地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「わぁ……真っ白……
焔みたい」
「うるせぇ……」
境内に積もった雪を踏みながら、麗華は焔に言った。焔は頬を赤くしてそっぽを向いた。
「それにしても、遅いなぁ……輝三と泰明さん」
「何か、昼間に電話掛かってきてて輝三の奴、それに対応してたけど」
「フーン……」
ボーッとしている焔に向かって、麗華は雪玉を作り投げ付けた。
「麗!!」
「ヒヒ!!ボーッとしてるのがいけないんだよぉ!」
「この!!」
雪玉を作り、焔は麗華に投げた。麗華は玉を華麗に避け作っていた雪玉を投げ付けた。
二人が遊んでる中、電話を切りながら輝三はため息を付いた。
「親父、どうかしたのか?」
「仕事からの依頼で、明日から一週間ある村に行くことになった」
「村?」
「山奥にある小さな村なんだけど、そこでちょっとした事件が起きて、それを解決して欲しいんだとさ」
「……?
そんなことしたら、麗華ちゃんの修行」
「だから困ってんだ。
代わりはいねぇか聞いたんだけどいねぇみてぇだし……」
「いっそのこと、連れてっちゃえば?」
「?」
「そうすれば、済むことじゃない。麗華ちゃんしっかりしてるし、だらしないお父さんの見張り役出来るし」
「里奈……」
「そうしなさいよ。輝三」
「……」
翌日……
電車から降りる麗華と輝三。
「こっちの雪はもっと淒ぉい!」
「山奥だからな……」
「こっから、山登るの?」
「いや、迎えの車が来てるはず何だが」
「刑事さーん!」
声が聞こえその方向に振り向くと、ペンチコートを着た男性が駆け寄ってきた。麗華は即座に輝三の後ろに隠れた。
「刑事さん、わざわざ遠い所からご苦労様です!」
「こちらこそ、迎えご苦労さん」
「では、早速車の方へ……?
あの、その子は」
麗華を指差しながら、男性は不思議そうに質問した。麗華は首に巻いていた赤いマフラーに顔を埋め、輝三の服の裾を掴みながら隠れた。
「コイツは俺の姪っ子だ。訳あって連れてくることになった。駄目だったか?」
「い、いえ」
車に揺られる中、麗華は車の外を見ていた。彼女と一緒に鼬姿になった焔と竃も窓の外を見ていた。
「山から抜けられない?」
「はい……
村の人の話からですと、季節問わず雪が降り、野菜が取れず仕方なく町に降りようと車を走らせるんですけど……どうにもこうにも、山道から抜け出せないんですよ。
なんて言うんでしょうね……まるで山全体に深い霧が掛かってるって言うか……」
「霊霧」
「?」
話を聞いていた麗華は、ボソリと言った。
「れいむ?何です、それ」
「お前さん、幽霊とか信じる方か?」
「え?
霊感はありませんけど、僕はいると信じてます」
「……
話せ麗華」
「……霊気の霧。
けど、話の内容からして、多分それ山から人を出さない為にやってることだと思う」
「でも、村に済む人が出られなくて、僕等部外者は普通に出入りすることが出来るんだよ?」
「部外者だからだよ。
多分、その山に済む妖怪がやってることだと……思う」
「へぇ……結構詳しいんだね、お嬢ちゃん」
「……」
「あれ?」
「人付き合いが苦手なんだ」
「はぁ……」
車を走らせること三時間。山に入り村の市役所前に車は止まった。車から降りた麗華は白い息を出し、周りを見回した。
「寒……」
「当たり前だ。雪降ってんだから。
中に入るぞ」
「ハーイ」
役所に入り、ソファーに腰掛ける輝三は、煙草を取り出し火を点け一服した。麗華は部屋にいた白猫の頭を撫で時間を潰していた。
「お待たせしました。村長の村瀬です」
入ってきた老人に、輝三は煙草の火を消し握手を交わした。麗華は老人と目を合わせようとせず、ソッと部屋を出て行った。
部屋を出た麗華は焔と共に、市役所内にある図書室へ入った。本棚を眺めながら歩いていると、ある一冊の本が目に止まった。
それは、村に伝わる大鳥伝説の話しだった。
「大鳥って……妖怪のことかな?」
「読んでみろよ」
「うん……
昔、この村には琵琶を弾く妖が現れた。
琵琶の音色は、言葉では表せないほど綺麗な音色だった。村人達はその音色に惚れた。来る日も来る日も仕事が終わると、妖に頼みその音色を響かせた。
最初は皆、お礼として果実等を供えてくれたが、次第にそれは無くなり、そして村人の村長が琵琶の妖を捉え、一日中琵琶を弾かせ、村人から金を取った。
琵琶の弦が切れようが、指が血塗れになろうが、村長は妖で鞭で叩き暴行を加えた」
「麗華!」
読んでいる時、自分の名を呼ぶ声が聞こえ後ろを振り返った。
「輝三」
「村長さんの家で厄介になることになった。今から行くぞ」
「うん……」
本をしまい、麗華は先行く輝三の後を追い駆けていった。
夜……暗い空から降ってくる雪を、麗華は見上げながら眺めていた。
「夜になっても、降るんだね……」
「一日中降ってて、止むのは何ヶ月かに一回だけらしい」
「うわ、大変」
「そうだな」
「……何見てるの?」
「ここ数年の天気だ。見てる限りじゃ、この村ずっと雪が降ってるみてぇだな」
「それ多分、妖怪のせいだと思うよ」
「?」
「さっき図書室で読んだんだ。
昔、この村には琵琶をの上手い妖がいたんだ。けどこの村の村長がその妖を捉えて自分のものにして、村人から金を取ってたんだ」
「……」
「それにその妖、琵琶の弦が切れようが、指が血塗れになろうが……無理矢理弾かされてたみたいだったよ」
「その恨みかもしれねぇな……今起きてる事件は」
「……ハックション!」
「窓にへばり付いてるから、湯冷めしちまったんだ……もう寝ろ」
「輝三は?」
「俺はもう少し調べてから寝る。
とっとと寝ろ。風邪引かれちゃ困る」
「お兄ちゃんに、怒られるから?」
「……さっさと寝ろ!」
怒鳴られた麗華は、慌てて隣の部屋に敷かれていた布団に潜り込んだ。輝三はため息を付きながらも、笑みを溢し資料を見た。
“ボーン……ボーン”
部屋に着けられていた時計の音に気付き、時計を見上げると午前零時を指していた。
(もうこんな時間か……)
資料を片付け、一服しようと煙草を持ち部屋を出て行こうとしたとき、ふと足を止め麗華が眠っている部屋を覗いた。
麗華は布団から手を出し、その傍に体を丸くして鼬姿のまま眠る焔がいた。
(コイツの寝相、本当に輝二によく似てるな)
布団から出ている手を、布団の中へ入れしばらく寝顔を眺めると、部屋を出て行った。
麗華達の部屋を眺める、一つの陰。
陰はしばらく麗華達の部屋を眺めていると、何事もなかったかのようにしてその場から立ち去った。
(……あぁ。
良い音色……この音色で舞ってみたい)
目を覚ます麗華。辺りはまるで水の中のような透明感の世界だった。
(綺麗な音色……
これ、弾いてるの誰だろう)
『ただ聞いて欲しい……それだけだった。
ただ、皆の疲れを和らげたかった』
水の中の奥。薄らと陰が見えた。陰は鳥のシルエットになったり人の姿のシルエットになったりしていた。
そして、その目には涙が浮かんでいた。