呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話) 作:ソル
11月1日、羂索の手により千年間契約し続けていた呪霊たちが解き放たれた直後のこと。
「さて…君はどうしたい?」
羂索は、呪霊操術によって操られている特級呪霊に声をかけた。このまま自身の手札として手元に置いてもいいが…。
その目を見た。操られているにもかかわらず、そこからは激しい怒りと憎悪が感じ取れる。
「彼らは…確か名古屋のほうだったかな。“慣らし”のためにも君に行ってもらったほうがいいか」
死滅回游の目的達成のための一手である、軍隊の派遣。そこにいる呪霊に軍人を皆殺しにさせることで結界内に呪力を満たすことが目的だが、あまり強い呪霊を名古屋には放っていない。中の泳者に全滅させられることもあるだろう。
颶風にかけた呪霊操術を解く。こちらへの殺意も感じるが、今は戦う気はないらしい。
「…奴らは名古屋とかいう場所にいるのか」
「そうだよ。あーそれと、前のようにすぐやられてしまっても困るからね、一つ教えておくよ」
最後に、颶風に一つの座標を教えた。そこには、
「奴らを殺せるのなら、何でも使わせてもらう」
飛び去っていく背を見ながら、羂索は笑った。
「くっくっく。いやあ、これで三度目だったかな、君と彼らがやりあうのも。三度目の正直で君が勝つかな?」
どちらにせよ、今回で確実に決着がつくだろう。できるだけ面白い結果になるといい、と思いつつ、羂索もその場を後にした。
そして、現在。
(こっちに向かって来てやがる)
正体不明の気配がすさまじい勢いで接近してくる。明らかに目的のある動きだ。二人が窓から外を確認すると、上空には渦を巻く嵐。その中心に、とんでもない呪力を持つ人型の何かがいた。
「あれは――」
突如、幸基の頭に流れ込んだ、
人型になった嵐のような怪物との戦闘。そして、その時隣にいた髪の一部が白い女性。
「…颶風」
「!?おまえ、知ってんのかあれのこと?」
「いや、何か頭に流れ込んで」
幸基にもあれが何なのかはわからない。それに、気にしている余裕もない。
「篠塚!ここにいる人達を逃がせ、すぐにだ!」
「はい!」
幸基に避難を任せ、迎撃のため外へ飛び出る。相手はどう考えても特級クラス。一対一でもどうなるかわからないのに、一般人を守りながらでは勝ち目はないだろう。
病院の外壁を駆け上り、屋上へと向かう。ここからなら上空にいる奴がよく見える。それは、相手もこちらの姿をとらえていることになるが。
(渋谷で見た特級に近けーな。…ちゅーかなんであんなバケモンがいきなり来んだよ!)
入る結界間違えたなこりゃ、と思いつつも刀を構える。
(火山頭クラスなら見てからの反応じゃ間に合わん可能性もある。なら…)
颶風の注意がこちらに向いた。そう感じた瞬間、すでに敵は日下部の背後に回っていた。その動きの余波で、屋上の一部が倒壊する。
風の力による加速。速度だけを考えた場合、その速さは漏瑚をもしのぐ。現代の術師の中でその速度についていけるのは、特級を除けば投射呪法を持つ禪院直哉や禪院直毘人など、一部の例外のみである。
しかし、
「…やるな」
屋上の瓦礫とともに、颶風の右腕が落下していく。それを空中から見ながら、日下部は自分の戦略が成功したことを悟った。
(あっぶねえ!)
颶風の意識が自分に向いたことを悟った瞬間、日下部は簡易領域を上方向に伸ばして展開した。日下部の切り札の一つ、領域内に侵入した相手を自動的に迎撃するカウンタープログラム。颶風が領域に入った瞬間、颶風とすれ違うようにして奴の腕を切り飛ばしたのだ。
颶風に対して有効打は与えた。だが、
(チッ、もう回復してやがる)
呪霊は、呪力がなくなるか、頭部など核に当たる部分を壊されるまで消えることはない。特級ともなれば、体の一部を再生させるぐらいは造作もない。
「やべっ…!」
颶風の呪力が高まっていく。何かはわからないが、何かをしてくる。
(さっきのを喰らって直接突っ込んでくることはねえだろ、多分遠距離攻撃…簡易張って耐えるしかねえか)
足場のない空中では、回避行動をとることはできない。刀を構え、再び簡易領域を展開する。
(何がこようが撃ち落とす…!)
その行動は、この場において最適解ではあった。しかし、
「ぐ、があっ!?」
刀を振るった瞬間、日下部の体に凄まじい痛みが走った。
颶風が放ったその一撃は、雷である。刀で撃ち落とすことはできず、それを伝い敵の体へ確実にダメージを与えたのだ。
「クソッタレ…!」
ドサッという音とともに、日下部ががれきの中に落下する。簡易領域により軽減こそしたものの、しびれと火傷によりその体は思うように動かない。
颶風は近づいてこない。それどころかさらに距離を取り、再び呪力をため始めた。簡易領域を警戒し、攻撃が届かない距離から雷によりとどめを刺そうとしているのだ。
(マズい、早く、早く動け!)
さっきのが致命傷にならなかったのは、辛うじて刀で迎撃し直撃を避けたからだ。今の状態でもう一度食らえば、確実にゲームセットである。
さらに呪力がたまっていく。まだ体の自由がきかない。ここまでか、と思ったその時、
「させるかァ!」
誰かが颶風に殴りかかる。攻撃自体は風の障壁によってふさがれたが、日下部に向いていた注意は乱入者へとむけられた。
「篠、塚。お前、他の人たちは!?」
「先生に任せました、コイツ倒さなきゃどっちにしろ追ってくるでしょ!」
話す間にも颶風への警戒は解いていない。しかし、幸基が姿を現した瞬間から動きを止めている。
(この呪力、容姿は違うが…)
「…試すか」
「!?」
雷を放つ。呪力を溜めていないため威力はそこまでないが、それでも並の術師には十分に有効打になる。
だが、幸基はそれが放たれる前に身をひるがえし回避した。
(なんだ?やっぱりあいつの動きがなんとなくわかる。何度か戦ったことがあるみたいな…)
原因不明のデジャヴではあるが、自分の実力をはるかに超えている敵と戦ううえではかなりありがたい。
(とりあえず、コイツを病院から引き離す!)
「こっちだ!」
なぜかはわからないが、敵の注意はこっちに向いている。一般人が逃げた方向とは逆、結界の中心へ向かうため、屋上を飛び降りる。
「逃がすか!」
颶風が風を巻き起こす。下から上へと吹き上がる烈風により、屋上へ向けて幸基を吹き飛ばそうとしたのだ。
(しまった…、いや!)
「やってやる!」
風に向けてかざした手から、正のエネルギーを放出する。
「何!?」
目の前で起こった出来事に、颶風が驚愕する。自身の起こした風が、急速に勢いを失ったのだ。
(上手くいった!)
呪力で構成されているものは、反転術式を流し込めば中和、無力化される。当然、それには反転術式のアウトプットと高度な運用が求められる。
しかし、幸基の身体には刻まれた術式、そしてそこに眠る魂がある。数度の戦闘と、相手に術式を使用した経験により、颶風の呪力を感覚的に理解していたことがそれを可能にした。
(やはりコイツか!)
自身の術式に対抗するのではなく、完全に無効化する人間。呪力や雰囲気と合わせ、あの男が標的の一人であると確信した瞬間、颶風の意識は完全に幸基へと向けられた。
一流は、その隙を見逃さない。
シン・蔭流 居合 夕月
「ッ!?」
「チッ!」
再び、颶風の右腕が宙を舞う。
体の痺れが抜けた日下部が、がれきの中から簡易領域を発動、颶風まで範囲を延長することにより斬撃を食らわせたのだ。
風の障壁により威力が弱まったことで致命傷にはならなかった。しかし、仕切りなおすには十分である。こっちに攻撃が飛んでくる前に、日下部も屋上から飛び降りた。
「行くぞ!」
「はい!」
振り向かずに駆け出す。一般人の足ではそこまで遠くへは逃げられないため、こっちから誘導し引き離す必要がある。
(とはいえ、逃げるだけならなんとかなる)
敵は日下部の簡易領域を警戒し、最初に見せた風による高速移動を使ってこない。さらに、
「篠塚、頼む!」
「ふッ!」
放たれた雷を幸基が相殺する。ダメージがないわけではないが、当たった瞬間中和しているため反転術式により回復が可能なレベルである。
(近づいたら俺、遠距離は篠塚が相殺する、これである程度は持つ!)
そう考えた日下部だが、隣を走る幸基の異変に気づく。
「おい、ずいぶん消耗してるみてーだが大丈夫か!?」
「すいません、あの相殺、滅茶苦茶呪力を食うみたいで、後1、2回が、限界だと思います…」
(マジかよ!)
反転術式の使用には通常よりも多くの呪力を消費する。相手の術式を中和するような無茶な使い方をしていればなおさらである。
遠距離攻撃への対抗手段の喪失、さらに悪い状況は続く。
「…行き止まりかよ」
二人の進んだ先にあったのは、とても飛び越せないような幅の川だった。泳いでいくことはできるだろうが、空を飛べる相手では狙い撃ちにされるのがオチだろう。
「逃げるのは終わりか?」
颶風が二人に追いつく。
(やるしかねーな)
「おい、戦えるか?」
「はい、なんとか」
そういってはいるが、虚勢に近いだろう。病院での泳者との戦いからもそこまで間が開いていないのだ。そして、日下部も雷撃によるダメージは残っている。
(…詰みかな、こりゃ)
しかし、やれるだけやってやると刀を構える。その時、聞きなれた声が耳に届く。
「日下部さん!?間宵さん、あそこです!」
「この声…、三輪か!?」
自分とともにここへ来た少女の声。その方向を見た時には、すでにそれは放たれていた。
「術式順展『蒼』」
「っ、お前も来たか、五条間宵ぃ!今度こそ、殺してやる!」
追い風による高速移動によりそれを躱した颶風は、もう一人の標的に視線を向ける。
「こっちのセリフだ、亡霊め。今度こそ決着をつけてやる」
「五条!?…女!?」
自身の後輩に似た女を見て、日下部が驚愕の声を上げる。
「説明は後で!日下部さん、大丈夫ですか!?」
「…味方、でいいんだよな、アレ。後でしっかり聞かせてもらうぞ三輪」
意味の分からない状況だが、これ以上ない援軍である。見間違いでなければ、あれは間違いなく無下限呪術だ。あれを使える術師であれば特級相手でも余裕だろう。
「っ!?そういうことか、羂索の奴…」
幸基を見て、間宵が目を見開く。探していた人物を同時に見つけたからだ。
(いや、今は…)
颶風を見る。自身にとっての不俱戴天の敵。今ならば負けることはないだろうが、それでも油断できる相手ではない。
一挙手一投足を見逃さないよう注意していると、颶風は懐から何かを取り出した。
「本当はこんなものに頼りたくはないのだがな、貴様らを殺すことができるならばそれでいい」
それに巻かれた封印の札を取る。その瞬間、周りにいた者たち全員の背に怖気が走る。
(なんだ?あれは…指!?)
その正体を知っていたのは、この場では日下部のみ。
「
返答をすることもなく、颶風はその指を取り込もうとする。
「させるか!」
間宵が再び『蒼』を放つ。しかし、それは間に合わなかった。
今までとは比較にならないほどの雷と風が、『蒼』を相殺する。
「なるほど、凄まじい力だ」
外見に大きな変化はない。しかし、数秒前とは比べ物にならない重圧が今の颶風からは感じられる。
「さあ、決着をつけようか」
その言葉とともに、最後の戦いが始まった。
乱法葬術:術式を強制的に起動する術式。術式の停止、暴走はすべて術式反転によるものである。
反転術式により生まれた正のエネルギーを相手の術式に流し込むことにより、相手の呪力を中和し停止させる。また、中途半端に流し込むことで完全に中和せずに無茶苦茶な形で発動させ暴走させている。
相手に直接自分の呪力を流し込む都合上、術式を使用された者は術者の呪力を判別できるようになる。颶風が幸基のところへ向かったのもこれのせい。
本編中に解説する機会なさそうだったのでここで設定開示。
多分後2話、来週で完結。
最後までお付き合いいただけるとありがたいです。