「まったく、護堂はいつもほんとに無茶苦茶やるわね。最後のあの雷の攻撃、私が周りの人たちを避難させてなかったらどうなってたと思う? 何十人があの場で側撃を受けてたかわからないわよ?」
次に護堂が目を覚ましたとき、そこはエリカの膝の上だった。
「どうせあれでしょ? このままじゃ勝てないからって街の人たちを巻き込んだんでしょ」
自分の悪行をずばり言い当てられて、護堂はそっと目線を逸らす。
「う……マジか…………」
護堂の目に飛び込んできたのは、数刻前とは変わり果てた光景だった。
ほとんど剥げかけている路面のアスファルトは、中央の辺りが特に損害が著しい。道路脇も無事ではなく、街路樹は何本か焼け焦げているし、電柱は折れて電線は千切れてと損傷が激しい。
どこを見回しても無事な箇所を見つけられず、護堂は自らの引き起こした惨状に思わずこの場を逃げたくなる。
「自覚があろうとなかろうと、やはり『王』は『王』なのですね……。できればこれ以上御身の御力を振るい遊ばされるのは遠慮していただきたく…………」
ひどく真摯な声色でよつなは護堂に告げる。その表情は、命を賭して暴君に諫めの言葉を奏上するような、そんな覚悟を窺わせる。こころなしか初めて会ったときよりもへりくだった態度のような……。
「いや、違うんだ。よつなさん、これはその……」
「それはいわゆるコラテラルダメージというものに過ぎないわ。目的の為の、致し方ない犠牲よ」
やけに芝居がかった口調で、エリカが茶々を入れてくる。
「大体、護堂を呼びつけてこの程度の損害で済んだのなら寧ろうらやましい程よ。イタリアで護堂がどれだけ暴れまわっているか聞いたら驚くと思うわよ」
「では、もしかしてあの五月末にローマで起きたコロッセオの爆破テロというのは……」
「ふふ、それだけじゃないわよ。ミラノのスフォルツェスコ城、パレルモのフェリーチェ門やサルデーニャのカリアリ港も我が君の前には脆いものだったわ」
護堂はエリカが『
過去の悪行をネタに愉しそうに護堂を追い詰めるその様は、まさしく悪魔という名前がふさわしい。
「イタリアに住む魔術師だったら皆、護堂が訪れるということがどういうことか分かっているわよ。いずれ日本もそうなるでしょうね」
エリカの不吉な、予言はいやな現実感をもってその場に響いた。
「ほう……。此方の地にも神殺しはおったのか……」
彼女は遠く離れた場所から護堂たちの戦いを見守っていた。巨狼との激しい戦いを制した護堂の姿に、彼女の瞳が微かに細められる。その表情には、期待と嗜虐が入り混じっていた。
「しかし、手負いの獣一匹に手こずるようでは妾には勝てぬぞ」
彼と彼女は天に定められた仇敵同士。そう遠くない内に彼とは戦い合うことになる。そう彼女の女神としての勘が告げていた。
彼女の口元がゆっくりと歪み、獰猛なその本性を露わにする。
街並みが夕焼けに沈む中、護堂を見つめる彼女の瞳だけが鋭い輝きを放っていた。