【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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2話:これから

「えっ、そうなんですか?さすが!凄いですね!」

 

「は、はは、ははは……」

 

 

横っ腹が痛い。

 

国王様との謁見があった日、その夜。

祝勝会だとか何とかで、夜会が開かれた。

 

こういう貴族が集まるパーティは、確かに何度か経験したけど……今日はいつもと違う。

邪竜討伐を祝して、って事で……僕が主役らしい。

 

偉い人から、次の偉い人へ。

休まる時間もなく挨拶を受けて、その後はこうして若い女性が集まってきていた。

 

お腹が空いたのに、ビュッフェ形式の料理に手を出す事もできない。

 

 

「ユースケ様は、お気になっている女性などいらっしゃられないのですか?」

 

「い、いやぁ……」

 

 

大臣だとか将軍だとか、偉い人達に囲まれるのも辛かったけれど……こうして、そのご息女達に囲まれるのも辛い。

 

若い未婚の、綺麗な女性がぐいぐいと迫ってくる。

その理由は何となく分かってる。

 

僕と近しい関係になれば、色々と恩恵があるからだろう。

家からの命令なのか、それとも本人達の打算的な感情なのか……どちらにせよ、そこにあるのは甘酸っぱい感情なんかではないだろう。

 

だから、辛い。

ただただ、辛い。

 

そもそも僕は、引っ込み思案なんだ。

日本に居た時からずっとそうなんだ。

綺麗な女の子に囲まれても、『嬉しい』よりも『気まずい』が勝つ。

そういう人間。

 

 

だから、その……。

 

誰か助けて……。

 

 

そう心の中で懇願していると──

 

 

ドアが開く音がした。

使用人達が通る裏口のドアではなく、大きな来賓用のドアだ。

夜会が開始されてから、時間が経過している今……遅刻して許されるような人物は数えるほどしか居ない。

 

 

「おぉ……ミリアレーナ様ではありませんか」

 

 

そう、王族ぐらいだ。

 

僕と一緒に旅をしてくれた女の子。

第九王女であるミリアレーナ・エルティナだ。

 

 

「お久しぶりですね。ダリア大臣」

 

 

話しかけてきた大臣……多分、偉い人にミリアは礼を返していた。

普段の彼女とは違う振る舞いだ。

貴族令嬢らしい可憐な振る舞いに、遠目で見ていた僕はドキリとした。

 

……それに、服装が。

他の令嬢達もそうだけど、こう、下品過ぎない程度に肌を見せるドレスを着ている。

そんな彼女に、周りの目が集まっている。

 

特に男達の……下卑た視線も混じっている。

 

僕は少し、不快感を感じた。

……彼女と特別な関係でもないのに。

 

 

「ユースケ様?」

 

 

ふと、目の前の、名前も覚えていない女の子に声を掛けられた。

 

 

「え?あ、ごめんね……よそ見して」

 

「いえいえ、構いませんわ。そんな事よりも、貴方の冒険譚の続きを聞かせていただけませんか?」

 

 

失礼な振る舞いをした僕に対して、それでもと話をねだる。

だけど、僕が何の話をしても「さすが」「すごい」「そうなんですね」しか言わない。

結局、僕の泥臭い思い出話なんてどうでもよくて、僕と仲良くなるために会話を続けさせようって気なだけだ。

 

憂鬱な気分のまま、それを表に出さないように頑張って……女の子に囲まれながらも会話を続ける。

 

視線だけで、ミリアを一瞥する。

彼女は完璧な対応で、お偉いさん達……それと見目麗しい男達との会話を捌いていた。

 

流石だな……なんて、感心しつつ、僕はまだつまらない会話を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が経過して、夜が更ける。

僕の周りを囲っていた女の子達も疎に減ってきて、ようやく解放されそうだ。

 

お腹は、かなり減っている。

並べられていた料理を取ろうと、机のある方に足を進めた……けれど。

 

 

「……あ」

 

 

料理の皿は片付けられていた。

お酒とか、小さな料理……お酒のつまみっぽいものが並べられていた。

 

もう、そういう時間は過ぎたって事だろう。

 

……まぁ、無いよりはマシ、かな。

お酒は好きじゃないし……というか、まだ日本にいた頃の感覚が抜けなくて、18歳である僕が飲むってのが罪悪感湧くから呑めないし。

 

このクラッカーっぽいものに、なんかよく分からない茶色い貝みたいなのが乗ってる奴を食べようかな。

 

そう思って、手を伸ばそうとして──

 

 

「ユースケ様。少し、良いですか?」

 

 

後ろから声を掛けられて、ビクリと肩を跳ねさせてしまった。

 

 

「う、うん。僕でよければ──

 

 

振り返ると、そこにはミリアが居た。

彼女も、人集りから何とか逃げられたみたいだ。

 

 

「夜風に当たりに行きませんか?」

 

「え、あっ……うん。そうし、う゛っ──

 

 

ガッ!とヒールで足を踏まれた。

僕が怪我をしないよう、軽く……それでも結構痛かった。

 

そして、その意味が理解できないほど僕はバカじゃなかった。

慌てて、言い直す。

 

 

「は、はい。喜んで、お供させて頂きます……」

 

 

今度は足を踏まれなかった。

 

 

「では、行きましょうか」

 

 

王族という立場。

勇者という立場。

 

どちらが上か……それは王族であるべきだ。

王族に勇者が無礼を働いてしまったら、周りの人間に示しがつかない。

 

だから、ミリアの『足踏み』は必要だった。

彼女が不快だからではなくて、僕の立場が悪くならないように注意してくれたのだ。

 

彼女と……そのメイドに連れられて、僕は広間を離れた。

まだ何も食べてないのに……。

 

 

 

そうして、バルコニーにまで来た。

少し冷たい夜風を吸って、吐き出した。

 

そんな僕を、ジトっとした目でミリアが見ていた。

 

 

「……礼儀には気を付けろよ?俺は構わないが、周りはそうとは思わないからな」

 

「うっ、申し訳ありません……」

 

「……今は、別に他の奴らの目もないし、いつも通りで構わねぇよ」

 

「あ、はい……うん。うん?」

 

 

メイドさんが、少し離れた場所からこっちを見てるけど……それは良いのだろうか?

 

 

「ん?アイツか?ジェーンは良いんだよ。結構、融通が効くし」

 

「あ、そうなんだ」

 

 

ジェーンさんって言うんだ。

まぁ、彼女が良いって言うなら、僕は別に良いけど……。

 

 

「んな事よりさ」

 

「うん」

 

「お前、良さそうな女は見つけたのか?」

 

「えっ……?な、何が?」

 

 

僕の返答に、ミリアは目を細めた。

 

 

「決まってるだろ、結婚相手だよ」

 

「結婚、相手……」

 

「それぐらい自覚あるだろ。この世界で、これからも生きて行こうって言うのなら、立ち振る舞いは重要なんだよ。『勇者』サマにはな」

 

 

ミリアがメイドのジェーンを手招きした。

そして、彼女の手元にグラスが渡された。

……広間の方でも見かけた、お酒だ。

 

 

「国としては、お前みたいな強い奴を野放しにしたくない訳だ。国益に繋げるためにも、どこかの貴族令嬢に繋いでおきたいってわけだ」

 

「あ、なるほど……」

 

 

確かに今日の夜会で、女の子に囲まれていた理由……それは個人や、その家の思惑かと思っていたけど……話は僕が考えている以上に大きな物だった。

そっか……国、か。

 

……なんだか実感が湧かないけど。

 

 

「どうせ結婚するなら、顔が好みの女を選べばいいぜ。性格は似たり寄ったりだからな」

 

「顔って……」

 

「あ、もしくは身体か?」

 

「か、からっ……!?」

 

 

僕は咽せた。

あまりにも下品な会話に咽せてしまった。

 

 

「そういうのは大事だろ?お前は国の英雄だし。好きな女を選んで嫁にすりゃいい。その方がストレス湧かねぇだろ」

 

「で、でも……そういうのって、もっとこう、お互いを知り合ってから順序を踏んでさ……?じゃないと、相手に失礼だと思うんだけど……」

 

「……はぁ。難儀な性格してるよ、ホントに」

 

 

ミリアが口に酒を含んだ。

そして、バルコニーの手すりにもたれ掛かった。

 

 

「お前……知らない土地に誘拐されて、無理矢理戦わされたんだぞ。それで、帰ってきたら約束も反故にされちまった」

 

「……それは、うん。そうだけど」

 

「女ぐらい好きに抱けよ。相手もそれを望んで、お前に声掛けてんだからさ。みんながハッピーだ。それでも迷うなら、妾でもテキトーに作れば良いだろ」

 

「め、妾って……」

 

「俺は第九王女……妾の娘だぞ?そういう価値観なんだよ、『ここ』はな」

 

「…………」

 

 

夜風が身体を冷やす。

どうしようもない不条理のようなものを、ただただ感じていた。

 

 

「あー、悪いな。俺も説教したかった訳じゃないんだ……お前とちょっと息抜きしたかっただけだ」

 

「……ミリアもさ、やっぱりああいう場所って苦手なの?」

 

「当たり前だろ?お前と旅でバカやってた方が楽しかったよ」

 

 

僕は何も言えなくなった。

彼女も嫌なのに……それでも、完璧にこなしていた。

少なくとも、僕から見れば。

 

それに比べて僕は──

 

 

「姫様、取り置きの料理をお持ちしました」

 

「ん、ご苦労。気が効くね」

 

 

ミリアがジェーンさんから料理の乗った皿を手渡されていた。

それは、夜会の最初の方にあった食べ応えのありそうな料理だった。

 

 

「ミリア、それって……」

 

「ん?あー、俺って一応、公族だろ?昔からパーティに出席しても忙しくてさ、料理を食える立場じゃなかったんだよ」

 

「うん」

 

「だからこうして、取り置きして貰って、後で食ってる訳だ」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

 

ミリアと出会ってから、2人で邪竜討伐の冒険に出かけるまで……それほど長い期間はなかった。

だから、彼女の王城での日常なんて知らない。

 

僕の知らない一面を、今、知る事が出来た。

 

 

彼女がフォークで、鶏肉っぽいものを口に含んだ。

その様子を見ていたら──

 

 

「……ん?なんだよ?」

 

「あ、いや……美味しそうだな、って」

 

「食い意地が……って、そうか。ユースケ、お前も食えてなかったのか?」

 

「うん。まぁ、それはそうだけど」

 

「ふーん」

 

 

彼女が皿の上でフォークを揺らした。

右に、左に……悩むような仕草をした後──

 

 

「お前も食うか?」

 

「……貰えるなら貰いたいかな」

 

 

まだ取り置きの料理があるのかな?

ジェーンさんに取ってきて貰って──

 

 

「ほれ、食え」

 

「え?」

 

 

フォークが。

鶏肉っぽものが、僕の前に突き出されていた。

 

え?

あれ?

彼女の取り皿分しか、取り置きはないの?

って、いや、そんな事よりも──

 

 

「口開けろ。手が疲れるだろ」

 

「あ、あーん……?」

 

 

言われるがまま口を開ければ、そこに鶏肉もどき突っ込まれた。

口の中で果物に酸味と、肉の旨みが広がる。

 

 

「美味いだろ?」

 

「……う、うん。美味しいよ」

 

 

間接キス……きっと、ミリアは気にしていないだろうけど。

僕はその事実を受け止めきれずにいた。

 

そして──

 

 

「なら良かった」

 

 

表情を緩めたミリアに……顔が、熱くなる。

 

夜風に静かに揺れる、彼女の髪。

お酒で少し上気した肌。

身体のラインを強調するドレス。

 

化粧の所為か、いつもよりも魅力的に見える。

 

そんな彼女に、僕は見惚れていた。

 

 

「もうちょい食うか?」

 

「……い、いや、もういいかな」

 

「ふーん……後で、お前の部屋にパンでも送ってやるよ。それで腹でも満たしとけ」

 

「……あ、ありがとう」

 

 

だけど、彼女の性自認は男だ。

……こうして、ドキドキしてしまうのも彼女にとっては迷惑だろう。

 

罪悪感を感じる。

 

好きな女と結婚すれば良い……だなんて。

そんなこと、絶対に出来ないのに。

 

 

「話は変わるけどさ……ユースケはさ、こんなパーティより旅してた方が楽しかったよな?」

 

「え?それは……うん。そうだよ」

 

「……そうだよな」

 

「うん……」

 

 

ミリアが、皿の上に乗った最後の一口を食べた。

 

 

「お前が望むならさ、旅に出たって良いんだぞ。クソ親父は、俺がなんとか説得してやるからさ」

 

 

その言葉は少し魅力的に感じた。

だけど、今の言い方は──

 

 

「だとしても……ミリアはさ、どうするの?」

 

「俺か?俺はこの国に残るよ」

 

「残るの?」

 

「こんなんでも、俺を育ててくれた恩はあるしな……そんな非行少年みたいな家出はできねぇよ」

 

 

……やっぱり、彼女は着いてこないらしい。

だったら、僕は1人で旅をするのか?

 

そんなの──

 

 

「じゃあ、僕も残るよ。ミリアと一緒じゃないと楽しくないし」

 

 

そう本心を口にして……恥ずかしいこと言っちゃったな、と気付いた。

……ミリアの顔を見るのが怖い。

 

 

「お前さ……気を付けろよ?そういう事言ってると、告白だって受け取られかねないぞ」

 

「え、あ、ソウダネ……」

 

「お前にその気がなかったとしてもなぁ……相手がどう取るかは別だぞ。女性トラブルだけはやめてくれよ?勇者サマ」

 

「気を付けるよ……はは、は」

 

 

ミリアの顔を見た。

 

この世界は科学文明が発展していない。

だから、このバルコニーに電飾なんてなくて……あるのは月の明かりだけだ。

 

だから、光を放つ魔道具が置いてある広間に比べて、暗いんだ。

 

だから、きっと……気の所為だろうけど。

見間違いだろうけど。

 

ほんの少し、彼女の頬が赤くなっているように見えた。

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