【Buriedbones Continue】鰭   作:猫乃湯和

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アイディア

 煙幕、なし。

 護符、なし。

 手裏剣、なし。

 後は戦いに使えそうにない道具、魔法の馬を召喚する護符だけ。いつの間にかきな臭くなっている。

 

 団蔵の息は上がり、心臓が酸欠を警告する。だが集会所まで行けば結界があり、『その手』の場所には必ず脱出用の隠し通路がある。

 大口を開けた鮫が瞬間移動で現れたが団蔵の四肢には力が入らない、

(これでは斬れぬ)

それを悟った瞬間、紙一重で物理攻撃を右へ遣り過ごす。鮫から飛び退いたが、膝が笑っている。

(最早、これまでか)

団蔵は顔を上げた。目の前には浜に乗り上げた鮫達がいる。

 真っ正面の鮫の眼光が怪しく光り、団蔵の記憶はそこで途切れた。

 

 リチャードの家も、とびうお屋も、浜の林も燃え始めている。

 

***

 

 集会所が見え、その低い石垣の向こうにはふらりと歩くトビアスがいる。

「トビー」

スピカの声に応じないトビアスは身を屈め、しばらくしてから土に汚れた手で石を拾い上げた。それを石垣の外に投げ捨てる。

「まさか」

キャサリンは推測して恐怖した。鮫のBuriedbonesと化したトビアスは石垣の中の要石を取り除き、第二結界を破壊しているのだ。

「駄目、トビー」

スピカの静止と同時に不可視の第二結界に亀裂が現れ、崩壊しながら消えていく。そして、一際巨大な鮫のが集会所にのし掛かり、押し潰した。

 鮫の向こうからは虚ろなトビアスが剣を持って迫っている。背後には、団蔵がいない!

 正面には新たな鮫が現れ、口腔と鰓から忌まわしい色のガスが吹き出す。そのガスは瞬時に草を灰色に枯らし、土を有り得ない色に腐らせる。咳き込むキャサリンも、瘴気に苦しむスピカと膝をついたグスタフもそれが猛毒の瘴気だと理解し、理解の後は絶望が続いた。この化け物達は村を滅ぼそうとしている!

 逃げなきゃ─だが逃げ場はない──、

「林の獣道へ」

トビアスに剣を構えたグスタフが二人の女に退避を促す。

「でも」

「行け、岩屋港に、国に知らせろ」

スピカが倒れた。顔の孔から、指先と爪の隙間から血が吹き出す。ハーフリングの小さな体では瘴気の影響はより大きい。しかし、

「逃げて」

と血で汚れた口で懇願する。

 

 キャサリンは血の涙を流しながら、霞む視界で獣道がある分岐まで戻る。関節の皮膚が破れ、肉から血が滲む。鼻腔か口腔のいずれかから血の匂いがする。内蔵と爪先の激痛でキャサリンはとうとう立てなくなったが、死が迫る自覚はあっても生への執着心が体を突き動かす。

 分岐点には薙ぎ払われた木々と石像の団蔵が見える。

「ダニー」

血が吹き出す手で団蔵の足首を掴む。だが彼を見上げても視界が赤く霞む。

 瘴気が体の関節と柔らかい部分から腐らせていく。腹が崩れようとしているが痛みはもう感じなかった。

 意識が途切れようとして最後の閃きが訪れ、ただの執着心に目標が加わった。

 キャサリンは『倉庫』から結界用の水晶を出した。

(魔物、瘴気を阻め)

と声なく唱えた。手の中の水晶は割れて半径1メートルばかりの結界が現れ、団蔵の全身とキャサリンの上半身を包む。小さくも強力な結界は瘴気と鮫の攻撃を、トビアス達Buriedbonesを頑として阻む。

(最高だわ)

ジャスティンが日頃からたっぷりの魔力を込めた『とっておき』の結界の強度はキャサリンを安堵させた。

 

化け物の情報は私の死体に残しておくわ。

団蔵と、この村をお願いね。

 

 キャサリンはもう動かない。結界の外で瘴気を浴びる下半身は崩れ、腐った土に同化し始めている。

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