呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話)   作:ソル

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 日下部篤也。病葉を倒した男はそう名乗った。

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

「気にすんな。さっき言ったとおり、もともとこれが仕事だからな」

 

 二人は簡単な自己紹介の後、呪術師のこと、呪術高専、結界内外の状況など情報を交換していた。

 

(それにしてもコイツ…)

 

「呪術使えるようになったのは回游始まってからなんだよな?」

 

「?はい」

 

 なんというか、呪力の流れが自然だ。何年も術師として戦っていたかのような違和感のなさ。回游の影響で覚醒したタイプの術師は皆こうなのだろうか。

 

「そういえば、日下部さんはどうしてここに?東京にも二つ結界があるみたいですけど」

 

「…あー、東京は人口が多い分、対処できる術師も多いんだよ。だから俺はこっちに来たんだ」

 

(東京・京都の中間にあって援軍が期待しやすいからってのが一番の理由なんだけどな)

 

 そこは黙っておいてもいいだろう。話したところでプラスにならない。

 

「まあとりあえず、呪霊や暴れてる泳者を倒してこの結界内を安全にすんのが目的だ」

 

 死滅回游の平定。危険度の少なそうなところを選んだものの、一人の術師としてその目的は忘れていない。

 

「それ、俺にも手伝わせてもらえませんか」

 

「馬鹿言え、命の危険もあるんだ。これ以上素人巻き込めるか」

 

「わかってます。それでもかまいません。そもそも、これまでだって命がけだったんですから」

 

 そういう幸基の目からは、強い決意が感じ取れた。自分の命を軽く見ているわけではない。それよりも優先すべきことがあるといっているかのような。

 

「…命を懸けても構わないって理由は?やけに焦ってそうなのに関係あんのか」

 

「…昨日、総則が追加されて、泳者の情報を見れるようになったんです」

 

 ルール追加後、幸基は名古屋結界の中にどんな人間がいるのかを調べた。その中に見つけたのだ。

 

 篠塚明。自身の妹の名前を。

 

「あいつがこんな殺し合いに巻き込まれてるなら、1秒でも早く解放してやりたいんです」

 

(妹、ねえ)

 

 日下部の頭によぎったのは、一人の女性。心を壊し、息子の魂を持つ呪骸がなければ生きていけなくなってしまった、自身の妹。

 

「…はぁ、人手は多いほうがいいか」

 

 別に、目の前の少年に共感したわけではない。協力を得られるのなら提案には載っておくべきだと思っただけだ。

 

「わかった。ただお前には、避難誘導とかを…、あ」

 

そこで思い出す。本来そういう役割をさせようとしていたのは誰だったか。

 

「…まずは三輪を探さねーとな」

 

 

 

 

 三輪霞。呪術高専京都校一年の3級術師。渋谷事変の戦闘にて「二度と刀を振るわない」という縛りを己に課した結果、元々高くはない戦闘力は更に低くなってしまっている。

 そんな彼女が何故泳者としてここに来たのかというと、

 

「じゃあ、その日下部って人と一緒に行動する予定だったんだ」

 

「はい…。避難誘導とかの後方支援が役割だったんですが、ここに入った瞬間はぐれてしまいまして…」

 

 外部から結界に入った場合、いくつかのポイントにランダムに転移させられることになる。それを知らなかった二人は、案の定別の位置へ飛ばされてしまった。

 その後すぐに呪霊と遭遇してしまったところで彼女に助けられ、今はその拠点へ向かっているところである。

 

「空中に投げ出されたり、待ち構えている泳者がいなかったのは運がよかったね」

 

「アハハ…。改めて助けてくださってありがとうございます」

 

 乾いた笑いが出る。呪霊相手にあの体たらくだったのだ。彼女の近くに転送されなければ、初手で死んでいたかもしれない。

 

(それにしても、この人誰かに似てるような…)

 

 女性の顔を見て、奇妙な既視感を覚える。髪には白いメッシュ、顔には刺青のような模様と、かなり個性的であるにもかかわらずである。少なくとも、三輪の身の回りにこんな特徴の者はいない。

 

「えっと、お名前なんていうんでしたっけ?」

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだだった。私は五条間宵。泳者としては、この体の持ち主の篠塚明で登録されてるけどね」

 

「五条さんですか。よろしくお願い――」

 

(ん?五条?)

 

 そこまで言いかけて、気づく。五条という名字は、呪術界において特別なものではなかったか。

 

「五条って、あの…」

 

「あ、この時代にも残ってるのか。うん、御三家の五条だよ」

 

 えーっ!?という声が響く。三輪が落ち着きを取り戻したのは、彼女が拠点としていたホテルについた頃であった。

 

 

 

 

 

「なるほどねー、今の当主はちゃんと六眼を持ってるんだ」

 

 既視感の正体もはっきりした。顔立ちや雰囲気が少し似ているのだ。ひと月前の交流会で、初めて目にした『最強』に。

 

「えっと、五条さんは」

 

「間宵でいいよ、そんなに年齢も変わらないだろうしね」 

 

「あ、はい。じゃあ、間宵さんはどうして受肉を?」

 

 御三家の一人であったなら、当然彼女も呪術師のはずだ。呪詛師である羂索の誘いに乗ったのは何故なのか。彼女がどういう立場なのかを知るためにも、これは聞いておかなければならない。

 

「もともと、私自身は受肉するつもりはなかったんだよ。私のために命を落としてしまった友人――じゃないな、家族――でもない。いや、数か月ほど一緒に住んでいたけど。もちろん恋人とかでもないし…」

 

 うーん、とうなる。考えてみれば、彼との関係性はわりと難しいものがある。

 

「まあ、大事な人が死んでしまってね。その人を生き返らせることができるかもしれないと言われたんだ」

 

 そうして、間宵は自分のことについて語りだした。六眼を持たない無下限呪術使いであったこと。自分が当主になった理由や、自分に協力してくれた青年、その最期。そして、彼を生き返らせるために羂索の誘いに乗ってしまったこと。

 

「でも、それならどうして間宵さんも…」

 

「あのとき、羂索は私の中にあった彼の呪力と魂を使って呪物を作るといっていた。けど、その時に私の体や魂も一緒に呪物にしたせいで、私と彼が別の呪物として残ってしまったんだと思う」

 

 偶然なのか計算していたのかは知らない。けれど、あの男のことだ。「これはこれで面白い」などと考えて間宵を受肉させたのだろう。

 

「今の目的は、受肉しているであろう「彼」を探しつつ、民間人の被害を抑えること。腐っても呪術師だからね、助けられる命は助けていきたい。特に、この子のお兄さんもこの件に巻き込まれてるみたいなんだ」

 

「コガネ、名古屋結界にいる泳者の情報を出してくれ」

 

 つい昨日のこと。鹿紫雲一による総則の追加により、泳者の情報が開示された。そして、名古屋にいる泳者の中に、その名前を見つけたのだ。

 

 篠塚幸基。この体の元の持ち主、篠塚明の兄。

 

 間宵は、体から流れ込んできた記憶から彼の存在を知った。それが、明にとっての唯一の家族であることも。

 幸基を助けたところで、彼女の体を奪ってしまった罪滅ぼしになるわけではない。それでも、今自分がこの子にしてやれるのはそれしかない。どうせ()()()()()()()()()()()()のだ。

 彼と幸基の二人を見つけて、この結界を平定する。それがすんだら、終わりでいい。

 

「けど、その人はこの結界にいるんですか?それに、本当に受肉してるのかも…」

 

「その辺は大丈夫だと思う。回游が本格的に始動する前、夢の中に羂索が出てきた。『彼もここにいるよ』と確かに言ったんだ。泳者は受肉先の名前で登録されるから、それが誰なのかはわからないけど」

 

「けれど、絶対に見つけてみせる。今度こそ、ちゃんとお別れを言うためにも」

 

 身勝手なのはわかってるけどね、と苦笑する。誰にとっても迷惑にしかなっていないんだから。そう言う間宵に、三輪はこう声をかけた。

 

「それ、私にも手伝わせてもらえませんか。日下部さんを探してからになるかもですけど」

 

「申し出はありがたいけど、どうして?」

 

「…最近、友人が亡くなったんです」

 

 結局一度も直接会うことはできなかった自身の学友。メカ丸と呼ばれていた彼の本名は、与幸吉という。

 置いていかれるのは、辛い。身近な人の死というのはすぐに切り替えられるものでもないのだ。術師であるにもかかわらず、一般人と変わらない感性を持っている三輪にとっては特に。

 それでも。

 

「最後にこう言われました。『幸せになってくれ』って」

 

メカ丸の遺した言葉。彼がどんな気持ちでこれを言ったのかはわからない。けれど、それが彼の最後の願いであるならば。

 

「だから、こう思ったんです。私は私にできることを精一杯頑張ろう。そして、目いっぱい幸せになってみせるって」

 

「そんなわけで、やれることは何でもやりたいんです!」

 

(…強い人だ。私なんかよりも、よっぽど)

 

 少し話しただけだが、術師には向いていなさそうだと考えていた。心根が一般人過ぎると。けど、違った。三輪霞という人間は、芯のところがとても強い。だからこそ、普通のままで呪術師をやれているのだ。

 

「ありがとう、三輪さ――」 

 

 ゾクッ

 

 瞬間、名古屋にいた全ての泳者がその気配に気づいた。

 

(なんだ…この気配!?)

 

 分かるのは、それがとてつもない脅威であるということだけ。その正体は、ほとんどの者にはわからない。感づいたのは、その中でただ一人。

 

「羂索の仕業か。まだ消えてなかったんだな、颶風」

 

 そして知る。今までの状況が、文字通りに嵐の前の静けさであったことを。

 

 

 

「よぉ、俺はコガネ!!この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!!」

 

「ひとたび足を踏み入れたらお前も泳者!!それでもお前は結界に入るのかい!?」

 

「言うまでもない」

 

 すさまじい風とともに乱入してきたその呪霊は、一瞥もせずそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明日も18時に投稿予定です
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