呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話)   作:ソル

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再戦

 もう少しで、颶風が目撃された地点につく。どうやら身を隠すつもりはないようで、その強大な呪力がすでに感じられる。

 こっちの内情を知っているんだろうか…?まあ、『縛り』を結んでしまった以上、どちらにしろ行くしかないわけだが。

 

(…これで、いいんだ)

 

 死ぬのが怖くない、とは言わない。けれど、これで皆を守れるのなら後悔はしない。命の使い道は決めたんだ。なら最後までやり切ろう。

 

「…ようやく来たか」

 

 こっちの気配に気づかれた。できれば奇襲を仕掛けたかったが仕方がない。やつの前に姿をさらす。

 

「私を待ってたのかい?ずいぶんと気に入ってくれたみたいで」

 

「もう一人はどうした?」

 

「彼は来ないよ。君程度なら、私一人で十分ってことさ」

 

 煽りに対する返答はなく、かわりに攻撃が飛んでくる。

 そうして、勝ち目のない戦いが始まった。

 

 

 

「はあっ、はあっ」

 

 走る。一秒でも早く、あの人のところへたどり着けるように。当主様が出発してからもう3日は経っている。俺と違い全力疾走したわけではないだろうが、それでももうついていてもおかしくない。

 間に合うだろうか。いや、間に合わせる。

 

(早く、早く!)

 

「やあ」

 

「!?」

 

 突然現れた男に驚き、足を止める。

 

(今こいつどこから現れた!?こんな開けた一本道でこの距離まで気づかないなんて…)

 

 気にはなるが、かまっている暇はない。無視して走りだす。

 

「五条間宵のところへ行きたいんだろう?連れて行ってあげようか」

 

 後ろからかけられたその言葉に、再び立ち止まった。

 

「何?」

 

「さっきのは見ていただろう?私はある程度の位置を瞬間的に移動できる術式を持っているんだ」

 

 突然現れたのはそういう仕掛けか。だが、こいつ自身の目的が見えてこない。それで一体何が得られるというんだろうか。

 

「…ずいぶん警戒されているね。命の恩人にひどい態度じゃないか」

 

 そういうと、男は懐から何かを取り出した。見覚えがある。当然だ。それは、

 

「俺の腕…!?、なんでお前が!?」

 

「あの山で瀕死の重傷だった君たちを治療したのは私だよ。腕は治療後に見つけたからくっつけられなかったんだけどね」

 

 …そういえば、気になっていた。あの時、俺は腕を失った状態で山の中にいた。そんな重傷を負って、発見されるまで出血で死ななかったのはなぜだったのか。目の前の男が反転術式により治療していたからだとすれば…

 

「お前の目的はなんだ」

 

「颶風の撃退。あれが自由に動き回るといろいろと面倒なんでね」

 

 とても信用できない。裏に何か別の目的があるのは間違いないだろう。

 

「いいのかい?ここからじゃどう頑張っても半日はかかる。そろそろ戦いも始まるだろうし、間に合わなくなるよ」

 

「ッ!?」

 

 こいつの言葉が真実だという証拠はない。けれど、急がなければならないのは本当だ。

 

「…本当に、あの人のところへ連れて行ってくれるんだろうな」

 

「ああ。何なら『縛り』を結んでも構わないよ」

 

「わかった。じゃあ、早くしてくれ」

 

 奴が差し出してきた手をとる。これは化生の類との契約なんだろう。それでもかまわない。一刻も早くあの人に会うためなら。

 行くよ、という言葉とともに、周りの景色が変わっていくのが分かった。

 

 

 

「ぐあっ!?」

 

 声をあげながら地面に転がる。分かっていたことだ。二人で戦って勝てなかった相手に一人で勝てるはずがない。

 ここまで致命傷になる攻撃は何とか避けていたが、よけきれなかった攻撃の影響が足にきている。そろそろ限界が近いだろう。

 

「こんな奴に一度負けたとはな…。やはり最後のあれはあの男の術式か。なぜ奴を連れてこなかった?」

 

 倒れる私を見下しながら呟く。あの時は痛み分けに近かったが、どうやら颶風の中では私たちを逃がした時点で負けらしい。

 

「これは、私の、問題だから、ね。彼を巻き込むわけにはいかない」

 

「…貴様、最初から殺される気でここに来たのか。」

 

 その通り、と返答するのも苦しくなってきた。かわりに奴に挑発的な笑みを返す。

 

「自己犠牲、というやつか。勝つつもりもないのに俺の前に出てくるとは」

 

 下らない、と吐き捨てた。いくら人の言葉をしゃべろうが、こいつはしょせん呪いだ。他のもののために命をかけるという行為が心底理解できないんだろう。

 あれだけ戦って、奴には結局傷の一つもつけられなかった。攻撃の機会が少ないのもあるが、風の障壁をどうやっても突破できなかったのだ。

 こちらの攻撃のすべてを直前で止められる。それは、どこか無下限の不可侵に近い。

皮肉だね、と自嘲する。どう頑張っても使えなかったそれに似たものを使う敵に殺されるとは。

 後悔はある。目の前の呪霊は兄の仇だ。けれど、こいつ相手にできることはもうない。私が死ねば、最低限みんなの生活は守り切れるはずだ。なら、それで---

 

「貴様はもういい。なぶり殺してやろうと思っていたが、今のお前にはそんな価値もない。さっさと殺して次はあの男だ」

 

 その言葉に体が反応する。そうだ。こいつの標的は私だけじゃない。初戦の屈辱を晴らすことが目的なら、そこには当然禍転も入っている。

 

「っあああああ!」

 

 叫びながら体を起こす。

 このまま死ぬわけにはいかない。颶風の力は桁が違う。五条家にいるとはいえ、完璧に安全とは言い切れないだろう。

 せめて少しでも傷を残す。彼にこれ以上苦しい思いをさせてなるものか!

 

「少しは潰しがいのある目になったか?」

 

「うあっ!」

 

 閃光が見えた瞬間、足に激痛が走り倒れこむ。雷に足を貫かれたようだ。

 

「死を覚悟した人間を殺したところで何の意味もない。後悔と絶望にまみれて死んでいく様を見なければ俺の気も収まらん」

 

 …畜生。結局何もできないのか、私は。思えば、私が自分の力だけで何かを成し遂げたことなんて、一度もなかった気がする。

 無下限を持っているのにそれを使えず、酷い境遇から救ってくれた兄の仇も討てない。そして、腕を失ってまで私を助けてくれた禍転の為にも何もできなかった。

 

 バチバチと音が聞こえる。奴のほうを見ずともわかる、例の雷をためているんだろう。そして、今の私ではそれを避けられない。

 

「ごめん、皆。私は、結局…」

 

「さあ、死---!?」

 

「させるかああ!!」

 

 聞きなれた、声がした。それと同時に、目の前の敵がよろめくのが見えた。

 

「お待たせしました。当主様」

 

 

 

 

 

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