【完結】旅の終わりに:TS転生者と転移勇者の話   作:WhatSoon

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7話:カタチだけ

「あ?」

 

 

不機嫌そうな、複雑そうな表情でミリアが僕を見た。

 

失言だったのだろう。

だけど、口にした事は後悔していない。

 

ミリアが結婚すると聞いて……それも知らない奴と結婚するって聞いて、僕は胸元を抉られたかのような喪失感を感じた。

彼女にとって僕は、特別な男性ではないけれど、僕にとって彼女は……友達である以上に、仲間である以上に……ずっと大切な相手だったから。

 

 

「ほ、ほら……形だけの結婚をするんだ。そしたら、ミリアはそんな事しなくていいし……」

 

 

そう口にする。

本当の理由は、僕の馬鹿げた嫉妬心と独占欲だ。

 

 

「お前なぁ……そりゃ確かにそうだが。そんな事するとお前……後悔するぞ?」

 

「……しないよ」

 

「いいや、する。妾は取らないんじゃなかったのか?好きな女が出来た時にどうすんだよ」

 

 

好きな女の子なんて……もういるよ。

僕はミリアが好きなのだから、他には要らない。

 

だけど、彼女はそんな返答を望んでいないだろう。

 

 

「その時は、その時に考えるよ。だから、ミリアには迷惑かからないようにするから……」

 

「…………」

 

 

ミリアは複雑そうな顔をしてる。

……喜んでいるのか、怒っているのか。

それとも、両方なのか。

 

彼女の目線が下がる。

僕から目を逸らしたかったのだろう。

 

そうして、少し悩んだ後に──

 

 

「……本当に良いのか?」

 

 

ミリアが顔を上げた。

その目は少し、潤んでいるように見えた。

 

 

「勿論だよ。それに、僕も婚約者探しをしなくて済むから……なんて」

 

「……バカ」

 

 

冗談を言えば、ミリアが僕の胸元を殴った。

弱く、慈しむように……撫でるように、拳が触れた。

 

 

「……間違いなく、迷惑かけるぞ」

 

「いいよ。僕だって沢山、迷惑かけたから」

 

「……王族の婿は大変だぞ?」

 

「邪竜討伐だって何とかなったんだから、きっと何とかなるよ」

 

「……そうか。そうだな。それもそうだ」

 

 

ミリアが、いつもの笑みを浮かべた。

少し、目元が濡れていたけれど。

 

 

「それじゃあ……その、僕が──

 

「あぁ、俺がお前の『婚約者』だ」

 

 

その日、僕達の関係は大きく変わった。

旅の仲間から、『婚約者』へ。

 

形だけだとしても、それでも僕は……うん、嬉しかった。

たとえ、ミリアが僕のことを異性として好きじゃなくても……僕は彼女の事が好きだから。

 

……こんな、彼女の弱みにつけこむような卑怯な真似だけど、それでも。

 

 

それでも。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

話はとんとん拍子に進んだ。

 

クソ親父に『ユースケと結婚致します〜』と言えば、すんなりと納得してくれたし。

手続きもジェーンがやってくれたし。

正式な結婚は教会通してからだから……アレだな、まだだけど。

 

んで、気付けば他の貴族達にも俺らが婚姻予定だってのが広まった。

勇者の力を我が物にしたいアホ貴族から『そんな爵位のない野蛮人を王族と婚姻させるなど〜っ』って反対の意見が出てたそうだが、ウチのクソ親父が一蹴していた。

 

まだまだちょっとトラブルが起こりそうだ。

だりぃ。

 

婚約者探しの夜会に参加する義務もなくなった。

……なんか、未婚の若い男女の要請で、俺らが参加しなくても継続でやるらしいけど。

この国、自由恋愛してる貴族が多すぎないか?って……まぁ、国王がアレだから仕方ないか。

 

んで、だ。

 

王城の居住区の一室へ、新しく割り振られた。

俺とユースケ、二人で一つの部屋だ。

同棲って奴だな。

 

……さっさと王城の外に屋敷買って引っ越してぇよ。

だが、家具も家もメイドもない今、甘んじて同棲生活を受け入れるしかない。

……いや?嫌って訳じゃねぇんだけど。

ほら、アレだ、プライベートな時間が欲しいって奴だ。

 

ベッドが一つしかない所為で、寝るのも一緒だし。

心臓が持たないし、睡眠不足にもなる。

 

ユースケがな?

俺は全然平気だし。

 

 

まぁ、そんな訳で……俺とユースケは新生活に少しずつ慣れていこうと努力してる。

してるんだが……。

 

 

「く、くそ……くそ面倒くさい……」

 

「姫様、言葉遣いにはお気を付けを」

 

 

ジェーンに嗜められつつも、俺は机の前で唸った。

 

机の上にあるのは結婚式の予定表だ。

あれもこれも、王城の執事やらメイドやら、なんかそういうのに詳しい奴やらが決めた内容らしいが──

 

 

「これやらなきゃダメか?」

 

「ダメでございます」

 

「いや、ほらさ……そこを何とか──

 

「ダメでございます」

 

「うげーっ」

 

 

それはもう大きな式になるらしい。

国の有力者は集まるし、挨拶はしなきゃ何ねーし、色々とやらなきゃなんねーこともあるし。

少なくとも参加者全員の名前と顔は覚えないと、なんねーし。

 

いや、まぁ……その辺は『だる……』で済むんだが……。

 

 

「……これ、なぁ」

 

 

スケジュールに書いてある『挙式』の中にある、ここ。

『誓いのキス』ってやつ。

 

ユースケと俺が、人前でキスを?

 

 

「…………」

 

 

無理だろ、無理。

無理無理無理無理無理無理無理無理。

 

100歩譲って、俺は出来る。

いつもの公務用の顔で取り繕えば、何とか出来る。

だが、ユースケ側はどうだ?

女の『お』の字も知らないアイツに務まるのか?

 

公衆の面前で俺とキスできるのか?

俺が無理矢理イケば何とかなるだろうが、そんな所で少しでも躊躇ったり初心な所を見せれば……クソアホ貴族どもに俺とユースケの婚約に対するイチャモンをつけられかねない。

 

実際、勇者であるユースケを我が家に取り込まんと虎視眈々と狙っていた奴らがいる。

そいつらはまだ諦めきれてねぇみたいだし……もし、俺とユースケの婚姻が解消されればハゲワシのように掻っ攫おうとするだろう。

いや、キスの上手い下手ぐらいでそんな事にはならないだろうが、杞憂だとしても……不安だ。

 

貴族も全員が全員、国に仕える貴賓ある存在としての自覚がある訳じゃない。

自分の利益や見栄のためなら、この国の法律すれっすれの事するバカもいる。

 

 

「……はぁ」

 

 

ため息を吐いて、資料を机の端っこに置いた。

嫌な事は後回しににする癖が、前世の頃から直っていないんだよなぁ。

 

……ユースケが仕事から帰って来たら、ちょっと相談すっか。

今日は確か、魔獣狩りで遠征だったよな……俺も迎えに行くか。

馬車だけ派遣して迎えに行かせる予定だったが、ちょいと気が変わった。

こういう細かな所で熱愛アピールしておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、騎士団の本部まで迎えに行く事になった。

 

騎士の大半は一般的な兵士と違い、貴族の奴らが多い。

多いってか9割ぐらいは貴族だな。

家を継げない次男坊やら三男坊やらが参入する。

 

普段は魔獣狩りや、治安維持の夜盗狩りなんかで実戦経験を積んでいるが、戦争があれば徴兵された一般兵を指揮して戦う。

専業軍人だからな……普段は普通の市民やってる一般兵とは専門性が違う。

 

泥臭い訓練してる奴ら、ってよりは戦場の指揮能力やら、戦術についての研鑽やら、まぁ座学も沢山やってるって訳だ。

その辺に関しては、ユースケも浅いからな……アホみてーに強いが、人を扱う能力に関しては新人(ぺーぺー)と変わらない。

 

有事の際には勇者として前線で戦ったり、味方の鼓舞をしたり……そういう役割を期待されてるんだろうな。

 

 

騎士団の本部は王城から離れた所にある。

馬車がないと行けないぐらい遠い。

 

今日はジェーンが御者をやってくれている。

メイドなのに馬が扱えるの、普通じゃないらしいが……まぁ、彼女は結構何でも出来る。

料理、洗濯、掃除、庶務、秘書、御者、最低限の自己防衛、隠密……他、色々。

本人曰く、凄腕のメイドらしい。

『凄腕のメイド』で片付けるには、限度がある気がするけど……やっぱアレか、王族のお付きのメイドってのは、それなりに能力を求められるんだろうか。

 

 

ってな訳で、到着。

 

 

騎士団本部……あと、ついでに訓練所。

王城よりショボいが、一般的な貴族の屋敷よりは絢爛って感じだ。

 

馬を繋ぐ場所を見れば……馬車は全部あるな。

って事はもう、遠征先から帰って来てるのか。

 

 

なんて見ていたら、本部のドアが開かれて、見知った顔が出て来た。

ユースケだ。

 

俺も馬車を降りて、他の奴らにアピールしにいくとすっか──

 

と、馬車扉へ伸ばした手が止まる。

 

 

……なんだか、妙に親しそうな女を連れてやがる。

セミロングの鎧を着た女だ。

珍しい……女騎士か?

装飾の数的に、それほど地位は高くないように見えるが。

 

そいつは楽しそうにユースケに話しかけているが……対して、ユースケも笑顔で返事をしている。

……夜会で、女に話しかけられてる時とは大違いだ。

 

 

「…………」

 

 

ははぁ、ユースケにも春が来てたってことか。

そりゃ夜会で女を選ばない訳だ。

 

でもまぁ、俺との結婚は偽装みたいなもんだし……妾にするなら、騎士団の女騎士でも問題ないだろう。

 

ユースケも、そのために俺と結婚したのか?

あー、いや、アイツはそういうタイプじゃないな。

じゃあ、偶然だな。

でもまぁ、良い偶然だ。

 

 

俺の肩の荷も降りる──

 

 

「…………チッ」

 

 

自分に言い聞かせても、納得できない。

俺は今、少しイライラしてる。

何でイライラしてるのか、理解は出来ている。

だが、そのイライラが筋違いってのも分かっている。

 

あー、くそ。

 

扉にかけた手が震える。

そんで、息を深く吐いて、呼吸を整えて……馬車から降りた。

 

そして、騎士団本部前へと足を進める。

 

俺は第九王女、ミリアレーナだ。

私情は出すな、俺は第九王女。

 

よし、大丈夫。

 

 

「ユースケ、お迎えに来ましたよ」

 

 

ほら、声も震えていない。

 

 

「……え?あれ?ミリア?何で来てるの?」

 

 

浮気がバレた、って焦りは見えないな。

いや、まぁ、『妾でも作れよ』って言ったのは俺だからな。

焦るような話じゃないのは確かだが。

 

横の女もちょっと驚いた顔で頭を下げた。

 

 

「お初にお目に掛かります。シェナ・リオレットと申します」

 

 

シェナ、シェナか。

 

髪は騎士にしては珍しく、そこそこ長い。

筋肉はありそうだが細身。

胸は……鎧の下だから正確には分からんが、小さそうだ。

 

俺の方が可愛い。

 

 

「……あの、何か顔についているでしょうか?」

 

「いえ?何も……あぁ、ご挨拶が遅れましたね?ミリアレーナ第九王女です」

 

「は、はい……存じ上げております」

 

 

握手をする。

……ちょっと嫌悪感。

感じるのは筋違いかも知れないが、それでも本能的な物だから仕方ない。

 

俺は内心でため息を吐いて、ユースケへ視線を向ける。

 

 

「では、私達はお先に失礼しますわ」

 

「は、はい……お会い出来て光栄でした、ミリアレーナ様」

 

 

深々と礼をするシェナから目を逸らし、ユースケの腕を引っ張る。

 

 

「ちょっ──

 

「いいから、ついて来い」

 

 

そのまま、なすがまま……ユースケを馬車にぶち込み、俺の馬車に乗りこんだ。

 

御者をしているジェーンに合図を送れば、馬車が動き出す。

騎士団の本部が少しずつ離れていく。

 

ユースケは……何故か喋らない。

ちら、と見るとちょっと怯えた目をしていた。

 

俺の不機嫌を感じ取っていたのだろうか。

……拙い。

子供の癇癪じゃないんだ、人に見られて察せられるような隠し方じゃあダメダメだな。

 

 

「……はぁ」

 

 

俺ため息と共に後頭部を掻いて、ユースケへ視線を戻した。

 

 

「さっきの奴、随分と仲良さそうだったな」

 

「え……あ、シェナのこと?」

 

「おう」

 

「何も知らなかった僕に、先輩として騎士団の事を色々を教えてくれてるからね」

 

「ほーぅ、そうか。そりゃ良かったな」

 

 

……驚いた。

俺の口から嫌味が飛び出すなんて、自分でも信じられん。

 

 

「あのぉ……ミリア?」

 

「なんだよ」

 

「……ごめん。僕、何かした?」

 

「……なんでそう思うんだ?」

 

「だって……何だか、怒ってるみたいだし」

 

 

そう思っても、本人に直接訊くなよ。

ちょっと呆れて……お陰で、少し冷静になれた。

 

 

「何でもねーよ。マジでお前は悪くないからな」

 

「でも……あ、シェナは悪い人じゃないからね。大丈夫だよ」

 

「……はぁ?」

 

 

……俺が嫉妬してるとは思ってないのか。

シェナが実は企んでいるんじゃないか……って俺が彼女を疑っているように見えるのか?

 

反論しようと口を開いた瞬間、ユースケが彼女を弁護しようと語り始めた。

 

 

「その、彼って騎士団長の甥なんだよ。愛国心も強いし、他の騎士に比べても僕に優しいし──

 

 

ペラペラと、よくもそう褒められるな。

つーか騎士団長の甥っ子だったのか、そりゃあ……そりゃ──

 

 

「……ん?」

 

 

目を瞬いて、ユースケに視線を戻した。

 

 

「彼?甥?誰の話だ?」

 

「え、シェナの話だけど」

 

 

もう一度、目を瞬く。

 

 

「……女だろ?」

 

「え、いや……シェナは男だけど……?」

 

 

……俺は根本的な所から、勘違いをしてたって訳だ。

そりゃ、そうか。

確かに顔は女っぽかったし、髪だって長髪だったし……だけどもまぁ、中性的な男だって言われても納得できる容姿だった。

名前もまぁ。言われてみれば男にも付ける名前だ。

 

 

「……はぁ〜〜〜〜〜っ」

 

 

思わず、ため息を吐いた。

この胸に感じていた感情を、全部捨ててしまいたいぐらいだ。

 

 

「何でそんなため息を……?」

 

「気にすんな。ちょっと変な勘違いをしてただけだ」

 

「でも、シェナが女の子だからって困るような事が──

 

「うっさい。気にすんなって言ってるだろ」

 

「いて」

 

 

ユースケの肩を殴る。

筋肉質な肩に、俺のヘナチョコパンチが命中する。

ダメージを与える事に成功した……俺の拳の方にな。

 

こっそり回復魔法をかけつつ、腕を組んだ。

 

 

「俺と結婚……ま、形だけの結婚とはいえ結婚するだろ?」

 

「形だけ……ま、まぁ、うん……」

 

「なのに、もう女に手を出してんのか〜っと思ってな」

 

「……うん?」

 

「妾を作んのは、せめて結婚後に落ち着いてからしてくれよ……って思った訳だ。こっちの苦労も知らず、何してんだ……って、ちょっとムカついてたんだよ」

 

「え、違うよ!?僕、そんな事しないよ!」

 

「そうだよな。疑って悪かったな」

 

「そうだよ……!僕がそんな事するように見え──

 

「ユースケにそんな根性ないもんな」

 

「っ、いや……まぁ、ないけど」

 

「……ぷっ」

 

「な、何で笑うんだよ。酷いよ」

 

「くくくっ、悪い悪い」

 

 

俺が耐えきれず笑うと、ユースケも安堵したように笑い出した。

……やっぱ、俺はコイツと居るのが楽しい。

ユースケも……そう思ってくれてると、嬉しいかも知れない。

 

だが、あー……。

 

この空気感じゃ、結婚式の……誓いのキスの話題は出しづらいか。

まぁ、帰ってからでもいいか。

嫌な事は後回しだ。

 

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