呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話)   作:ソル

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戦闘開始

 呪詛師の討伐任務へ向かったのは話をした翌日だった。御三家の当主を殺して、そのまましばらく見つけられなかった奴だ。情報があったならすぐに出発しなければまた身を隠してしまうだろう。

 というわけで、目撃情報のあった場所へやってきた。しかしここは、

 

「いやーまさかこの村とはね」

 

 そう、ここはあの時当主様と会った村である。どうやらここで例の呪詛師が発見されたらしい。

 

「禍転様ではないですか!お元気でしたか?」

 

 村に入ると見覚えのある人が声をかけてきた。あの時俺を呼んだ子である。元気そうで何よりだ。

 

「久しぶりだね、父親は大丈夫かい?」

 

「はい!おかげさまで今は元気で働いています。」

 

「それはよかった」

 

 少し談笑していると、当主様が割り込んできた。

 

「少しいいかな?この村でこの男が見つかったと聞いたんだけど、良ければ話を聞かせてくれないかな」

 

 そう言いながら、件の呪詛師―名は禰畔(ねはん)というらしい―の人相書きを見せてきた。あまり時間はないかもしれない。早く話を聞いたほうがいいだろう。

 

「わかりました。その男を見たのは私の父です。今案内しますね」

 

 

 

 

「あの時は、本当にありがとうございました」

 

 男は、開口一番頭を下げてきた。前に見た時よりもずっと元気そうで、安心した。 

 片腕のない男について聞くと、

 

「あれは、体調が回復して山に入った時です。私は猟師をやっていましてね。獣を狩るために身を隠しながら奥の方へと入っていきました。あの化け物の影響か、前よりも山に動物が少なかったんです。ようやく見つけた狐を追っていると、その男を見かけました。この辺じゃ見ない顔だし、何より随分と鬼気迫った表情をしていたので、見えた瞬間その場を離れたんですけどね」

 

 正解である。見られたことがばれていたら殺されてしまっていただろう。呪霊と出くわした経験で危険を避けようという意識が働いたようでよかった。

 しかし、動物が全然いないという点が気にかかる。前に山に入った時もそうだった。あの時は呪霊のせいだと考えていたが、もしかしたら禰畔の影響だったのかもしれない。

 

「あぁ、それと、男の近くに腕のない人影を見たような…。そちらの方に少し似ていたような気がします」

 

 彼は、当主様のほうを見てそう言った。

 

 

 

「…」

 

「…どういうことなんでしょうね」

 

 行方不明の識様が生きているかもしれない、それも呪詛師と一緒にいる。もちろん、見間違いという可能性もなくはないが…

 

「相手の術式はわかっていないんですよね」

 

「あぁ。かなり狡猾な奴だったらしくてね、自分で手を汚さず部下に戦わせていたらしい。そのせいで術式の情報が残っていないんだ。もしかしたら洗脳や催眠といった術式なのかもしれない」

 

 それなら、兄を取り戻せるのではないか。当主様の口調は、少しの期待を含んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 男を見た大体の位置を教えてもらったため、すぐに山の中へと入った。本人がいるならばよし、いなくても何か手掛かりが残っているかもしれない。

 あたりを探していると、かなり薄いが残穢を発見した。あの時の呪霊のものではない。おそらくこれが…

 

「ついに尻尾をつかんだぞ」

 

 当主様が口角を上げる。と同時に、近くの茂みから何かが飛び出してきた。一瞬警戒したが、飛び出してきたのは狐であった。なんだ、と気を緩めたがすぐに違和感に気づく。 野生の動物がこんな無警戒に人の前に姿を現すはずがない。

 

「禍転!」

 

「わかってます!」

 

 注視すると、狐からは弱い呪力を感じる。それは先ほどの残穢と同じものだ。どうやらこの狐は呪詛師に操られているらしい。

 周りを警戒する。もしこの狐と情報を共有しているのなら、こちらの位置はすでに割れている。地響きのような音が近づいてきている。大量の何かがこちらへ向かってきているのだろう。

 山に動物が少なかったこと、おそらく動物を操る術式。ここまで情報がそろえば何が来るのかはわかる。

 

「来るよ!」

 

 当主様の言葉とともに、熊や猪、狐などの獣たちが大量に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 凄まじい数だ、少なくとも百は超えているだろう。この山の獣だけでなくほかのところからも集めてきたのかもしれない。

 突進してきたイノシシを躱し、腕を振りかぶってきた熊を全力で殴りつける。普通ならこれで倒せているだろう、しかし、すぐに態勢を立て直しもう一度攻撃を仕掛けてきた。

 

(噓だろう!?内臓が破裂した感覚があったのに!)

 

 呪力で強化されているのか、そんな程度じゃびくともしないようだ。もう一度攻撃を仕掛けようとしたが、その前に野犬がかみついてくる。

 

「くそっこいつら!」

 

 やはり野生の獣の動きではない。連携が取れすぎている。こんなものでやられはしないが、確実に体力は削られている。厄介だ、早く術者を見つけないと…!

 

 

「禍転、こっちだ!」

 

「!」

 

 当主様の指さした方向へ走る。彼女が周りの獣を吹き飛ばしたようで少し空間が開いていた。

 

「気づいていたかい?あの獣たちはある程度の距離までは固まってこっちに向かってきていた。そのあと散開して全方位から襲ってきたんだろう。つまり最初に来ていた方向に本体がいる可能性が高い」

 

 もちろん、罠である可能性も高い。全く別の方向にいるかもしれないし、もしいたとしても準備をして待ち構えているだろう。それでも、

 

「行くしかないですね。あっちは山頂だ。こいつらを操っている奴がいるなら、上から見ている可能性は高い」

 

 木々をかき分け、獣の追撃をかわしながら進み続ける。広い道であれば追いつかれはしないが、山道となると山に生きているあっちに分がある。

 

 数分そうして走り続けると、山の頂上が見えてきた。木に囲まれて見えていなかったが、どうやらいつもの訓練場に近い広場があるらしい。

 その中心に、二つの人影が見える。人相書きの男と、片腕のない男。後者は、当主様に少し似ている。あれはやはり…

 

「兄様だ…間違いない」

 

 警戒しながら距離を詰める。当然向こうもこちらに気付いているようで話しかけてきた。

 

 

「お前が今の五条家当主か。横に連れてるのは護衛か?まあ何でもいいか、識」

 

 その言葉とともに、識様がこちらを振り向く。

 

「っ!?」

 

 その顔には、ひどい怪我が残っていた。しかし、それ以上におかしな点がある。

 

(あれだけの怪我をしているのに血が流れていない…?)

 そう、今怪我をしたばかりのような新しい傷であるのに、出血が全く見られない。まるでけがをした時点で時間が止まっているように…!?

 

(まさか!?)

 

 そこで気づく。今までこちらを襲ってきていた獣は、いずれもどんな攻撃をしても立ち上がってきた。まるで、痛覚がそもそも存在しないかのように。あの時殴った熊だってそうだ。洗脳だろうが催眠だろうが関係ない。内臓が破裂したのなら生理的に血を吐くなどの反応を示すはずだ…生きているのであれば。

 

「その目、気づいたか?」

 

 当主様のほうを見る。表情は変わらないが、俺の肌にも突き刺さるような殺気を感じる。

 

「貴様の兄は強かったぞ。俺の部下は全滅、従えていた獣どももほとんどやられた。まあ、それ以上の人形を手に入れられたしそれはいい。」

 

 それが誰のことを指しているかは言うまでもない。当主様から感じる憤怒がまた強くなる。

 

「ただ、恨みがないわけではないんでな。自分の手で妹を殺させることで晴らすとしよう」

 

 

「俺の術式は、自分でとどめを刺した相手を操る『屍縛呪法』」

 

 さあ、始めようか。その言葉とともにお互いが臨戦態勢に入る。

 

「悪趣味だな、クソ野郎」

 

 吐き捨てるように悪態をつく。そして、兄の死体と妹の戦闘が始まった。

 

 

 

 




呪詛師の名前の由来はそのまんま涅槃です
仏教的には生死の輪廻から解放された状態を指すんだとか
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