【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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12話:勇者

僕が騙された事に気付いたのは、魔獣と相対してからだった。

 

魔獣は正気を失っていた。

感じる違和感、そして漏れ出ている威圧感。

……間違いなく、邪竜の系譜。

 

何らかの陰謀があると、僕は気付いた。

……ミリアが心配だ。

 

 

「すみません、兵士のみなさん。少し急いでいるので、僕は先に帰らせて貰いますね」

 

 

恐慌状態の魔獣を即座に切り伏せて、帰還しようとした。

しかし……付き添いで来ていた、領主の兵士が僕を引き留めた。

 

 

「……あ、あの、お召し物が汚れていらっしゃいますので、よければ洗いましょうか……?」

 

 

なんて、怯えながら聞いてきた。

僕があの魔獣達を難なく殺した事に、怯えているらしい。

 

だけど──

 

 

「すみません。急いでいるので、後にして貰っていいですか」

 

 

怯えながらも、そんな事を提案してくる。

その仕草に、僕は覚えがあった。

 

 

「しかし……」

 

「退いて下さい。邪魔すると怪我をしますよ」

 

 

嘘を吐いている人間の特徴だ。

これほどまで強力な魔獣が街の側に居た……というのは考えづらい。

長期的に滞在していたのであれば、街は既に崩壊していただろう。

それ程の強さだった。

 

 

「……そんな汚れた服装では領主様の前に出せません。大人しくついて来て下さい」

 

 

そんな魔獣を討伐したというのに、喜び一つなく……僕の足止めをしようとしている。

ならば──

 

 

「……警告はしたからね」

 

「えっ──

 

 

僕は目の前に立っている兵士、その胸当ての上を剣の柄で叩いた。

凡そ金属音とは思えない音が響いて……ひしゃげた鎧と共に、兵士は倒れた。

 

 

「勇者殿、御乱心かっ……!」

 

 

兵士達が武器を構える。

槍と剣が僕へ向く。

 

 

「……退いてくれたら何もしないよ。だから、退いて欲しいんだけど」

 

「このっ」

 

 

兵士の一人が僕を槍で突く。

その柄を受け止め、振り回せば──

 

 

「うわぁっ」

 

 

槍を掴んだ兵士ごと投げ飛ばし、木に衝突させた。

投げ飛ばされた兵士は轟音と共に地面に転がり……気絶した。

 

 

「あっ……」

 

「なんと──

 

 

周りの兵士から怯えが感じられる。

だけど、手加減をしている余裕はない。

 

 

「……時間がないんだ。ちょっと怪我して貰うよ」

 

 

そのまま、僕は地面を蹴った。

 

 

 

 

 

他の兵士達も無力化した。

付き添いで来ていた兵士達……こんな森の中に放っておくのは、少し可哀想だけど。

僕にだって優先順位がある。

 

彼等を森に捨て置いて、街まで駆ける。

 

本来、僕は馬車なんかよりも速い。

だけど、過ぎた力は恐怖の対象になるからと……普段は、人並みの振る舞いをしているに過ぎない。

 

かなり離れていたから、時間は掛かったけれど……領主の館まで到着した。

門は固く閉まっている。

 

その高さは2メートル程度……ならば。

 

 

「……っと」

 

 

僕は跳躍し、門を飛び越えた。

そのまま戸を開けて、中に入る。

 

揃いも揃って、入り口のロビーに集まっていた。

……出る前よりも兵士が多いな。

警戒体制って感じかな。

 

 

「お、おやおや、勇者様。森に行ったのでは……」

 

 

領主が僕へと話しかけてくる。

 

 

「魔獣は既に討伐しました。鎧に付いた血で分かるでしょう」

 

「しかし、他の兵は──

 

「彼等は後で帰って来ますよ……それよりも、僕の婚約者は何処ですか?」

 

「い、いや……それは──

 

 

目に見える怯え。

後ろめたさ……ではないな。

この場を何とか切り抜けようとする保身の目だ。

 

 

「……もう一度訊きますから、ハッキリと答えて下さい。ミリア……ミリアレーナ第九王女はどこに?」

 

「……ミ、ミリアレーナ様は、只今、お召し物の──

 

 

瞬間、僕は領主の首を掴んだ。

 

 

「りょ、領主様……!?」

 

 

戸惑う兵士を他所に、そのまま片手で持ち上げる。

 

 

「う、ごっ!?」

 

「……ごめん、これだと話しづらいか」

 

 

手を離して、床に領主を転ばせる。

咽せるような咳をしながら、領主が僕を見上げた。

 

 

「げほっ、ごほ……!?」

 

「ミリアは今、何処にいる?それ以外は何も喋らなくていい」

 

「そ、それは……その、ぎぁっ!?」

 

 

転がっている領主の手を、踏み付けた。

骨の砕けた音がしたが、気にしない。

これがもし僕の勘違いだったとしたら……なんて、少しも思っていない。

 

 

「……もう片方の手が無事の間に、答えた方がいいよ」

 

 

僕の視線に気付いた領主が、怯えた目を浮かべて……直後、顔を顰めた。

 

 

「へ……へ、兵よ!何をしているか!この狼藉者を殺っ──

 

 

最後まで喋る前に、僕はその顎を蹴り抜いた。

そのまま身体が宙に浮いて、壁に激突する。

……ちょっと、力加減が失敗したな。

まぁ、生きてれば問題ないか。

 

周りの兵士が殺気立つ。

……どこからどこまで、事情を知っているかは分からない。

突然、上司が殴られたから、怒る部下の気持ちは分かる。

ただ職務を全うしているだけで、僕に殴られる謂れのない奴だって居るだろう。

 

 

だけど、そんな事は関係ない。

 

 

「……ミリアレーナ第九王女の居場所を知っている人がいるなら、僕に教えて欲しい。怪我をせずに済むよ」

 

 

僕には優先順位がある。

 

民草の平和、この世界の安寧……名も知らぬ誰か。

うん、僕だってそれらを大切だと思う。

 

だけど、それ以上に……そんな事が些細に思えるほどに。

 

僕は身の回りの大切な人を優先する。

『勇者』なんて呼ばれているけれど、僕はそんな大それた奴じゃない。

 

自分の好きな女の子や、僕に良くしてくれた人を守るためなら……即座に切り捨てられるような薄情な人間だ。

 

だから──

 

 

「……そうか」

 

 

こうして武器を構えられても、落胆はしない。

あるのは……ミリアを助けなければならない焦燥感、ジェーンさんの無事を心配する心……そして、何より──

 

 

「……じゃあ、怪我して貰おうかな」

 

 

こんな状況になるまで気付かなかった、僕自身への怒りだ。

 

 

槍が迫る。

仲間が密集した狭い場所の戦いでは、武器の長さは有利にはならない。

取り回しの悪さは、致命的だ。

 

穂先をくぐり、素手のまま懐に潜り込む。

そのまま、金属製の鎧……その腹部を拳で叩く。

 

 

「ぐぶぉっ……」

 

 

金属が折れ曲がる音、骨が砕けた音、そして吐瀉音。

兵士が受け身も取れず、床に転がる。

 

 

「…………」

 

 

普段なら、倒れても大丈夫なように受け止めてあげるけど……そんな余裕は僕にはない。

 

 

「こうなりたくなかったら、早く話してくれると嬉しいんだけど──

 

 

剣先が迫る。

腕当てで受け止めて、そのまま弾く。

よろめいた兵士の足先を踏み、その靴ごと骨を砕く。

 

 

「ぎゃっ──

 

 

そして、腕を掴んで背負い投げの要領で投げ飛ばす。

だけど、僕の背負い投げは武術じゃない。

てこの原理だとか、体の構造だとか、そういうのは一切無視した力任せの背負い投げだ。

腕は脱臼して、骨も折れただろう。

地面に転がった兵士は頭を打ち、静かになった。

 

 

「……全員殴ったら、一人ぐらいは知ってるかな?」

 

 

独り言を呟きつつ、僕は一歩前に出た。

ショートソードを受け止め、短槍をへし折り、飛んできた魔力の塊を剣で切る。

そして、その担い手の身体を破壊する。

腕や足、腹など最低限の手加減はする。

だけど、確実に再起不能になって貰う為に、骨まで破壊させて貰う。

 

一人、二人と、まるで車に撥ねたかのように弾き飛ばす。

 

本気を出せば一瞬で全員を無力化する事はできる。

だけど、確実に皆殺しになる。

 

虐殺はダメだ。

ミリアが悲しむ。

 

だから、本当に最低限の加減だけして、一人一人を無力化して行かなければならない。

 

そうして、何人も撥ね飛ばせば──

 

 

「…………見つけた」

 

 

一人、ここから逃げ出そうとしている奴がいた。

髭の生えた兵士……立場も、平の兵士より高そうだ。

顔には火傷の痕……あれは腕の悪い回復魔法で治癒した痕か。

つい先ほど、負った火傷って所かな。

 

そして、目には怯え……しかし、何かしらの希望を持っているように見える。

 

……アレが『当たり』かな。

 

 

「…………それなら」

 

 

僕を囲っている兵士を、一気に吹っ飛ばして……逃げようとしている中年の兵士を追いかける。

 

 

「ひっ──

 

 

その男が悲鳴をあげるより早く、僕はその男の肩を掴み……壁に叩きつけた。

 

 

「ぎゃあっ」

 

 

壁にヒビが入った。

……いけない、手加減し損ねたかな。

 

まぁ、いいや。

そんな事よりも──

 

 

「ミリアはどこにいる?」

 

「し、知らなっ──

 

 

手に、力が籠る。

何かが砕ける音がした。

 

 

「ぎゃ、ああっ、肩が!骨が……っ!」

 

「その顔の火傷……ミリアが得意にしている電気銃(スタンガン)魔法の傷だよね。知らないとは言わせない」

 

「ス、スタ……?な、なにを言って──

 

 

剣を抜き、その足に間に置く。

 

 

「次は足の腱を切って、二度と歩けなくする。歩ける間に案内した方が、身の為だと思うけど」

 

「わ、分かった……!あん、案内する!ミ、ミリアレーナ……ミリアレーナ様は地下にいる!」

 

 

……腰を引きながら、中年の兵士が歩き出した。

真後ろに張り付いて、逃げ出さないように圧迫感をかけながら……ストレスから小走りにまっている中年の兵士を追いかければ、確かに地下の階段があった。

 

 

「こ、この下に居る!嘘じゃない、ほ、本当だ」

 

「そっか。案内ご苦労だったね」

 

「で、ではっ、私はここでぅごっ!?」

 

 

瞬間、僕はその兵士の腹へ拳を叩き込んだ。

内臓を大きく押し上げて、一瞬で気を失わせた。

 

油断していたのだろう。

突然の攻撃に身体も驚いたようで、失禁しながら床に倒れた。

 

 

「……さ、急がないと」

 

 

興味を失った僕は、地下への階段を下る。

石畳を踏みながら、そのまま降りて……ここは、地下牢か?

 

領主館にあるような物じゃない。

……しかも、埃もなく、使われた痕跡がある。

あの領主、やっぱり碌な奴じゃないみたいだ。

 

 

「……ミリア」

 

 

そして、そんな所にミリアが……怒りを奥歯で噛み締めて、足を進める。

焦燥感に背を押されて……行き当たりに、金属製の扉があった。

 

中には、人の気配……。

 

僕はその扉の隙間に指を入れて、力を込めた。

まるで悲鳴のような音を立てて、金属製の扉がひしゃげた。

 

人の気配は……見覚えのあるメイド服。

ジェーンさんと──

 

 

「ミリア!ジェーンさん!二人ともっ、無事……って……」

 

 

打ちのめされて、地面に転がっている……ボロボロの、ミリアだった。

 

 

「……おせーぞ、ユースケ」

 

 

その顔を上げれば──

 

 

「ミリ、ア……?」

 

 

顔面に殴打の跡。

頬は腫れているし、鼻からは血が出ている。

ドレスの破れ方からも、乱暴された痕跡があった。

 

その綺麗な絹のような肌に、多数の切り傷……擦り傷。

真っ白なシーツに、赤い染みが滲んでいるかのような……そんな、痛々しさ。

 

その様子に……僕は──

 

 

 

キレた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「……お、おーい、ユースケ……?」

 

 

俺の姿を見て、呆然としているユースケに声を掛ける。

まぁ、確かにボロボロだが……旅をしている最中、前衛だったユースケの方がボロボロだった時は多い筈だが。

 

 

「あ、あっ……ごめん、ミリア。すぐ拘束具を壊すよ」

 

「……おう、この腕輪、魔力を吸収するらしくて──

 

 

スパン!

と切断音が聞こえた。

 

その瞬間、ユースケは既に剣を抜いていた……そして、遅れて腕輪の魔道具が真っ二つに裂けた。

 

横を見ればジェーンの縄も切られていた。

その顔は恐怖に引き攣っていたが。

 

 

「さ、ここから出よう──

 

「バカ!切るなら切るって言え!ビビっただろうが!俺も、ジェーンも!」

 

「……気をつけるよ」

 

 

……ん?

いつもなら、『ごめん』って謝る筈なんだが……なんか様子がおかしいな。

 

俺は体内で治癒魔法を回しながら、首を傾げた。

擦り傷も、切り傷も治る。

ついでに口の中の傷も、傷んだ髪も。

 

やぶれたドレスは直せないし、ついた血や汚れは取り除けないが……肉体だけなら、元通りって感じだな。

 

俺はドレスの土埃やらを叩きながら……やべ、パンツが丸見えのままだ。

恥ずかしいが……仕方ないか。

そんな状況じゃない事は、分かってるし。

 

俺がため息を吐くと同時に、ユースケがジェーンへ手を伸ばした。

 

 

「ジェーンさん、立てますか?」

 

「え、えぇ……はい、大丈夫です」

 

 

荒事に慣れてないんだろう。

怯えた様子だが、手助けなく立ち上がった。

 

そんだけ怯えてたのに、俺を守ろうとしてたんだよな……感謝しないとな。

 

 

そのまま地下を出ると……あ、俺のことボコりやがった兵士が、失禁して転がってやがる。

腕が変な方に曲がってるが……これ、ユースケがやったよな?

こえーよ。

 

領主館の出口に向かって歩きつつ、ユースケへ情報共有する。

 

 

「ユースケ、黒幕は魔法ギルドのギルド長だ。あと多分、どっかのアホ貴族が関わってやがる」

 

「……そっか」

 

「あと、ここの領主も関わって──

 

「そいつは大丈夫。そこで寝てるよ」

 

 

ユースケが指を指した……その方向に、床に転がって手と後頭部から流血している領主がいた。

俺はギョッとして、ユースケに視線を向ける。

 

 

「こ、殺してないよな?」

 

「大丈夫だよ」

 

「ほっ、良かっ──

 

「あ、放っておいたら死ぬかもしれないけど」

 

「良くない!」

 

 

俺はそそくさと領主の側に寄り、回復魔法で最低限の治療を施した。

手は……まぁいいが、後頭部の流血……脳はちょっとアレだな。

命に別状はないが、放っておけば後遺症が残るレベルの大怪我だ……俺じゃなきゃ不味かっただろ。

 

応急処置のみを行い、ユースケへ目を向ける。

 

 

「他に、ヤバそうな奴は!?」

 

「居ないと思う。手加減したから」

 

「て、手加減……?」

 

 

周りを見渡す。

死屍累々とはこの状況を示すのだろう。

床に何人もの兵士が転がっており、時折、呻き声が聞こえる。

 

……ユースケ、ちょっと暴れ過ぎじゃないか?

いつもなら、怪我も最低限になるよう手加減してる筈だが……。

 

……それだけ焦ってたって事か。

俺が下手した所為じゃん。

 

 

「……まぁ、いいか。取り敢えず、援軍が来ないとも限らないし、ここから脱出を──

 

 

そう口にした瞬間、この領主館の入り口が開いた。

それはつまり、外側の来客が来たという事だ。

 

 

「随分と暴れ回ったようですね、姫様」

 

「……暴れたのは俺じゃねぇよ。クソじじい」

 

「飼い犬の愚行は飼い主の責任でしょう」

 

 

そこには何人もの兵士を共に連れた、魔法ギルドの長……オーサムが立っていた。

 

 

「随分と想定外はあったようですが、まだ取り返しは──

 

「話が長いよ。もう喋らなくていい」

 

 

ユースケが魔法ギルド長、オーサムの言葉を遮った。

 

 

「……躾のなっていない犬ですね。これだから、下賤の──

 

「関係ない。お前がやった事は許される事じゃない」

 

 

オーサムの眉間に皺がよった。

 

 

「一度ならず、二度も私の言葉を遮るとは……!」

 

 

……うわ、相性が悪いみたいだ。

というか、ユースケ……様子が変だとは思っていたが……なるほど、理解した。

 

めちゃくちゃ、キレてる。

 

旅してる時も1回……いや、2回は見たな。

強力な魔獣に腕を齧られてもユースケはキレないが、人の悪意が自分の身内を傷つけた時にキレる。

 

普段は温厚な奴をキレさせると怖いと言うが……まぁ、それはちょっと違う。

どんな事にも寛容なやつがキレるほどの許せない事……それが身に降りかかった時、誰だってキレる。

ユースケにとって、その許せない事というのは『身内が傷つけられること』なのだろう。

 

でも、俺が怪我した程度でキレ過ぎだろ。

……いや、まぁ、ユースケが怪我したら俺もキレるか?

うーん、勇者(ユースケ)が怪我するイメージが無さすぎるから、対比にはならないな。

 

なんて考え事をしていたら、ギルド長オーサムの横に、過度な装飾が施された鎧を着た兵士……いや、騎士が現れた。

 

 

「……無駄話はそこまでにして貰う、オーサム。その男は私が討つと言っただろう」

 

 

なんか凄い自信満々だが……なんか、腰に妙な剣をさしてるな。

次から次に偉そうな奴が現れる。

偉い奴しか回ってこない回転寿司かよ。

 

 

「この時を待っていたよ、ユースケ」

 

「…………」

 

 

でも……え、誰だコイツ?

ユースケの知り合い……?

あ、いや、待て、思い出せそう。

どっかで見た顔だ……。

 

困惑している俺を見て、偉そうな騎士が口を開いた。

 

 

「我が名はフェルナンド・ルーベル。再び、貴様に決闘を申し込ませて貰おう」

 

 

あ、思い出した。

商家上がりのルーベル家の息子だ。

身体が大きいからと騎士になって……で、ユースケと決闘してボコボコにされた騎士。

……この事件、魔法ギルド長の後押しをしたのがルーベル家の奴らか。

 

……こっそり隠れていればバレずに済んだのに、バカなのか?

あー……アレか、ここでユースケを殺して、俺を洗脳すれば何とかなると思ってるのか。

凄い自信だな……貴族ってのは皆こうなのか?

国主の娘として危機感を持っちまう。

 

 

「……僕は決闘を受けない」

 

「逃げるのか?勇者と呼ばれた癖に情けない奴だ、ハハハ」

 

 

何やら勝ち誇ったような嘲笑をしているが──

 

 

「いや、逃げはしない。だけど、騎士同士の決闘なんてルールにも則らない」

 

「……何をバカな事を言って──

 

「ただの悪党として、ここで打ちのめしてやる」

 

 

その瞬間、ユースケが一歩踏み込んで──

騎士、フェルナンドは腰の剣を抜いた。

 

それは剣……なのか?

刀身は赤黒く輝いている。

明らかに真っ当な剣じゃない、魔道具だ。

それは、まさか──

 

魔法ギルド長、オーサムが誇るように口を開いた。

 

 

「邪竜の牙で作った剣の魔道具、名付けて『邪竜剣』!飽和した魔力が持ち主の力を倍増させ、如何なる攻撃をも防ぐ盾となるのだ!」

 

 

……確かに、身体の周りに魔力が循環している。

本来、魔法使いでもない騎士が纏っていい魔力量じゃない。

強化魔法を自身に付与している……って考えていいな。

それも、高度な強化魔法だ。

俺がかける身体強化の魔法と同じぐらいだな。

それが魔道具から発せられてんだから……やっぱ、魔法ギルド長ってのは伊達じゃないんだな。

 

 

「無論、その剣自身の切れ味も、高度も強化されている……!そして、鎧も邪竜の鱗を砕いて作った特注品!ふほほほ、素晴らしいでしょう!」

 

 

全身、邪竜装備か。

そりゃ凄いが……なんか、呪いの装備っぽくね?

 

……つーか、そうか。

邪竜の香で凶暴化した魔獣をどうやって処分するのかと思ってたが、その剣で討つのか。

……で、勇者を殺した魔獣を討った騎士フェルナンドとして、巧名を得ると。

ついでに洗脳した俺を使って、その地位を盤石な物に……って訳か。

 

お粗末な陰謀だが、まぁ……。

 

後ろを見ると、ジェーンが絶望的な顔をしていた。

一般人でも感じ取れる邪悪な魔力……そりゃ、怖いか。

 

安心させるように手を握って、俺は笑みを浮かべる。

普通ならビビっちまうような状況だが……こんなの、大した事ない。

 

直後、フェルナンドがその邪竜剣を構えた。

 

 

「私が身にまとう装備は上等な魔道具……対して、貴様の装備は一般騎士の汎用装備。剣もただの鉄剣。しかし、卑怯とは言うまい」

 

「…………」

 

「騎士の強さとは、ただの力量ではない。その高貴、財力すらも強さなのだ。愚劣な装備で挑む、己の愚かさを──

 

「御託はもういいよ。さっさとやろう、時間の無駄だ」

 

 

ユースケが剣を構えた。

ただの鉄で出来た剣……全ての騎士に配られる汎用装備だ。

量産性を優先して作られた、ただの鉄剣。

 

 

「己の愚鈍を理解できないか……!それこそが、下等の証明だ!愚劣極まったな、部外者め!」

 

 

フェルナンドが剣を構えた。

邪竜の牙を使った剣……魔法ギルド長が作った強力な魔道具だ。

禍々しい魔力が溢れて、持ち主の力を増強している。

 

 

「…………」

 

 

互いに踏み込んだ。

そして、先に剣を振るうのは……フェルナンドだ。

 

 

「ここで、死ね!偽物の勇者よ!姫君は私のものだ!」

 

 

……なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたけど。

嫌悪感が背筋を通って……直後──

 

 

 

 

スパン!

 

 

 

 

と、何かが斬れた音がした。

 

 

「え?」

 

「は?」

 

 

呆けた声が聞こえた。

オーサムとフェルナンドの声だ。

 

くるくると、宙へ弾かれた何かが回転している。

 

そして、地面に突き刺さった。

それは……邪竜剣の、剣身だった。

 

 

切断したのは……ユースケだ。

ただの鉄剣で、邪竜の剣を寸断したのだ。

 

 

「……あーあ」

 

 

押収して、研究したかったんだけどな……。

俺はため息を吐いた。

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