呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話) 作:ソル
いい最終回だった…
二日とかからず五条家のある京へとたどり着いた。並の人間ではかなり時間がかかるだろうが、術師ならこの程度の時間で済む。とはいえ、
「はあ、はあ、早すぎるでしょあなた…」
「いやー、君もかなりのもんだよ?ここまで私についてこれる人あんまりいなかったし」
飯や睡眠の時間以外はほぼノンストップで移動し続けていた。特に、最後は当主様が
「君の実力も見ておきたいし、競争しようか!」
などと言い出したものだからかなりの時間走り続けていたのだ。それなのにあっちはほとんど息が切れていないから恐ろしい。術式なしで当主になったことといい、単純な呪力強化がとびぬけているんだろう。
「あ、そういえば五条家での君の立場は術師じゃなく使用人ってことになってるから」
「…そうですか」
「術師としての任務に出ることもあるだろうけど、炊事や掃除なんかが基本になるかな」
今更言うのか、と思わなくはないが、まあ驚きはない。御三家…というより大きな術師の家系が他の術師を取り入れることは基本的にない。人手不足を公言するようなものだからだ。俺を勧誘した理由から考えても、外部から特に実績もない術師を入れたという情報が出回るとまずいんだろう。
「生活については最初に言った条件を変えないから安心して」
「了解しました」
術師としての任務はかなり減るだろうが、三食に寝床もついてくるなら悪くはない。
そんな会話を交わしていると、目的地にたどり着いた。
「ようこそ!ここが五条家だよ!」
当たり前だが、大きな家だ。昔いた家よりも数段広い敷地に、立派な建物がある。
(ここの家事をすることになるのか…)
住む分には最高なのだろうが、雑用として働くには広すぎる家である。
「とりあえず使用人を取り仕切ってる人を紹介するよ、ついてきて」
当主様がただいまー、華乃どこー?と問いかけると、
「間宵様!今までどこに行っていらしたのですか!」
と怒声を挙げながら一人の老婆が顔を出してきた。どうやら誰にも何も言わず勝手に来ていたらしい。
「ごめんごめん、でもちゃんと書置きは残しておいたろ?」
「『任務のついでにちょっと出かけてくるよ』で数日家を空けるとはだれも思いません!」
あなたはもっと当主としての自覚を…と説教が始まりそうになったところで、こちらに気づいたらしい。
「それで、こちらの方は?」
「ああ、今日からここで働く禍転君だ。散歩の途中であってね、仕事に困っているようだったからここで雇ってあげようと思ったんだ」
もちろん術師のことは知っているよ。と続ける当主様。どうやらそういう体で行くらしい。ここは話を合わせておこう。
「はじめまして。禍転と申します。当主様のご厚意で拾っていただくことになりました。どうかよろしくお願いします」
「はぁ、全く兄妹そろって勝手な…。よろしくお願いね、禍転さん。私は華乃、ここで使用人を取り仕切っています。」
突然現れた俺にもしっかり応対してくれている。こういう状況にも慣れているんだろう、随分当主様に振り回されているようだ。
「華乃は私と兄の親代わりみたいな人でね、両親が死んだ私達の面倒をよく見てくれたんだ。」
当主様はそう教えてくれた。だからいまだに頭が上がらないらしい。
「それじゃあ、早速仕事を教えるからこちらへ来て」
「あ、じゃあ私は部屋に…」
「間宵様は後でお話があるので待っていてくださいね?」
黒い笑顔でそう告げられ、当主様がだらだらと冷や汗を流す。どうも華乃さんには頭が上がらないようだ。
「あのー君のほうからも弁明を…」
「説教が終わったら教えてくださいね」
俺は関係ないし、そもそもどう考えても当主様が悪い。裏切り者ー!という言葉を背に受けながら、華乃さんの後を追う。
「まったく、もう少し慎みというものを持って行動してほしいものです」
ところで、とこちらに問いかけてくる。
「あなた、体力に自信はあるかしら?」
「ぜえ、ぜえ、つ、疲れた」
風呂に案内され体の汚れを落とした後、ほとんど休まず炊事、掃除、洗濯など様々な家事をやることになった。
「あなたやるわね!助かるわ~、どこかで働いていたのかしら」
「…まあ、昔少し」
ここまで大きい家ではないが、家事なんかを
「お疲れ様。今日はもうやることもないし、使用人の部屋に戻っていいわよ」
「色々教えてくださってありがとうございます。先に失礼しますね」
「すげえな…」
さすが五条家である。よほど金に余裕があるのか、使用人一人一人に個室が与えられている。空いていた場所が俺の部屋ということになった。
(自分の部屋なんて初めてだな)
年甲斐にもなく心を躍らせ扉を開けると、
「やっ、待ってたよ」
「…何してんですかあなた」
そこでは当主様がくつろいでいた。
「もちろん、今後について話したくてね。君を勧誘した理由、忘れたわけじゃないだろう?」
術式の使用訓練についての話か。説教が怖くて逃げてきたのかと思った。
「…なんか舐められてるよう気がするけど、まあいいか。早速明日、君の術式を使わせてもらいたい」
「明日ですか。場所はどこです?」
当然だがここでやるわけにもいかない。失敗した時のリスクが大きすぎる。
「五条家が私有地にしてる山があってね、術師の訓練場として使われてるからそこを使おうと思ってる。早朝に行けば誰もいないしね」
被害は心配いらないらしい。しかし、早朝か。
「使用人としての仕事はどうしましょうか。流石に二日目でさぼるのは心苦しいのですが」
「後で華乃に伝えておくから、大丈夫!…多分、聞いてもらえると思う」
(不安だ…)
説教の後で説得できるんだろうか。まあ、そっちは当主様の仕事だし任せよう。
「わかりました。それでは明日、正門前で」
「うん。また明日ね」
そういうと部屋から出て行った。
明日も早いし、さっさと寝てしまおう。予想以上に疲れていたらしく、布団に入るとすぐに意識が落ちてしまった。
翌日、正門前へと向かうと当主様がこちらを待っていた。どうやら華乃さんを説得できたようだ。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。かなり待ちましたか?」
「いや、数分前に来たところだし気にしなくていいよ。それより早く向かおう、華乃には午後までに戻ると約束してしまった」
早く行こうとせかしてくる。うまく交渉したようだが、今回約束を破ればまた大目玉を食らうんだろう。
「それじゃあまた走っていきましょうか」
「いいのかい?昨日の疲れも残っていると思うけど」
「ええ、大丈夫です。時間を無駄にするわけにもいきませんし、さっさと出発しましょう」
これでも野良の術師としてやってきたのだ。多少疲れが残っていようがあまり関係はない。
そんなこんなで、1時間ほど走って目的の山までたどり着いた。かなり大きい。数日前に行った山とそう変わらない。
(これも私有地なのか…。さすがだな、五条家)
「何してるんだい?早く行こうよ」
その声を聞き、我に返る。時間はそこまでないのだ、早くしなくては。
山の中へ入るとすぐに、整備された広場にたどり着いた。どうやらここが訓練場らしい。
「じゃあ、さっそく始めようか」
そういうと、当主様は自身の術式について開示し始めた。少しでも発動できる可能性を挙げておきたいんだろう。
「基本の無下限呪術は、外部から近づくものをどんどん遅くすることで、自分の周りに不可侵を展開するものだ。それを強化することで回りのものを吸い込む反応を作るのが『術式順転 蒼』」
とりあえず今回は不可侵を作り出すのを目標にしてみよう、と続ける。それじゃあ今度は俺の術式を開示しよう。気休めではあるが、出来るだけ暴走の危険を下げておきたい。
「俺の術式は、相手の術式に干渉し無理矢理に発動させる『乱法葬術』です。術式を発動するためには相手の体に手で触れる必要があり、右手と左手で効果が異なってきます。」
「右手だと無理やり発動・停止させる『
一見同じ効果に見えるが、強駆は術者の使っているのと同じように発動・停止させる(ただし、発動した術式の威力や範囲は全く制御できない)のに対し、逸走は術者本人でも予期できないような効果を発動させることが多い。
前回呪霊に使った時には周囲にいた全員に術式が発動する形で暴走したが、逆に使っていた術式が完全に解けていた可能性もある。
「それと、一度強駆で発動させた術式を停止させることはできません。その術式の効果が消えるまでは強駆が発動し続けている状態なんです」
「じゃあ、暴走した場合は君でも止められないわけだ」
そういうことになる。まあその辺は最初に説明したし織り込み済みだろう。
「さあやってみよう」
その言葉を聞き、当主様の出した左手に右手で触れ、術式を発動する。
「強駆」
その言葉とともに、当主様に刻まれた無下限呪術が起動する。さあ、うまくいってくれるといいが…などと考えていると、
「あっこれまず…」
当主様の右手から青い光の弾のようなものが生み出されるのが見えた。考えるより先にその場を飛びのく。
ゴゴゴゴ!!と何かが破壊される音があたりに響く。制御しきれず放たれた『蒼』が、真っ直ぐに飛んでいき山の一部をえぐり飛ばしたのだ。
「…」
「…」
二人そろって呆然とする。広場の中心で行ったため山が崩落するような被害ではないが、それでも一目見ればわかる程度には木々が消し飛んでしまっている。
「…やった。やった!思ってたのと違ったけど、ちゃんと無下限呪術を使えた!」
ありがとう、本当にありがとうとこっちの手を握ってくる。周りの被害を気にしていないわけではないだろうが、それより術式を発動できたことが嬉しくて仕方ないらしい。
「これならきっとあいつだって…」
「何か言いました?」
「いや別に?」
それよりも、と続けて、
「次はちゃんと制御できるようにすることだね何度か使ってみて情報を集めよう互いの呪力消費なんかも関係あるかもしれないし…」
ものすごい勢いでまくしたてる当主様。この惨状を見てまだ続けるつもりらしい、まじかこの人。
「さあさあ早く早く!」
いい笑顔で右手をつかんできた。どうやら拒否権はなさそうだ。
「はあ、わかりましたよ」
そんなこんなで何度か術式を発動してみた。どうやら最初の一回が外れ値だったらしく、あそこまで大きな被害が出ることはなかった。しかし、
「結局不可侵を維持するのは無理だったねー」
そう、どういうわけか一番基本的な無限の不可侵は一瞬維持するのが精いっぱいだったのだ。
「『蒼』も直線的に飛ばすのが限界だったし、多分、君の術式だと常時発動させ続けなきゃいけない術式は維持できないんだと思う。あくまで発動と停止、暴走だからね、発動後の維持までは対象外なんじゃないかな」
どうもそういうことらしい。あの呪霊の結界に関しては、一度発動すれば呪霊が維持しなくてもそのまま残り続けるものだったんだろう。でなければ一瞬だけ姿が消えて終わりだったはずだ。
「でもかなり前進した!また訓練に付き合ってよ」
「はいはい、わかりましたよ」
並の戦闘より危険ではあるが、自分の術式についての理解も深まるし、何より、
「?、どうかした?」
「いえ別に」
こんな楽しそうな顔が見れるのなら、まあ別にいいだろう。
そうして帰路に就く二人を、一つの影が眺めていた。
「面白いなああの二人。まさかあんな風に無下限を使うとは」
笑みを浮かべながら二人を観察する人影。その額には、頭を切り開いたかのような縫い目があった。