秋の恵みの空の下~メモリーズ―秋―   作:飛鳥 螢

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合  流

 朝早く実家近くの駅から電車に乗り、何時もなら兄の住む町に行く時は素通りする萌依野町の駅前で芽衣は独り、大きめのバッグを手に人待ち顔で駅前の通りを見ていた。

 その駅のバス停の先、道路脇に繁る低木に隠れるように黒いセダンタイプの車が一台停まっていた。

 中には男が二人、運転席と助手席に座って、さっきからじっと閑散とした駅前に一人佇む芽衣の様子を窺っている。

 助手席の男はハンチング帽を目深に被ったちょび髭の中年太りの男で、運転席の方は二十代の中肉中背の顎に不精ヒゲを生やした若者だった。どちらも黒いサングラスをしていて、人相は分からない。

 服装も地味で目立たない色合いの物を着込み、見るからに怪しげな二人である。

「やっぱ連れらしき(もん)はいませんね」

「ああ、あの手荷物からして家出少女かもしれねぇな」

 運転席に座る不精ヒゲの男に、助手席のちょび髭の男が応えて言う。

「じゃあ、ボス。やっぱあの()にすんですか?」

「ああ、ヤス。その方が後々面倒がなくていいだろう」

 ボスと呼ばれた助手席の男は頷いてドアを開け、車から降りようとする。

 それに続いてヤスもドアに手を掛けた。

 そこへ、後方からクラクションを鳴らして一台のマイクロバスが来た。慌ててヤスは開きかけたドアを閉める。

 芽衣はその音に振り返ると、通りをやって来るマイクロバスを見てパッと顔を輝かせた。

 車内が薄暗くて誰が乗っているのかよく分からないが、マイクロバスの側面に書かれた「光坂商店街野球チーム」の文字を見れば一目瞭然である。

 嬉しそうに手を振ると、それを目指すようにマイクロバスは駅前の通りに乗り入れ、芽衣の前で停車した。

「芽衣ちゃんっ」

「皆さんお久ぶりです」

 マイクロバスから降りて来た兄以外の人達に、芽衣が元気に挨拶をする。

「はい、お久しぶりです。芽衣ちゃん」

「野球の時以来なの」

 渚とことみがほんわりと挨拶を返し、他の者達も口々に再会の喜びを口にする。

 その中で早苗は、少し表情を(かげ)らせて芽衣に訊いた。

「芽衣ちゃん、随分と待ちましたか?」

「いいえ、早苗さん。大丈夫です。ちょっと忘れ物をしたので、近くの商店街の方へ買い物に行ってましたから」

 道路が混んでいて約束の時間より遅れた事を気にする早苗に、駅前で一時間以上待っていた芽衣は、それを伏せて元気に言葉を返した。

 それを聞いた早苗は、疑いもせずにほっと笑みを浮かべる。

「しっかし芽衣、おまえ何持って来たんだよ。それじゃまるで家出してきたみたいじゃないか」

 妹の荷物を見て、春原は呆れたように言った後ではっとなった。

「まさかおまえ、ブドウ狩りの後、そのまま一緒に向こうに行く気じゃないだろうな?」

 妹が年頃の女の子らしく、都会に憧れているのを知っている春原は、芽衣が不甲斐ない兄を心配してなどと言って、しょっちゅうやって来る本当の目的は、自分が住んでいる都会——朋也達は自分達の町が都会だと思ってないのだか——の雰囲気を味わいたい口実だと思っているのだ。

「もう、お兄ちゃんたら、何言ってるの」

 眉を(ひそ)め、芽衣は慌てる兄を呆れたように見やる。

「今日はブドウ狩りの後に皆で温泉入るんでしょ、これはその為にものなんだから」

「ハァ? そんなの着替え持ってくだけで十分でしょ。その荷物どうみたって——」

「陽平、言ったでしょ。女の子には色々と必要なものがあるって」

 疑惑の目を向けて尚も追及しようとする春原の言葉を、杏はジロリと睨みながら遮った。

 そこへ、一人バスから降りずに運転席にいる秋生が、車内から声を掛けてきた。

「ほら、そろそろ乗れよ。目的地のブドウ園はこっからまだ結構行くんだからよ」

「はい、そうですね。秋生さん」

 にこやかに夫に返事を返し、早苗は自分と一緒に降りた全員に微笑んだ。

「それでは積る話は車内でする事にして、皆さんバスに乗りましょうね」

 まるで小学生の遠足に同行する引率教師のように優しく言う早苗に、全員が従って車上の人となると、マイクロバスは萌依野駅を離れた。

 

 遠ざかるマイクロバスを目で追い、運転席の若者が慌てて助手席の男に声を掛ける。

「ボ、ボス。行っちまいましたよ。あの()

「見りゃ分かる」

 ぞんざいに返し、ちょび髭の男は渋面を作った。

 家出少女かと思っていたら、迎えのバスを待っていただけとは。しかも「光坂商店街野球チーム」とは。聞いた事がない町名に加え、あの少女が野球をやっているようには見えなかった。

「どうするんですか?」

 肝心の少女に行かれてしまい、ヤスは恐々と伺いを立てる。

「——追うに決まってんだろ」

 家出娘ではなかったが、バスの町名からしてこの近辺の町の者達ではないらしい。それに大人は運転手の男と女性の二人。後は中高生の様だし、二人の少年以外は皆それざれタイプの違う美少女揃いで選り取り見取りだ。あの初めの少女一人より、却って都合が良かった。これを逃すテはない。

「とっとと車出せ。見失っちまうだろ」

「は、はいっ」

 ボスに怒鳴られ、ヤスは慌てて車をスタートさせてマイクロバスの後を追った。

 

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