篠澤広のままならないヒーローアカデミア   作:唯野本仁

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個性把握テスト①

「個性把握テスト?」

 

 相澤の言葉に誰かの発した疑問が響く。

 聞き馴染みのない単語にクラスメイト達は一様に首を傾げていた。

 

「個性が浸透してからも、日本という国は未だに画一的な身体能力の測定を続けている。コレは単純な政府の怠慢に過ぎない」

「まあ、そうっすね」

「ケロ。確かに私達のような異形系の個性持ちも、周りと同じように測定するのは常々不公平じゃないかとは思ってたわ」

 

 一部の生徒達は、その明け透けな物言いに共感するものがあるのか同意を示していた。

 その様子を見ながら相澤は続ける。

 

「そこで我々雄英高校は、個性の使用を加味した独自の身体測定の基準を作った……おい、爆豪。お前中学でのボール投げの記録は?」

「あ? ……67m」

「そうか、じゃあ個性使ってやってみろ」

 

 相澤は測定機の埋め込まれたボールをポイっと放り爆豪に渡す。

 受け取った爆豪は重さや握りを軽く確かめてから挑発的にニヤリと笑った。

 

「本気でやって良いのか?」

「本気じゃないと意味ないだろ。そのボールはサポート科の協力のもと大量に作ってあるから破損や紛失に気を使う必要はない」

「上等」

 

 そう言うと爆豪は指定された円の中に入り、ボールを持った手を大きく振りかぶった。

 

「んじゃまあ……死ねぇぇぇぇぇ!!」

「いや、死ねって」

 

 まさかの発言に切島が突っ込むも、すぐにその衝撃は上塗りされる事になった。

 

 爆豪勝己、個性:爆破。

 手の平からニトロに類似した成分を分泌する事で、種類豊富な爆発を発生させる事が出来る!

 

 爆豪の手がボールから離れる直前に、凄まじい爆音が響き渡る。

 単純な投擲と爆発の個性による後押しで、ボールは目を疑うような速度で打ち出されたのだった。

 

「はっ、こんなもんか……おい、記録は?」

 

 爆豪の言葉遣いに顔を顰めつつ、相澤はピピピッと音を鳴らし計測を終えたタブレットを表に向けた。

 

「……705.2mだ」

「「「す、すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

 

 おおよそ普通の身体測定で耳にすることのない数値に、生徒達の数人は興奮を隠さずに歓声を上げる。

 

「やべぇって、めっちゃ面白いじゃん!」

「私の個性どうやって活かしたら良いかな?」

「フフフ、まさにボクがキラメクためのイベントだね!」

 

 そんなふうにワイワイガヤガヤと盛り上がる一部の生徒達を見て相澤は目をスッと細めた。

 

「面白い……ね。お前達、そんなお遊び気分でここに来ているのか?」

「え、いや……別に遊び気分って訳じゃ……」

 

 まさかこんなただの軽口を詰めてくると想像していなかったのか、金色の下地に雷型の黒メッシュが入った髪をした、軽薄な感じのする男子がしどろもどろになっていた。

 

「……よし、だったらこうしよう」

 

 相澤は、自身のボサボサな髪を掻き上げながら生徒に向けて言い放った。

 

「このテストで見込みが無いと感じた奴は、俺の権限を持って除籍処分とする」

「んなッ!?」

「生徒の如何は俺達の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 その瞬間、先程までの何処か浮ついた空気は霧散して消えてしまうのだった。

 驚愕、焦り、絶望感。色々な思いが浮き出す中で、相澤と眼の合った生徒である篠澤だけは喜色を浮かべていた。

 

「ふふ、いいね……大変な事になりそう」

「笑える状態ではないと思うが……」

 

 その障子の静かなツッコミは、誰に聞こえるでもなく消えていった。

 

 

 

 第一種目、50m走。

 

「こひゅ〜、こひゅ〜……」

「だ、大丈夫か篠澤?」

 

 指定された区間を走り切った篠澤は息も絶え絶えになっており、先に走り終えていた障子に抱え起こされていた。

 

 篠澤広、50m走19.52秒---最下位。

 

 

 

 第二種目、握力。

 

「んぐぐぐぐぐ……」

「広ちゃん、頑張れ〜!!」

 

 顔を真っ赤にするほど拳に力を込める篠澤。

 その様子を横から芦戸が応援するも、結果は虚しく……

 

 篠澤広、握力9kg---最下位。

 

 

 

 第三種目、立ち幅跳び。

 

「あっ……ぶへぇ!」

「し、篠澤クン!?」

 

 着地の衝撃で砂場に足を取られ、顔面から綺麗なスライディングを見せる篠澤。

 すぐに飯田による救出が行われた。

 

 篠澤広、立ち幅跳び53.3cm---最下位。

 

 

 

 第四種目、反復横跳び。

 

「危ねぇ!?」

 

 体育館に峰田の焦り声が響く。

 その瞬間、彼は篠澤に向かって何かを投げつけた。

 

 峰田実、個性もぎもぎ。

 髪の毛の様に生えている玉は特殊な成分でありモチモチと柔らかく、本人には決してくっ付かないが、それ以外のものには瞬間的に接着し離れなくなる特性を持つ。

 接着時間は本人の体調によって変わり、数分から数時間の差があるらしい。

 

「うわっ……実のこれ、結構ベタベタなんだね」

「いつものオイラなら興奮してる台詞だけど、それ以上に心配が勝つわ! もうお前本当に怖いよ!」

 

 踏ん張りが効かずに転けてしまい、危うく床に叩きつけられていたであろう篠澤を、峰田が反射的に自身の個性を投げつけクッションにし助けたのだった。

 その後、数十分ほど個性の影響で篠澤が床にくっついてしまい動けなくなったのは、まあご愛嬌というものだろう。

 

 篠澤広、反復横跳び1回---最下位。

 

 

 

 

 第五種目、ボール投げ。

 

 篠澤広、ボール投げ7m---暫定最下位。

 

「出久、これまで個性を使えてないね……大丈夫かな?」

「広ちゃんは人の心配をしとる場合ちゃうよ!?」

 

 麗日の妥当過ぎるツッコミにほとんどのクラスメイト達がうんうん、と大きく頷いた。

 

「いや、体力がないのは入試試験の時に知っとったけども。まさかここまでとは……」

「あまりこういう事を言うべきではないのだろうが、篠澤クンは一度病院で検査を受けた方が良いのではないか!?」

「ふふ、二人とも酷い……」

 

 半分罵倒では、と勘違いしかねない心配の声に篠澤は頬を染める。

 その何故か嬉しげな様子に周囲が軽く引いていると、後ろから声が聞こえて来た。

 

「な、なんで……いま個性を使おうって」

「出久?」

 

 ボール投げを行っていた緑谷が、絶望に染まった顔で転がっていくボールを見つめていた。

 緑谷出久。ボール投げ1回目、記録46m。

 

「も、もしかして個性が消えて……」

「はぁ……俺の個性だ」

「あ、相澤先生の個性?」

 

 その時、相澤の普段は垂れ下がったボサボサな前髪が、まるで風に吹かれるように浮かび赤く光る両目を露わにしていた。

 個性を消す、特徴的な眼、首に巻いたマフラーのような拘束武器。これらの情報から緑谷はある結論に辿り着く。

 

「まさか……アングラ系ヒーローのイレイザーヘッド!? 雄英の教師だったんだ!」

「ほぉ、まさか俺の事を知ってる奴が生徒にいるとはな」

 

 相澤消太、ヒーロー名『イレイザーヘッド』、個性は抹消。

 その両目で見た相手の個性を消失させる個性。

 

 相澤はその個性を使って緑谷の発動しようとしていた個性を消したのだ。

 

「で、でも……なんで個性を消すなんてそんな事を」

「俺達教師は入試試験の映像を全て見ている」

 

 個性を使うのをやめたのか、相澤の前髪が元の様に垂れ下がる。

 しかし、その隙間から覗く鋭い目つきは変わらずに緑谷を貫いていた。

 

「浮かれた奴らは、試験でお前が見せたような自己犠牲が好きな奴が多い。だが俺からすれば、その時だけのテンションで動く奴は信用に値しない……お前は入試試験序盤でその個性を使い大怪我を負ったな。その後に他人の補助がなければ、あそこでお前の試験は終わっていたはずだった」

「そ、それは……」

「協力する事が悪い訳じゃ無い。だがそれ前提でしか動けない奴にヒーローは務まらない。お前、いま個性を使ってその後のことを考えていたのか?」

「ッ……」

「はぁ……もう個性は使わない。さっさと2投目を投げろ、時間が押している」

 

 相澤はスタスタとその場を離れ、再び計測器に目を向けた。

 言うべき事は言った、後は結果で示してみせろ。無言で問われたそれは、まだ若きヒーローの卵に求めるにはハードルが高いと言えるだろう。

 しかし、これはヒーローを目指す上で必ず存在する壁の一つなのだ。それを乗り越える事が、ここ雄英高校ヒーロー科に求められる素質なのだ。

 

「残されたテストで僕の個性を活かせるものは無い。使うならここだ……でも腕一本を犠牲にしたら、もうテストを続けてる場合じゃなくなる」

「……」

 

 ブツブツと呟きながら緑谷は白線で引かれた円に入っていく。

 そして拳を後ろに引き、そのまま素の力で投球フォームを繰り出した。

 

「……見込みなし」

 

 緑谷が諦めたのだと判断した相澤がそう言いかけた瞬間。その様子を見守っていた全員が、まるで稲妻が走るかのような力の本流を幻視した。

 

「ここだ!」

 

 緑谷出久、個性:超パワー(※※※※※※)

 自身の肉体で耐え切る事ができないほどの異常な力を引き出す個性。

 コントロールも疎かであり、現状ではただの自爆技に過ぎないが成長の余地は最も大きいと言えるだろう。

 

 

 

 小さな骨の砕ける音が聞こえた。

 ボールをリリースする瞬間だけの限定的な個性発動。腕を犠牲にはできない、だが犠牲なくしては何も得られない。

 緑谷のその選択は決して最適ではなかったが、同時に最悪ではなかった。

 

「SMAAAAAAASH!!」

 

 緑谷の掛け声と共に、凄まじい勢いで放たれたボールの軌跡が空に吸い込まれる。

 痛々しい青紫色に染まった中指ごと拳を握り締め、緑谷は脂汗をかきながらも挑戦的な笑みを相澤に向けて言った。

 

「先生、まだ動けます!」

「ッコイツ!」

 

 まだ青い、未熟にも程があるその姿に相澤の心は動かされた。

 結局のところ、彼もまたヒーロー(青臭い心の持ち主)に変わりは無いのだから。

 

 測定機の指し示す数値は705.3m。それは奇しくも緑谷に縁ある少年を僅かに上回る数値だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後にその縁ある少年が緑谷に奇襲を仕掛けるという一幕があったが、それはまた別の話。

 騒動が落ち着いた後に残されたのは、もう一人に対する試練だけだ。

 

 

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