呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話)   作:ソル

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決着

 宿儺の指。人間が取り込んだ場合、耐性がなければ即死。あったとしても、元の人格を塗りつぶす形で両面宿儺がその体へと受肉することになる。すべての人間にとって禍となる、最強の呪物である。

 しかし、それは人間にとっての話だ。呪霊が宿儺の指を取り込んだ場合、たとえ元が低級であったとしても特級に近い力を手に入れることになる。

 では、元から特級の力を持つ呪霊がそれを取り込んだ場合、一体どのような結果が生まれるのか。その答えが、目の前にあった。

 

「ッ!?」

 

 雷。今までもメインの攻撃手段として使われてきたものだが、その質は今までと全く違う。これまでは存在していた呪力の溜めの時間がなくなった上で、威力は今まで以上になっている。

 無下限呪術により身を守っていた間宵以外がくらっていれば、その時点で即死していたかもしれない規模の攻撃。

 

「『赫』!」

 

「無駄だ!」

 

 お返しとばかりに『赫』を放つも、雷によって迎撃される。勢いを失った『赫』は、風の障壁によって完全に無効化された。

 

(『赫』でも無傷か…!雷だけじゃない、今まで使っていた技のすべてが強化されてる。それも、今までと比べ物にならないほどに…!)

 

 『赫』が効かない以上、自身の手札で有効なものは虚式『茈』しかない。だが、これにも問題はある。

 

(無下限はあとどのぐらい持つ…?下手をしたら、『茈』を撃つ呪力がなくなるぞ)

 

 呪力切れ。本来、無下限呪術使いには六眼があるため呪力が枯渇することはない。

 だが、間宵は現在乱法葬術によって無理矢理に術式を行使している。当然、その呪力消費と本人への負担は凄まじい。

 攻めきれない。今の攻防で、両者がそれを見抜いた。しかし、その上で取れる手段は颶風のほうが多い。

 

「まずいっ!」

 

 間宵が声を張り上げる。無下限を突破する手段の一つ、領域展開を行うため、颶風の手が掌印を結ぼうとしていたのだ。

 

「させるかよ!」

 

「貴様っ!!」

 

 簡易領域を用いた超速斬撃。日下部一人に注力できるならばともかく、それと同等の実力者をもう一人相手にしている状況で、それを避けるのは無理がある。

 ギリギリで風の障壁を展開する颶風だが、激しい攻撃により掌印を結ぶ隙がない。

 

(いける…。これ以上何もさせずに祓いきる!)

 

 均衡しているかに見える状況。それが崩れるのは一瞬だった。

 

「領域展開」

 

「なっ――!?」

 

 それは、渋谷事変にて陀艮と呼ばれる呪霊が使った技の一つ。呪霊にしか取ることができない手段。体の一部に呪印を浮かび上がらせることによる、掌印を結ばない領域の展開――!

 

 天嵐鳴響

 

 周りの景色が塗り替わる。前回戦った時とは違う、十全以上に完成された領域。周囲を囲む竜巻に綻びはなく、一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされかねないほどの強風がめちゃくちゃに吹き荒れている。

 

 

「クソッタレ!」

 

「くっ!」

 

 日下部と間宵が簡易領域を展開する。術式が発動された場合、自分たちはともかく未熟な三輪と簡易領域を使えない幸基は一撃で殺されてしまう可能性もある。

 術式の発動前に祓い切る。二人の考えが一致するも、

 

「遅い」

 

 颶風が術式を発動する方が早い。領域に付与した雷が敵を狙う。はずだった。

 

(必中効果が…消えているだと!?)

 

 だが、確かに発動したはずの術式が起動していない。

 

 

 

「ふ、二人、とも、行ってくれ!」

 

「奴の仕業か!」

 

 幸基の叫びで、その場の者は何が起きたかを理解した。 

 

(先ほど俺の術式を相殺したのと同じ原理か。領域を中和することで必中効果を阻害されている…!)

 

 だが、長くは持たないだろう。特級の領域の中和などそうやすやすとできるわけがない。その証拠に、身にまとう呪力がみるみる減っていく。

 

(十秒と少しといったところか?十分だ!)

 

 間宵が身にまとう不可侵を解除する。これから行う攻撃の威力を少しでも高めるため、そちらに呪力を回したのだ。

 

(アレがくる…!)

 

 前回は反応することすらできずに半身を消し飛ばされた、自身を殺しうる一撃。あの時よりも強い力を手に入れているとはいえ、脅威であることには変わりがない。

 

(ならば…)

 

 瞬間、領域内を黒い雲が覆いつくした。

 

「煙幕!?こんな小細工を!」

 

 だが、その効果は大きい。六眼を持たない間宵では、多量の呪力で構成された雲の中にいる颶風の位置はわからない。『蒼』を使えば雷雲を消し飛ばし敵をとらえられるが、呪力の消費が激しいうえ最悪味方をも巻き込んでしまうだろう。

 逡巡は数瞬だった。だが、それは致命的な隙となる。

 

 鼓膜を破られそうなほどの雷鳴が鳴り響く。

 

「くっ、皆!?」

 

 無下限を戻してなければ即死していた。今のは、過去に颶風が見せた自身をも巻き込む形での術式の発動。必中効果こそないものの、領域という逃げ場のない状況での全方位攻撃である。

 

「が…はっ」

 

「――日下部さんっ!」

 

 瞬間、日下部がしたことは二つ。簡易領域によって術式を弱めたこと。颶風を中心として放たれた雷を、背後の二人をかばうようにに受けたこと。

 息はある。しかし、本来即死するレベルの攻撃を受けた日下部の意識は完全に刈り取られていた。

 

「簡易領域!」

 

(日下部さんが守ってくれたんだ。私は、私にできることを!)

 

 実力の違う三輪が稼げる時間は数秒。簡易領域が解ければ、必中術式が今度こそ全員に直撃する。

 しかし、 

 

『いるんだろ?俺の中に』

 

 雷による痛みが、幸基の記憶の蓋を開いていた。彼の中にある、もう一つの魂の記憶を。

 本当は、なんとなく気づいていた。なぜ、術式の扱い方を知っていたのか。身に覚えのない記憶の正体は何なのか。

 

(怖かった。それを受け入れたら、自分が塗りつぶされてしまいそうで)

 

 だが、もう迷わない。精神を集中し、自身の中にいるその青年に話しかける。 

 

『俺の体を使ってくれ』

 

『…いいのか?』

 

『ああ、あとは任せた』

 

『…任せろ』

 

 幸基のやったこと。彼は、自身の魂を沈める『縛り』により『彼』の魂を表へと出したのだ。それは、彼が完全に受肉したことを意味している。

 懐かしい気配に、間宵の目が彼を見る。

 

「お待たせしました。当主様」

 

「――久しぶり、禍転」

 

 

 

 

(どうやったのかは知らないが、あの男の体に受肉したようだな)

 

 自身の仇敵の姿をとらえ、颶風の目がさらに強い殺意をはらむ。

 

(だが、好都合だ。刀の男は戦闘不能。一人が受肉したところで戦況は変わらん。領域を維持していられる間に全員押しつぶす!)

 

 領域の必中効果はまだ戻っていない。しかし、先ほどの攻撃を防いだ日下部は気絶している。もう一度雷雲を放てば禍転は耐えられない。

 まずは禍転を殺し、その後必中により間宵の無下限を突破する。先ほどの攻撃で散った雷雲を、颶風は再び展開した。

 

 

 

(とはいえ、どうするかな。呪力は枯渇しかけてるし、そもそも単純にあっちの方が強い)

 

 受肉により怪我こそ治っているが、呪力が戻ったわけではない。任せろ、とは言ったものの、この状況を覆す手段など持ってはいないのだ。

 

(となると、またアレをやるしか――)

 

「ねえ、また『縛り』でどうにかする気かい?」

 

 間宵の声により、思考が中断される。

 

「そうですね。それしかなさそうですし」

 

 『縛り』による自身の強化を使えば、颶風を道連れにしていくことができるかもしれない。

 それに、あくまで使うのは自分の魂のみに限定する。そうすれば、消えるのは自分だけになるはずだ。

 

「なら、私も一緒に行くよ」

 

 ダメだ、と言おうとした禍転を、強い決意のこもった目が貫く。

 

「わかってるだろ。私だって、もう一度死んでる。この子に少し時間をもらってるけど、そろそろ終わりにしないとね」

 

 それに、と続ける。

 

「おいていかれるのは、もう嫌なんだよ」

 

「…わかりました。じゃあ、一緒に」

 

「うん。今度こそ、最後まで」

 

 

 

 

 

 縛りの力。自身の魂を代償としたそれは、本来の実力を大きく超えた力を発揮するためのものでもある。無下限を使えるようになっても、今まではできなかったこと。

領域に対する最も効果的な防御手段。すなわち、それは――

 

「「領域展開」」

 

 無量空処

 

 二人分の呪力を乗せて展開されたそれは、拮抗すらせず颶風の領域を塗りつぶした。

 無限に広がる銀河のような領域は、颶風の脳へと処理しきれないほどの情報を流し込む。

 

(何が、起きた?領域?何も…できない)

 

 無量空所によるスタン。未だ領域内にいる颶風には、目の前で相手が何をやっていようが止めるすべはない。

 

(ああ、クソッ。また、敗れるのか。こいつら二人に…!)

 

「虚式『茈』」 

 

 決着は、静かに。間宵の手から解き放たれた『茈』が、今度こそ完全に颶風という呪霊の全てを葬り去った。

 




明日の投稿で完結です。
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