秋の恵みの空の下~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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参加者集め(2)

「ブドウ狩りねぇ……」

 授業が全て終わり、生徒がまばらになった教室で午後から出て来た春原は、椅子に座りながら頭の後ろで腕を組み、朋也の話を聞いて気のなさそうに呟いた。

「ガラじゃないって言うか、岡崎、おまえよくそんなの行く気になったよね」

「まぁ、ヒマだし、費用は向こう持ちでブドウ食べ放題の上に、温泉まで入れるんだからな」

「えっ、温泉!?」

 途端に目の色を変え、春原は隣の席に座る朋也に身を乗り出した。

「そ、そそそれって、も、もしかして混浴?」

「そこまでは知らんが……」

 ——一体何を期待してるんだ。こいつ。

 思わず身を引き、朋也は鼻息も荒く興奮する春原に顔を(しか)めながら応える。

「たとえそうだとしても、おまえ、杏や智代と一緒に温泉入る度胸あるか?」

「うっ……」

 その二人との入浴シーンを想像し、そこで余程悲惨な自分の姿を見たのか、春原は紅潮した顔を一気に青褪(あおざ)めさせる。

「い、いやぁ、別にあの二人とじゃなくとも他の——」

「ちなみに、早苗さんや渚と一緒に入りたいと()かすバカは、オッサンと俺が即二度と浮かび上がられないよう温泉の底に沈めてやるが」

 顔面を蒼白にしながらも、まだ混浴に期待を持つ春原の言葉を遮り、朋也は笑みを浮かべて明るく言う。

 その爽やかな口調とにこやかな表情とは裏腹に、目が全然笑ってない。

「お、岡崎——」

 ——マジ、目が恐いんですけど……

 一言でもそんなこと言ったら、本当にこの世とおさらばする事になりかねない。

 ゴクリと唾を飲み込み、春原は顔を引き()らせて愛想笑いをする。

「そ、そんな事、僕が言うわけないだろ」

「そうか、やっぱ命は大切にしなきゃな」

 冗談とは思えない科白(せりふ)をさらりと言って悪友の肩を叩き、朋也は言葉を継ぐ。

「ついでに言えばだ。藤林やことみの場合でも末路は変わらんと思った方がいいぞ」

 絶対杏や智代が黙ってないだろう。美佐枝さんの場合でもそれは同じだ。

「っ………」

 たとえ話でしかないが、このメンバーだと、どう転んでも嬉し恥ずかしの混浴が地獄にしかならないことに、春原は涙した。

 それを見て、朋也は何かを思い出して口を開いた。

「あぁいや、一人だけ、混浴してもおまえが無事でいられるかもしれない相手がいたぞ」

「え? だ、誰だよ」

「芽衣ちゃんだ」

「め、芽衣っ!?」

 喜んだのも束の間、悪友が口にした妹の名に、春原は思いっ切り椅子からずりコケた。

「って、ブドウ狩り、芽衣も来るのかよ!?」

「ああ、昨夜早苗さんがおまえの実家に電話してな」

 一応あの試合のメンバーの一人だったんだしと、驚き焦って訊き返してきた悪友に朋也は事も無げに言う。

「言ってなかったけか」

「今、初めて聞いたよっ」

 口(やかま)しいしっかり者の妹が来るとなると、温泉が混浴じゃなくとも女の子達の柔肌拝めるチャンスは幾らでもあるのに、非常にやりづらくなる。

 ガラじゃないと行き渋っていた筈が、温泉の一言で既に行く気満々の春原だった。

 そこへ、教室の戸口辺りから遠慮がちに声がする。

「あの、朋也くん」

 渚が迎えに来たのだ。

「ああ、今行く」

 薄っぺらな鞄を手に、朋也は自分の席から立ち上がった。

「え? 何処に行くんだよ、岡崎?」

「生徒会室と男子寮だ」

「生徒会室に寮?」

 春原は思いっ切り眉根を寄せた。

 特に生徒会室と聞くと、嫌なヤツの顔しか思い浮かばない。

「ああ、智代と美佐枝さんにもブドウ狩りの件、行けるかどうか聞かないとな」

「え? まだ聞いてなかったの? ってか、美佐枝さんも?」

「はい、杏ちゃん達には昼休みにお話したんですけど、坂上さんと美佐枝さんはこれからなんです」

「おまえも来るか?」

「あ、ああ、うん……」

 誘われて何故か春原は悩み込む。

 今まで智代が来る前提で話していたが、それがまだ確定ではないと分かり、少しでも身の危険を排除するにはどうしたらいいか、無い知恵を絞っているのだ。

「でもさ、美佐枝さんはともかく、智代は誘っても忙しいんじゃないの。生徒会の仕事とかさあ」

「それでも、聞くだけは聞いてみたいと思います」

 何とか捻り出した春原の口実に対し、生真面目に渚は言葉を返す。

「坂上さんは、あの試合でとても頑張ってくれたんですから」

「そうだな、全然役に立たない処が足を引っ張るだけだった奴に声掛けといて、チームの勝利に多大な貢献をした智代に声掛けないわけにはいかねぇよな」

「お、おまえだって似たようなもんだったろっ」

「俺は最後に、渚にホームを踏ませてやったぞ」

 汚名万来のお前と違って。と、思いっ切り(けな)されてつい言い返してきた春原を、朋也はあっさりと返り討ちにする。

「はい、朋也くん。すごくカッコ良かったです」

 その時の事を思い出してにっこりと笑う渚に、朋也もふっと目許を和らげる。

 そんな二人を見て、独り身の春原はぶちぶちと愚痴り出した。

「どうせ僕なんて、才能あっても誰にも認められず、独り淋しく——」

「ほら、うだうだ言ってねぇで行くぞ」

 鬱陶(うっとう)しいそうにいじける春原に冷たく言い放ち、朋也は渚と共に教室を後にした。

 一階に降りて生徒会室に行くと、丁度そこからロングヘアの女子生徒が出て来たのを見つけ、朋也が声を掛ける。

「おい、智代」

「岡崎か、どうした?」

 振り返った智代は、朋也と渚、それに何故かどんよりとして二人の後を付いてくる春原を見やり、眉を(ひそ)める。

「おまえ、今度の休み何か予定でもあるか?」

「いや、特にこれと言ってないが……」

「じゃあ、ブドウ狩りに行かないか?」

 唐突な自分の質問に訝しげな表情をする智代に、朋也は更に訊いた。

「ブドウ狩り?」

「はい、この間の野球の試合で頑張ってくれた皆さんに、商店街の方達が感謝と慰労を込めて、わたし達の為にブドウ狩りを計画してくださったんです」

 そう説明して、渚は伺うように智代を見る。

「あの、どうでしょうか?」

「そうだな……」

「別に無理して行かなくてもいいんだぜ。おまえだってヒマじゃないんだろ」

 躊躇(ためら)いをみせて考え込む智代に、すかさず春原が断るように誘いを掛ける。

「ああ、今回はどうしてもという訳じゃないからな」

 ジロリと春原を見やり、朋也は補足した。

「ただ今の処、声を掛けた奴は全員オッケーしてくれてる。俺達の為にわざわざ計画してくれたんだしな」

「そうか。大した事はしてないのに、そのような気遣いをされては心苦しいと思ったのだが。確かに、商店街の人達の折角の好意を無下にしては、それこそ申し訳ない事だ」

 独り言ちながら頷き、智代は朋也と渚を見る。

「ブドウ狩り、私も行かせてもらおう」

「そ、そんな……」

「よし、じゃあ次は美佐枝さんだな」

「おまえ達、美佐枝さんの所に行くのか?」

 自分の答えにがっくりする春原を後目(しりめ)に、智代が朋也に尋ねる。

「ああ、美佐枝さんにはこれから会って、話そうと思ってるんだ」

「では、私も一緒に行こう。少し聞きたい事があるからな」

「また生徒会の事か?」

「ああ、美佐枝さんの話はとても参考になる」

 春原の住む男子寮の寮母である相楽美佐枝は、朋也達が通うこの光坂高校の卒業生で、伝説を残した初の女子名生徒会長だった。現役生徒会長である智代は彼女を尊敬し、事あるごとに何かと美佐枝に相談に乗って貰っていたのだ。

 朋也達は智代を加え、学校を後にした。

 

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