【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話 作:WhatSoon
婚約者探しの夜会の頻度は少し下がった。
助かった……と思いつつも、少し気になる事がある。
夜会中、ミリアはいつもの王族らしい振る舞いをしているけれど……僕と抜け出すと、途端に不安が透けて見える。
正確には元気に振る舞っているけれど……不安そうな感情が見えてしまっている……といった様子だ。
嫌な事があったのだろうか。
それが何日も続くから、僕は彼女に質問したけれど──
「お前が気にするような事じゃねーよ。俺のことよりも、さっさと婚約者を決めろ。バカ」
と言われてしまった。
そんなこんなで彼女の不安を探れないまま、一週間経ち……邪竜討伐後のお祭りのような空気感も薄れて、街の活気は日常へと移っていった。
僕も客人という立場から、騎士団所属となり、『勇者』というよく分からない立場に入れられた。
まぁ、騎士団の人達は気のいい人達だし……嫌ではないけれど。
そういう訳で少し遠方へ、魔獣狩りの仕事をする事となったのだけれど──
座り心地のいい、邪竜討伐時よりも上等な馬車に、僕は揺られていた。
その正面には……肘を付いている、薄い金髪の少女……。
ミリアだ。
今回の魔獣狩りは、特定の魔獣を狩る話ではない。
邪竜討伐後に魔獣が活性化した地区があるらしく、そこの魔獣の数を減らしてくれ……との命令だ。
規模は不明だけれど、いたずらに騎士団を派遣するより、勇者である僕だけで討伐した方が早いと思う。
多分。
それはこの任務を命令してきた騎士団長も理解していた……筈だったけど。
「……こうしてると、旅してた頃を思い出すな」
「……まだ一ヶ月も経ってないけどね」
「分かってるよ、んな事は。それでも……随分と立場が変わっちまっただろ?」
僕の活動を監督する者が必要だったらしい。
まぁ、あんまり国から信用ないんだろうね……僕。
それを騎士団長が予定していたのだけれど、ミリアが割り込んで来たんだ。
「ユースケと組むなら、俺の方が効率的だ」
ってね。
騎士団長は反対してたけど、王族の権限か何かで無理やり押し通して、こうして久しぶりに二人で王城の外に出ている。
多分、彼女も息抜きしたかったのだろう。
自然体で、向かいに座っている。
服装も王城での可憐なドレスではなく、旅をしていた時に着ていた動きやすいコートとズボンに、魔道具のケープを羽織っていた。
僕の見慣れたミリアの服装……その筈なんだけど、最近はドレスを着る事が多かったし、少し違和感がある。
「……ユースケはさ。今も元の世界に帰りたいか?」
ふと、そんな事を訊かれる。
「……どうだろう。分からないや」
だから、正直に答えた。
確かに帰りたい気持ちはある。
こうして魔獣狩りなんかするのは良いけど、王城で婚約者探しの夜会をするなんて……気が休まらないし。
ここから逃げ出したくもなる。
「……俺は、嫌な事が沢山あるとさ。逃げたくなるよ」
「それは僕もだよ」
だけど、それでも……ミリアと離れたくないという気持ちもある。
少なくとも、僕には分からない彼女の悩みが解決して……笑って別れを言えるぐらいにはならないと帰れない。
「お前は偉いよ、ユースケ」
「……そんな事ないよ」
「いいや、偉い」
「ミリアの方が偉いでしょ」
「……んな事ねぇよ」
少し、気まずい。
旅をしていた頃は、二人……あんなにバカみたいな話で騒いでいたのに。
二人、黙って……時々、他愛もない話をした。
それは行き先である山沿いの開拓村に着くまで、続いた。
◇◆◇
「いけっ!≪ウィンド・カッター≫!」
俺は魔力を練り上げて、魔法を繰り出した。
風の断層を刃として射出する魔法だ。
普通の人間が使えば、肉程度までしか割けない斬撃魔法だが……才能溢れる俺が使えば、大木ごと魔獣を真っ二つに出来る一撃必殺の魔法になる。
周りの木ごと猪型の魔獣を真っ二つにした俺は、息を深く吐いた。
どうやら、鈍ってはないみたいだ。
そして、ユースケの方を見れば──
木々をすり抜けるように走り、全く減速せずに猪型の魔獣を2体……いや、3体両断していた。
……やっぱりすげーな。
正確さも、速さも、威力も……俺より上だ。
「ふぅ……」
ユースケは返り血すら浴びず、汗すらかいていない。
いや、俺も返り血は浴びていないが……それは遠距離から魔法で駆逐してるからだ。
至近距離で剣を振るって、跳ねた血を避けつつ次の魔獣を狩ってる奴とは難易度が違う。
周りには魔獣の死体がひぃ、ふぅ、みぃ……えーっと、沢山。
朝から晩まで狩りまくってたし、少なくとも30は殺したな。
血の臭いにつられてやってきた大型の魔獣もブッ殺したし、これで結構、脅威は減るだろ。
魔獣とは魔力を帯びた獣……通常の動物に比べて、凶暴化した奴らだ。
数はそんなに多くはない。
だからこうして、見える範囲で間引いとけば、それだけで十分だ。
狩り残しぐらい、開拓村の自警団か、冒険組合の日雇い冒険者どもが何とかするだろ。
「うし、今日はここまでにすっぞ。ユースケ」
「うん、そうしよっか。暗くなるし」
身体を動かせば、ちょっとは気持ちも晴れた。
現実逃避とも言う。
太陽は傾き、空は茜色になっている。
夜になれば魔獣の危険性も上がる。
アイツら、夜目が効くんだよな。
俺は魔獣の死体を炎魔法で焼く。
こうやって損壊させないと、コイツらゾンビみたいなモンスターになるんだよな。
食えたもんじゃないし、こうやって焼くに限る。
魔法の炎なら管理も効くし、山火事になる事もなくて楽だ。
「よし、後始末完了。村に帰るか」
「そうしよっか」
しっかし、ユースケも慣れたもんだ。
元々、平和な日本に居たってのに、こうやって魔獣を殺しても平然としていられる。
まぁ、魔獣って……普通の動物と違って、結構キショい見た目してるからってのもあるだろうけど。
精神的にも、肉体的にも。
旅に出る前より成長したんだな。
一緒に旅をしている間は余裕がなくて実感しなかったけど、歳も取って……最初の幼さが残るガキだった頃が懐かしいよ。
開拓村に戻ったら、宴会が開かれた。
せめて何かを返したいという村人達の感謝の気持ちだ。
泊まらせてもらう立場だし、参加するしかない。
兎肉のステーキやら、シチューやら。
城では食えない庶民料理……いや、庶民の贅沢料理を口にした。
あ、ちなみに俺が第九王女って話を、彼等は知らない。
勇者の側で一緒に旅をしていた女魔法使い……それがこの国のお姫様だってのは、貴族ぐらいしか知らない話だ。
下手に王族だってバレると、トラブルの元だからな。
宴会も終わって、俺達は村にある客用の家に泊めて貰う事となった。
掃除は既に済んでいたし、元から用意してたんだろう。
それは良いのだが──
「おい、ベッドが一つしかねーぞ」
「……うわ、本当だ」
二人で寝られるぐらいデカいベッドが一つ。
夫婦用だろ、こんなの。
……あー、なるほどな。
村人ども、特にあの女の村長の生暖かい視線、その理由が分かった。
「……チッ、アイツら、俺達のことカップルだと思ってんな。吟遊詩人の所為だろ、これ」
「吟遊詩人……?え、僕らのことを、歌ってる人いるの?」
「邪竜討伐の話を面白おかしく歌ってるんだよ。歌の中じゃ、勇者と女魔法使いは恋仲……ってのが通説らしいぞ」
「え、あ、そ、そうなんだ。酒場に行かないから知らなかった……」
「酒飲まないもんな、お前」
「まぁ、うん……」
ドギマギしてるユースケにため息を吐いて、俺はベッドに腰掛けた。
俺とユースケはそういう仲じゃねぇってのに……こうして勘違いする奴が多い。
元男だと分かってる女に惚れる男が居る訳ねぇだろ。
「ていうかさ。なんで、お前、酒飲まねぇの?」
「う、なんだかまだ、あっちの法律が頭を過ぎっちゃってさ?」
「……帰る気ないなら、少しは飲めるようになった方がいいぞ。夜会で酒を勧められる場面も来るだろうし」
「それはそうだけど……」
「郷に入っては郷に従え、だろ?って訳で──
俺は自分の鞄を開いて、ピンク色の液体が入った瓶を取り出した。
「ほら、果実酒だ」
「えっ!?……何で持ってるの?くすねたの?」
「バーカ、村長から貰った奴だよ」
村長が「勇者様、お酒飲まないんですね」とか言ってきたから、「人前では飲めないんだよ」と嘘を吐いた。
大人なのに酒が飲めないってなると舐められるからな、この世界。
そしたら気を効かして、「では是非、このお酒を二人でお飲み下さい」とか言って渡してきた。
好意は素直に受け取るもの。
ってな訳で、貰ってきた酒だ。
決して飲み足りなかったからラッキーって思った訳ではない。
「なんの果実で作った酒かは知らんが……」
蓋を開けて、少し口に含む。
甘い……が、酒だな。
バナナっぽい味がするが……うん、飲みやすい。
「おう、飲みやすいタイプだし、お前の酒デビューには丁度良いだろ」
「えっ……飲むの?僕が?」
「あーん?俺の酒が飲めないって言うのか?」
「そんな典型的なアルコール・ハラスメントみたいな台詞を……」
「この世界に『アルハラ』なんて言葉はねぇよ。残念だったな」
俺がずい、と酒の入った瓶を渡すと、ユースケがちょっと引いたような顔をしつつ、顔を赤らめた。
……まーだ間接キスだの何だの気にしてんのか?
「……飲まなきゃダメ?」
「いや、別に……マジで嫌なら飲まなくて良いけど」
冗談めかして酒を勧めてはいるが、本気で嫌がっているなら無理やり飲ませるつもりはない。
この世界で生きていくなら、酒を経験しておいた方が良いだろって話。
それと……もう前の世界には帰る気ないんだろ?って確認だ。
……ちょっと小狡い試し行為をしてる自覚はある。
少し自己嫌悪していると……。
ぐいっ、と。
ユースケが酒を口に含んだ。
そして──
「げほっ、ごふっ」
咽せた。
「あー……一気に口に含み過ぎだ」
「う、うぅ……」
そうして今度はちびちびと酒を飲み始めた。
……まぁ、初めてだし、こんなもんか。
「……って、おい。俺にも寄越せ」
「あ、ごめん」
瓶を奪って、俺も酒を口に含む。
……クッソ甘いな。
色もピンクだし……何の果物だ?これ。
まぁ、美味いが……。
ふと、視線をユースケに向けると顔を赤くしていた。
「……おい、ユースケ。顔赤いぞ」
「え?あ、そうかな……」
「もう酔ったのか?」
「いや、そうじゃないと思うけど……いや、そうかも。酔ってるかも」
「どっちだよ」
そんなに度数は高くなさそうなんだが……いや、確かに、なんか身体が熱いな。
アルコール……ってより、多分、元になった果物の効能だな。
……あー、確かに、そんな果物あった気がする。
この開拓村がある周辺で……えっと、何だったか。
身体があったまる以外にも効能があった気が──
「……ユースケ?」
「…………」
何だか惚けた顔をしている。
心ここに在らずって感じだ。
「おい、大丈夫か?」
心配になって、側により肩に手を置く。
「……え?あ、うん……だいじょうぶ」
「大丈夫じゃねぇだろ。呂律が回ってねぇぞ」
最初に、大量に口に含んだのが良くなかったか?
咽せてはいたけど、ちゃんと飲んでたみたいだし──
「……ミリア」
突然、俺の方に手が伸びた。
「えっ、は──
そして。
ぎゅぅ、と。
ユースケに抱きしめられた。
「あ、おい……!何やってんだ!」
「…………すごい、良い匂いする」
「か、嗅ぐな!バカ!」
「…………」
突然のことに怒鳴るが、ユースケは黙ってしまった。
その表情は見えない。
「おい、黙んな!っ、つーか、どこ触ってっ──
むにぃ……と、尻を揉まれた。
「ひゃんっ……!?」
俺らしからぬ、声が漏れる。
何だか凄く、変な感じがした。
普通に触れられただけでは、そうはならないだろ……ってぐらい、感覚が過敏になっていた。
混乱しつつも、突然ユースケがこうなった原因を探考える。
どうしてしまったのか……って、理由は一つしかない。
あの酒が原因だろ。
でも酔っ払ったってよりは……こう、なんだ?
『発情』してる感じだ。
取り返しのつかない事をするつもりはないようだが、手の感じ、触り方がこう、いやらしい。
……そこでようやく思い出した。
この辺で取れる果物……桃みたいな見た目の果物。
非常に甘く、食べれば身体があったまる……そして、発酵させれば『媚薬』になる。
通称は『ラブフルーツ』、そのまんまの名前だ。
村長の……あんの、アホ女〜っ!
俺たちがカップルだと思って、要らない気を回しやがって!
場合によっては犯罪だぞ、これ!
だがしかし、俺なら対処できる!
不幸中の幸いだが、俺は天才魔法使いだ!
媚薬が回っていたとしても、魔法を使うぐらい難なくできる!
魔力を込めて魔法を構築する。
使うのは、解毒魔法。
こういう効能にも効く魔法だ。
それを体内で回して、自分にかかってる『媚薬』の効能を飛ばす。
そしてそのまま、手のひらに込めて──
「どこ触ってんだ!バカ!」
「へぶっ……!?」
ユースケの顔を、思いっきりビンタした。