呪術廻戦 会者定離(旧題:一人の術師と六眼なし五条家当主の話)   作:ソル

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狂風

 嵐。それは日本という国で生きる以上避けて通ることのできない災害の一つ。江戸時代にも、数万の死者を出したとされる台風の記録が残っている。

 建築物が現代ほど発達しておらず、農作物での生活が中心となっていたその時代の人々にとって、すべてを根こそぎふきばしていくそれは恐怖の象徴ともいえるだろう。

 

 

 つまりこの時代において、その呪霊は『最強』の一角に君臨できるほどの実力を秘めている。

 

 

 それが、今目の前に現れた。どう考えてもまずい。万全の状態でも勝てるかどうか怪しいのに、こっちはさっきまでの戦いでかなり体力を削られている。

 

「颶風様、お助けください!」

 

 強大な呪力にあてられたのか、気絶していた禰畔が目を覚ました。颶風。それが目の前の呪霊の名前らしい。

 颶風がため息をついたように見えた。その瞬間、あたりに閃光が走る。何が起こったのかを理解する前に、禰畔は絶命していた。

 

「お前と協力していたのはある程度の力を得るまでの隠れ蓑にするためだ。こうなった以上お前にもう用はない」

 

(雷を操る術式…!)

 

 識様の腕を焼き切ったのもこの攻撃によるものだろう。あんなものが直撃すれば人間などひとたまりもない。

 

「さて…」

 

 颶風が興味深そうな目でこちらを見る。

 

「そこのゴミはともかく、操っていた奴はそれなりに強かった。それを倒せる術師か…実験台にはちょうどいい。」

 

「っ!?」

 

 考えるより先にその場を飛びのく。光とともに地面が黒焦げになっているのが見えた。

 

「ほう、これを避けるか。しかも…」

 

 

 さっきの攻撃と同時に当主様が颶風のもとへ接近していた。風で構成されていて実体がないと考えたのか、頭ではなく胴体を全力で殴りつける。しかし、

 

「ぐあっ!?」

 

 やつの体に拳が触れた瞬間、当主様が吹き飛ばされた。

 

「攻撃に入るまでの判断も早い。だが狙いが悪かったな。俺は体の表面を風によって防御している。生半可な攻撃ではかすり傷さえ与えられんぞ」

 

(術式の開示!)

 

 やばい。当主様の攻撃に効果がないということは、こっちの攻撃はほぼ通らないとみていいだろう。無下限の力を使えれば何とかなるかもしれないが…

 体勢を立て直した当主様が話しかけてくる。

 

「禍転、術式はいけるか?」

 

「少し時間をください。今の状態で撃っても威力も制御も足りないと思います」

 

 禰畔を倒してから時間が空いたのがまずかった。黒閃による覚醒状態が終わってしまっている。

 

「なら、一撃離脱を繰り返して突破口を見つけよう。何か弱点を見つけたらそれを狙って『蒼』をぶち込む」

 

「わかりました」

 

「作戦会議は終わったか?ならこっちから行くぞ」

 

 また雷か、とその場を飛びのくが、今度は颶風が直接接近してきた。

 

「空中へ跳んだのは失敗だったな」

 

 その言葉とともに、颶風から突風が放たれた。とっさに防御したが、空中にいる状態では踏ん張れないため後方へ飛ばされ、背後にあった木へと激突する。

 

「がっ!」

 

 雷による追撃が飛んできた。一瞬意識が飛びかけるが、まだ生きている。最大威力を発揮するには何らかのためが必要なのかもしれない。

 

 

(畜生…、動けない!)

 

 だが、立ち上がれない。生きてこそいるが、雷の直撃を食らったのだ。単純な怪我もそうだが、体がまだ麻痺している。当主様が一人で応戦しているが、長くは持たないだろう。

 風に、雷。奴はおそらく嵐による現象をすべて再現できるんだろう。それも、特級の呪力で。

 どう考えても俺たち二人だけじゃ戦力が足りない。五条家の術師全員でかかってようやく倒せるかもしれないレベルだ。

 

(早く、早く動け!このままじゃ当主様が…!)

 

 

 

 

 

 

 禍転の呪力は消えていない。大丈夫だ。と自分に言い聞かせながら戦いを続ける。

今のところこいつの攻撃で一番怖いのは、発射されたら回避できない雷だ。だが、三度も見ていたのだ。弱点は見つけた。

 雷は、三回とも顔の空洞から放たれていた。禍転が撃たれた時も、呪力が頭を中心に集中しているのを感じたし、あそこに呪力をため、雷としてはなっているんだろう。もちろん、ほかの場所から放てる可能性だってある。警戒を怠るわけにはいかない。ただあれだけの威力なら呪力のためは絶対に必要なはずだ。それに注意していればそうそう当たることはないだろう。

 ただ、それ以上に厄介なのが、

 

「くっ!」

 

 奴が纏った風の鎧により、振るった拳がはじき返される。そう、これがある限りやつに有効打を与えられない。

 先ほどから様々な部分に攻撃を仕掛けているが、そのすべてが阻まれている。

 『蒼』や『赫』を使えれば何とかなるかもしれないが、いま禍転に近づこうとすれば狙いはそっちへ行ってしまうだろう。なんとか禍転が来るまで耐えるしかない。

 

「体術ではお前たちの方が上だな。…なら、こういうのはどうだ?」

 

「なっ!?」

 

 突然、視界が遮られた。何が起こったのかを理解する前に、突風により吹き飛ばされた。すぐに立ち上がろうとするが、風の力で押さえつけられていて動けない。

 

「!」

 

 呪力が集中しているのを感じる。雷を打つつもりだろう。まずい、これじゃ避けられない!

 

 

 

 

 

 

 

 当主様の顔の周りに小規模な雲が発生し、彼女の体が宙に浮いた。

 どうやら何かに押さえつけられているらしく、すぐに立ち上がれないようだ。颶風が呪力をためている。

 

「当主様!」

 

 動けるようになった、と自覚するよりも先に体が動いていた。渾身の力で当主様を突き飛ばす。雷が直撃する。そして、右腕が肩のところからちぎれとんだ。

 

「がああああああっ!!」

 

 これまでにないほどの痛みが体を駆け巡る。だが、まだ生きている。

 

「あ…あああっ、禍転!」

 

 当主様は無事らしい。俺を抱えてその場から飛びのいた。

 

「ほう、生きているか。やはり精度が甘いな。本当なら頭を狙っていたんだが」

 

 颶風にはまだまだ余裕がある。このままじゃ一瞬で殺されるだろう。

 

「…やるしか、ない」

 

 右手は使えなくなったがまだ左手がある。どうなるかはわからないがやるしかない。

 

「とう、しゅさま」

 

 その言葉で理解してくれたようだ。当主様が俺の左手を取る。助かる。正直、意識を保っているので精いっぱいなのだ。

 

「逸、走」

 

 術式を起動する。それと同時に、当主様の手から赤い光が放たれた。逸走で暴走させた術式は想定外の挙動を起こすことが多い。今回は、術式の効果が反転した状態で放たれたらしい。つまりあれは、無下限呪術の術式反転…

 

「赫…」

 

「なっ…!?」

 

 当主様がつぶやくとともに、それが颶風に向かって放たれ、奴の目前で炸裂した。やはり制御は出来ていなかったらしく、俺たち自身も、すさまじい衝撃に弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 体が重い。指一本動かない。制御されずに解き放たれた『赫』は、私たち自身も巻き込み、周囲一帯を破壊していた。幸い、颶風もあれで倒せたか、撤退に追い込めたらしく、奴の呪力を周囲に感じない。

 だけど、ただでさえ重傷を負っていた中で、あれだけの衝撃を受けた禍転は、死の一歩手前にいる。

 

「か、てん、禍転…、死んじゃ、だめだ…」

 

 声をかけることしかできない。誰か…助けて、と声にならない言葉が漏れ、そこで私も意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが反転術式を用いて、二人を治療する。

 

「いいね、あれを撃退できるとは思っていなかった」

 

「実験材料ももらったし、助けてあげるよ」

 

「まだまだ楽しませてほしいね」

 

 頭に縫い目を持つ男は、禍転の右腕を持ち、その場を去っていった。

 




何やらせてもそんなに違和感がない便利なキャラ
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