呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話) 作:ソル
11月11日:名古屋結界
2018年10月31日。東京、渋谷において未曾有の呪術テロが発生。その首謀者である羂索により、死滅回游と呼ばれる国全体を巻き込んだ大規模な儀式が行われた。
虎杖悠仁・伏黒恵をはじめとした高専術師たちが回游の平定に向け動き出そうとしている最中にも、結界の内外では命を懸けた闘いが行われていた。
11月11日 21:13 名古屋結界
「走って!」
後ろにいる子供へ声をかける。8歳ぐらいの男の子と、それより小さい女の子。兄妹だろうか?さっき会ったばかりでわからないが、とにかくこの子たちを逃がさないと。
目の前には、人の顔をいくつか合体させたような姿の怪物。数日前ならこいつを見ただけで逃げ出していただろうけど、このふざけたゲームに巻き込まれてからはこんな化け物も見慣れてしまった。
拳を構える。さっさとこいつを倒して、あの子たちを保護しなきゃ。
死滅回游 泳者 篠塚幸基
すぐに決着はついた。
ザフッという音とともに、怪物の姿が消えていく。そこまで強くないやつで助かった。あの子たちは――
「お、終わったの?」
建物の陰から男の子が話しかけてきた。
「うん!もう出てきても大丈夫だよ」
少しでも安心させるために、なるべく明るい声で話す。気休めかもしれないけど、仏頂面でいるよりはずっとましなはずだ。
俺を信用してくれたのか、恐る恐るこっちに近づいてくる。震えてはいるが、女の子の手をしっかり握って放していない。
「そっちの子は、君の妹?」
「う、うん。3日ぐらい前からお母さんとお父さんが帰ってこなくて、一緒に外に出たんだ」
「お兄ちゃんね、私がお腹すいたーって言ったから、一緒に食べ物探してくれたんだよ」
「…そっか、頑張ったね。」
この中で3日も行方知れずということは、この子たちの両親は、もう…。いや、勝手にあきらめるのはよそう。俺の保護した人の中にいるかもしれないし、そうでなくてもきっとまだどこかで生きているはずだ。
今は、この子たちを安全な場所に連れて行こう。
「さっきみたいなやつがいるから、外にいるのは危ないんだ。とりあえず、俺についてきてくれないかな」
二人を連れて少し歩くと、目的地が見えてきた。
「さ、着いたよ」
「ここって、病院?」
もともと住んでいた家からそこまで離れていない病院。それが今の拠点だった。最低限の宿泊設備が整っていてそれなりの人数が入れるため、とりあえずここを避難所として使っている。
俺が戻ってきたことに気付いたのか、病院の扉から白衣の男が飛び出してきた。
「お帰り、幸基君!大丈夫だった?」
この病院の院長、清永先生。回游が始まる前からの付き合いで、俺のように呪術とやらに目覚めたわけではないが、民間の人たちの保護に協力してくれている。
「はい。持ってこれるだけの食糧は持ってきました。それと、この子たちが…」
子供たちに目を向けると、先生はハッとした表情をして、二人に駆け寄った。
「矢内さんちの子じゃないか!よかった、生きてたんだな」
矢内。その苗字には聞き覚えがあった。
先日、俺がこの病院に運んできた人。それが二人の母親だった。生きてはいる。けど、素直に喜べはしない。なぜなら…
「お母さんは、怪我をしてね。今も意識が戻っていないんだ。」
病室にあるベッドの一つに、その人はいた。お母さん、という言葉が二人の口から洩れる。
そして、母親に縋りついて泣き始めた。生きているとはいえ、言葉を交わすこともできない。二人で頑張ってきたこと、辛かったことや不安だったことを聞いてほしいはずだ。
死滅回游の総則を見るに、結界はここ一つじゃない。目の前の光景も、今はそう珍しいものじゃないんだろう。
(ふざけやがって)
誰がどんな目的でこんな馬鹿げたもんをやろうとしたのかは知らない。けど、それは絶対小さな子供を泣かせてまでやることじゃないはずだ。
「お母さんはきっと目を覚ますよ。だから今は、ゆっくり休もう。目が覚めた時に、元気な姿を見せてやるためにもさ」
先生の言葉を聞いて、二人が振り向く。涙が止まっているわけではないが、鼻をすすりながらも先生の方を向いた。
あとは先生に任せよう、と病室を出ようとしたとき、
「まだ、お礼言ってなかった。助けてくれてありがとう、お兄さん」
「ありがとう」
…強い子たちだ。だからこそ、生きていたのかも知れないけど。
「どういたしまして。先生、あとはお願いします」
そう告げ、今度こそ病室から出た。
使っている病室につくなり、ベッドに倒れこむ。あの子たちを助けられたのはよかったが、外に出た本当の目的は果たせないままだ。
(いつになったら見つかるのかな)
隣のベッドを見る。ここで眠っていたのは、回游が始まったのと同じタイミングでどこかに消えてしまった、俺の妹だ。
あいつは、明は、今どこで何をしているんだろうか。
ゴッという鈍い音とともに、一人の男が崩れ落ちていく。女はそれを見ながら、だれに向けるでもなくぼやいていた。
「まったく、いくら何でも泳者とやらが多すぎないかい?」
「この子のお兄さんもそうだけど、彼もどこにいるかわからないし」
「はあ、あんな奴の誘いに乗るんじゃなかったかなあ」
10人はいるであろう気絶した泳者。それを横目に見ながら、髪の一部が白くなっている女は静かにため息をついた。
死滅回游 泳者 篠塚明
明日も18時に投稿予定です