【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話 作:WhatSoon
ユースケとの、ちょっとした遠征……魔獣狩りを終えて、王城に帰還し一週間が経過した。
帰った当日や翌日は何もなかったが、3日後からは合コン……じゃなかった、夜会だ、夜会……そう、夜会が開かれ始めた。
つーか巻き込まれてる未婚の若い奴ら、可哀想だよなー……って思ってたんだが、気付けば俺と関係ないところでカップル成立してる奴らがいた。
俺やユースケに対する義務よりも、真の恋愛を取った自由恋愛の戦士たちだ。
……何だそれ。
そんなこんなで、また夜会の日々。
夜会がない日は、ユースケは騎士団の鍛錬の相手をして、俺は公務に勤しんでいた。
第九王女……って言うとショボいが、王族の中で一番魔法に長けてるのは確かだ。
国の魔法ギルド関連とか、魔法関連の使用承認とか、そういった物は俺に優先的に回ってくる。
腹違いの兄やら姉やらにも、そういう仕事は行ってるだろうけど。
だから、そう……忙しいのは忙しい。
そんで、また夜会には強制参加。
嫌になっちまうな。
そんなストレス塗れの生活の中で、俺が息抜きにやってんのが……そう、閉会直前にユースケと抜け出す事だ。
閉会寸前なら『私、疲れましたので少し夜風に当たって来ます〜』なーんて言い訳も通るからな。
まぁ、毎回ユースケと一緒に抜けてたらバレるし、互いにバラバラに離席してバルコニー集合って感じにしてる。
完璧な作戦だな。
そんな訳で、今日も俺とユースケはいつものバルコニーに集合していた。
「今日、壁際の机にあったエスカルゴ擬き食ったか?美味かったぞ」
「えっ……あー、取れてない。食べ損ねた……」
「そう言うと思ってな……ククク、ジェーンに取り置きして貰ってるんだな、これが。食え食え」
「え、いいの?」
「あ、半分は残せよ?俺が食う」
そう言うと、ジェーンが容器を持ってきた。
マジで気が効くメイドだよな……俺のお付きには勿体無い。
幼い頃から俺のお付きをやってるが……マジで感謝だな。
彼女がいないと俺はこの城で生きていけねーよ。
「よし、じゃあ食うか」
硬く焼かれたパンに、エスカルゴ擬きを乗せて、器の油を吸わせて口に入れる。
「おー……これこれ」
あ〜、美味い。
マジで最高だ。
「うわ……すっごい美味しい」
「だろ?油ギットギトで、すっげージャンクな感じがする。身体に悪い、つまり美味い」
「確かに……でも、その……エスカルゴ擬きって何?何で擬きなの?これってエスカルゴじゃないの?」
「ん?あー、正式名称はサンバ貝って言うらしくてな。陸を走る貝らしい。でも味はエスカルゴっぽいし……だから、俺は擬きって呼んでるんだよ」
「陸を走る貝……?這ってる訳じゃなくて?」
「いや、普通に二足歩行らしいぞ。実物を見た事はないが」
「……二足歩行?貝が?」
胡散臭そうな顔で、ユースケが手元のエスカルゴ擬きを見た。
気持ちは分かる。
この世界の生き物は、やっぱ地球と違うんだよな。
牛も地球の牛と同じっぽいが、雑食だし。
貝が二足歩行で陸地を走ってても、誰も文句を言わない。
旅先でことあるごとに、トンデモ動物相手にドン引きしてるユースケを見るのは面白かったな。
今思い出しても笑える。
思い出に耽りながら、料理を口に含む。
そして、ユースケも口に酒を入れた。
……ちゃんと飲むようになったんだよな、コイツ。
その辺、真面目だよな……あんな失敗したってのに、俺のアドバイスを真に受けてちょっとずつ飲んでるんだから。
まぁ、飲まないのは良いが、飲めないのはまずいからな……。
この世界の奴ら、すぐに飲みでコミュニケーション、略して『飲みニケーション』しだすから。
こうやって慣らして行くのは大事だ。
二人で料理をつまみながら、他愛のない話をする。
最近こんな事があったー、とかなんとか。
俺はあんまり面白い話が出来ないが、ユースケが騎士団でゴチャゴチャしてる話は面白い。
なんかこう、『世界を救ったオレ、騎士団で一目置かれてる』的な?
トラブルいっぱい、オレツエーいっぱいだ。
トラブルって言うと……コイツ、毎日のように決闘を申し込まれてるらしいんだよな。
理由は……なんか歯切れ悪そうにして、教えてくれないが。
決闘なぁ。
権利の奪い合いか、誇りを賭けての戦いか……あと、敗者から女を寝取るとか?
しっかし、ユースケはほぼお飾りの『勇者』とかいう役職だし……誇りもクソもねーし……付き合ってる女も婚約者もいねーし。
何が理由で決闘してるんだが。
野蛮人のバカどもの考えはよく分からん。
それでも、貴族坊ちゃんのバカ騎士をボコボコにする話は面白い。
魔法なしで邪竜と肉弾戦できるユースケ相手に勝てる訳ねぇってのに、何で挑むんだろうな。
人を見かけで判断し過ぎだ。
「それで木剣を素手で折ったら、腰を抜かしちゃって……まるで僕が悪いみたいな空気に──
「いや、お前が悪いだろ。ちょっとは手加減しろ」
「し、してるよ……目一杯」
「あー……まぁ。手加減はしてるか。本気出したら素手で首を引きちぎっちまうもんな」
「しないよ、そんなこと……」
「できないとは言わないんだよなー」
「いや、まぁ……まぁね。多分できるけど、やらないよ」
おぉ、怖い。
この話を深掘りするのはやめとこう。
「……次はさ、ミリアの話を聞かせてよ」
「俺か?何にもおもしれー事ないぞ?」
「いいからさ」
「……じゃあ、そうだなぁ──
そうして、話題は別に移っていく。
「え?そんな事になってたの?」
「おう。魔法ギルドのギルド長、バカみてーに利権に執着してっからさ。ダメダメだわ、老害」
「それは……まぁ、うん。あのお爺さん、ちょっとアレだもんね」
「な。辺境に魔法ギルドの派出所……せめて、代理出張所ぐらい用意しないとさ。辺境の冒険ギルドは戦士まみれになっちまうってのに」
「……魔法使いが居ないパーティ、生存率が落ちるんだよね」
「そうなんだよ。水魔法然り、解毒魔法しかり、回復魔法然り。それらの『あり』『なし』で、生存率が変わっちまう」
「……毒性のある魔獣の攻撃が掠っただけで、解毒できなければ死んじゃうからね」
「そういうこった」
俺はため息を吐いた。
貴族でもねーのに、貴族みたいな事をしている魔法ギルドの長。
さっさと
でもなー、国への献金額もあるからなぁ……俺の一声じゃあ
政治って難しい。
「……ミリアって、難しい事してるんだね」
「まぁな。目標がハッキリとしないし、どう対処していけば良いかも不確かだからな」
魔獣を討伐して、終わり。
野盗を成敗して、終わり。
なんて、単純な話じゃない。
魔法ギルド長だって、俺は気に食わんが、別に悪人って訳じゃない。
思想が違うだけだ。
正義の味方になって、悪を倒して、それでハッピーエンドってのは……物語の世界だけの話だ。
世の中はもっと複雑だ。
色々な事が混じり合って、俺たちは生きている。
邪竜を討伐した後だって、こうして……あーでもない、こーでもないって生きている。
寧ろ、これからの方が長いだろうな。
「はー……」
「……お疲れ様」
「いや、疲れてる訳じゃ……疲れてるのは疲れてるが、これは疲労じゃなくて『めんどくさい』のため息だよ」
俺がそう言うと、ユースケは少し悩むような素振りをして……そして、俺へ視線を向けた。
「……困ってる事があるならさ、相談にのるよ」
「……あー、そうだな。いや、あー、うん……」
困ってる事、か。
やらなきゃならない事が沢山あるが、やりたくない……って事が困り事だ。
我ながらダメ人間だ。
そして、その『やらなきゃならない事』ってのが……婚約者問題なんだが。
ユースケの目を見た。
真剣な表情だ。
……そんな顔すんなよ。
縋りたくなっちまうだろうが。
「……いや、いい」
でも、まぁ……コイツに話したってしょうがない話だ。
というか、話すと確実に迷惑がかかる。
顔を逸らして、ため息を吐く。
ユースケはな。
良かれと思って何とかしようとして……そんでもって、自分が損するんだ。
一緒に旅してて、そういう場面によく遭遇したから……俺は知ってる。
だから──
「よくないよ」
「あ?」
まさか、そんな返答されるとは思ってなくて、俺はユースケへ視線を戻した。
「ミリアが困ってるなら何とかしたい」
「……あのなぁ」
言わない理由を察してるのか?
いや、コイツはそんなに察しがよくない。
多分、言葉通りの意味なんだろうな。
一緒に旅をした仲間が困っている。
だから、助けたい。
それだけだ。
本当に、ただ、それだけだ。
……そこに特別な感情はない。
それは分かっている。
分かっているが……あー、クソ。
「……じゃあ、ちょっと聞いてくれよ」
俺は悪くない。
コイツが悪い。
縋りたくさせたユースケが悪い。
「うん……ありがとう、話してくれて」
なんで感謝してるんだよ、バカ。
「今、婚約者探しをしてるだろ?」
「うん、合コンみたいなのやってるよね」
「それだよ」
「……夜会が凄くストレスってこと?」
俺は腕を組んで、手摺りにもたれ掛かる。
「邪竜討伐終わった後、クソ親父と二人で話した事があるんだよ」
「クソお……あ、国王様と?」
「おう。一ヶ月以内に婚約者を選ばなかったら、適当な奴を見繕うってな」
「……え?」
ユースケが固まった。
「そん時に話したのが……あー、だいたい三週間前だな。だから、あと一週間後には、俺は結婚させられてる……って訳だ」
「え、あ……そう、なんだ……」
目線が泳いでいる。
さっきまであんなにカッコよ……じゃなくて、頼りになりそうだったのに。
今は情けない顔を晒してる。
まぁ、ショックだよな。
仲の良い友達が結婚するって言うんだから。
「知らない奴と結婚してさ。後継者作るために子作りもしなきゃならん……そう考えると気が重いんだよ」
「…………」
ついには黙って、俯いちまった。
……思ったよりショックを受けてるな、ユースケ。
そして……俯いたまま、ユースケが口を開いた。
「……ミリアは、それでいいの?」
「仕方ないだろ。俺は王族なんだから」
俺はため息を吐いて、そう口にする。
ユースケの疑問に答えるため……だけじゃない、自分に言い聞かせるためでもある。
「……嫌、じゃないの?」
「嫌に決まってんだろ。男と結婚して、そういう事させられるって思っただけで、吐きそうだよ」
これは本音だ。
男の記憶があって、女の身体で。
男の記憶は、男と恋愛行為をする事に拒否感を示している。
女の身体は、よくも知らない男と触れ合う事に拒否感を示している。
「だったら……一緒に、ここから──
「それ以上は言うな。言ったろ?俺は育ててくれた恩ぐらいは、この国に返すつもりなんだよ」
「でも……っ」
俺は手摺りから離れて、ユースケと向き合う。
「王族はさ、色々な権利を持ってるんだ」
「……権利」
「おう。国税で良いもん食って、良い服着て……だから、その分の義務もあるんだよ」
「…………」
「分かるだろ?権利だけ貪って、義務から逃げるなんて真似、俺にさせないでくれよ」
ユースケがもし、本気で……この城から逃げよう、なんて言ったら……俺は、きっと縋ってしまう。
偉そうな事を言っていても、縋ってしまう。
だから、そんな事を言って欲しくないんだ。
俺を義務から逃げる卑怯者にしないで欲しい。
「……分かった」
ユースケが頷く。
拳を握っているように見えた。
ほら、言ったって仕方ないだろ。
聞いたって、気分が悪くなるだけだろ。
……ユースケとこうして居られる時間は有限だってのに、こんな話をして、酒を不味くはしたくなかったんだが。
まぁ、仕方ないか──
「でも……だったらさ」
「ん?」
ユースケが顔を上げた。
目が合う。
そこには、さっきまでの情けない顔じゃなくて……決意したような顔があった。
「その婚約者に、僕が立候補できないかな」
「……あ?」
それは……きっと、一番、欲しかった言葉だ。
俺の悩みを解決してくれるから。
だけど、一番、言って欲しくなかった言葉だ。
ユースケを俺に縛ってしまうから。
「ほ、ほら……形だけの結婚をするんだ。そしたら、ミリアはそんな事しなくていいし……」
「……お前な」
嬉しさと、悲しさと、喜びと、怒り……落胆が入り混じる。
今の感情を一言で表せる言葉はきっと、ないだろう。
それでも……それでも、『喜び』が一番大きい。
俺は自分の単純さに呆れて……大きく、ため息を吐いた。