大切なものに触れられなくなったホシノ 前編
『まただ。お前はまた大切な人を守れなかった』
頭の中に私と同じ声が喋りかけてくる。
私は暗闇の中をいつもの愛銃を持ったまま立ち尽くしていた。私の服と手に握られた愛銃、Eye of Horusには赤い血のような液体がべたりと付いていてどこまでも広がる黒色の地面にぽとぽとと一滴ずつ液体が落ちている。
そして、そんな私の目の前にはたくさんの血を流して倒れている見知った人達がいた。
セリカちゃん、アヤネちゃん、シロコちゃん、ノノミちゃん、ヒナちゃん、先生、そしてユメ先輩。
私はユメ先輩がこうやって血を流して倒れている姿を見て、これは夢なのだと気づいた。それと同時にこれはあり得た世界なのだということに恐怖を抱いてしまう。
向こうのシロコちゃんもはっきりとは言わなかったけど、きっと向こうの私はテラー化した時にみんなのことを殺めてしまったのだろう。だからこれはあり得た話なのだ。
『そうだ。だからお前は!』
「うるさいよ」
だけど……私はもうみんなと、ヒナちゃんと、先生と約束したんだ。前に進むって。だから……
「だから、中途半端な未練なんてもういらない」
『や、やめ!?』
私は自身の頭に愛銃を突きつけ、その引き金を引いた。
* * *
目が覚めると私は自分の部屋のベットにいた。なかなか目覚めの悪い夢を見せてくれるなとか思いつつ、自身のスマホを覗くと大量の着信がかかってきていることに気がついた。
「あっ!? やっばい、遅刻だ! このままだとまたアヤネちゃんにどやされる」
モモトークに遅刻すると連絡だけ入れて、学校に行く支度をしていく。あとは愛銃といつもの盾を持つだけだといったところで異変に気がついた。
触れられないのだ。確かに愛銃と盾はそこに立て掛けてあるのだが、手を近づけると極度に震え始める。それどころか、本気の時にしか装着しないサイドアームにすらも触れられなくなっている。
これは異常事態だ。
このキヴォトスでは治安の面から武装して外に出るのが常識とされている。
だけど、今の私は遅刻して後輩達を待たせてしまっているし、そのうえ休みの連絡なんか入れてしまっては後輩達にいらない心配をかけさせてしまう。
「んー………まぁ、今日は先生がアビドスに来る予定もないはずだし別にいいか」
今日いっぱいは格闘術でなんとかしのごう。
そうして、なんの武装もせずに家を出た私は急いで学校に向かった。
* * *
学校に無事着いた私は会議室で待っていたみんなからお叱りを受けた。
だけど、それはここのところ遅刻が連続していたことに対してであって、武装せずに外に出たことではなかった。みんなが気づいてなさそうなことに少し安堵する。
そして説教タイムが終わった後はいつものように会議が始まった。今回の議題内容はセリカちゃんとアヤネちゃんのアイドルプロデュースをどういう風に本格化させていくかというお話。
「やっぱり衣装とか大事じゃない〜? いろんなジャンルの衣装を作るとか」
「そうですね。それも候補に入れておきましょうか」
「はい! そうしたらアイドル水着衣装なんてのはどうでしょうか?」
「ん、賛成。過激な格好させてファンから搾取するべき」
「何言ってるのよ///!? 反対、反対!!」
こんないつものやりとりも微笑ましいなと少し口角が上がったのが分かった。
そんな尊くも楽しい空間を私が数秒のうちに壊してしまうとは誰も……自分自身でさえ、そんなことになるとは思わなかった。
「あれ、ホシノ先輩寝癖ついてますよ。まったく、お寝坊さんですねぇ〜」
優しいノノミちゃんは私の寝癖を直そうと髪に手を伸ばしてくる。私はそんなノノミちゃんの手を………
「触らないで!?!?」
思いっきり弾いた。
部屋の中全体にパンッという音が鳴り響いた。
ノノミちゃんの顔は驚きと悲しみに溢れた凄い顔になっているけど、実際は私の方が凄い顔になっているんだろう。
無意識下に動いたことはいえ、大切な後輩が私のために伸ばしてくれた手を弾いて拒絶したこと。大切な後輩にまた、テラー化したあの時と同じような顔にさせてしまったことの罪悪感に私は一瞬で飲まれそうになっていた。
「せ、先輩?」
ノノミちゃんは困惑しながらも私のことを呼ぶ。
「あ、ごめんね。学校まで走ってきたからさ、汗かいちゃ……」
「そうじゃないですよね」
私の言葉に被せてアヤネちゃんが否定をする。
「ホシノ先輩。またそうやって一人で抱え込むの……?」
シロコちゃんが言う。
そうは言われても私だって何も分からないんだよ? だから、抱え込むもなにも……
「ホシノ先輩、言ってくださいよ。私達、力になりますから」
セリカちゃんがそう言うと、みんな私が逃げられないようにしようとしてるのか段々と近づき始める。それに伴い、私の体の震えはどんどんと加速していきこれはまずいと直感が訴えた。
「だ、大丈夫だよ〜。あ、ごめん。おじさん、今日用事あったの思い出したから帰るね!」
「「「「先輩!!」」」」
急いで私は会議室を出ようとする。そんな時、突然会議室の扉が開いた。あまりにも突然だったため、扉を開けたであろう人物と私は密着する形で衝突した。
「あ、ごめんなさ……」
「大丈夫? ホシノ」
「……はな………」
「はな?」
「離して!!」
私は目の前にいる人物が先生であると分かった途端、体の震えがピークに達してしまい、みんなの前でつい明確な拒絶を見せてしまった。
私は先生に手を出してしまったのだ。
「先生!? 大丈夫ですか!?」
「いたたたた………」
私に思いっきり押された先生は壁に背中を打ちつけ、座り込んでしまう。
私の後ろで後輩達が何かを言っているが、今の私には頭の中が罪、罪悪感とたくさんの思考で入り乱れ、何かを聞く余裕などありはしなかった。
「な……なに……これ………」
泣きたくなってくる。でも、今一番泣きたいのはまた裏切られたと思っている後輩達の方だ。それなら今は私がするべきことはここを離れることだ。
私は流れてくる涙を必死に堪えて、この場を離れた。
弊キヴォトスは先ホシヒナ+ワカモ概念になります。
他の概念の先生も出てくる可能性もありますが今のところ、予定はありません。
てことで、今回はホシノに何かが起きてしまったお話でした。みんなの元から離れたホシノは一体どうするんでしょうかね。
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