立ちふさがるのだった。
『ゴミドモヲ、ハイジョシマス』
「や、やばばばばば……に、逃げないと!」
「うん、それがよさそう」
篠澤が、あまりの衝撃に腰の抜けてしまった緑谷をロボットで拾い反対方向に走り出す。
先ほどのメガネの少年も追いついてきたようで、さっきとは逆方向に並走する形となるのだった。
「君達、無事か!?」
「うん、平気」
「だ、だだだ大丈夫です」
「うむ、それは良かった! しかし流石は最高峰の学校の入試だ、我々の予想など簡単に超えてくれるな!」
容赦なく街を破壊していく巨大ロボに全受験生が踵を返して逃げ惑う。
入試なので命の危険は流石にないと思いたいが、響く地ならしと無秩序に降り注ぐコンクリート片、光を遮る無機質な巨体はそんな薄っぺらな憶測をねじ伏せてくる恐怖として確かにそこに存在していた。
「む、無茶苦茶だよ。これじゃ試験なんてどころじゃない!」
「この苦境を乗り切ることを雄英の先生方は望んでいるというのか!」
「とりあえず、今は逃げるのに集中したほうがいいよ?」
幸いにも巨大ロボの動きは緩慢で、そう簡単に追いつかれることはない筈。
試験時間はもう数分しかないがポイントを稼げるだけ稼げばまだ合格の芽は残る。
ここにいる全員が決意を固めていたその時、篠澤と緑谷、2人の耳に「きゃぁ」という小さな悲鳴が届いた。
「ッ今のは!?」
「あっちの方から聞こえたよ」
すぐさま声の方に視線を向ける。
その先には飛んできたコンクリート片にあたってしまったのか、瓦礫に押し倒された少女が一人いたのだった。
「危ない!!」
さらに運の悪いことに、少女が倒れていたのはひび割れて不安定になっていたビルの下だった。
度重なる地響きに合わせて石粉がパラパラと舞う。いままさにそのビルは限界を迎えていた。
「あのままじゃ危ない。出久、先に行って」
「わかった!」
緑谷が弾かれたように少女のもとに走りビルの下から引っ張り出す。
篠澤もそれに続いていこうとしたとき、隣の少年が声をかけてきた。
「どうしたんだ君達、早くいかないとポイントを稼ぐ時間が無くなるぞ!」
「あっちに怪我をしている子がいた。助けるのが優先」
「それは賞賛すべき行為だが、今は試験中だぞ! わざわざ助けなくても危なくなったら教員の方々が何とかしてくれるはずだ」
「そうかもしれない……でもヒーローならこうするんじゃないかな?」
篠澤がそういうと、少年はまるで雷に打たれたかのように停止する。
頭の上に疑問符を浮かべながらも篠澤は行動を再開した。
「じゃあ行くね。試験頑張って」
「ッ僕も行く!」
篠澤のあとを追うように少年は走り出す。その顔は不思議と晴れやかな表情だった。
「どうしたの?」
「俺は勘違いをしていた。ここはヒーロー科の受験だ、すなわちヒーローとしての才覚を問われるといえるだろう」
「うん」
「俺は試験という形式に囚われるあまりにその本質を見失っていた! 気づかせてくれたことに礼を言う!」
「よくわからないけど、どういたしまして」
「借りを返すというわけではないが、ここからは俺も試験に協力させてもらおう!」
こうして、試験会場では異例の即席チームが出来上がっていくのだった。