秋の恵みの空の下~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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恒例のクイズ

「さて、ここで久しぶりにクイズです」

 古河家の何時もの賑やかな夕食が済み、皆居間でまったりとしていた処へ家の大黒柱である秋生が、唐突に何故か座布団を手に立ち上がった。

 ——またか……

 わあっと盛り上がる渚と、にこにことそんな娘を見る母親の早苗を横目で見やり、岡崎朋也はげんなりとなった。

 彼は諸々の事情で学園祭前から、今は彼女となった渚の家であるここに厄介になっているが、正反対な家庭環境で育ってきた所為か、仲の良過ぎる親子というか、こういうノリには未だについて行けないものがあった。

 そんな三人の前で、秋生は得意げに話を続けた。

「今度の休みに向けたナイスなイベントは、次の内どれだ?」

 と、手に持つ座布団をひっくり返す。

 そこには三択になったクイズの答えが書かれた紙が、セロテープでしっかりと貼られてあった。

「一、 ブドウ狩り 二、イノシシ狩り 三、山狩り

 ——さあ、渚。答えはどれだ?」

「みんな似たようなものばかりで迷います」

 本気で渚は困ったように考え込んでしまった。

 ——んなコトで悩むなよ。

 朋也は情けなさそうに小さく息をついて秋生を見る。

「最後のやつ、一体何狩るんだよ。つか、オッサン分かってんのか? 俺達一応受験生なんだぞ」

「小僧、堅いこと言うんじゃねぇよ。どうせおまえ進学する気ねぇんだろ」

「うっ……」

「じゃ、渚、答えは決まったか?」

 あっさり朋也の文句をいなし、秋生は真剣に悩み込む愛娘に再度訊いた。

 渚はぐっと胸の前で両の拳を握り締め、意気込んで答える。

「はい、すごく悩みましたけど、答えは一番だと思います」

「ブッブーッ。答えは二番のイノシシ狩りだ」

 ——ボタンでも狩る気か、オッサン。

 そのシーンを想像し、タラリと朋也の頬に一筋の冷や汗が伝う。

 この近辺でイノシシと言えば、同級生の藤林椋の双子の姉である杏のペットのウリ坊——イノシシの仔であるボタンだけだ。もしオッサンが狩ろうとしたら、飼い主の杏が黙っていないだろう。オッサンと杏の間に血の雨が降るのは確実で、下手すると人死にが出るかもしれない。その巻き添えにだけはなりたくなかった。

「渚、イノシシ狩りは秋生さんに任せて、私達はブドウ狩りに行きましょうね」

 答えが外れてがっかりする娘に、早苗はにっこりと微笑んで言う。

「はい、お母さん」

「うわっ、ま、待て。早苗、渚、俺も一緒に連れてってくれっ」

 自分一人だけ()け者にされ、秋生は慌てて二人和む妻娘に涙ながらに懇願した。一家の主の権威もへったくれもない。

 ——アホだ……

 目の前に繰り広げられる毎度のアホアホトークに朋也は呆れ果て、疲れたように嘆息する。

 泣きつく夫に早苗は娘と二人にっこりと優しく微笑む。

「はい、秋生さん。皆でブドウ狩りを楽しみましょうね」

「おうっ、取って取って取りまくるぜっ」

 仲間に入れてもらえて俄然張り切ってそう言った秋生は、一人無関係を装う朋也の首にガシッと腕を回して自分に引き寄せた。

「と言うわけでだ。おまえメンバー全員に言っておけよ。今度の休みはブドウ狩りだってな」

「メンバー?」

「野球やった時のメンバーだよ」

 嫌そうに体を反らしながら訝しげに見返した朋也に、秋生は当然の如く言う。

「あん時のメンバーはおまえが集めて来たんだ。責任持ってしっかり全員に伝えておけよ」

「あのな、オッサン」

 一方的に責任を押し付けられた朋也はジト目を向ける。

「さっきも言ったけど、俺達は受験生なんだ。悪いがもう、あんたに付き合ってるヒマなんかねぇんだよ」

「ああ、だがよ。このブドウ狩りはただのブドウ狩りじゃねぇ。この町内の商店街皆の気持ちなんだ」

 迷惑そうな朋也に、秋生は重々しい口調で言い聞かせた。

 

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