【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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4話:ちょっと遠出

婚約者探しの夜会の頻度は少し下がった。

助かった……と思いつつも、少し気になる事がある。

 

夜会中、ミリアはいつもの王族らしい振る舞いをしているけれど……僕と抜け出すと、途端に不安が透けて見える。

 

正確には元気に振る舞っているけれど……不安そうな感情が見えてしまっている……といった様子だ。

嫌な事があったのだろうか。

 

それが何日も続くから、僕は彼女に質問したけれど──

 

 

「お前が気にするような事じゃねーよ。俺のことよりも、さっさと婚約者を決めろ。バカ」

 

 

と言われてしまった。

 

 

そんなこんなで彼女の不安を探れないまま、一週間経ち……邪竜討伐後のお祭りのような空気感も薄れて、街の活気は日常へと移っていった。

 

僕も客人という立場から、騎士団所属となり、『勇者』というよく分からない立場に入れられた。

まぁ、騎士団の人達は気のいい人達だし……嫌ではないけれど。

 

そういう訳で少し遠方へ、魔獣狩りの仕事をする事となったのだけれど──

 

 

 

座り心地のいい、邪竜討伐時よりも上等な馬車に、僕は揺られていた。

その正面には……肘を付いている、薄い金髪の少女……。

 

ミリアだ。

 

今回の魔獣狩りは、特定の魔獣を狩る話ではない。

邪竜討伐後に魔獣が活性化した地区があるらしく、そこの魔獣の数を減らしてくれ……との命令だ。

 

規模は不明だけれど、いたずらに騎士団を派遣するより、勇者である僕だけで討伐した方が早いと思う。

多分。

 

それはこの任務を命令してきた騎士団長も理解していた……筈だったけど。

 

 

「……こうしてると、旅してた頃を思い出すな」

 

「……まだ一ヶ月も経ってないけどね」

 

「分かってるよ、んな事は。それでも……随分と立場が変わっちまっただろ?」

 

 

僕の活動を監督する者が必要だったらしい。

まぁ、あんまり国から信用ないんだろうね……僕。

それを騎士団長が予定していたのだけれど、ミリアが割り込んで来たんだ。

 

「ユースケと組むなら、俺の方が効率的だ」

ってね。

 

騎士団長は反対してたけど、王族の権限か何かで無理やり押し通して、こうして久しぶりに二人で王城の外に出ている。

多分、彼女も息抜きしたかったのだろう。

 

自然体で、向かいに座っている。

服装も王城での可憐なドレスではなく、旅をしていた時に着ていた動きやすいコートとズボンに、魔道具のケープを羽織っていた。

 

僕の見慣れたミリアの服装……その筈なんだけど、最近はドレスを着る事が多かったし、少し違和感がある。

 

 

「……ユースケはさ。今も元の世界に帰りたいか?」

 

 

ふと、そんな事を訊かれる。

 

 

「……どうだろう。分からないや」

 

 

だから、正直に答えた。

確かに帰りたい気持ちはある。

こうして魔獣狩りなんかするのは良いけど、王城で婚約者探しの夜会をするなんて……気が休まらないし。

ここから逃げ出したくもなる。

 

 

「……俺は、嫌な事が沢山あるとさ。逃げたくなるよ」

 

「それは僕もだよ」

 

 

だけど、それでも……ミリアと離れたくないという気持ちもある。

少なくとも、僕には分からない彼女の悩みが解決して……笑って別れを言えるぐらいにはならないと帰れない。

 

 

「お前は偉いよ、ユースケ」

 

「……そんな事ないよ」

 

「いいや、偉い」

 

「ミリアの方が偉いでしょ」

 

「……んな事ねぇよ」

 

 

少し、気まずい。

旅をしていた頃は、二人……あんなにバカみたいな話で騒いでいたのに。

 

二人、黙って……時々、他愛もない話をした。

 

それは行き先である山沿いの開拓村に着くまで、続いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「いけっ!≪ウィンド・カッター≫!」

 

 

俺は魔力を練り上げて、魔法を繰り出した。

風の断層を刃として射出する魔法だ。

 

普通の人間が使えば、肉程度までしか割けない斬撃魔法だが……才能溢れる俺が使えば、大木ごと魔獣を真っ二つに出来る一撃必殺の魔法になる。

 

周りの木ごと猪型の魔獣を真っ二つにした俺は、息を深く吐いた。

どうやら、鈍ってはないみたいだ。

 

 

そして、ユースケの方を見れば──

 

 

木々をすり抜けるように走り、全く減速せずに猪型の魔獣を2体……いや、3体両断していた。

……やっぱりすげーな。

 

正確さも、速さも、威力も……俺より上だ。

 

 

「ふぅ……」

 

 

ユースケは返り血すら浴びず、汗すらかいていない。

いや、俺も返り血は浴びていないが……それは遠距離から魔法で駆逐してるからだ。

 

至近距離で剣を振るって、跳ねた血を避けつつ次の魔獣を狩ってる奴とは難易度が違う。

 

 

周りには魔獣の死体がひぃ、ふぅ、みぃ……えーっと、沢山。

朝から晩まで狩りまくってたし、少なくとも30は殺したな。

血の臭いにつられてやってきた大型の魔獣もブッ殺したし、これで結構、脅威は減るだろ。

 

魔獣とは魔力を帯びた獣……通常の動物に比べて、凶暴化した奴らだ。

数はそんなに多くはない。

 

だからこうして、見える範囲で間引いとけば、それだけで十分だ。

狩り残しぐらい、開拓村の自警団か、冒険組合の日雇い冒険者どもが何とかするだろ。

 

 

「うし、今日はここまでにすっぞ。ユースケ」

 

「うん、そうしよっか。暗くなるし」

 

 

身体を動かせば、ちょっとは気持ちも晴れた。

現実逃避とも言う。

 

太陽は傾き、空は茜色になっている。

 

夜になれば魔獣の危険性も上がる。

アイツら、夜目が効くんだよな。

 

俺は魔獣の死体を炎魔法で焼く。

こうやって損壊させないと、コイツらゾンビみたいなモンスターになるんだよな。

 

食えたもんじゃないし、こうやって焼くに限る。

魔法の炎なら管理も効くし、山火事になる事もなくて楽だ。

 

 

「よし、後始末完了。村に帰るか」

 

「そうしよっか」

 

 

しっかし、ユースケも慣れたもんだ。

元々、平和な日本に居たってのに、こうやって魔獣を殺しても平然としていられる。

まぁ、魔獣って……普通の動物と違って、結構キショい見た目してるからってのもあるだろうけど。

 

精神的にも、肉体的にも。

旅に出る前より成長したんだな。

 

一緒に旅をしている間は余裕がなくて実感しなかったけど、歳も取って……最初の幼さが残るガキだった頃が懐かしいよ。

 

 

 

 

開拓村に戻ったら、宴会が開かれた。

せめて何かを返したいという村人達の感謝の気持ちだ。

泊まらせてもらう立場だし、参加するしかない。

 

兎肉のステーキやら、シチューやら。

城では食えない庶民料理……いや、庶民の贅沢料理を口にした。

 

あ、ちなみに俺が第九王女って話を、彼等は知らない。

勇者の側で一緒に旅をしていた女魔法使い……それがこの国のお姫様だってのは、貴族ぐらいしか知らない話だ。

下手に王族だってバレると、トラブルの元だからな。

 

 

 

 

宴会も終わって、俺達は村にある客用の家に泊めて貰う事となった。

掃除は既に済んでいたし、元から用意してたんだろう。

 

それは良いのだが──

 

 

「おい、ベッドが一つしかねーぞ」

 

「……うわ、本当だ」

 

 

二人で寝られるぐらいデカいベッドが一つ。

夫婦用だろ、こんなの。

 

……あー、なるほどな。

村人ども、特にあの女の村長の生暖かい視線、その理由が分かった。

 

 

「……チッ、アイツら、俺達のことカップルだと思ってんな。吟遊詩人の所為だろ、これ」

 

「吟遊詩人……?え、僕らのことを、歌ってる人いるの?」

 

「邪竜討伐の話を面白おかしく歌ってるんだよ。歌の中じゃ、勇者と女魔法使いは恋仲……ってのが通説らしいぞ」

 

「え、あ、そ、そうなんだ。酒場に行かないから知らなかった……」

 

「酒飲まないもんな、お前」

 

「まぁ、うん……」

 

 

ドギマギしてるユースケにため息を吐いて、俺はベッドに腰掛けた。

 

俺とユースケはそういう仲じゃねぇってのに……こうして勘違いする奴が多い。

元男だと分かってる女に惚れる男が居る訳ねぇだろ。

 

 

「ていうかさ。なんで、お前、酒飲まねぇの?」

 

「う、なんだかまだ、あっちの法律が頭を過ぎっちゃってさ?」

 

「……帰る気ないなら、少しは飲めるようになった方がいいぞ。夜会で酒を勧められる場面も来るだろうし」

 

「それはそうだけど……」

 

「郷に入っては郷に従え、だろ?って訳で──

 

 

俺は自分の鞄を開いて、ピンク色の液体が入った瓶を取り出した。

 

 

「ほら、果実酒だ」

 

「えっ!?……何で持ってるの?くすねたの?」

 

「バーカ、村長から貰った奴だよ」

 

 

村長が「勇者様、お酒飲まないんですね」とか言ってきたから、「人前では飲めないんだよ」と嘘を吐いた。

大人なのに酒が飲めないってなると舐められるからな、この世界。

 

そしたら気を効かして、「では是非、このお酒を二人でお飲み下さい」とか言って渡してきた。

 

好意は素直に受け取るもの。

ってな訳で、貰ってきた酒だ。

 

決して飲み足りなかったからラッキーって思った訳ではない。

 

 

「なんの果実で作った酒かは知らんが……」

 

 

蓋を開けて、少し口に含む。

甘い……が、酒だな。

バナナっぽい味がするが……うん、飲みやすい。

 

 

「おう、飲みやすいタイプだし、お前の酒デビューには丁度良いだろ」

 

「えっ……飲むの?僕が?」

 

「あーん?俺の酒が飲めないって言うのか?」

 

「そんな典型的なアルコール・ハラスメントみたいな台詞を……」

 

「この世界に『アルハラ』なんて言葉はねぇよ。残念だったな」

 

 

俺がずい、と酒の入った瓶を渡すと、ユースケがちょっと引いたような顔をしつつ、顔を赤らめた。

……まーだ間接キスだの何だの気にしてんのか?

 

 

「……飲まなきゃダメ?」

 

「いや、別に……マジで嫌なら飲まなくて良いけど」

 

 

冗談めかして酒を勧めてはいるが、本気で嫌がっているなら無理やり飲ませるつもりはない。

この世界で生きていくなら、酒を経験しておいた方が良いだろって話。

それと……もう前の世界には帰る気ないんだろ?って確認だ。

 

……ちょっと小狡い試し行為をしてる自覚はある。

少し自己嫌悪していると……。

 

 

ぐいっ、と。

 

 

ユースケが酒を口に含んだ。

そして──

 

 

「げほっ、ごふっ」

 

 

咽せた。

 

 

「あー……一気に口に含み過ぎだ」

 

「う、うぅ……」

 

 

そうして今度はちびちびと酒を飲み始めた。

……まぁ、初めてだし、こんなもんか。

 

 

「……って、おい。俺にも寄越せ」

 

「あ、ごめん」

 

 

瓶を奪って、俺も酒を口に含む。

……クッソ甘いな。

色もピンクだし……何の果物だ?これ。

 

まぁ、美味いが……。

 

ふと、視線をユースケに向けると顔を赤くしていた。

 

 

「……おい、ユースケ。顔赤いぞ」

 

「え?あ、そうかな……」

 

「もう酔ったのか?」

 

「いや、そうじゃないと思うけど……いや、そうかも。酔ってるかも」

 

「どっちだよ」

 

 

そんなに度数は高くなさそうなんだが……いや、確かに、なんか身体が熱いな。

アルコール……ってより、多分、元になった果物の効能だな。

 

……あー、確かに、そんな果物あった気がする。

この開拓村がある周辺で……えっと、何だったか。

身体があったまる以外にも効能があった気が──

 

 

「……ユースケ?」

 

「…………」

 

 

何だか惚けた顔をしている。

心ここに在らずって感じだ。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

心配になって、側により肩に手を置く。

 

 

「……え?あ、うん……だいじょうぶ」

 

「大丈夫じゃねぇだろ。呂律が回ってねぇぞ」

 

 

最初に、大量に口に含んだのが良くなかったか?

咽せてはいたけど、ちゃんと飲んでたみたいだし──

 

 

「……ミリア」

 

 

突然、俺の方に手が伸びた。

 

 

「えっ、は──

 

 

そして。

 

 

 

 

ぎゅぅ、と。

 

ユースケに抱きしめられた。

 

 

「あ、おい……!何やってんだ!」

 

「…………すごい、良い匂いする」

 

「か、嗅ぐな!バカ!」

 

「…………」

 

 

突然のことに怒鳴るが、ユースケは黙ってしまった。

その表情は見えない。

 

 

「おい、黙んな!っ、つーか、どこ触ってっ──

 

 

むにぃ……と、尻を揉まれた。

 

 

「ひゃんっ……!?」

 

 

俺らしからぬ、声が漏れる。

何だか凄く、変な感じがした。

普通に触れられただけでは、そうはならないだろ……ってぐらい、感覚が過敏になっていた。

 

混乱しつつも、突然ユースケがこうなった原因を探考える。

どうしてしまったのか……って、理由は一つしかない。

あの酒が原因だろ。

 

でも酔っ払ったってよりは……こう、なんだ?

『発情』してる感じだ。

取り返しのつかない事をするつもりはないようだが、手の感じ、触り方がこう、いやらしい。

 

……そこでようやく思い出した。

この辺で取れる果物……桃みたいな見た目の果物。

非常に甘く、食べれば身体があったまる……そして、発酵させれば『媚薬』になる。

通称は『ラブフルーツ』、そのまんまの名前だ。

 

 

村長の……あんの、アホ女〜っ!

俺たちがカップルだと思って、要らない気を回しやがって!

場合によっては犯罪だぞ、これ!

 

だがしかし、俺なら対処できる!

不幸中の幸いだが、俺は天才魔法使いだ!

媚薬が回っていたとしても、魔法を使うぐらい難なくできる!

 

魔力を込めて魔法を構築する。

 

使うのは、解毒魔法。

こういう効能にも効く魔法だ。

 

それを体内で回して、自分にかかってる『媚薬』の効能を飛ばす。

 

そしてそのまま、手のひらに込めて──

 

 

「どこ触ってんだ!バカ!」

 

「へぶっ……!?」

 

 

ユースケの顔を、思いっきりビンタした。

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