【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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11話:トラブルは身近に

翌日、クソ親父に初夜の事を報告したのだが……結果、二つの貴族家が取り潰しとなった。

 

しかし、その貴族家は伯爵家と子爵家だった。

どちらも、俺の弱みを握っても動くには弱い序列だ。

どこかしら、別の家……恐らく、正式に王族の血を引いている公爵家あたりが裏で動いているんじゃないか……という結論となった。

 

今後も警戒が必要だろう。

……まったく、面倒な話だ。

 

そうして、数日、警戒しながらも日々は過ぎていき──

 

 

俺とユースケは馬車に乗っていた。

御者は勿論、ジェーンだ。

 

魔法ギルドの出張所作成に向けて、現地の視察を行う。

現行、この国でもトップクラス……少なくとも、王宮では一番の魔術師である俺は、こういった『魔術師』としての立場を活かした公務を、兄姉に比べて回されやすい。

 

餅は餅屋、魔法は魔術師に、って訳でな。

 

……そんで、ユースケは俺の護衛だな。

最近はアレコレと物騒だし、俺とユースケに対して奸計をめぐらすバカ貴族もいるしな。

 

 

「……そろそろ着きますよ、お二人とも」

 

「ん、あぁ……」

 

 

しっかし、メイドのジェーンには随分と助けられているな。

ただのメイド……とは、言い切れない程、親密に。

俺の物心が付いた時には、側に居てくれたからな……母親のいない俺からすれば母親……って程の年齢差ではないが。

家族みたいなものだと、勝手に思っている。

 

……窓の外へ、視線を向ける。

 

そこには城下町ほどではないが、栄えた町が見えた。

これほど大きな場所に魔法ギルドの拠点がないのは……確かに、変な話だ。

 

文化的に魔術師についての認識が変なのか、迷信か何かしらがあるらしい。

 

まぁ、それも一昔前の話らしく、最近の若者の間では『魔法』に憧れる男女も多いらしいが。

 

……しかし、現行の魔法ギルド長は新規に出張所を作りたくないらしい。

優秀なギルド職員を遠方に出すのが嫌だとか何とか……ま、本拠地である王城の配下から、新規で作った出張所に飛ばされたら、な。

 

だが、それは魔法ギルドの都合だ。

魔法ギルドは正しく魔法を行使出来るように、習熟に必要な書物の貸し出しや、国家公認の魔術師への承認であったりと、魔術師を育むのに必要な拠点だ。

インフラみたいな物で、どの町にも必要な物だ。

個人の都合で格差が生まれるのは、俺としては許せない訳だ。

 

取り敢えず、取り決めに必要な書類や、承認された資料は持ってきた。

後は、ここの領主の承認を得られれば終わりだ。

 

 

「……よし、営業スマイル、営業スマイルっと」

 

 

自分の頬を揉んで、王族用の笑みを浮かべる。

……いや、こんな事しなくても切り替えられるが、ちょっとな。

最近、他貴族の警戒やら何やらで精神的に疲れていて……少し、シンドイ。

精神的にも肉体的にも。

 

深呼吸していると、正面のユースケが口を開いた。

 

 

「……ミリア、大丈夫?」

 

「……大丈夫ではないように見えますか?」

 

 

切り替わった口調で返答すれば、ユースケは苦笑した。

 

 

「いや、いつも通りに見えるけど……その、なんとなく?」

 

 

なんとなく、か。

どうせ今日は初対面の奴らとしか会わないし、俺が本調子ではない事も気付かないだろ。

 

俺はユースケに笑みを浮かべた。

 

 

「……まぁ、目に見えていつも通りなら、それで大丈夫ですよ」

 

「……そっか。うん、でも無理はしないでね?」

 

「ええ……それに、何かあればユースケが助けてくれるでしょう?」

 

「それは勿論……政治は、苦手だけど」

 

「あら……荒事専門ですか?」

 

「うっ、ごめん……」

 

 

……ちょっと頼りない。

でもまぁ、こうしてカバーしようと動いてくれたり、努力は見受けられるんだよな。

 

それだけで俺は十分だ。

だから、俺はユースケに近付き──

 

 

「冗談ですよ……頼りにしてるぜ、婚約者サマ」

 

 

小声で呟いた。

それが本心だと分かるように、いつもの口調で。

 

そうして笑顔を見せれば、ユースケもぎこちなく笑った。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

領主は結構な年寄り……って程ではないな、おっさんだった。

おっさんな。

 

魔法に対する不信感があるらしく、ギルドの設立には否定寄り……聞いてた話と違うんだが?

誰だよ、事前調査してた奴……あぁ、魔法ギルドの職員だったか。

 

迷信や具体性のない不安ほど、厄介な奴はない。

説得しようにも、話を聞こうとせず、否定から入るからな。

 

 

だーめだ、こりゃ。

 

 

そう諦めかけていたのだが、領主から取引を持ちかけられた。

町の側にある植林場に魔獣が発生しているから、そいつらを討伐してくれたら出張所の配置を認めると。

 

……魔法ギルドの出張所を作るのは、この町の奴らの為なんだけどな。

それを、対価として別の仕事をさせようだなんて、ふざけた奴だが……。

 

俺はその要求を飲んだ。

領主が理屈の分からんバカだったとしても、この町の民を無視していい理由にはならないからな。

上がバカでも下に罪はない。

 

という訳で魔獣狩りに向かう事となったのだが……生憎、今日の俺は第九王女。

魔法使いとしての装備ではないし、そもそも魔法使いとしての立ち回りを求められていない。

 

魔獣狩りにはユースケのみで行って貰う事にした。

護衛を遠ざける訳だが、まぁ、町中なら俺自身で自衛できるだろ。

これでも、ユースケの旅の中、至近距離で戦わざるを得ない場面が大量にあったからだ。

 

という訳で別行動となった。

 

しかし、ユースケの心配は不要だろう。

邪竜に蹴り飛ばされても、ほぼ無傷のアイツがその辺の魔獣に負ける訳がない。

一捻りだろう。

 

俺は安心して待機できる。

優雅に紅茶でも飲んでいれば、問題を解決できるだろう。

 

 

いやぁ、楽な仕事だぜ。

 

 

 

なぁんて思ってた訳だが──

 

 

 

 

()ぅ……」

 

 

トラブルは起きた。

 

紅茶は麻痺薬入りだった。

神経系にダメージを与えて、昏倒させるタイプの薬だ。

違和感に気付いた時には解毒魔法を自分にかけていたが……その隙に、領主の部下っぽい奴に襲われた。

咄嗟に魔法で迎撃していたが……他勢に無勢、麻痺薬が解毒しきれていないのもあって……いや、まぁ、その程度では負けはしないが。

その隙にジェーンを人質に取られてしまった。

反撃できない間に、俺は痛め付けられ──

 

現在、俺は魔力を霧散させる腕輪を付けられて、領主館の地下牢に閉じ込められている。

くそ、俺は第九王女だぞ……つーか、若い女をボコボコにして監禁するとか、王女じゃなくてもダメだろ。

 

ジェーンは手足を縄で縛られたまま、顔を真っ青にさせていた。

俺は……アレか、一応王女だから加減されてるのか、腕の魔道具だけだ。

 

 

「……ひ、姫様」

 

「……大丈夫だ。見た目ほど酷い傷じゃない……」

 

「しかし……」

 

 

くっそ、アイツらボコボコ殴りやがって。

ジェーンを人質に取りつつ、抵抗できないように結構、痛めつけられた。

……ドレスも所々破れて、パンツが丸見えになってる。

エロさよりも痛々しさが勝つだろうが。

 

見た目的には結構ボロボロだし、ジェーンが心配する気持ちも分かるが……ま、邪竜討伐の旅の間にはもっと致命傷受けた事あるし、言うほど酷い怪我じゃない。

 

ちょっと身体のあちこちに打撲して、唇切って、頬が内出血して、足に擦り傷が出来てる程度だ。

……あれ?結構、重傷か?

 

 

「…………」

 

 

ちら、と視線を牢の外へ向ける。

誰もいない。

 

魔法を封じれば、怖くはないってか。

……ま、それはその通りだが。

実際、魔法が使えなければ、俺はただの『かよわい乙女』だからな。

 

手首に視線を落とす。

魔力を込めれば、自動で消費する腕輪……か。

見た事も聞いた事もない魔道具だ。

魔力を通すと無意味な魔法を『失敗』させるように作られている……並の魔道具なら、俺の魔力で回路を焼き切れるが、この腕輪の許容量は普通じゃない。

 

……邪竜の死骸、その一部を使ってるな。

恐らく火炎袋の一部だ。

魔力を行使すると熱が発生する……回路を弄ってなけりゃ、ちゃんと炎が発生する魔道具だった筈だ。

 

 

まぁ、今は仕組みなんてどうでもいい。

 

 

問題は、何故、領主が俺を監禁したのか。

何故、邪竜の死骸を使った魔道具を持っているのか。

この二つだ。

 

ここの領主の恨みを買った覚えはない。

故に私怨ではなく、俺を捕える事で何らかの得があったから……そう考えた方がいいな。

 

そして、邪竜の死骸を使った魔道具。

この作りは並の魔術師では作られない。

魔法ギルドもないこの街に、こんな高等品を作る技術力はないだろう。

 

……つまり、領主を裏から操ってる奴が居る。

領主を誑かせる財力、そして邪竜の死骸を使った魔道具を用意できる技術力……。

 

黒幕は──

 

 

「……暴れなければ、怪我を負わずに済んだのに。貴女はいつも、そうやって無駄な事をしますね」

 

「……やっぱお前か、老害」

 

 

牢屋のある地下に、見覚えのある老人が降りてきた。

……えらっそうな口調、贅沢な服装、伸びた白い髭。

この国の魔法ギルド長、オーサムだ。

 

 

「ほう、それが貴女の本来の口調ですか。王族らしからぬ下品さ……その服装もよく似合ってますよ。ふほほ」

 

 

髭を摩りながら、卑しく笑った。

……今の服装って、このボロボロのドレスの事か。

 

 

「……俺は、お前の事は結構、評価してた『つもり』だったんだがな」

 

「……そうやって年端のいかない娘の癖に、人を見下すような傲慢さが……このような事態を招いているのですよ。分かりますかね?第九王女殿」

 

 

クソうぜ〜っ。

やっぱさっさとクビにしておくべきだったか。

20歳にもいってない女相手に愚痴愚痴レスバしながらセクハラするジジイなんて、碌なジジイじゃねーだろ。

 

 

「……お前一人の犯行じゃないな。誰が協力者だ?」

 

「貴女とあの部外者、お二人を気に食わないと思っている貴族は多く居るのですよ。嫌われていますねぇ、お二人とも」

 

 

ダメ元で訊いた質問が返ってきやがった。

言っても問題ないってか……?

相当、油断してやがる……このクソ老害め。

 

 

「……ユースケはどうなった」

 

「ふほほ、気分が良いので教えましょう。あの部外者は今、町から離れた森で魔獣の餌になっていますよ」

 

「……は?」

 

 

魔獣の餌……?

魔獣を飼っているのか?

いや、だが魔獣は他の生物と意思疎通は取れない……人間からの指図は受けない筈だ。

そもそも国の法律で、魔獣は飼育禁止の筈なんだが……。

 

 

「その魔道具……素晴らしいでしょう?魔獣の死骸を元にした魔道具です。貴女達が殺した邪竜を元にしているのですよ」

 

「……見りゃ分かる」

 

「国に回収された邪竜の死骸、それを解析にと死体を焼かず、魔法ギルドに回したのは貴女でしたよね?どうですか、自らの首を絞めた感想は?」

 

「最悪な気分だ」

 

 

床に転がる俺を見て、魔法ギルド長のオーサムが嘲笑った。

 

 

「ふほほ、そうでしょう。更に最悪な気分になる話をしましょう……部外者は魔獣の餌になった、と言っていましたが……それも邪竜を元にした別の魔道具の所為ですよ」

 

「……お前、まさか、意図的に魔獣の集団暴走(スタンピード)を起こしたのか?」

 

「ご明察……さすがは姫様。邪竜の体液を使った香を炊きました。嗅いだ魔獣が凶暴化し、普段の数倍の力を発揮すると研究結果が出ています」

 

「……魔獣の研究までしてたのか。法律違反で極刑だな」

 

「ふほほ、そうですねぇ……ですが、バレなければ良いだけです。誰も私を咎められません」

 

 

しかし、喋りすぎだろ、コイツ。

どんだけ俺の事を馬鹿にしたかったんだ。

……それだけ俺の存在が、奴には気に食わなかったって事か。

 

現場を取り仕切って長年トップに立っていたのに、急に王族に介入されるってのは……それだけ、自らの地位が脅かされそうだと思った訳だ。

まぁ、その認識は正しいが。

実際、解雇(クビ)にしようとしてた訳だし。

 

 

「ふふほほほ、あの『勇者』を名乗る部外者が死ねば、貴女を守る者は居なくなります。そうなれば、我々は貴女を好き勝手にできる訳です」

 

「……うげっ、変態め」

 

 

気色悪い想像をして、俺は身を捩った。

 

 

「……何を勘違いしているかは知りませんが。やはり勇者に身売りをした売女というのは本当でしたか……いやはや、穢らわしい女だ」

 

「…………」

 

 

……コイツら、そういう認識だったのか。

下世話な奴らだな……。

身体は売ってねぇし……ユースケはそんな奴じゃない。

俺がバカにされた事より、ユースケがバカにされたって事実の方がムカつくな。

 

 

「邪竜の眼を使った魔道具があります。それを使い……貴女の記憶を抹消し、我々に都合の良い人形になって貰います」

 

「……良いのかよ、魔法ギルドの規約違反だろ。精神干渉ができる魔道具の開発を禁ずる……いつの間に規約が変わったんだ?ギルド長」

 

「何を言ってます?ギルド長である私がルールなんですよ……ふほほ」

 

 

勝ち誇った目で俺を見下してきた。

 

 

「……俺なんかより、よっぽど傲慢だろ。お前」

 

 

……あー、何でもかんでも喋ってた理由が分かった。

俺の記憶を抹消する……いや、もはや殺すつもり、か……確実に完遂するという自負があるのだろう。

……プライドだけが無駄に肥大化した老害って感じだ。

 

 

「まぁ、精々、残り短い時間を大切になさって下さい」

 

「……チッ」

 

「次に会う時は、『勇者』などという思い上がった愚者の死体と共に来ますからね。ふふ、その時、貴女がどんな顔をするか楽しみですよ……ふほほほ」

 

 

そうキッショイ笑い声を上げながら、階段を登り去っていった。

マジで煽るだけ煽って帰ったな。

……ああいう立場だけ高い奴は、妙にああして人と優劣を付けたがる。

貴族の全員がそうではなく、一部の話だが。

 

……しかし、今すぐに記憶を消去しない理由はなんだ?

こうやって、俺を生かしておくのはリスクがある筈だが……いや、そうか。

 

万が一、勇者が生きていた時に人質にしようってか。

狡い奴のことだ。

俺を保険に取っておきたいのだろう。

 

 

「……姫様」

 

「ん?」

 

 

黙っていたジェーンが、俺の側に寄ってきた。

耳元にその口を寄せて、小さく囁いてくる。

 

 

「……ここから脱出する手立てがあります」

 

 

マジか。

やっぱりウチのメイド凄いな。

 

 

「……どうやって?」

 

「……靴の下に軟性金属のピンがあります。それを変形させて鍵にします……使用すれば牢の解錠が可能です」

 

「……お前、腕と足を縛られてるだろ。俺がやるのか?」

 

「……いや、あの牢鍵に覚えがありますので、探らなくても私なら片手で作れます。解錠は姫様のお手を借りますが……」

 

 

……やっぱ忍者か何かじゃないの?

ウチのメイド。

普通のメイドはピッキングなんて出来ないよ。

 

 

「なら脱出できるか……だが──

 

 

いくつか、解決していない事がある。

 

 

「……この魔道具の腕輪は?」

 

「……申し訳ありません」

 

「……ジェーンを縛ってる縄は?俺の素手じゃ無理そうだぞ」

 

「……それは問題ありません」

 

 

縄抜けも出来るのか……って、違うな。

縄抜けできるなら、鍵を作って、俺に使わせる必要がないからな。

 

つまり──

 

 

「……俺だけ逃すつもりか?」

 

「……それが最善かと」

 

「……そんな訳ないだろ。却下だ」

 

 

俺はため息を吐きながら、石畳に転がった。

ひんやりと冷たく、傷に染みる。

 

 

「しかし……っ──

 

「……お前は侍女だろ。命を捨ててまで、俺を守る義務はねぇよ……」

 

「……それでも、私は……」

 

 

ジェーンが苦悶の顔を浮かべて、そして……懺悔するように項垂れた。

 

 

「……ジェーン?」

 

「……姫様、このような場では相応しくない話ですが、聞いて下さいますか」

 

「……どうせ暇だしな。聞くよ」

 

 

牢屋の中、ジェーンは眉尻を下げた。

 

 

「私は……姫様の母と面識があります」

 

「ん……?あ、そう……?」

 

 

そんな、深刻な顔で話すような内容ではな──

 

 

「……私は姫様の母の、妹なんです」

 

「……へぇ、親戚だったのか?」

 

 

それでも、驚くべき内容ではなかった。

いや、ちょっとは驚いたけど。

 

 

「……姫様の父親とも肉体関係があります」

 

「…………え゛」

 

 

流石に驚いた。

あのクソ親父何してるんだ、マジで。

当時の年齢だと……うわ、犯罪だろ。

 

 

「ですが、私は子を成す事が出来ませんでした……同じ侍女で、姉妹であるのに……私は」

 

「…………」

 

「……嫉妬していました。姉を。ですから……姉が病に苦しんでる時、私は……『何もしなかった』のです」

 

 

ジェーンは心底、辛そうな顔で目を逸らした。

俺の母親が死んだのは、病だったと聞いている。

……病が罹った状態で、碌な看病も受けられず、俺を産んだからだ。

母親の妊娠に関して、誰も知らず……侍女という立場のため、優遇もされず。

 

もし、手厚く看病してくれる妹が居れば……それは結果論だな。

 

 

「……姉が死んで、その姉が遺した娘……姫様の面倒を見る事になりました」

 

 

ジェーンが目を細める。

 

 

「……私が産む事のできなかった子供だと、そう勝手に思っていました……私は、貴女の母親……姉の命を奪っておきながら……その子供すらも盗んだ……」

 

 

言葉の節々に感じる罪悪感、後悔。

……本当に苦しんでいたのだろう。

だから今まで、俺に話せなかったのだ。

負目があったから。

 

 

「……ですから、こんな私など放って、姫様は逃げて頂きたく──

 

「……いいや、放ってはいかない」

 

 

俺は首を横に振った。

あぁ、確かに……今聞いた話は、ちょっとショックだった。

……そう、ちょっとだけだ。

俺が知らない所で、色々な事があったんだな……と。

 

 

「……姫様……ですがっ──

 

 

だが、まぁ……それでも。

 

 

「……俺は、俺の知らない事よりも、俺と一緒に居てくれたジェーンを信じてる。だから、放っては逃げられない」

 

「……姫様」

 

「……それにさ──

 

 

石畳に転がり、傷だらけの身体で、絶望的な状況で……それでも、俺は笑った。

 

 

「ジェーンは旅をしていた頃の俺達を知らないだろ?」

 

「……え?えぇ……はい」

 

「だからこそ、分かってない事がある」

 

 

頭上……地上で何かが壊れた音がした。

石か、煉瓦が砕ける音が響いている。

 

ジェーンが驚いた顔で上を向いた。

 

 

「……俺とユースケ。魔法使いと勇者。2人で旅をしてたから、互角の力量……もしくは、ほんの少し勇者が上か……ぐらいに考えてる奴が多いんだよな」

 

 

砕ける音、転がる音。

 

 

「でも、それは勘違いだ。ユースケは、戦闘面ならな……俺なんかよりも、ずっと強いんだ」

 

 

……それと、怒声。

 

 

「だから、舐め過ぎなんだよ。あのクソ老害も……ジェーンもな。アイツはな……みんなが思っている以上に、もっと凄い奴なんだよ」

 

 

爆発音やら、金属が砕ける音。

 

 

「俺の婚約者は魔獣程度でくたばるような奴じゃねぇ。そんで、ピンチには絶対に助けに来てくれる」

 

 

金属がひしゃげる音と共に、地下牢前の道が開いた。

 

 

「だからこそ、アイツは『勇者』なんだよ」

 

 

そこに居たのは──

 

 

「ミリア!ジェーンさん!二人ともっ、無事……って……」

 

「……おせーぞ、ユースケ」

 

 

俺の婚約者、勇者 ユースケだった。

鎧には魔獣の返り血が付着している。

 

 

「ミリ、ア……?」

 

 

そして、その目はボロボロの俺に向けられていた。

パンツ丸出しで、怪我をしている俺に。

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