マイルドかっちゃんは幼馴染をヒーローにする 作:ふくふくまる
「かっちゃん、ぼく『無個性』なんだって………『無個性』でも、ヒーローになれるかな?」
4歳になっても個性が発現しなかった幼馴染――出久の言葉を勝己はぼうと聞く。
誰もいない公園にて。
他の子供達はすでに帰り、夕焼けで赤く染まる砂場の真ん中で幼い出久が目にうっすらと涙を溜めている。
───そんなの、なれるわけねえだろ。
泣き虫で、ドジで、そのくせ無鉄砲なところがあって。
おまけに『無個性』な奴がヒーローになんてなれるわけない。
勝己はいつものように出久を馬鹿にしようとした───が、その時。
幼い彼の脳裏に突如他人の人生が走馬灯のように流れ込んでくる。
冴えない男の、いち一般市民の死ぬまでの記憶が蘇り、勝己は歳不相応の情報処理能力でそれが『前世の記憶』であると理解した。
「…………かっちゃん?」
前世の自分が、目の前で涙を流す幼い少年を慰めてあげなさいと囁く。
前の人生で培ってきた常識や価値観がコンピュータのように勝己にインストールされたのだ。
大人として、その小さな子供を慰めてやりなさい、と。
けれど、それでも。
今世に生まれて4年。
たった数年でも、その中で培われた勝己の自我が前世の自分の声を否定した。
前世が何だ。常識が何だ。
幼い子供が泣いているんだったら慰めてやれ?
違うだろう。
目の前にいるのはただの子供なんかじゃない。
泣き虫で、ドジで、そのくせ無鉄砲で───おまけに頑固なところもあって、他人の痛みに人一倍敏感で。
困っている奴がいるなら後先考えず手を差し伸べる大馬鹿野郎。
諦めも悪く勝己がここでいくら馬鹿にしたって、その性分を直すことも、きっとヒーローになることも諦めないだろう。
『かっちゃん、『無個性』でもヒーローになれるかな?』
そのくせ、勝己に肯定してもらおうと聞いてくる出久の問いに苛立ってしまう。
身体年齢に引き摺られているのか。
勝己は沸々と沸き上がる怒りに我慢することができなかった。
そしていつの間にか、勝己は叫んでいた。
「…………───らねーよ」
「え?」
「知らねーよ!んなもん自分で考えやがれ!!」
ぽかんとする出久を前に勝己の口は止まらない。
「なれるかだって?違えだろ!?なるかならないかだろ!?大体なあ、てめえに個性があろうが無かろうが大して変わんねえよ!!」
「かっちゃん、」
「個性があったところでてめえは変わらねえ!ヒーローになるかならないかを『個性』のせいにしてんじゃねえ!!」
前世の自分が「やめろ」と叫ぶ。
目の前にいる幼い少年に無責任なことを言うな。甘い幻想を抱かせてやるなと焦ったように声を上げる。
ヒーローを目指して、なれなかった時の絶望は図りしれないのだから。
それに万が一なれたとして、危険なヒーロー活動で命を落とした時に彼本人や家族への顔向けはできるのかと叫ぶ。
それでも幼い勝己の高ぶる感情は止まらない。
前世の自分の話す内容は最もであるし、子供ながらにして高い知能でそれを理解した───その上で。
「自分で決めろ!なりてえんなら、なれ!!デク!!」
傍から見れば苛めっこが気弱な子供をいじめているように見えるだろう。
現に幼い出久の目には大粒の涙が流れていた。
そして少年は泣きながら何度も何度も頷く。
そんな幼馴染の様子を一瞥し、生まれながらにしてストイックな性質をもつ勝己はガキ大将よろしく言い放った。
「特訓だ!!!」
前世の自分が「あちゃあ」と頭の中で項垂れるのが分かる。
自分の頭の中にある冷静な部分が他人格となって存在しているような気もしたが、成長していく内にそれはゆっくりと勝己本人の人格と融合していくのをまだ知らない。
───かくして、正史の流れから大幅に外れた少年達の物語が始まろうとしていた。
◇
勝己はおおよそ性格が悪かった。
粗野で、暴君で、そのくせ頭が良いものだから口も回る。
クラスにいたら理性的な子供達を中心に「あんまり関わりたくないタイプの子だなあ」と思われる程、ヤンキー気質でジャイアンだった。
しかしその反面、こうと決めたことには実直だった。
自分にも他人にも厳しく、それが勝己の唯一の美点であった。
───爆豪 勝己、4歳。
「いいか?デク。俺達はまだ4歳だから特訓といってもできることは限られている。だが、図書館から借りた本や近所の格闘教室にいるおっさん、それから●ouTubeで調べた結果、幼少期にはまず資本となる身体作りをすることが重要だ」
「からだづくり?」
「食べ物の好き嫌いをするな。早く寝て早く起きろ。運動量を増やせ。俺は今後おふくろに頼んで近所の格闘教室(幼児部門)に通うつもりだ」
「僕もいく!!」
───爆豪 勝己、5歳。
「かっちゃん、だいじょうぶ?」
「てめえ………何一緒に川に落ちてんだ!浅瀬だから良いものの俺らの身長だと上に這い出れねえだろうが!………助けようとして咄嗟に体が動いた?逆に迷惑だわ!!次自分の勘定入れねえで動いたらブッ殺すからな!!」
「だ、だいじょうぶそうだね」
───爆豪 勝己、6歳。
「いじめっ子庇って上級生にぼこぼこにされただあ?てめえ、次自分を勘定入れず動いたらブッ殺すっつったよな!?」
「ご、ごめん!でも体が動いちゃって………!」
「チッ………つうか、そもそもあんな個性もまともに使えとらんようなカス共に何良いようにされてんだ!!あんなん個性なくともブチ殺せるだろうが!!やれ!!完膚なきまでにやり返せ!!」
「言ってることがめちゃくちゃだよ、かっちゃん!!」
───爆豪 勝己、9歳。
「次のフェーズに移行する。デク、てめえは俺に比べるとまだまだヒョロイが同年代のガキどもよりかは鍛えられとる」
「うん、ありがとう」
「今後から本格的な訓練として1日300回ずつ腹筋と腕立て伏せ。それから朝は町内周回マラソンに放課後は格闘教室の指南後俺と戦闘訓練。授業中もハンドプレスで握力を鍛えろ。あとインコさんに協力してもらって食うものはタンパク質を中心に摂れ」
「かっちゃんもやるんでしょ」
「当たり前だボケが」
───爆豪 勝己、12歳。
「ねえ、かっちゃん。体力テスト僕らツートップなんだって」
「たりめーだろ」
「中学にも入ったし、気は早いけど雄英の受験対策しておいた方が良いよね。筆記の過去問は手に入れられたけど実技の全容は緘口令が敷かれているみたいで情報が中々手に入らないんだ。だけど記念受験勢のSNSを見る限り、ネタバレしない程度に試験の過酷さが、」
「おいクソナード!ぶつぶつ言っててきめえんだよ!!筋トレに集中しろ!!」
───幼少期から今日まで。
勝己は子供にはあるまじきストイックさで淡々と肉体を鍛え上げてきた。
そしてそれを出久にも付き合わせた。
過去に「特訓だ」と言った手前、根が真面目な勝己にとって自分の発言を覆すような真似はプライドが許さなかった。
だからこそ幼馴染の少年と気が合わなくとも、喧嘩しても、その自身の身を心見ないお節介さに気持ち悪く思えども。
───何があっても見捨てることはしなかった。
その間、前世の自分の人格と今の勝己の人格はゆっくりと融合していき───残念ながら生まれ持った粗暴さは何一つ改善されなかったものの、鍛錬以外の場ではごく稀に穏やかな一面をのぞかせるようになる。
そして幼少の頃より鍛え上げてきた、実践向きの筋肉を纏った勝己と出久は同学年の子供達から一線を画していた。
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───14の春。
中学二年に進級した出久は、日課となった早朝マラソンで隣を走る幼馴染に尋ねる。
「かっちゃん。僕、雄英に合格できるかな。ヒーローに、なれるかな」
空は青みがかっており地平線に向けて美しい桃色に色付いていく。
春先というのもあってまだ肌寒く、鼻先がすっと冷えていた。
そして隣を走る幼馴染───勝己はそんな出久に不機嫌そうに吐き捨てる。
「あ?知らねーよ。いちいち聞くなボケ」
厳しいし、絶対に「なれる」だなんて言ってくれない。
けれど「なれない」とも言わない少年を出久は眩く思った。