【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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6話:婚約者

ユースケとの、ちょっとした遠征……魔獣狩りを終えて、王城に帰還し一週間が経過した。

帰った当日や翌日は何もなかったが、3日後からは合コン……じゃなかった、夜会だ、夜会……そう、夜会が開かれ始めた。

 

つーか巻き込まれてる未婚の若い奴ら、可哀想だよなー……って思ってたんだが、気付けば俺と関係ないところでカップル成立してる奴らがいた。

 

俺やユースケに対する義務よりも、真の恋愛を取った自由恋愛の戦士たちだ。

……何だそれ。

 

そんなこんなで、また夜会の日々。

夜会がない日は、ユースケは騎士団の鍛錬の相手をして、俺は公務に勤しんでいた。

第九王女……って言うとショボいが、王族の中で一番魔法に長けてるのは確かだ。

国の魔法ギルド関連とか、魔法関連の使用承認とか、そういった物は俺に優先的に回ってくる。

腹違いの兄やら姉やらにも、そういう仕事は行ってるだろうけど。

 

だから、そう……忙しいのは忙しい。

 

そんで、また夜会には強制参加。

嫌になっちまうな。

 

そんなストレス塗れの生活の中で、俺が息抜きにやってんのが……そう、閉会直前にユースケと抜け出す事だ。

 

閉会寸前なら『私、疲れましたので少し夜風に当たって来ます〜』なーんて言い訳も通るからな。

まぁ、毎回ユースケと一緒に抜けてたらバレるし、互いにバラバラに離席してバルコニー集合って感じにしてる。

完璧な作戦だな。

 

 

そんな訳で、今日も俺とユースケはいつものバルコニーに集合していた。

 

 

「今日、壁際の机にあったエスカルゴ擬き食ったか?美味かったぞ」

 

「えっ……あー、取れてない。食べ損ねた……」

 

「そう言うと思ってな……ククク、ジェーンに取り置きして貰ってるんだな、これが。食え食え」

 

「え、いいの?」

 

「あ、半分は残せよ?俺が食う」

 

 

そう言うと、ジェーンが容器を持ってきた。

マジで気が効くメイドだよな……俺のお付きには勿体無い。

幼い頃から俺のお付きをやってるが……マジで感謝だな。

彼女がいないと俺はこの城で生きていけねーよ。

 

 

「よし、じゃあ食うか」

 

 

硬く焼かれたパンに、エスカルゴ擬きを乗せて、器の油を吸わせて口に入れる。

 

 

「おー……これこれ」

 

 

あ〜、美味い。

マジで最高だ。

 

 

「うわ……すっごい美味しい」

 

「だろ?油ギットギトで、すっげージャンクな感じがする。身体に悪い、つまり美味い」

 

「確かに……でも、その……エスカルゴ擬きって何?何で擬きなの?これってエスカルゴじゃないの?」

 

「ん?あー、正式名称はサンバ貝って言うらしくてな。陸を走る貝らしい。でも味はエスカルゴっぽいし……だから、俺は擬きって呼んでるんだよ」

 

「陸を走る貝……?這ってる訳じゃなくて?」

 

「いや、普通に二足歩行らしいぞ。実物を見た事はないが」

 

「……二足歩行?貝が?」

 

 

胡散臭そうな顔で、ユースケが手元のエスカルゴ擬きを見た。

 

気持ちは分かる。

この世界の生き物は、やっぱ地球と違うんだよな。

牛も地球の牛と同じっぽいが、雑食だし。

貝が二足歩行で陸地を走ってても、誰も文句を言わない。

 

旅先でことあるごとに、トンデモ動物相手にドン引きしてるユースケを見るのは面白かったな。

今思い出しても笑える。

 

思い出に耽りながら、料理を口に含む。

 

そして、ユースケも口に酒を入れた。

……ちゃんと飲むようになったんだよな、コイツ。

その辺、真面目だよな……あんな失敗したってのに、俺のアドバイスを真に受けてちょっとずつ飲んでるんだから。

 

まぁ、飲まないのは良いが、飲めないのはまずいからな……。

この世界の奴ら、すぐに飲みでコミュニケーション、略して『飲みニケーション』しだすから。

 

こうやって慣らして行くのは大事だ。

 

 

 

 

 

二人で料理をつまみながら、他愛のない話をする。

最近こんな事があったー、とかなんとか。

 

俺はあんまり面白い話が出来ないが、ユースケが騎士団でゴチャゴチャしてる話は面白い。

なんかこう、『世界を救ったオレ、騎士団で一目置かれてる』的な?

 

トラブルいっぱい、オレツエーいっぱいだ。

 

トラブルって言うと……コイツ、毎日のように決闘を申し込まれてるらしいんだよな。

理由は……なんか歯切れ悪そうにして、教えてくれないが。

 

決闘なぁ。

権利の奪い合いか、誇りを賭けての戦いか……あと、敗者から女を寝取るとか?

しっかし、ユースケはほぼお飾りの『勇者』とかいう役職だし……誇りもクソもねーし……付き合ってる女も婚約者もいねーし。

 

何が理由で決闘してるんだが。

野蛮人のバカどもの考えはよく分からん。

 

それでも、貴族坊ちゃんのバカ騎士をボコボコにする話は面白い。

魔法なしで邪竜と肉弾戦できるユースケ相手に勝てる訳ねぇってのに、何で挑むんだろうな。

人を見かけで判断し過ぎだ。

 

 

「それで木剣を素手で折ったら、腰を抜かしちゃって……まるで僕が悪いみたいな空気に──

 

「いや、お前が悪いだろ。ちょっとは手加減しろ」

 

「し、してるよ……目一杯」

 

「あー……まぁ。手加減はしてるか。本気出したら素手で首を引きちぎっちまうもんな」

 

「しないよ、そんなこと……」

 

「できないとは言わないんだよなー」

 

「いや、まぁ……まぁね。多分できるけど、やらないよ」

 

 

おぉ、怖い。

この話を深掘りするのはやめとこう。

 

 

「……次はさ、ミリアの話を聞かせてよ」

 

「俺か?何にもおもしれー事ないぞ?」

 

「いいからさ」

 

「……じゃあ、そうだなぁ──

 

 

そうして、話題は別に移っていく。

 

 

「え?そんな事になってたの?」

 

「おう。魔法ギルドのギルド長、バカみてーに利権に執着してっからさ。ダメダメだわ、老害」

 

「それは……まぁ、うん。あのお爺さん、ちょっとアレだもんね」

 

「な。辺境に魔法ギルドの派出所……せめて、代理出張所ぐらい用意しないとさ。辺境の冒険ギルドは戦士まみれになっちまうってのに」

 

「……魔法使いが居ないパーティ、生存率が落ちるんだよね」

 

「そうなんだよ。水魔法然り、解毒魔法しかり、回復魔法然り。それらの『あり』『なし』で、生存率が変わっちまう」

 

「……毒性のある魔獣の攻撃が掠っただけで、解毒できなければ死んじゃうからね」

 

「そういうこった」

 

 

俺はため息を吐いた。

貴族でもねーのに、貴族みたいな事をしている魔法ギルドの長。

さっさと解雇(クビ)にして、もっと行動力のある奴をギルド長にしてぇよ。

 

でもなー、国への献金額もあるからなぁ……俺の一声じゃあ解雇(クビ)に出来ん。

政治って難しい。

 

 

「……ミリアって、難しい事してるんだね」

 

「まぁな。目標がハッキリとしないし、どう対処していけば良いかも不確かだからな」

 

 

魔獣を討伐して、終わり。

野盗を成敗して、終わり。

 

なんて、単純な話じゃない。

魔法ギルド長だって、俺は気に食わんが、別に悪人って訳じゃない。

思想が違うだけだ。

 

正義の味方になって、悪を倒して、それでハッピーエンドってのは……物語の世界だけの話だ。

 

世の中はもっと複雑だ。

色々な事が混じり合って、俺たちは生きている。

邪竜を討伐した後だって、こうして……あーでもない、こーでもないって生きている。

寧ろ、これからの方が長いだろうな。

 

 

「はー……」

 

「……お疲れ様」

 

「いや、疲れてる訳じゃ……疲れてるのは疲れてるが、これは疲労じゃなくて『めんどくさい』のため息だよ」

 

 

俺がそう言うと、ユースケは少し悩むような素振りをして……そして、俺へ視線を向けた。

 

 

「……困ってる事があるならさ、相談にのるよ」

 

「……あー、そうだな。いや、あー、うん……」

 

 

困ってる事、か。

やらなきゃならない事が沢山あるが、やりたくない……って事が困り事だ。

我ながらダメ人間だ。

 

そして、その『やらなきゃならない事』ってのが……婚約者問題なんだが。

 

ユースケの目を見た。

真剣な表情だ。

 

……そんな顔すんなよ。

縋りたくなっちまうだろうが。

 

 

「……いや、いい」

 

 

でも、まぁ……コイツに話したってしょうがない話だ。

というか、話すと確実に迷惑がかかる。

 

顔を逸らして、ため息を吐く。

 

ユースケはな。

良かれと思って何とかしようとして……そんでもって、自分が損するんだ。

一緒に旅してて、そういう場面によく遭遇したから……俺は知ってる。

 

だから──

 

 

「よくないよ」

 

「あ?」

 

 

まさか、そんな返答されるとは思ってなくて、俺はユースケへ視線を戻した。

 

 

「ミリアが困ってるなら何とかしたい」

 

「……あのなぁ」

 

 

言わない理由を察してるのか?

いや、コイツはそんなに察しがよくない。

多分、言葉通りの意味なんだろうな。

 

一緒に旅をした仲間が困っている。

だから、助けたい。

 

それだけだ。

本当に、ただ、それだけだ。

 

……そこに特別な感情はない。

それは分かっている。

 

分かっているが……あー、クソ。

 

 

「……じゃあ、ちょっと聞いてくれよ」

 

 

俺は悪くない。

コイツが悪い。

縋りたくさせたユースケが悪い。

 

 

「うん……ありがとう、話してくれて」

 

 

なんで感謝してるんだよ、バカ。

 

 

「今、婚約者探しをしてるだろ?」

 

「うん、合コンみたいなのやってるよね」

 

「それだよ」

 

「……夜会が凄くストレスってこと?」

 

 

俺は腕を組んで、手摺りにもたれ掛かる。

 

 

「邪竜討伐終わった後、クソ親父と二人で話した事があるんだよ」

 

「クソお……あ、国王様と?」

 

「おう。一ヶ月以内に婚約者を選ばなかったら、適当な奴を見繕うってな」

 

「……え?」

 

 

ユースケが固まった。

 

 

「そん時に話したのが……あー、だいたい三週間前だな。だから、あと一週間後には、俺は結婚させられてる……って訳だ」

 

「え、あ……そう、なんだ……」

 

 

目線が泳いでいる。

 

さっきまであんなにカッコよ……じゃなくて、頼りになりそうだったのに。

今は情けない顔を晒してる。

 

まぁ、ショックだよな。

仲の良い友達が結婚するって言うんだから。

 

 

「知らない奴と結婚してさ。後継者作るために子作りもしなきゃならん……そう考えると気が重いんだよ」

 

「…………」

 

 

ついには黙って、俯いちまった。

……思ったよりショックを受けてるな、ユースケ。

 

そして……俯いたまま、ユースケが口を開いた。

 

 

「……ミリアは、それでいいの?」

 

「仕方ないだろ。俺は王族なんだから」

 

 

俺はため息を吐いて、そう口にする。

ユースケの疑問に答えるため……だけじゃない、自分に言い聞かせるためでもある。

 

 

「……嫌、じゃないの?」

 

「嫌に決まってんだろ。男と結婚して、そういう事させられるって思っただけで、吐きそうだよ」

 

 

これは本音だ。

 

男の記憶があって、女の身体で。

男の記憶は、男と恋愛行為をする事に拒否感を示している。

女の身体は、よくも知らない男と触れ合う事に拒否感を示している。

 

 

「だったら……一緒に、ここから──

 

「それ以上は言うな。言ったろ?俺は育ててくれた恩ぐらいは、この国に返すつもりなんだよ」

 

「でも……っ」

 

 

俺は手摺りから離れて、ユースケと向き合う。

 

 

「王族はさ、色々な権利を持ってるんだ」

 

「……権利」

 

「おう。国税で良いもん食って、良い服着て……だから、その分の義務もあるんだよ」

 

「…………」

 

「分かるだろ?権利だけ貪って、義務から逃げるなんて真似、俺にさせないでくれよ」

 

 

ユースケがもし、本気で……この城から逃げよう、なんて言ったら……俺は、きっと縋ってしまう。

偉そうな事を言っていても、縋ってしまう。

 

だから、そんな事を言って欲しくないんだ。

俺を義務から逃げる卑怯者にしないで欲しい。

 

 

「……分かった」

 

 

ユースケが頷く。

拳を握っているように見えた。

 

ほら、言ったって仕方ないだろ。

聞いたって、気分が悪くなるだけだろ。

 

……ユースケとこうして居られる時間は有限だってのに、こんな話をして、酒を不味くはしたくなかったんだが。

 

まぁ、仕方ないか──

 

 

「でも……だったらさ」

 

「ん?」

 

 

ユースケが顔を上げた。

 

目が合う。

そこには、さっきまでの情けない顔じゃなくて……決意したような顔があった。

 

 

「その婚約者に、僕が立候補できないかな」

 

「……あ?」

 

 

それは……きっと、一番、欲しかった言葉だ。

俺の悩みを解決してくれるから。

 

だけど、一番、言って欲しくなかった言葉だ。

ユースケを俺に縛ってしまうから。

 

 

「ほ、ほら……形だけの結婚をするんだ。そしたら、ミリアはそんな事しなくていいし……」

 

「……お前な」

 

 

嬉しさと、悲しさと、喜びと、怒り……落胆が入り混じる。

今の感情を一言で表せる言葉はきっと、ないだろう。

 

それでも……それでも、『喜び』が一番大きい。

俺は自分の単純さに呆れて……大きく、ため息を吐いた。

 

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