【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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1話:旅の終わりに

「……長い旅だったよなー」

 

 

天井を取っ払った馬車から、俺は城下街の人々に手を振った。

 

聖王国エルティナ。

ここはその首都、王都エルティナだ。

 

 

「うん、そうだね。本当に長い旅だった」

 

 

すぐ横で黒髪黒目の青年も手を振った。

城下町の若い女達はワーワーキャーキャーと騒いでいる。

 

その熱狂的な様子に、青年はちょっと引いた。

 

 

「モテモテだな……なぁ?『勇者』どの」

 

「え?あ……は、はは」

 

 

苦笑しているのは勇者……3年前、異世界から召喚された勇者、スズキ ユースケだ。

漢字で書くと鈴木 雄介らしい。

ま、日本では珍しくない名前だ。

 

 

「ん〜?……あんまり嬉しくなさそうだな?」

 

「いや、だってさ……自分の知らない人に、好意持たれてるのって怖くない?」

 

「……あー、その気持ちはちょっと分かるな」

 

 

 

俺も外に手を振ると、街の『男』どもが顔を赤くして興奮していた。

 

……俺の名前はミリアレーナ・エルティナ。

まぁ、女だ。

ついでに言うと転生者。

前の世界では、ユースケと同じ日本生まれ日本育ちの『男』だったが。

 

色々あって死んで、次に目が覚めたらこの国の第九王女だった。

 

第一王女とは腹違い、使用人(メイド)の娘だが……まぁ、それなりにお姫様としてちゃんと育てられた。

マナーとか色々とな。

 

そんで、教育されてる間に気付いたんだが、俺は魔法の天才だった。

異世界チート転生だ!って当初は喜んだが……この世界は平和だった。

 

あぁ、そりゃ、魔獣なんていう野生のクマよりちょっとツエー奴が闊歩してたけどな……その分、人間もツエーからな。

 

一国の姫が、田舎の魔獣退治なんてする必要はねーし……結局、魔法を使う機会はとんと無かった。

まぁ、そんな平和を謳歌してたのは、4年前までの話だ。

 

 

「でも……うん、みんなが喜んでくれてるだけで良かったと思うよ」

 

「……そうか?お前、誘拐されたようなモノなのによく言うよ」

 

 

邪竜イヴリス。

魔獣を活性化する瘴気を無尽蔵に振り撒く、巨大な魔獣……いいや、魔獣で一括りにするのも憚られるぐらいヤベーバケモン、邪竜。

 

そいつが現れた所為で、平和は打ち砕かれた。

王国の騎士達が頑張って魔獣狩りしてたけど、それでも手が足りなかった。

 

このままじゃ世界が滅びる〜っつう訳で、3年前に召喚されたのがコイツ。

勇者ユースケ、当時は15歳。

 

王都の転移魔法使い共が何十人と集まり、全力で召喚したのがコイツだ。

ま、誘拐だよな。

 

俺のクソ親父……国王サマは『邪竜を討伐すれば、莫大な財宝と共に元居た国に帰してやろう』と仰った。

ユースケに選択肢はねぇ。

可哀想に拉致誘拐された勇者ユースケ(15歳)は、邪竜討伐という使命を受けた訳だ。

 

いつ思い出しても胸糞わりー話だな。

 

で、不幸中の幸い、ユースケは勇者たる能力をちゃーんと持ち合わせていた。

最初はヘナチョコだったが、騎士団長との訓練を半年しただけで、その騎士団長より強くなってた。

 

異世界チート転移だ。

 

そんな勇者ユースケ。

国からは誰も付いて来ず、1人で邪竜討伐に向かう事となった。

ちょっと俺からしたら意味わからねーけど。

 

多分、国王はユースケを捨て駒にする気だったんだ。

旅の中で、これからもっと強くなって、自力で邪竜を倒してくれるって……そう考えていたんだろう。

それでもし負けても、国の損益にはならない。

新しい勇者を召喚するだけ……ってワケだな。

 

マジでくだらねー。

 

いくら強いからって、一人で旅に出て、一人で邪竜を討伐させようってか?

 

ふざけんなよ。

相手は15歳のガキだぞ?

 

理不尽を許せなかった俺は、ユースケの旅に同行する事にした。

当時、俺も15歳……同年代で、故郷も一緒だ。

少しぐらい、気が休まれば……そう思ってだ。

 

ちなみに、俺が同郷(ニッポン)出身で、元男だってのは暴露した。

旅を始めて一年後ぐらいに。

 

だから、こうして男友達みたいな距離感で旅をして来れた訳だ。

 

 

「それでも……こうして、平和になったのなら僕は満足だよ」

 

「……ふーん」

 

 

一緒に旅をする中で、充分に理解しているコイツの善人っぷり……それに内心、バツが悪くなって顔を逸らした。

 

俺はお前みたいに、そんな気楽では居られねーよ。

この街の奴ら……手放しで喜んでる奴らを見て、俺は──

 

 

「……ふん」

 

 

『都合のいい奴らだな』なんて軽蔑してるからな。

 

そんな事は、口が裂けても言わないが。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

……何だか、居心地が悪い。

 

この世界に召喚されてから、もう3年の月日が流れた。

当時着ていた学生服はもう着れないし、服はこの世界のものを使っている。

身体はあの頃よりも筋肉はついたし、身長も20cmぐらい伸びている。

 

この世界にも慣れてきた。

ただ広い草原も、青い空にも。

 

それでも『ここ』は少し居心地が悪い。

赤い絨毯が敷き詰められ、天井には豪華な装飾がある。

 

ここは王城の中にある一室。

待合室、みたいなものだと思う。

 

柔らかすぎるソファに座れず、僕はただボーッと窓の外を眺めていた。

 

……やっぱり王都は人が多いな。

 

旅をしてる最中、決して栄えている訳ではない町や村にも滞在した。

人が多ければ多いほど良い……とは言わないけれど、この活気は……日本に居た頃を思い出す。

 

そう、故郷の──

 

 

ドアのノック音が部屋に響いた。

 

 

「あ、どうぞ?」

 

 

僕が声を掛けると、ドアが開いて……薄い金髪で、真っ白なドレスを着た美しい少女が現れた。

前世で見たどんな女優よりも綺麗な……儚げな美少女だ。

 

そんな美少女が口を開いた──

 

 

「うぐ、コルセット……久々に付けたけど、超キツい……死ぬ……」

 

 

彼女はミリアレーナ・エルティナ。

この国の第九王女で……僕と一緒に旅をしてくれた、同郷の女の子だ。

 

ちなみに、愛称はミリア。

……僕ぐらいしか、そう呼んでないらしいけど。

 

 

「…………」

 

 

彼女は元・男だ。

僕と違い、この世界に転生してきて……そこで女として生まれたそうだ。

 

そんな背景情報は知っているけれど……それでも──

 

 

「……ん?何、呆けてんだ?」

 

「あ、いや……」

 

 

見惚れていた、とは言い辛い。

彼女の性自認は男だ。

そんな事を口にすれば……もしかしたら、不興を買うかも知れない。

 

その綺麗なドレスも、きっと無理矢理着させられたのだろう。

彼女は、ああいった服装は好んでない筈だ。

 

 

「チッ、似合ってねーなら、似合ってねーって笑えよ。ユースケ」

 

 

だからと言って、似合っていない訳ではない。

その容姿と、立ち振る舞いは……彼女が王族の一員なのだと見た人間を納得させる美しさがあった。

 

 

「それは……似合ってるよ。うん」

 

 

本心から、そう口にする。

嘘を吐いても、結局はバレてしまいそうだったからだ。

 

 

「そうか〜?まぁ、俺、すっげー美少女だからな」

 

「ははは……」

 

 

……良かった、嬉しそうだ。

にへら、と笑うミリアに僕は安堵の息を吐く。

 

 

……彼女には随分と助けられた。

この世界に召喚され、右も左も分からない中……僕を利用しようと表面上は優しくしてくれる人だらけで。

 

居心地は悪く、疑心暗鬼にかられて、家に帰りたくて、帰れなくて。

心が少しずつ死んでしまいそうな中……そんな時に、彼女と出会った。

 

何の得もないのに、僕を支えてくれた。

助けてくれた。

対等で居てくれた。

 

だからすぐ、僕達は友人となった。

そして、僕は彼女の事を──

 

 

だけど、二人で旅をする中で、彼女は秘密を僕へ打ち明けた。

彼女は実は僕と同じ『地球』の『日本』出身なのだと……そして何より、男だったということを。

 

彼女の性自認は今も男のままらしい。

可愛い女の子が好きだって、言っていた。

 

だから、僕は……この感情を、彼女に打ち明けられない。

僕のこの恋は、始まる前から終わっていた。

 

 

「にしても……まぁ、ついにこの時が来たんだなぁって、感慨深いよ」

 

「え?」

 

「帰るんだろ?ユースケ」

 

「あ……うん」

 

 

そうだ。

邪竜は討伐した。

 

だから、僕は日本に帰る。

もう3年も経ってしまったけれど……きっと、帰ったら面倒な事になるだろうけど。

それでも、帰るべき故郷だ。

僕を待ってくれている人も居るかも知れない。

 

 

「……あんま嬉しくなさそうだな」

 

「え?いや、そんな事ないよ。でも……色々と面倒な事になりそうだなぁって」

 

 

家族の仲は良くない方だった。

才能溢れる兄が居たから、僕には誰も期待していなかった。

 

学校だって……友達は居たけれど、親友なんて呼べる相手は居なかった。

人の心に踏み込むのが怖かったからだ。

 

だから、僕を待っている人は……きっと、もう、居ないと思ってる。

行方不明になって死んだんだって、そう『乗り越えられている』んじゃないかな。

 

 

「……ま、俺もちょっとは寂しいよ。あっちでも元気にやれよ?」

 

「……うん。ありがとう、ミリア」

 

 

ミリアへ目を向ける。

色白な肌、化粧で赤みを帯びた頬、艶やかな唇。

いつにも増して、綺麗だ。

 

この世界に来た頃、僕はずっと帰りたいと思っていた。

それは故郷が恋しかった……という気持ちも少しはあったけど、ただただ現状から逃げたかったからだ。

 

今は、どうだろう。

 

僕は帰りたいと思っているのだろうか。

帰るべきだ、とは思っているけれど。

それは義務感……なのではないだろうか。

 

……僕はきっと、どちらを選んでも後悔しそうだ。

 

 

部屋にノック音が響いた。

……そろそろ、王様と謁見する時間らしい。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

クソ親父は偉そうだった。

あ、いや偉いんだけどな……国王だし。

 

俺達を労う言葉をクソ上から目線でベラベラと話して、俺はへーこら頭を下げていた。

貴族の嗜みってヤツだ。

 

城から出て3年経ったが、まぁ身体にちゃんと染み付いてたらしい。

 

てな訳で、邪竜討伐の件についての報告と……ユースケの今後について話した訳だが。

 

 

 

ユースケは、帰れないらしい。

 

 

 

というのも、召喚魔法の使い手である王宮魔導士どもは『召喚』する事はできても、逆に『送還』する事は出来ないらしい。

 

一応、あっちの世界に送る事自体は出来るけど……どこに送られるかが分からないそうだ。

召喚魔法では、召喚先の座標として魔術師が指定できるから可能だそうだが……その逆は、送還先の異世界座標が取れないからとか何とか。

 

俺は別に召喚魔法の専門じゃねーけど……まぁ、出来ない理屈も分からなくもない。

呼ぶのは簡単だが、飛ばすのは難しい……これは魔法の基本だ。

 

しかし、クソ親父は『邪竜を討伐したら、異世界に帰す』って言ってたのに嘘吐きやがったのか?

もしくは、王宮魔術師どもがクソ親父に嘘の報告をしてたのか。

 

 

どちらにせよ、ユースケは帰れない。

 

 

莫大な金銭と地位を用意するから、受け入れてほしい。

なーんてクソ親父は言っていた。

 

俺ならブチギレるね。

この場で暴れて、少なくとも1発は殴る。

 

でも、ユースケは努めて笑顔で受け入れた。

……いいヤツだからな、こいつ。

 

困ってる人のためにって、行く先々で魔獣退治も熟してたし。

騎士達が派遣されてこないような辺境で、見返りもないのに戦ったぐらいだ。

 

 

だから、受け入れちまった。

 

 

……とんだお人好しだ。

 

 

 

 

俺はため息を吐いた。

畏まった場なら、咎められるだろうが……ここには俺と、お付きのメイドしかいない。

多少は行儀が悪くても、何も言われないだろう。

 

 

「姫様、帰還に際しての歓迎パーティのご用意を……」

 

「……分かってるって」

 

 

茶会とか、ダンスパーティだとか。

政治が絡んだ集まりなんて何にも楽しくない。

冒険先でデケェ猪みたいな魔獣をブッ殺して、村で狩猟祭してた方が100倍楽しかった。

 

お付きのメイドどもに動きづらいドレスを脱がされて、夜会用のドレスに着替えさせられる。

 

のだが──

 

 

「これ、ちょっと露出多すぎないか?」

 

 

首元に謎のレース飾り……その下は素肌だ。

鎖骨は丸見えだし、コルセットでバストアップされた谷間が……ちょっぴり自己主張をしている。

 

ドエロだろ、ド・エロ・ドレス。

他人が着ていれば目の保養だが、自分で着るにはちょっと複雑な気分だ。

羞恥心がヤバイ!って感じ。

 

 

「いえいえ、昨今はこのようなドレスが流行っているんですよ」

 

「え?そーなの?」

 

「男性からのお誘いが増えると、未婚の女性には人気なんですよ」

 

「……あ、そういうやつね……」

 

 

今の私は18歳。

この世界の結婚年齢としては適齢だ。

 

第九王女だから、割と好き勝手な婚活ができるけど……まぁ、クソ親父からすればいつまで経っても結婚されないのも困るんだろうな。

この世界の女の身って、政治的な価値もあるし。

 

適当に良い所の貴族と結婚して、国と有力者の絆を深めてくれ……って感じか。

だりぃ、だりぃ。

 

というか……そうか。

男と結婚か。

 

……まぁ、国にはここまで育ててくれた恩はあるしな。

常識的に考えれば、ここから逃げ出して……なんて事をすれば、色々な人に迷惑かかるからな。

 

親父の事はクソ親父だと思ってるが、国の王としては評価してるし。

くそ厳しい家庭教師も嫌いにはなれなかったし、俺のお付きのメイド達も良い奴らだし。

 

……そう考えると、これからの進路ってのは見据えなきゃならねぇよな。

 

 

「……はぁ」

 

 

鏡の中では、絶世の美少女が可憐なドレスを着てるっていうのに……何処か浮かない表情をしていた。

 

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