「あらたまってだが挨拶をさせてもらおう。俺は飯田天哉、
「聡明ってすご、エリート校やん! あ、私は麗日お茶子、三重の方にある
「も、もじゃもじゃ……えっと、僕は緑谷出久、県内の
「私は篠澤広、よろしくね」
緑谷の助け出した一人の少女、麗日も合わせた計四人が暴れる巨大ロボットから少し離れたところで膝を突き合わせていた。
「それで、協力して試験するって言うのはどういうことなん? 助けてもらったお礼にできることはするつもりやけど……この通りやしな」
そう言いながら足首をさする麗日。こけた際に挫いたのか、右足は痛々しく変色していた。
それを痛ましく思いながら、篠澤と緑谷は今後の相談をする。
「もう一人くらいはロボで運べるけど、ポイントを稼ぐのは現実的に難しいよ?」
「ううん……それに4人で協力するって事は単純に稼げるポイントが四分の一になるわけだから」
「……うん、そうだね」
「あ、あれよ! 足手まといになるなら私のことは置いて行ってもらってええからね!」
麗日が慌ててそう言うも、緑谷の中に見捨てるという選択肢は既にない。篠澤もそれを察してか、4人で協力することを前提にして作戦を考えていく。
しかし、時間を加味してもこれから稼げるポイントはそう多くない。
こうして話をしている間にも時間は過ぎていく。
漠然とした焦りが場を満たし始めた時、飯田が沈黙を破り口を開いた。
「俺から一つ案がある、聞いてもらえるだろうか?」
「な、なにかあるの飯田君?」
そして飯田から提案された内容を聞いて、全員が目を見開くのだった。
「俺たちであの0ポイントヴィランを倒してみないか?」
「「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
「……本気?」
「ああ、本気だ」
全員の驚愕を受けてなお、飯田の表情には決意が満ちていた。
「先ほどの篠澤クンの言葉を聞いて、俺にはヒーローとしての心構えが足りていないことを自覚した」
「……そうなの?」
「そうなんだ。そこで俺は考えた、いくら強大な敵とはいえヒーローを目指すものが背を向けてよいのかと」
「ッ!」
その言葉に、息をのむ音が聞こえた。
「ヒーローを目指す者たちの試験として、はたしてそういったヒーローらしからぬ姿勢が評価されるのだろうか? 俺はここに、この試験形式の本質を感じたんだ」
「……つまり、天哉はこのテストにポイントとは別の評価基準があると踏んでる?」
「ああ。だが、もちろん俺の憶測に過ぎない可能性もある。その場合、試験に落ちるということも考えられるし……」
「私もあると思うよ?」
言いよどみ始めた飯田に対し、篠澤が同調を示した。
「この試験形式だと、近接増強型や中距離の攻撃性の高い発動型個性に対して有利すぎる。何かしらの別基準の評価があるとは思ってた」
「やはり君も気づいていたんだな」
「でも、それがどんな基準かまではわかってない。だから天哉がそう言うなら、その考えにかける価値はあると思う」
そのセリフに今度は飯田が驚きに目を見開く。
「な、なぜそこまで俺のことを信用してくれるんだ?」
「……いい人だったから」
「なに?」
「さっき天哉は不正が許せないって言ってた……あの時、怒りもあったと思うけど言葉の端々に相手を更生させたいっていう気持ちが感じれた。だからいい人だなって」
「う、ううむ……そこまで考えていたわけではないのだが」
はっきりとしない様子の飯田に発破をかけるよう篠澤が続ける。
「仮にそれがただの憶測だったとしても、やるかどうかを決めたのは私たち。責任も自分自身にある」
「うん、そうだね……それに、僕もやってみる価値があると思うよ!」
「そうやね。このままジッとしててもしょうがないし、最後に一発やってしまおう!」
緑谷と麗日も話に乗り気をみせ、やったろやったろと空気感が形成されていく。
「……みんなありがとう! 必ず成功させよう!」
「そうと決まったなら作戦を決めたい。たとえば……」
少年少女が肩を並べて難関へ挑もうとするその姿は、カメラ越しに見ている大人たちに届き、明るい未来を想起させていた。
「え、えっと重かったりしないよね!?」
「ん、出久落ちちゃうからもっとしっかり抱えてほしい」
「ひ、ひひひゃい!!」
数分後、そこには美少女二人を左右それぞれの腕に座らせるという、いまどき漫画でも見ないようなコテコテな格好をする緑谷がいるのだった。
「それでは準備はいいな! オペレーション『1人たりとも欠ける事なく』を開始する!」
「「「お~!」」」
ブルゥゥゥンと低い音が試験会場に響く。
飯田天哉、個性『エンジン』
足から生えたマフラーを吹かすことで、車のような馬力を生み出す個性。
飯田はその両足のマフラーを吹かして、壊れて斜めに出っ張ったビル片の上に立つ緑谷たちに向かい加速を始める。
二者間の距離はみるみるうちに縮まり、間もなく衝突してしまうといった距離になったときに飯田が鋭い声を上げた。
「行くぞ、緑谷クン!」
「うん! 麗日さん、準備をお願い!」
「任せて!」
飯田は出力を上げた高速の蹴りを緑谷に振りぬく。
その蹴りに足裏を合わせるよう緑谷は宙に飛び、お互いが接触する。
「いま! ゼログラビティ発動!」
麗日お茶子、個性『ゼログラビティ』
掌にある肉球のような器官で対象に触れることにより、あらゆる対象を重力から解き放つ個性。
麗日の掌が緑谷と篠澤の両名に触れると、二人の全身から重さがなくなる。
その瞬間、蹴りの勢いによって緑谷たちは空に打ちあがった。
「即興必殺、人間ロケットォォォォォォ!!」
「おわぁぁぁぁあぁぁぁぁ!?」
物凄い勢いで打ち上げられた3人の姿はすぐに小さくなり、巨大ロボットに向けて消えていった。
「みんな、後のことは頼んだぞ! 俺は、今の俺にできる事を……皆さぁぁぁん、すぐにこの近くから離れてくださぁぁあぁぁぁい!!」
大声を上げながら走り回り避難を促し始める飯田のその姿は、青いながらもしっかりとしたヒーローであった。
ところは変わり上空数十メートル地点。
とんでもない風圧を一身に受けている緑谷の顔は、それはもう凄いことになっていた。
「あばばばばババ!?」
「お茶子、そろそろ解除して」
「了解!」
麗日が両手を合わせることによって個性が解除される。
無重力になっていた二人に体重が戻り、宙を飛ぶ勢いが一気に落ち込み放物線を描き始める。
「出久、着地お願い」
「う、うん!」
「失敗しても私が死ぬだけ、気にしないで」
「気にするよ!?」
そして迫りくる巨大ロボの頭部に着地。
想像していたよりは小さい衝撃にたたらを踏んでしまうが、無事に着地できたといえるだろう。
「よ、よかった。何とかなったよ」
「死ぬかと思うた……もう二度とやりたくない」
「二人とも安心するのもいいけど、まだやることがある」
「あ、ごめん篠澤さん。それで、僕はどうしたらいい?」
「ん……あそこ」
「了解!」
きょろきょろと周囲を見渡した後に、篠澤はある場所を指し示す。
そこには一つの出っ張りがあった。ロボットの頭部中心あたりにある取っ手付きの扉を緑谷が引きはがす。
すると中には複雑に絡み合うコードと、光るランプが大量に並んだ機械類が所せましと詰まっていたのだった。
「よし、あとは私の番」
「広ちゃん、大丈夫なの? なんか凄い複雑っぽいけど」
「いけるよ……たぶん、きっと……メイビー」
「すごく不安だ!」
ただでさえ薄い覇気が段々となくなる様子に麗日が不安を覚える。
そんな篠澤の様子を見て、緑谷はただ一言を送る。
「篠澤さん、任せたよ!」
「っ! ……うん、任せて」
そのやり取りを最後に、篠澤はロボットの内部へと潜りこむ。
残り時間5分、いよいよ試験は佳境に差し迫っていた。