風間の拳   作:じゅん

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誓いを胸に掲げたのだ! 裏

 

 

 

「──総代、お呼びでしょうカ」

夜の静寂を破るように、リーの声が低く響いた。廊下を通り抜ける冷たい風が、その声を一瞬かき消すかのようだった。障子の向こうに立つ老人、川神鉄心は深く目を閉じ、思索の海に沈んでいるかのように静かに佇んでいた。

 

「うむ。リーよ、思った以上に彼は囚われておったようじゃのう」

鉄心は目を開き、静かに言葉を紡いだ。声は低く、しかし重みを帯びており、その一言一言が空気に染み込んでいくようだった。彼の眼差しには、深い思慮と、仁の行く末への懸念が混じり合っていた。

 

「ええ、あの目は危険ですね。彼の母親が殺された時の恨みの深さは計り知れません。いずれ身を滅ぼします」

リーの声には明らかな緊張が滲んでいた。彼もまた、仁の復讐心がもたらす影響を強く感じ取っていた。その若い瞳に宿る憎しみは、鋭い刃のように周囲をも斬り裂く危険を孕んでいた。

 

「そうじゃな……しかし、あの執念、そう簡単に消えはすまい」

鉄心は静かに頷き、再び瞑想するように目を閉じた。まるで遠い過去を見つめるかのように、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「それが彼を突き動かしているのは確かじゃが、その代償はあまりにも大きいかもしれん……」

 

リーは眉をしかめ、険しい表情で鉄心の言葉を噛みしめる。

 

「彼の力は間違いなく伸びるでしょう。しかし、その心が追いつかねば、いずれ自らを滅ぼす刃となる。その時、我々は何をしてやれるのか……」

 

その問いに、鉄心はしばしの沈黙を守った。部屋の中に再び静寂が降りたかと思うと、遠くから竹林が風に揺れる音が微かに響いてきた。秋の冷たい空気が、重く沈んだ二人の間に冷たく流れ込む。

 

「仁を止められるのは彼自身しかおらん」鉄心は低く呟いた。「だが、彼が心の鎖を断つ時が来るのか、それともその鎖に縛られ続けるのか……我々はただ、見届けるしかなかろう」

 

リーはその言葉に重く頷いた。彼の表情は険しいままだったが、息をついて肩の力を抜いた。

 

「総代、彼をどうされますか? いずれあの執念が制御できなくなった時、彼は暴走するかもしれません」

 

鉄心は深く考え込むように視線を下に落とし、再び瞼を開いた。彼の目には、厳しさと慈悲が交錯していた。

 

「見守るしかないじゃろう。力を正しく導くのが我らの務めじゃが、彼の選択は彼自身のものじゃ。もし彼がその道を誤るならば、その時は我々が手を差し伸べる他ない」

 

「分かりました。彼のこと、見守りつつ修行を進めさせます。ですが、もし危険な兆候が現れた時は、すぐに報告します」

 

「そうせよ。彼がどこまで進むか、それは彼自身にしか決められぬ。だが、彼の血脈が示す道を辿る限り、容易に見失うことはないじゃろう。しかし、周囲の者たちもまた、その影響を免れぬことを忘れてはならん。仁が道を誤れば、その災厄は他の者にも及ぶ」

鉄心の声はさらに低く、深い沈黙の中に吸い込まれていくように響いた。彼の言葉の一つ一つが、重くリーの心にのしかかる。

 

リーは再び思案に沈み、そして静かに言葉を紡ぎ出した。

 

「彼の復讐心は強烈です。そのエネルギーは、周囲の者たちをも巻き込む危険性がありますネ。特に、彼のような若者が力を手に入れた時、その心が乱れると、暴風のような破壊を引き起こすかもしれません」

 

鉄心はその言葉に深く頷いた。

 

「危惧するところじゃな……陰陽の血を引く者でありながら、己の弱さに打ち勝つ術を知らぬとは、実に憐れな話じゃ。しかし、それもまた運命かもしれん。いずれにせよ、我々もまた、その流れに乗るしかない」

 

リーは鉄心の言葉をじっくりと噛みしめた後、静かに問いかけた。

 

「では、具体的にどう指導していくべきでしょうか? 彼の怒りや復讐心を活かしつつ、それを正しい道へ導く方法を見つけなければならないでしょう」

 

「まずは、仁が自らの力の源を理解することが重要じゃ。力とは、恐れや怒りから得るものではない。守るために使うべきものだと教えねばならん」

 

「理解させるためには、実践を通じて教えるしかありませんね。彼に闘技を教え、戦いの中で己の心を見つめ直す機会を与えましょう。実際に戦うことで、力の本質に気づくかもしれません」

 

鉄心は目を細め、再び深く頷いた。

 

「その通りじゃ。彼には多くの試練が待ち受けるじゃろう。それを通じて、彼が自らの心を見つめ、成長していくことを願う」

 

「彼の道は険しいでしょうが、我々が見守り続ける限り、決して一人ではないと教えていきましょう」

リーもまた前向きな思いを抱きながら、鉄心の言葉に同意した。

 

「うむ、そうせよ。仁が真の強さを手に入れるまで、我々は共に歩み続けるのじゃ。その先に何が待っているか、それは彼自身の選択に委ねられるが、我々もまたその道を信じて待つしかあるまい」

 

二人はしばし無言のまま、部屋に流れ込む冷たい風の音に耳を傾けた。冬の気配が忍び寄る中、彼らの決意もまた、一層強くなっていった。

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