「私、何か気に触ることでもしたかなぁ……嫌われちゃったのかな………」
「先生、そんなことないですよ!」
ノノミが慰めてくれてるが私の気分はズーンとしたままだ。
ホシノがテラー化したあの事件の後、私とホシノとヒナの関係は教師と生徒の枠組みを超えたものとなった。
それからホシノと私はヒーローと相棒といった関係にもなった。
うまく付き合っていけてると思った。けれど、そんな気持ちを今日は疑わらずにはいられなかった。
ホシノが私を押し飛ばしたのだ。力は強かったが当たりどころがよかったのか、痛みを少し感じるだけで特に怪我はしなかった。
「……私が来る前、何があったの?」
それでも、最後に走り去るホシノの顔を見た時、何かあったのかもしれないと考えざるを得なかった。
私がそう聞くと本当に何かあったのか、生徒達はビクッと体を震わせた。
「実は……」
そう言ってアヤネは、先程会議室で起こったことを事細かく説明してくれた。
「……ってことなんです。ホシノ先輩、この前のことで分かってくれたと思ってたのですが……」
「………それさ、ホシノは話さなかったんじゃなくて、話せなかったじゃないかな」
「ん、先生どう言うこと?」
「ホシノも今の状況がよく分かってなかったんだよ。みんなは授業で出された問題の意味をまだ理解もできていないのに説明しろって言われて説明できる?」
「それは……できないわね」
「そうでしょ? 話を聞く限り、ホシノは触れられることを嫌がったんだよね? それなのに説明しろって言ってホシノを捕まえるように近づいたのがよくなかったんじゃないかな。現にホシノに触れた私も押し飛ばされたわけだし、押し飛ばした本人は訳も分からず泣きそうな感じだったから、とても怖かったんだと思う」
しばらくの間、会議室に静寂が流れた。
みんな、身に覚えがあるのだろう。悔しそうに押し黙り、悲しそうに頭を伏せている。
そんな中、先程までずっと落ち込み押し黙っていたノノミが沈黙を破った。
「……ホシノ先輩に謝らないといけませんね」
「ん、そのうえでホシノ先輩の力になる」
「そのためにはまず、ホシノ先輩を見つけ出さないといけないですね」
「私、柴崎ラーメンの大将と常連さんにホシノ先輩を見なかったか聞いてくるわ!」
シロコ達はちょっとずつだが活力を取り戻し、各々がホシノに謝るために、ホシノの力になるために動きだした。
私もできることをしないとね……
私は慌ただしく動きだした会議室を出て、ホシノと同じぐらい信頼しているあの子に電話をすることにした。
* * *
一体どこまで走ってきたんだろう。少なくともアビトスの区域ではないはず。
それにしても……
「私、一体どうしちゃったんだろう……」
後輩だけじゃなく、好きな先生にすら手を出しちゃった……
「はは、これじゃあヒナちゃんに顔向けできないや」
「……これじゃあ、なんて? ホシノ」
突然後ろから声をかけられてビクッと体を震わせてしまう。
恐る恐る後ろを振り向くと、白髪の可愛らしい髪にかっこいい角を持ち、いかにも厳格そうなヘイローを持った少女がいた。私に声をかけたのはヒナちゃんだった。
「あ、あはは……なんでもないよ。それよりヒナちゃん、どうしてここに?」
「どうしてってあなた、ここがどこか分かってないの? ここはゲヘナ地区よ」
えっと思い、辺りを見回してみる。確かにここはゲヘナ地区のようだった。
無我夢中で走ってきたとはいえ、よりにもよってここに来るとは……
「……はぁ、私がここにきたのはあなたを探しにきたからよ。先生から連絡があったの。あなたを探して欲しいって。その様子だとスマホも忘れてきたんでしょう」
「んぐっ……」
先生から言われてきたんだ。
まぁそれもそうだろう。本来、ヒナちゃんは風紀委員長でこんなことに油を売ってる暇などないはずなのだ。
私も生徒会長になったけど、ゲヘナの治安を考えれば私の仕事量なんか比べ物にならないぐらいゲヘナ風紀委員長の仕事量は多い。
「いったい何があったのよ。教えて、ホシノ。私達、と、友達でしょう///?」
「……うん、そうだね」
正直、本当に話すべきか考えてしまう。
だけど、今の私はもう誰でもいいからとにかく話して楽になりたかった。
「ヒナちゃん……私、みんなに触れられなくなっちゃった」
「………とにかく、一度場所を移しましょう。話はそれから聞くわ」
ヒナちゃんは私の手を触れようとして……
「うっ!? は、離し……うぅぅぅ………」
また振り解いてしまった。
泣きそうになる。いや、もう泣いていたと思う。
「……ごめんなさい。あなたのことをもう少し考えるべきだったわ。私についてこれる?」
私は黙って頷く。
「それじゃあ行きましょう」
そう言ってヒナちゃんの後ろをついていきながら、人気の少ない公園のベンチに移動した。
それから私は泣きながらも朝の夢から今までに起きたことを拙い言葉でヒナちゃんに説明した。
「そう、頑張ったわね」
「ヒナちゃん……?」
「訳も分からずだったけど、あなたはちゃんと考えて彼女達から距離を取ることを選択できたじゃない」
「で、でも……」
「どっちにしろ、あなたがあのまま彼女達のそばにいたところで問題は解決できないし、彼女達をさらに傷つけてしまうだけだわ」
確かに、そうだったかもしれない。少し触れられそうになっただけでこれだし、あのまま全員で私のことを捕まえようとしてきていたら、私は容赦なく殴っていたと思う……多分。
「とりあえず、先生に連絡するわ。無事だったって伝えないと先生も心配する。それからどうしようか考えましょう」
「ありがとう」
「いいのよ」
そう言って、ヒナちゃんは少し離れたところに行き電話をし始める。
その時だった。
「あ、もしもし。せんせ………っ!?」
公園内に銃声が鳴り響き、ヒナちゃんの手からスマホが離れた。銃弾がヒナちゃんのスマホを貫いたのだ。
「ヒナちゃん!?」
「大丈夫よ。あなたたち……PMC、カイザーコーポレーションね」
私はすぐにヒナちゃんのそばに近寄った。幸い、怪我はしていないようだ。
ヒナちゃんが名前を呼ぶと生い茂った草むらからぞろぞろとカイザーコーポレーションの連中が出てきた。
「ッチ、外したか。おい、ここにゲヘナの風紀委員長がいるなんて聞いてないぞ!」
つい先程銃を撃ったと思われる一人が後ろにいる仲間達に文句を言っている。
「あなた達、ここに私や暁のホルスがいると知っておきながら戦闘を仕掛けてくるなんていい度胸してるじゃない」
「馬鹿言え、お前はともかく今のそいつは銃も使えないただのガキだろう」
私は驚いた。
後輩達はおろか先生すら知らない、ヒナちゃんしか知らない情報をなぜ知っている。
草むらの中から聞いてたのかもしれないがその場合、草むらの中で私達を待ち伏せをしていたことの説明がつかなくなる。それにこいつらの言った言葉的にもヒナちゃんの登場は予想外だったようだ。
つまり、こいつらは私を狙って待ち伏せしていたということ、それも計画的に……
「っは! なんで知っている、そんな目をしているな暁のホルス」
「教えてくれるのか……」
「ははは!! いいだろう、教えてやる。お前、昨日我らPMCを襲っただろ。その時に何かおかしなことはなかったか?」
昨日というといつものパトロールの時だろうか?
「………あ!?」
「思い出したようだな」
「何があったの、ホシノ」
「実は昨日のパトロール中にこいつらと戦った時、何か変なものを撃たれたんだよ」
確かに銃声がなったし、私に着弾をした衝撃もあったんだけど特に痛みはなかったから無視してたのを忘れていた。
「それは我が社で実験中に偶然できた、以前お前を捕らえた時に採取した微量の神秘で作り上げた特殊な銃弾だ。それは銃弾に当たった者のヘイローに干渉し、そいつ自身のトラウマで心も体もじわじわと侵食していくという代物だ」
だから、今朝あんな夢を見たんだ。
「一発しかないから使用するなと言われていたものだったのが何かの手違いで通常の銃弾と混ざって放たれてしまったみたいだが、まさかお前に当たるとは……なんの因果だろうな」
「……治し方はあるのかしら?」
「それはない。敵に撃ち込まれるために作り上げられた銃弾に特効薬を作っておく馬鹿は普通いるか?」
「いないでしょうね」
ヒナちゃんが怒ったように角のところどころを紫色に輝かせ、翼を大きく広げる。臨戦体制だ。
一応私も袖を捲り、長い髪を後ろで纏める。
「あなたは私の後ろに下がっていなさい」
「っあは! この数をお前だけでそいつのことを守り切れるかな!?」
敵がそう言うとさらに多くのカイザーPMCが現れた。
それは先程の草むらからも、公園の入り口からも、公園の周りの道路からもとにかくたくさん。
私はヒナちゃんのことを信じている……けど、信じているからこそ、この数は無理だとそう思えた。
私も戦わないと……けど、どうやって? この数の銃弾を全部避けながら敵の懐に潜り込むなんて………馬鹿なこと言うな、小鳥遊ホシノ。
私がやらないとヒナちゃんが傷つくんだ。自分だけ傷つかないようになんて甘えたことを言うな。敵の銃弾に当たりながらでも殴りに行くんだ、小鳥遊ホシノ!
「イシュ・ボシェテ」
そうして、ヒナちゃんの翼が地面を叩く音で戦いの幕が開けた。
最近、カズサとかミカとか書きたい子いっぱいいすぎて困ってます。
てことで、今回はホシノとヒナの回。そして、カイザーPMCが裏で動いていたことが分かった回でした。
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