呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話)   作:ソル

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本日二話目の投稿です



会者定離

 莫大な呪力の高まりに気づいたときには、もう手遅れだった。離れる間もなく、周りの風景が変わっていく。

 気づけばそこは、台風の目のような場所だった。颶風を中心にした円のように、嵐が周りを覆っている。だが、その嵐のところどころに不自然な穴が開いていた。

 それを見て直感する。当主様の黒閃による影響か、颶風が展開したこれは不完全だ。

 

シン・蔭流 簡易領域

 

「禍転!こっちに!」

 

 当主様が領域に対抗すべく簡易領域を発動するのが見えた。その中へと退避する。

領域内での攻撃は、対抗する手段がなければ必中となる。さっき食らった雲の中での雷とは違う。奴本体から放たれる雷が直撃すればその時点で終わりだろう。

 簡易領域を維持したまま駆け出す。はがされる前に奴を払うために。

 そして…

 

 

 

 決着は一瞬だった。

 使われたのは雨、風、雷。領域内ではあるが、発動したそれに必中効果は付与されていない。そもそもそんなものは必要がないからだ。

 颶風が術式を発動した瞬間、領域内のすべてが埋め尽くされた。必中効果を切ってある以上、簡易領域に意味はない。多少威力が落ちようが、人間一人を戦闘不能にするには十分すぎるほどの破壊がそこで荒れ狂った。

 もちろん、颶風自身にもその攻撃は当たっている。しかし、自らの呪力による攻撃ゆえ、ほかの者よりその損傷は少ない。

 嵐の後、その場に立っているのは颶風だけだった。

 

 

 

 

「ハァ…ハァ」

 

 限界が近い。領域の外殻を保てなくなってきている。一瞬でも気を緩めれば、その瞬間に解けてしまうだろう。だがまだだ。倒れ伏しているが、奴らにはまだ息がある。今度こそは油断しない。もう一度術式を発動し、確実に息の根を止めるため呪力を練る。

 そして、術式を発動しようとした瞬間だった。男のほうが這いずりながら、女の体に触れた。

 

 

 

 これは、もう駄目だな。痛みすらも感じない。体が全く動かない。奴が追撃の準備をしているようだが、その必要もないかもしれない。右腕を失った時より、さらに近くに死を感じる。

 当主様は…すぐ近くに倒れている。生きてはいるが、完全に意識を失っているようだ。呪力強化については彼女のほうが上だ。けど、最後の一瞬、俺を抱きしめるようにして守ってくれた。攻撃に直撃した分、俺よりも命が危ない。

 今の俺の呪力では、彼女を治せない。颶風も限界が近いだろうが、立ち上がることもできないような状態で倒すことは不可能だ。

 

 それでも。それでも、まだやれることはある。

 

 右腕を失ってからここ数日、考えていた。当主様の力になるにはどうすればいいのかを。

 俺の術式によって彼女は無下限呪術を使うことができる。ならば、もし乱法葬術を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことができれば、彼女は本当の意味で無下限呪術を使える術師になれるのではないだろうか。

 簡単なことではない。自らに刻まれた術式を他者へと譲渡するようなものだ。俺の知る限り、前例はない。だが、できないことはないはずだ。術師の死後、使い続けていた道具に術式が残り、呪具化することがある。それをと同じことを意図的に行う。今まで、何度も当主様とともに術式を使ってきた。彼女の体は、俺の術式や呪力に馴染んでいるはずだ。

 しかし、それだけでは足りないだろう。だから、『縛り』を使う。命を懸けた縛りを用いれば、術者の実力をはるかに超えた力を発揮することができる。今にも消えそうな命だが、それでも使えないことはないはずだ。

這いずるように近づき、当主様に触れた。

 

 当主様はどう思うだろうか。自惚れかもしれないが、彼女が命を懸けて守ろうとした人間には俺も入っていると思う。きっと悲しむし、苦しむだろう。それでも、この人に生きていてほしい。たとえ、この思いが彼女にとって呪いになったとしても。

 術師として求められたことはあっても、俺を思って突き放してくれたのは当主様が初めてだったから。

 だから、

 

「…さようなら」

 

 彼女に触れた手から、俺のすべてを受け渡していく。呪力、術式、俺の命も含めて全部を。縛りの代償なのだろう、体が端から崩れていくのがわかる。

 すごく長い時間がたったような気もしたが、実際は一瞬のことだったんだろう。体が更に崩れていく。意識が遠くなる。

 そして、俺の命が消える瞬間。当主様の目が開くのが見えた。

 

 

 

 男の体が空へと消えていく。何が起きた?俺はまだ何も…

 女の体が跳ね上がった。立ち上がった、とは違う。指一本動かすことなく、そのままの姿勢で起き上がったのだ。その体に、今まではなかった刺青のようなものが刻まれているのが見えた。

 ――あれは、誰だ?呪力の質が今までとは全く違う。その体から感じる威圧感も、比べ物にならないほど大きくなっている。

 ふと、自分の体が震えているのに気付いた。

 

「ッ!死ねえええっ!!」

 

 その震えを振り払うように、術式を発動した。領域内を、再び嵐が蹂躙する。

 

「ぐうっ、ハア、ハア」

 

 今ので呪力は限界だ。形を保てなくなった領域が、崩れ落ちるように消えていく。だが、これで…っ!?

 

「馬鹿な…」

 

 颶風の失敗は、先ほどと同じように領域の必中効果を切り、その代わりに術式の範囲を広げる形で術式を放ったこと。今の間宵は、禍転の遺した乱法葬術により、無下限呪術を常に発動させ続けている。もともと不完全な領域で必中効果を切った状態で放たれた攻撃では、彼女の不可侵を突破することはできなかったのだ。

 

 奴は、微動だにしていなかった。攻撃があったことすら気づいていないかのように、虚空を見つめている。俺の存在にすら興味がないようだ。

 その様子に圧倒され、後ずさる。その動きに反応したのか、奴の目がこちらをとらえた。そこからは、時間が止まっているかのようだった。女がゆっくりと動いていくのが見えた。しかし、俺の体もほとんど動かない。

 そして、五条間宵が俺に腕を向けたとき、すべての決着がついた。

 

 それは、無下限呪術における奥義の一つ。本来、無下限呪術だけでなく反転術式を使えなければ撃つことはできない。

 しかし、今の間宵には、反転術式を使うことができた禍転の呪力が継承されている。自分を治療した呪力の感覚、一度『赫』を撃った経験。そして先刻の黒閃による覚醒状態。その全てが合わさったことで、彼女は反転術式を使用する感覚をつかんでいた。

 収束と発散、対局の無限を合わせることによって生まれる力を放つ。その名を―

 

「虚式『茈』」

 

 

 圧倒的な破壊を前に、自分の体を震わせていたものが何なのか気づく。これが…恐怖か。それを理解するとともに、その光が俺の体を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら、これはさすがに想定外だ。体が半分消滅してるじゃないか。彼らの実力だと、もう少し弱らせるぐらいが限界だと思ったんだけど」

 

「まあいいか。颶風、こっちは契約を履行した。君も私に付き合ってもらうよ」

 

「ククッ。何百年先になるかは、わからないけどね」

 

「さ、次はあっちだね。交渉するなら今しかなさそうだ」

 




次回、江戸編完結です
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