地獄先生と陰陽師少女 作:花札
そこには珍しい植物が生えているという噂があった。
「美樹、本当にここって入っていいの?」
美樹を先頭に歩く郷子が、不安そうな顔を浮かべながら美樹に質問した。
「大丈夫大丈夫!
だって『立ち入り禁止』なんて書いてる看板も立札もなかったし、全然平気よ!」
森の道を歩きながら美樹は郷子の質問に答えた。
歩いていると、茂みを抜けどこかの広場へとたどり着いた。その広場の真ん中にはデカイ藤の木が生えていた。
「どこだぁ?ここ?」
郷子の後ろを歩いていた広が、真ん中に生える藤の木を眺めてながら辺りを見回した。郷子は、真ん中に生える藤の木に近寄り、顔を上げながら藤を見た。
「大きい藤の木」
「藤の木なんて、どうでもいいから。早く珍しい花を見つけるのよ!」
「珍しい花って言うけど、どんな花なの?」
「知らないわ」
「え?」
「だって噂で聞いただけだもの。」
「噂って…」
「今まで見たことない花だったら、それが珍しい花なのよ!ほら早くしないと日が暮れちゃうわ!」
美樹に言われるがままに、郷子達は藤の木を中心に、地面を探し始めた。しばらく探していると、地面に薄いピンクの花弁を付けた花が咲いており、郷子は見つけてそれを手に取った。
「美樹、この花は?」
「ん?どれどれ?
おぉ!これは珍しい花だわ!」
郷子が手に握る花を奪い取り、美樹は眺めて言った。美樹は嬉しさから飛び跳ねながらその場から立ち去ってしまった。そんな美樹を広と郷子は慌てて後を追いかけた。
三人が立ち去った後、茂みに潜んでいたものが姿を現し、摘まれた花の跡地を眺め、三人が茂みの中へ行った方を睨み付けた。
翌日―――――
「凄ぉい」
「見たことないや、こんな花」
教室では、美樹が昨日摘んできた花で盛り上がっていた。美樹は積んできた花を押し花にして、皆に見せつけていた。
「どこにあったの?この花」
「童守町のはずれにある森の中にあったのよ!」
「森?
童守町のはずれに森なんてあったっけ?」
「あるわよ!
はずれにあるちょっと場所は分かりずらいけど、大きな公園みたいな森が」
「そんな森なかったはずだよ?」
「え?」
「それに、美樹が言ってる森がある場所には、確か神社があったはずだよ」
「神社?」
「うん。昔からあるらしい神社で、言い伝えじゃ、そこに各地の妖怪達が集まって、飲み会をやってるって言うね」
「そうなの?」
「でも、私達が言った時は、そんな神社なってなかったわよ。周りは全部木で囲まれてて、迷ってもおかしくないところだったもん」
クラスの女の子が話したことに疑問を持った郷子は、昨日見た森の事を詳しく説明した。
郷子の話を聞いた女の子は首を傾げた。
「おかしいなぁ
あの辺りに住んでるお喋り好きのお婆ちゃんから聞いたときは、そう言ってたけど……」
「お婆ちゃん、ボケてんじゃないの?」
「そんなことないわよ!」
「コラ!何騒いでるんだ!チャイムはとっくに鳴ってるぞ!」
いつの間にか鳴っているチャイムと同時に教室に入ってきたぬ~べ~は、自分の席に座っていない生徒たちに注意をした。生徒たちは慌てて自分の席へ着き、美樹も押し花を鞄の中へしまい席へ着いた。
「?おい誰か、麗華を知らないか?」
空席になっている麗華の席に、クラスのみんなは一斉に注目した。
「休みなんじゃないの?」
「おっかしいなぁ……そんな連絡、学校には入って」
“ガラ”
「あ~、やっぱり遅れたわ」
教室の扉を開けながら、麗華は眠い目を擦りながらそう言った。
「コラッ!!何遅れてるんだ!」
「うっさいなぁ……
仕方ないでしょ。目覚まし時計の音聞こえなかったんだから」
「聞こえなかっただぁ?フザケタ事を言うな!
お前、今月に入ってこれで何回目だと思ってるんだ?!」
「二桁はいってると思うけど?」
「偉そうに言うな!」
頭に来たぬ~べ~は、麗華の頭を叩いた。彼女は叩かれた頭を押さえながらぬ~べ~を睨み文句を言った。
「叩くことないでしょ」
「叩きたくもなるわ!今日の遅刻を入れて、もう十五回目だぞ!」
「私、朝弱いんで」
「だからってなぁ……」
「ねぇ麗華、親は起こしてくれないの?」
「親ぁ?
……声は掛けるけど、部屋まで起しに来たことないなぁ」
「どんな神経してる親なんだ……」
「まぁいい、とりあえず席に就け。授業を始めるぞ。」
「ンじゃ、また寝るか」
「!!いい加減にしろ!!」
ぬ~べ~の怒鳴り声が、教室中に響き渡った。そんな教室を学校内に生えている樹の幹から睨む一匹の獣の姿があった。だが、ぬ~べ~も麗華もその存在には気づかずにいた。
放課後―――――
教室を掃除する五年三組……
「ったく、今日は一日中怒鳴られっぱなしで嫌んなる。」
床のゴミを吐きながら、麗華は愚痴をこぼした。その愚痴を聞いていた郷子は机を運びながら言った。
「麗華が、授業中寝てるのがいけないんだよ。ちゃんと受けてれば、ぬ~べ~だってあんなに怒鳴ったりはしないもの」
「そんなこと言ったって、眠いものは眠いし」
「そういえば、麗華って卒中居眠りしてるもんなぁ」
「席一番前なのに、堂々と」
「けど、テストはいつも満点だもんなぁ。レベルの高い塾にでもいってんのか?」
「塾?そんなもん、行ってねぇよ。」
「じゃあ、実力?」
「そうだな。」
「何々、ご両親のどちらかすごい出来るの?それとも兄弟(姉妹)の誰かが出来て、その兄弟(姉妹)から教わってるの?」
「……親は両方共、単身赴任中。兄弟(姉妹)はいるけど、そいつも用事で今月に入ってから家を開けてる」
「じゃあ、今麗華の家ってアンタ一人なの?」
「まぁ、そうなるな」
「それじゃあ、寝坊するわけだ」
「けど、さっき声は掛けるって……」
「ああでも言わないと、鵺野また怒るでしょ?」
「確かに……」
「言われてみれば」
「で?いつ帰って来るの?親は」
「さぁね」
「じゃあ兄弟(姉妹)は?」
「あいつは、もう少ししたら帰って来るよ」
「そんじゃあ、今日は麗華の家に泊まるっということで」
「駄目だ」
「えぇ!!何でだよぉ!」
「泊まったっていいじゃない!」
「駄目なものは駄目だ」
「ケチ!!」
「意地悪!!」
「文句言う暇があるなら、さっさと机運べ」
そう言いながら、麗華は箒を壁に立てかけ、机を運び出した。それに続いて郷子も運び出した。美樹と広はブツブツ文句を言いながら机を運んだ。
運び終え、机を並べ掃除用具を片付ける郷子達……
「よしっ!これで掃除は完了よ」
「やっと、帰れるぜ!」
「なぁなぁ、帰りにゲーセン寄ってかない?」
「おっ!それいいな。賛成!」
「俺も俺も!」
郷子達に続いて、美樹が鞄に今朝皆に見せびらかせていた押し花を鞄の中へしまい直そうとし、鞄から押し花を取り出した。
そんな姿を狙ってか、樹の枝から獣が枝を蹴り、窓を割り教室の中へ入ってきた。
「きゃあ!!」
「何だ今の音?!」
美樹の叫び声と、突然ガラスが割れる音に気付いた郷子達は素早く、教室へ戻った。
教室には、美樹の他にガラスの破片と共に入ってきた獣の姿があった。
「な、何だあれ?!」
「お、俺、ぬ~べ~を呼んでくる!」
後ろにいた克也が三人に言い、その場から駆け出し職員室へ向かった。
「グルル……」
鳴き声を上げた獣は、ゆっくりと体を起こし近くにいた美樹を睨んだ。美樹は鞄を持ち上げ、後ろへ下がり獣を見つめた。
「な、何の?妖怪なの?」
「それより、美樹が危ないわ!早く助けないと!」
「青?」
その声に気付いた郷子は後ろにいた麗華を見た。彼女は、どこか心配げな目を浮かべながら、教室へ入った。中へ入ってきた彼女に気付いたのか、獣は麗華の方に体を向けさせ睨んだ。
「どうしたんだ?何で……何で人間の里に下りてきたんだ?」
怒り狂ったものを宥めるかのような声を出しながら、麗華は一歩一歩前へ出た。教室の隅にいた美樹が彼女に声を掛けた。
「ちょっと、麗華!どうしちゃったの?!そいつに近付いたら、危ないわよ!」
「青、ここはお前の来る場所じゃない。すぐにあそこへ帰れ!」
「グルル……」
獣は、近付いてくる麗華を只睨むだけで、攻撃をしようとしなかった。
「美樹!大丈夫か!」
克也が呼んできたぬ~べ~が、前の扉を開き教室へと入ってきた。突然現れた彼の姿に驚いた獣は、威嚇の声を上げながら攻撃態勢に入り、ぬ~べ~を睨み付けた。
「こいつは、猿猴!!」
「猿猴?」
「妖怪化した猿だ。性格はずる賢く、さらに自分の縄張りが荒らされれば、凶暴化すると言われている」
「グルル……」
「麗華下がれ。こいつは俺が倒す」
「倒すって……ちょっと待って、鵺野!!」
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感……
我が左手に封じられし鬼よ。今こそその力を示せ!」
左手に嵌めていた手袋を外し、鬼の手を出したぬ~べ~。鬼の手を見た猿猴は黒いオーラを体に纏い、長く伸ばした爪を教室の隅にいた美樹に振りかざした。
「美樹!!」
「チッ!雷光!」
腰に着けていたポーチから、紙を取りだし投げ放った。紙は煙を出し中から雷光が姿を現し、美樹の前に立ち猿猴の攻撃を防いだ。
「ガルルル!」
「怒りを鎮めろ!この女が、何をしたというんだ!」
「花……」
「え?」
「花?」
「我等ノ地の花。この人間の子達が、盗った」
「花?まさか、あの百日紅の花か?」
「そう。だから、罰を与える」
一方後ろへ引いた猿猴は、爪をさらに長く伸ばしドアの近くにいた郷子達を見るなり二人に襲いかかった。
「止めろ!!」
郷子と広の前に立った麗華に、猿猴は攻撃を止めた。しばらく猿猴は麗華を見つめると、振り返り窓をやぶり電光石火の様に、学校を離れて行った。割れた窓に近づいた麗華は身を乗り出し外を見つめた。
「麗殿……」
「焔!!雷光!!青を追うよ!」
窓の縁に上り、雷光を戻した麗華は窓から飛び降りた。外で既に狼の姿となっていた焔は麗華を背に乗せて、猿猴の後を追った。