【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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14話:父親

僕は今、非常に緊張していた。

強大な敵と戦うよりもはるかに緊張していたんだ。

 

 

「私が付いて来れるのはここまでです。後はユースケだけで行ってください」

 

「うん……」

 

「何か言われて、もしそれが嫌でしたら……別に従わなくていいからな」

 

「うん……え?ダメだよ、それは」

 

「いや、いい。俺が許す」

 

 

いつもの口調に戻ったミリアに背中を押されて、僕は城内の廊下を進んだ。

気が重い。

 

部屋数が減り……よくやく目的の部屋の前に立つ。

周りに人はいない。

 

僕は緊張で喉を鳴らして、ドアをノックした。

 

 

「入りたまえ」

 

 

低く、通る声が響いて僕は肩を浮かせた。

 

 

「し、失礼します……」

 

 

深呼吸して……緊張したら、手に人って書いて飲めばいいんだっけ……?

じゃなくて、ドアノブを捻って中へ入った。

 

簡素な部屋だ。

調度品に過度な修飾はない。

それでも、落ち着きのある品のある部屋だと思った。

 

そんな部屋で……ソファに一人の男が座っていた。

髭を生やした金髪の、初老の男。

 

ミリアの父。

つまり……国王陛下だ。

 

 

「……座りたまえ、勇者よ」

 

「……は、はい」

 

 

指示されるがまま、僕は向かいのソファに座った。

その表情は真剣そのものだ。

 

 

「こうして顔を合わせるのは、結婚式以来か」

 

「はい、違いありません……」

 

 

僕にとっては義父になる人だ。

だけど、会話したことは数えるほどしかない。

ぶっちゃけ、ほぼ知らない人だ。

 

そんな人が何故、僕を呼び出したのか。

それも公の場ではなく、こんな場所で……護衛も付けずに、二人っきりで。

 

 

「先日のザイオン領での事件。顛末は知っているか」

 

「いえ……申し訳ありません」

 

「いや、構わん。我が娘には話がいかぬように調整していた……お前が知らなくても仕方なかろう」

 

 

国王陛下が立ち上がり、何か……机に置かれた、魔道具を起動した。

それは内部で何かを擦る音がさせて、連結していたポッドに黒い液体が流れた。

匂いから珈琲だという事が分かった。

この世界ではあまり普及してない高級品だ。

 

 

「お前も飲むか?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

マグカップに国王自らが注いで、僕へと渡した。

お、恐れ多い……というか何故、陛下が自ら……?

 

 

「……不思議に思っているようだな」

 

「いえ……は、はい」

 

「趣味だ。淹れるところまで含めてな」

 

 

国王が口に含んだのを見て、僕も口に入れた。

うっ、当然だけどブラック……す、凄く苦い。

 

……直後、砂糖の入った瓶を目前に置かれた。

ちら、と国王を見ると少し笑ったように見えた。

 

僕は珈琲に砂糖を入れた。

 

 

「先ほどの話をしよう。あの馬鹿げた事件の首謀者であるザイオン領主、オーサム魔法ギルド長、ルーベル家、オイゲン家、バリオス家……これらの家から爵位を剥奪する事となった」

 

「……はい」

 

 

手を止めて、国王へ視線を戻す。

 

 

「そこまでは我が娘も知っているだろうが……ここからは知らない。そして、今後も教えるつもりのない話となる」

 

「はい……分かりました」

 

「単刀直入に話そう。首謀者当人、そしてそれに紐付く配偶者……一族郎党は処刑された」

 

「……っ、そう、ですか」

 

 

国王が自身の顎に手を当てて、僕へ目線を向けた。

 

 

「理不尽だと思うか」

 

「……いえ、仕方のない事だと思います」

 

「そうだ。己の命だけで償える罪であれば、己が信じる大義の為に大罪を犯す。己の命だけではなく、誇りも、愛も……守るべき者も。それらを罰としなければらない」

 

 

冷静に、冷酷にそう口にした。

そして、奥底が見えない目で僕を見た。

 

 

「我が娘は甘い。それこそ、この砂糖のように。適量であれば美徳であるが、過ぎたる量ならば毒となる」

 

「…………」

 

「だが、娘は国主となる訳でもない。甘い人間が居てもよい……だが、国は甘いだけでは立ち行かぬ」

 

 

僕の心の底を見透かすような、そんな目だ。

 

 

「国主の娘を手に掛けようなどという、思い上がった者は生かしてはおけない。命で償うべきだ。だが、その上で、当人の命だけでは償えない大罪だった。……だから、見せしめる必要がある」

 

「……仰る通りです」

 

 

国王が真っ黒な珈琲を口に入れた。

 

 

「……さて、今の話で分かっただろう。大罪は時に、当人の罰だけでは済まぬ事を」

 

「はい」

 

 

視線が鋭くなる。

 

 

「たった一人でほぼ全ての領兵を無力化し、魔道具を身に集めた騎士を討った。その功績は誰もが理解する」

 

「…………」

 

「だが、過ぎた力は恐怖の対象となる」

 

「……理解しています」

 

「もしお前がその力で……何か、自身で望まぬとも、騙られ、罪を犯した場合どうなる」

 

「……ミリア、ミリアレーナ第九王女に迷惑が掛かります」

 

「そうだ。その上で聞こう」

 

 

国王が机に上にマグカップを置いた。

 

 

「自身がまだ、我が娘の婿として相応しいと思うか」

 

 

威圧するような視線。

力では僕に劣るとも、立場が決定づけられる程の差を感じる。

 

そんな国王に、僕は──

 

 

「はい、僕以外に居ません」

 

 

首を縦に振った。

迷う事なく。

 

それは自信もあったけれど……何より、僕が守らなければならないと思ったからだ。

……いや、やっぱり願望かもしれない。

僕じゃなきゃ守れないなんていう独占欲かも……。

 

そんな僕を見て、国王は目を細めた。

 

 

「……そうか。ならば、励むといい」

 

「はい」

 

 

そして、僕は頭を下げた。

 

少しして顔を上げれば……国王が自身の珈琲に砂糖を入れた。

ほんの少しだけ、だが。

 

それを見て僕は、珈琲を口に含んだ。

……苦味の中に甘みがあった。

 

 

「……さて、これで国王としての話は以上だ」

 

「は、はい……ありがとうございまし──

 

「次は養父としての話だな」

 

「た?」

 

 

国王が立ち上がり……そして──

 

 

「勇者ユースケよ。娘を救ってくれて、感謝する」

 

 

頭を下げた。

慌てて僕も椅子から立ち上がり、膝を立てる。

 

 

「い、いえいえ!当然のことをしたまでで……!」

 

「それでも、娘の恩人に感謝の念を伝えられぬ程、私は愚者ではない」

 

「そ、それは分かりましたから……!」

 

 

なんとか宥めて、国王がまた椅子に座った。

この人、結構ハチャメチャだ。

掴みどころのない。

 

先程までの真剣な表情……と少しだけ違った顔を上げた。

 

 

「……まだ時間があるな。よし、少し世間話をしよう」

 

「は、はい」

 

 

ほんの少しだけ穏やかになった。

少し気が楽になって、僕は口に珈琲を含んで──

 

 

「私の孫はいつごろできる?」

 

「ごふっ」

 

 

咽せた。

 

 

「何をしてる?生息子でもあるまい」

 

「は、はい……そうですね」

 

 

いや確かに、今は夫婦なのだから『やること』をやってて当然だけど。

形だけの婚約者だというのは、国王は知らない筈だし。

 

 

「邪竜討伐の旅の間に、一度はしていたか?」

 

「い、いや、それは……」

 

「ふむ?では城に帰ってからなのか?」

 

「は、ははは……」

 

 

そこから、セクハラ気味の……いや、国王なのだから後継者問題とかもあるのか。

いやでもやっぱり、セクハラみたいな質問やら相談やらが何度か飛び出して、僕と国王の面会は終わった。

 

……ミリアが、国王のことをクソ親父って呼ぶ理由がちょっと分かった気がした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そわそわ、そわそわ。

 

 

「…………」

 

 

そわそわ、そわそわ。

 

 

「……姫様」

 

 

そわそわ──

 

 

「姫様。行儀が悪いですよ。少しは落ち着いてください」

 

 

王城、自室の中でぐるぐると回っていたら、ジェーンに叱られてしまった。

 

 

「だ、だって……心配だろうが!クソ親父とユースケが二人っきりなんだぞ?変な事されるかも知れないだろ!」

 

「いえ、変な事って……国王陛下はそんな人ではございませんよ」

 

 

なんで擁護するんだ、あんなクソ親父。

……そういや、ジェーン。

クソ親父とは男女の仲だった、って言ってたな。

 

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

「なんですか変な声を出して……」

 

 

椅子に腰掛け、机に伏す。

 

クソ親父にユースケが呼びされてしまった……その原因は分からない。

恐らく、魔法ギルドやら邪竜装備関連の話だろうが……。

 

心配なのだ。

ユースケは強いと言っても個人……国の意向には従わなければならない。

そして国の意向とは、国王の言葉そのものだ。

 

あんな密室で何か言われたら──

 

自室のドアが開いた。

慌てて、顔を上げてそちらを見れば──

 

 

「た、ただいま……」

 

 

疲れた顔をしたユースケが立っていた。

ジェーンがドアを閉めたのを確認して、俺は立ち上がった。

 

 

「ちょっ、おい!ユースケ!変な事されなかったか!?」

 

「え?変なこと……?されてないけど?」

 

「じゃあ変な事、言われなかったか?」

 

「変な……まぁ、変な事は言われてないと思う」

 

 

ユースケに掴みかかろうとして、ジェーンに引き留められた。

 

 

「じゃ、じゃあ……何の話だったんだよ。クソ親父がわざわざ呼び出すなんて」

 

「何の話って……えっと──

 

 

ユースケが自身の頬を掻いた。

返答に困っているようだ。

 

 

「ミリアを助けてくれてありがとう、って……頭を下げられたよ」

 

「……は?クソ親父が?」

 

「うん」

 

 

俺は腕を組んで、首を傾げる。

……あの家族愛とかなさそうな、クソ親父が?

俺がまだ国主の娘として価値があるから……なのか?

分からん。

 

 

「それで?他は?何か言ってたか?」

 

「他?他には……特に……あっ──

 

 

ユースケが焦りながら、目を逸らした。

何だ、その態度は?

俺に言いたくないような事があるのか?

 

 

「なんだよ?何言われたんだ」

 

「え?えっと……何でもないよ?」

 

「何でもなくない!ハッキリ言え、気になるだろ」

 

 

ユースケの脇腹を突くと、顔を歪めて……観念したような顔をした。

 

 

「……その、国王陛下がね?」

 

「おう」

 

「……孫はいつごろできる?って……」

 

「……おう?孫……?」

 

 

孫?

孫か……ん?

クソ親父の孫って事は……俺の、子供か?

 

つまり、俺とユースケの──

 

 

「なっ……!?何言ってんだ!バカ!」

 

「え、いやっ……国王陛下が言ってたんだって!」

 

 

顔が熱くしながら、思考は冷静になる。

世継ぎの話は、貴族にとって重要な話だ。

 

爵位や遺産は引き継がれる物だ。

次代の王へ代われば、俺は王の娘という立ち位置から、ただの公族となる。

つまり、俺とユースケに爵位が割り当てられる。

恐らく、王の血を引くため公爵家となるが……それは当代だけではなく、俺に子供が生まれれば受け継ぐ事となる。

 

確かに、クソ親父が気にしていても変ではないか。

 

……しかし、俺の子供か。

俺の子供って事は、ユースケと俺の……って事だよな?

 

 

「こ、子供……か」

 

 

つまり、俺がユースケと子作りするという事だ。

ベッドで肌を重ねて……って、想像すれば──

 

顔が熱くなるし、心臓もうるさくなる。

 

いや、いつかはそうなると覚悟はしていたが。

そうか、でもクソ親父が言うなら仕方ないか。

うん、仕方ない。

仕方ない……。

 

 

「……ユ、ユースケ?」

 

「……う、うん?どうしたの?そんなに改まって」

 

「……クソ親父は孫を早く作れって、言ってるんだろ?」

 

「え?いや、そういう意味ではなさそうだけど──

 

「なら、いつから子作りを……って、え?違うのか?」

 

「違うと思うよ。多分、世間話というか……そういう物だと思う」

 

 

また顔が熱くなる。

恥ずかしさ、ではなく怒りからだ。

 

 

「先に言え!バカ!」

 

「え、え?ご……ごめん?」

 

 

ユースケは何で怒られているかも分かっていなさそうだが、それでも謝罪された。

 

 

「まったく……」

 

 

誤魔化しながら俺は腕を組む。

眉間に皺を寄せているが……本当は初心な乙女みたいな内心をしている。

 

脳内でイメージしてしまった、ユースケとの……が、離れない。

 

発情期じゃあるまいし、思春期じゃあるまいし……こんな事で動揺してる自分を叱咤したい気持ちだ。

 

そんな俺を無視して、ユースケが首の後ろを掻いた。

 

 

「あの……ミリア?」

 

「ん?何だよ……さっきの話の続きか?」

 

「え、いや……その、明日の昼過ぎって予定空いてないかな?って」

 

「昼過ぎ?昼食後くらいか?」

 

「うん、その時間帯」

 

「えっと、確か──

 

 

上層部が入れ替えとなった魔法ギルドから送られて来た、契約の承認を──

 

 

「姫様は明日、お暇ですよ」

 

 

ジェーンが勝手に返答した。

しかも、嘘の返答をだ。

 

 

「は?おい、明日は予定が──

 

「なくなりましたよ、姫様」

 

「いつだよ……!俺、知らないんだが!?」

 

「つい先程です」

 

「はぁ……?」

 

 

本当にどういう理由か分からない。

しかし、予定がなくなったと言う。

俺はジェーンを訝しんだ目で見ていると、ため息を吐かれた。

 

 

「働き過ぎですよ、姫様。明日ぐらいは休んでください」

 

「いや、でもさぁ」

 

「いいですから、休んで下さい」

 

 

気まずくなって、腕を組んで目を逸らした。

 

 

「俺は最高責任者で、やる事があるんだよ」

 

「別に明日中ではないですよね?」

 

「そうだとしても、明日は──

 

 

ちら、とジェーンの顔を見る。

 

 

「……………」

 

「うぉっ……!?」

 

 

うわ、ジェーンが悲壮な顔になっていく。

こ、こわ……。

そんなに休ませたいのかよ、俺の事。

 

 

「姫様──

 

「だーっもう、分かった!休む、休むから!」

 

 

俺が折れると、ジェーンはいつもの笑顔に戻った。

……ジェーンとは元々、気安い関係だったが、あの街での事件以降、更に気安くなった気がする。

まぁ、別に嫌ではないけど……。

 

ため息を吐いて、ユースケへ目を向ける。

 

 

「……おい、予定空いたぞ」

 

「そ、そうだね……なんというか、ごめんね?」

 

 

ユースケが苦笑しながら謝った。

別に謝るほどの事ではないんだが。

まぁいい。

 

 

「それで?予定って?」

 

「えっと……その、行きたい場所があるんだ」

 

「行きたい場所ぉ……?俺とか?」

 

「うん、ミリアと……二人で」

 

「あ?あー……何処に行きたいんだ?」

 

 

先にどこに行きたいか教えて欲しいんだが。

行く場所によって良いか悪いか変わるだろ。

 

 

「えっと……城下町なんだけど」

 

「……城下町?」

 

 

俺は首を傾げる。

王族がわざわざ城下町に降りる事はない。

城の中で衣食住が完結してるからだ。

それに外で高貴な立場だってバレると面倒ごとになりかねないからな。

 

……まぁ、今着てるような豪華なドレスを脱いで、質素なワンピースを着ればバレはしないが。

実際、旅をしてる最中も指で数える程しか王族だってバレなかったし。

 

 

「んー……なんだ?欲しいものでもあるのか?」

 

「うん、欲しいものがあるんだ……ダメかな?」

 

 

……でも、その『欲しいもの』が何かは教えてくれないんだな。

少し不思議に思いながら、俺はため息を吐いた。

 

 

「まぁ、いいけどな。たまには、堅苦しい生活から抜け出すのも悪くないし」

 

「……そ、そっか!良かった……」

 

 

何が嬉しいのか、ユースケは嬉しそうに笑った。

……俺はその様子を見ながら、少し複雑な心境になっていた。

 

 

「……なーにがそんなに嬉しいんだか」

 

 

だってさ。

昨日の返事、返して貰ってないし。

 

結局、まだ俺の事が好きなのかどうか、分からないし。

 

……よし、決めた。

今回、俺と二人で出掛けるんだろ?

その間に……確かめてやる。

 

ユースケが俺を好きなのか……どうか。

 

俺が好きなんだったら、まぁ?

ちゃんと形だけじゃない夫婦になってやってもいいし。

 

俺が好きじゃないなら……その時は身を引いて、綺麗さっぱり諦めればいいだけだ。

それだけだ。

 

本当に……それだけ。

 

 

「…………」

 

 

なんて考えながら……本当は怯えながら、俺はユースケから視線を逸らした。

 

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