The Gauntlet ~ゴブリンの巣、ソロで蹂躙してみた~ 作:和菓子工房
色々と書き込んでたら結構な文字数になっちゃいました。
もしよろしければどうぞ。
春。それは始まりの季節。
多くの新人冒険者達が、この辺境の街に訪れる季節。
そして、多くの新人冒険者が、志半ばに散っていく季節だ。
長い栗色の髪を三つ編みに纏めた受付嬢は、今日も今日とて業務に追われていた。
通常業務に加えて、この時期に増える新人の登録作業。依頼主との交渉に冒険者からの報告処理と、その業務内容は多岐にわたる。それも、文字の読み書きすらおぼつかない村人や冒険者たちと、書類のやり取りをしなくてはいけないのだから、大変なんてものではない。
とはいえ彼女も、ギルドの職員としてそれなりのキャリアを積んできたエリートの一人。その疲労を表に出すことはなく、一見するといつも通りに働いていた。
そんな彼女のもとに、一人の少女が歩み寄ってきた。小柄で華奢な体格に、ごく普通の服装、褪せた灰色の髪。そして、頭部にかわいらしく生えたネズミの耳。おそらく
何か依頼でも持ってきたのかな? そんなことを思いながら、受付嬢はいつも通りの対応をした。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をしたい」
少女の言葉は受付嬢にとって、やや予想外のものであった。少女の細い体は、冒険者のような荒くれごとに向いているとは、到底思えなかったからだ。
「文字の方は……」
「書ける」
まぁ冒険者と言っても、呪文使いの方々は決して屈強ではありませんし。そんなことを考えながら、可愛らしい声で淡々と答える少女に書類とペンを手渡す。
「ではこちらの冒険者シートに記入を」
「わかった」
文字を書ける、とは言っていたものの、その手はややぎこちない。文字は知っているものの、それを書くことには慣れていない、といった感じだ。
育ちがいいというよりは、頭がいいといった感じなのかな。目の前の少女に対してそんな考察をしながら、書類を書き終わるのを待つ。正直、自分が代筆をした方がより早く、より綺麗に仕上がるだろう。だが、代筆にはわずかではあるが代金がかかる。それを嫌がって自分で書こうとする冒険者も珍しくない。
「書けた」
「はい。……書類に不備はありませんね」
必要最低限のことのみを喋る目の前の少女に、兜をかぶり続けている彼に似ているな、などと思いつつ、書類を受け取る。
文字はややいびつだったが、書類はしっかりと、問題なく書かれていた。
「今後のご予定は?」
「すぐにでも依頼を受ける」
「では、そちらのクエストボードから依頼を……」
「これにする」
少女は受付嬢の発言を遮り、いつの間にか取っていた依頼書を提出する。何も見ずに、適当に依頼書をとったかのような早さだった。
依頼内容はゴブリン退治。白磁等級が受ける一般的な依頼だ。
「お、お言葉ですが、依頼内容はよく確認した方が」
「ちゃんと見てる。ゴブリン退治でしょ?」
「え、えぇ。ですが、他の依頼も確認してから決められては」
「他に白磁が受けられそうなのは、ドブさらいか街中でのお使いくらいだったから」
適当に依頼を選んだように見えた少女に苦言を呈そうとするが、いつの間にクエストボードを確認していたのか、しっかりとこの依頼を受けた理由を答えてくる。
とはいえ、こんな装備もない華奢な少女を一人でゴブリンの巣に突っ込ませるなど、手の込んだ自殺教唆みたいなものだ。
ゴブリンは最弱のモンスターだが、モンスターではあるのだ。悪意と欲に満ちた躊躇のない子供の集団、これは立派な脅威である。たかがゴブリン、されどゴブリンなのだ。
「受けちゃ、ダメなの?」
「ダメということは、ないのですが」
「なら受けたい」
「……わかりました、受理します」
「ん」
「ですが!」
「?」
「装備はしっかりと整えること! あと仲間を見つけて一緒に行くこと!! わかりましたか!?」
「は、はい」
「はぁー、……無事に帰ってきてください。くれぐれも慎重に」
「ん、わかった」
らしくもない説教をしてしまった。あまり一人に首を突っ込むような余裕はないのだが、どうにも目の前の少女は危なっかしい。お節介かもしれないが、世話を焼かずにはいられなかった。
感情が希薄そうな所といい、淡々とした受け答えといい、
「……あとで一応、彼にも話をしておきましょうか」
ゴブリンスレイヤーは、ゴブリンの巣であれば、自身の依頼が終わった後でも寄ってくれるだろう。もしかしたら彼女の助けになってくれるかもしれない。
ギルドから出ていく鼠の少女の背中を見ながら、そんなことを呟いた。
〜〜〜〜〜
「らっしゃい」
「装備を買いに来た」
「そうかい、適当に自分で見ていってくれ」
もうそんな季節になったか。
工房の店主は、戸口を跨いだ少女を見て、時間の流れの速さに驚く。
季節は春。冬の厳しい寒さから、心地の良い暖かさへと移りゆく季節。
そして、彼女のような新人冒険者が、この辺境の街に殺到する季節だ。
店主がぶっきらぼうに答えると、少女はその通りに店内を見て回った。
「うん、これにする」
(……へぇ、打狗棒か)
少女が少し悩んだ後、掴んだ武器を見て、店主は少し感心する。
小柄な彼女の、身の丈ほどはあろうかという棍杖。戦闘用に調整され特化させられた、元は武術用の杖を彼女は選んでいた。
たかが杖とはいえ侮ることなかれ、生物は頭を硬いもので思いっきりぶん殴られたらたやすく死に至るのだ。戦闘用に仕立てられたものとあれば、なおさらだ。
これは意外なチョイスだ。大体の新人、それも前衛を務める戦士といえば皆が皆、冒険譚や詩に憧れて剣や槍を選ぶものなのだが。
しかし実用性、それも戦った経験も碌にないような新人が使うことを考えると、彼女が選んだ打狗棒はそこらの長剣や小槍よりもよっぽど優れていた。
剣や槍のような刃物は、すぐにダメになる。怪物を5、6匹斬り捨て、貫いた時点で、血やら骨やらに刀身を削られ、刃が立たなくなる。斬りつけ、刺し貫くための武器は、適切に扱わねばただの文鎮と化すのだ。
しかし、打狗棒のような打撃を主とした武器であれば、そのような悩みとは無縁だ。骨に当たろうがそれを砕くだけだし、血に塗れようが殴る分には問題ない。殺傷力は剣やら槍やらの方が上かもしれないが、継戦能力という点では間違いなく打狗棒の方が優れていた。
「それなら銀貨60枚だな」
「……けっこー高い」
「戦闘用に整備されてんだ。ただの棒が欲しいなら、そっちの六尺棒でも買ってな」
「ううん、これにする」
「毎度」
「これって、持ち手に布を巻いたりしてもらえる?」
「あぁ、そんくらいならウチでパパッとやれるが」
「じゃあ、この辺りを少し削って、滑り止め用の布を巻いて欲しい」
「あいよ、お安い御用だ」
「いくら?」
「こんくらいなら金は取らねえよ」
「ん。ここって、備品なんかも売ってたりする?」
「まぁ、一応は。専門店に比べると品揃えは微妙だがな」
「じゃあ、それも見る」
「あいよ」
そう言って、再び店内を見て回り始める少女。
お望みの品は既に決まっていたのか、目ざとく商品を見つけては手に取っていく。
「これとこれ。あと、強壮の水薬って売ってる?」
「あるぞ。ギルド申請済みのやつだ、品質は保証する」
「ありがとう。あと、投石紐と石をしまう袋が欲しい」
「それなら、……これとこれだな」
「ん、これで全部」
「うし。えーと、だ。全部纏めて、銀貨99枚だ」
「……ん」
少女はやや躊躇いながらも、財布を差し出した。中身を確認すると、丁度銀貨100枚。
ギリギリじゃねえか。そんなことを思いながらもキッチリ代金を差し引き、銀貨1枚だけ入った財布を返す。少女はしょんぼりしたような顔でそれを受け取り、懐にしまう。
お詫びというわけではないが、気前のいい買い物をしてくれた上客へのせめてもの礼として、手早く、しかし丹念に打狗棒の持ち手を削り上げ、滑り止め用の皮をキツく巻き付ける。冒険中に、決して解けることのないように。
「ほれ、注文通りに」
「ん、……いい腕してる」
「そりゃどうも」
持ち手の部分をまじまじと見つめながら、少女はそう呟く。セリフだけを見れば格好いいが、見た目相応の声のせいか、格好つけたがっている子供にしか見えなかった。
「気をつけてな」
「……ん、ありがと」
未来の上客候補に、そう声をかける。買ったものからも、彼女なりに色々と考えていることが分かった。こういう奴はきっと長生きするだろう。なら、今のうちから良くしておいて損はない。
「そういえば、防具はどうすんだ?」
「当たらなければ、どうってことない」
前言撤回、やっぱり早死にするかもしれない。
自信満々にサムズアップをする少女を見て、そんなふうに思った。
〜〜〜〜〜
ゴブリンは這い這いになりながら、血走った目で横穴を進んでいた。
先程、巣穴の外で見張りをしているやつから連絡が届いた。冒険者が一人、こちらに向かってきていると。しかも、匂いからして女だと。
それを聞いた優秀な自分は、一番最初に横穴へと潜り込んだ。
見張りの存在にも気が付かなかった間抜けな冒険者だ。きっとこの横穴の存在にも、自分が考える完璧な奇襲にも気がつけないだろう。
穴を掘る音はかなり大きくなってしまっていたが、ゴブリンはそう考えて疑わなかった。
呑気に細道を進む冒険者の背後をとり、襲ってやるのだ。なぁに相手は女だ。自分が組み付けばすぐに大人しくなるだろう。
ゴブリンは只人の子供程度の力しかなく、いくら相手が女性だとはいえ、単独でかかればやられてしまう可能性もある。しかし、ゴブリンはそう信じて疑わなかった。
大人しくなった後は、このイキリ勃ったものを挿しこみ、楽しんでやろう。当然、自分が独り占めだ。後ろから追ってくるノロマでグズな同族にも、いつも偉そうに踏ん反り返っている杖持ちにも、体がデカいだけで偉そうにしている木偶の坊にも譲ってはやらない。なにせ自分が倒したのだ。勇敢に冒険者に立ち向かい、打倒してみせたのだ。当然、自分の功績だ、自分のものになるべきだ。
横穴の策を考えたのも、毒を使うことを考えたのもシャーマンであり、自分ではない。冒険者たちに襲われ、何度ホブの後ろに隠れていたことか。そもそも、まだ女冒険者を倒したわけでもない。しかし、ゴブリンはそう考えて、信じて、疑わなかった。
女を襲い、一方的に打ち倒し、組み敷いた自分の姿を想像しながら、意気揚々と、音を立てている事など気にも止めずに、ゴブリンは横穴を掘り進め。
ようやく細道まで穴を掘り終わり、お目当ての肉袋を視界に収めた、次の瞬間。
その女冒険者が振り抜いた棒によって、一撃で頭蓋を砕かれた。
〜〜〜〜〜
ホブゴブリンは怒りながら、そして下半身をイキリ勃たせながら、自分の図体に比べて狭い通路を走っていた。
見張りに立たせておいた小さな同族からの報告を聞いて、喜び勇んで飛び出したのだが、いつまでたっても同族たちの下卑た笑い声は聞こえてこない。
高々人間の女一匹に、何を手こずっているというのか。全く、どいつもこいつも矮小な愚図ばかりである。
この間、巣を襲ってきた女剣士の時も、奴らは満足に肉盾になることもできずに切り捨てられていた。そのくせ一丁前に取り分は要求してくるのだから質が悪い。自分に守ってもらっている身なのだから、それ相応の態度をとるべきなのだ。飯も食わずに働き続けるくらいがちょうどいい。
偉そうにこの巣のボス面をしている杖持ちだってそうである。自分よりも小さく、力も弱いのだから、大人しく自分に従うべきだ。だというのに、玉座にふんぞり返って手柄ばかりを横取りしていく。少しばかり不思議な術を使えるからと調子に乗っているのだ。そのうち機を見て殺してやる。
まぁ、いい。今は目の前の獲物に集中だ。愚図どもでは歯が立たないようだが、自分ならば問題ない。この間の剣士の時のように、相手の攻撃を防ぎ、こちらが殴れば、それで終わる。もしくは、細道の壁に武器をひっかけた隙に取り押さえてもいい。何、相手は見張りにすら気づけないような間抜けだ。どうせ実力も大したことはない。自分にかなうような英傑ではないだろう。組み伏せ、孕み袋として使ったら、この間の剣士と同じく水場にポイだ。
ホブゴブリンは己の実力を鑑みた、しかしやや過大評価したうえでの、予測を巡らせる。実際、このホブにはそう考えるだけの実績があったし、あながち的外れな予測ではなかった。しかし、所詮はゴブリン。油断をしないことはないし、自分に都合のいい予想を広げ悦に浸るのが生態だ。ホブゴブリンも、その例外ではなかった。
まぁ、実際のところ、相手が普通の白磁級冒険者であれば、ホブゴブリンの想像通りになったことだろう。多少実力がある、程度で勝てるほど、ホブゴブリンは弱くはなかった。
ホブゴブリンの誤算は、相手がただの白磁級冒険者ではなかったこと。
妄想に満たされた頭で細道へと入っていったホブゴブリンは。
小柄な少女の棒きれの一撃で、首の骨を叩き折られ、息を引き取った。
~~~~~
「ぅ、ひっ、く。……ぐ、すっ」
村娘は一人、嗚咽を漏らしていた。
場所は薄暗い洞窟の中、その奥の大広間。手足を縛られ、痛めつけられた状態で村娘は転がされていた。
周りは暗闇だ。光源のない洞窟のため、只人の自分では周りの状況を確認できない。
できないが、分かる。周囲を怪物たちが取り囲んでいることが、分かる。
下卑た笑い声。祈る者たちが話す共通語とはかけ離れた、怪物たちの鳴き声。言語としての体をなしているのか村娘には到底わからなかったが、それでもその声に込められている悪意と欲望だけは感じ取れた。
ゴブリン。村娘を故郷から攫った怪物。只人の子供程度の背丈に、底知れぬ悪意を秘めた、正真正銘の怪物。
村娘は自身を取り囲むその怪物たちに、貯め込んだ欲望をすべてぶつけられる、こちらの意思などお構いなしに玩具として扱われる、その直前だった。
ちらりと横を見ると、暗闇の中からほんの少しだけ、人影が見えた。
それは、女の死体。おそらくこのゴブリンどもに好きなように使われ、息を引き取ったのであろう女性の骸。村娘の未来の姿が、地面に乱雑に捨てられていた。
恐怖が村娘を支配する。叫びそうになるも、既に枯れてしまった喉からは嗚咽とかすれた息しか漏れない。
身を縮こまらせ、震える村娘を見て、ゴブリンたちは心底嬉しそうに、愉しそうに笑う。その耳障りな声が、ますます村娘を怯えさせた。
一匹のゴブリンが村娘に近づいてくる。周りのゴブリンに比べても一回りは大きな、杖を持った個体。その個体は、ニタニタと汚らしい顔を笑みで歪めながら、おびえる村娘へとその手を伸ばし……
その胸を、粗雑な刃物によって貫かれた。
「GUAI!?」
ゴブリンの背後に見えたのは、一人の小柄な少女。知らぬ間にゴブリンの背後をとっていた灰色の髪の少女は、その刃をゴブリンの胸に突き立てていた。
大柄なゴブリンが悲鳴を上げる、が、まだ息があるようだ。
まずい、あのゴブリンは何か、妙な術を使えたはず。共に攫われた者の一人が、その術で焼き殺されたのを見た。
それを伝えようと口を開くも、乾いた口から大声は出ず、か細い息が漏れるのみ。そうしている間にそのゴブリンは杖を振り上げ、邪悪な呪文を……。
「っ……! っ、っ……!?」
唱えようとして、しかし言葉を発することなく、苦しみながらえずいた。
あとになって知ったことだが、どうやら先ほどゴブリンを刺した刃には毒がたっぷりと塗られていたらしい。その毒が回って、言葉を発せなかったようだ。
未だ状況が呑み込めず戸惑っているほかのゴブリンどもを尻目に、少女は杖持ちを討ち取るために距離を詰める。
自慢の術が封じられたゴブリンはやぶれかぶれに杖を振り下ろす。それなり以上の体格から放たれたそれは、少女を撲殺するのに十分な威力を持っていた。
しかし、それは攻撃が当たればの話だ。少女は反射的に身を翻し、単調な振り下ろしの攻撃を回避。返す刃で手に持った棍杖を一振り。
空を切り、唸りをあげて振るわれたその棒は、ゴブリンの顔面をしかと打ち据え、吹き飛ばした。
何人もの娘を攫い、村へと被害を出し続けた巨悪は、たった一人の少女によって討ち取られたのだ。
〜〜〜〜〜
ゴブリンの巣穴に、足を踏み入れるものが一人。
見窄らしい革鎧に、顔を覆うような兜。短く磨り上げられた小剣と、腕に括り付けられた小盾。
冒険者になりたての白磁と比べても格好のつかない装備に身を包んだ男は、慣れた様子でゴブリンの巣の中を進んでいった。
『今日登録したばかりの女の子が、このゴブリン退治の依頼を受けていて。もし、余裕や空きがあれば、無事かどうか見に行ってはいただけませんか?』
そんな話を聞いたため、自分が受けたゴブリン退治を済ませた後、その巣穴へと足を運んだのだが……。
「……妙だな」
ゴブリンの巣は、彼でなくとも違和感を感じるくらいには、静まり返っていた。
話によると、この巣穴は村を襲えるほどに大規模なものらしい。となると、白磁の冒険者一人ではやられている可能性が高い。
冒険者が女だとすると、大抵の場合はゴブリンたちの慰みものとなり、巣穴が薄汚い鳴き声で満ちるものなのだが。
巣穴を進んでみると、一撃で撲殺されたゴブリンの死体が、通路に転がっていた。それも一体や二体ではない。
小剣で喉を貫き、一体一体丁寧に死亡を確認しながら進む。よほど上手く打ったのだろうか、ほぼ全てのゴブリンが頭部への殴打のみで殺されているようだった。
さらには、ホブゴブリンの死体まで見受けられた。上位種はしぶといため、念入りに喉を刺し貫くが、しっかりと仕留められているようだ。首を打ち据え、骨を折って仕留めたらしい。
「これで八、か……」
通常のゴブリン7匹に、上位種のホブゴブリンが1匹。白磁一人が捌ける相手ではない。ゴブリン七匹だけならばあり得ないこともないが、ホブゴブリンは格が違う。白磁が倒せるほどやわな怪物ではない。
だが、死体が転がっている以上、倒したのだろう。よほどの腕利きか、法外なまでの幸運か。
そうこうしている間に、細道の奥から足音が響いた。
ゴブリンかと身構えるが、おそらく松明のものであろう、炎の灯りを見てその構えを解く。夜目が効く奴らならば、明かりは使わない。おそらくは冒険者のものだろう。
しばらくして、洞窟の奥から二人の女性が顔を出した。いや、女性と少女というべきだろうか。
擦り切れた衣服を纏った女性の方は、おそらくゴブリンたちに攫われた村の女性だろう。疲労からか、足を引きずって歩いている。
そしてもう一人の少女。灰色の髪とネズミのような耳が特徴的な彼女は、片手に松明を持ちながら、女性が歩くのを助けるように肩を貸していた。……身長差のせいであまり補助にはなっていなかったが。
「お前が、やったのか」
「? ……うん」
少女は、最初はこちらの風貌を見て警戒していたものの、首にかかった銀等級の認識票を見たのか、こちらの質問に大人しく答える。
この華奢な姿の少女が、この規模のゴブリンの巣をせん滅。にわかには信じがたいものの、強さが必ずしも見た目に反映されるわけではない。
「何匹いた」
「えと、……いっぱい」
「今後はしっかりと数えろ」
「わかった」
「杖を持った奴はいたか」
「いた」
「どうした」
「殺した」
「そうか」
「うん」
「奴らはしぶとい」
「そうなの」
「今後はしっかりとどめを刺せ」
「わかった、喉を刺す」
「よし。赤子はいたか」
「いた」
「どうした」
「殺した」
「そうか、それでいい」
「うん」
「……俺は奥へ行く」
「なら私も」
「休め」
「……む」
「休め」
「……わかった」
少女と話し、ゴブリンたちを数え、死亡を確認するために、ゴブリンスレイヤーは奥へと向かった。
~~~~~
「報告、しに来ましたっ!」
「はい、お疲れ様です。依頼のご報告ですね?」
一日の終わり、もう日が暮れ始めたころ。
冒険者ギルドに快活な声が響いた。疲労の色が滲んだ、しかしそれを上回るほどの歓喜と興奮を含んだ声。初めて冒険を成し遂げた、新人冒険者特有の声だった。
受付嬢が返事を返すのは、今朝冒険者登録をしたばかりの一党。
頭にバンダナをまいた青年剣士に、黒い髪を
「はい! えと、廃屋に乗り込んで、赤ん坊を助けて……!」
「もう、興奮しすぎ。ちゃんと順序立てて答えないと」
冒険の興奮が冷めやらぬのか、報告とはいいがたい言葉をまくしたてる青年剣士を、女魔術師が杖で小突いて諫める。
「ふふ。ゆっくり、お聞きしますね」
一党として、一人の冒険者として、初めて依頼を成し遂げた彼らの様子を微笑ましく見ながら、ゆっくりと言葉を促す。それに対して一党の面々は答えていった。まぁ、主に受け答えをしていたのは、比較的落ち着いていた女魔術師だったが。
彼らが受けた依頼はゴブリン退治。ゴブリンによって攫われた赤子を取り返し、またその巣にいるゴブリンたちを討伐してほしいというものだった。
ゴブリンたちは村の近くに冒険者が昔建てたのだという廃屋に住み着いており、一党は村で話を聞くとすぐに廃屋へと直行。無事に赤子を助けられたようだ。
どうやらそれなりに規模の大きいゴブリンの群れだったようで、只のゴブリンだけじゃなく
「ご報告ありがとうございます。こちらが依頼の報酬となります」
「おおお……!」
「わぁ……!」
報酬は一人当たり銀貨十枚ほど。命をかけて戦ったにしてはやや割に合わない報酬ではあるが、ゴブリン退治なんて所詮こんなものだ。
しかし、初めて冒険者として受け取った報酬ということで、皆大事そうに銀貨を受け取っていた。
「他に、何かご報告はありますか?」
「あぁ、えっと」
「報告って、程のものではないのだけど」
青年剣士と女魔術師が、やや口ごもる。
何か言いにくいことがあるのだろうか。後ろめたいことや、隠したいことがあるのだろうか。だとしても、ギルド側としては言ってもらわないと困るのだが。
「……俺たち、ちょっと冒険者舐めてたなって」
「……思っていたより、ずっと大変なんだと実感したわ」
「そう、ですか。ふふっ」
何が飛び出してくるかと身構えていたが、青年剣士と女魔術師が話したのはとてもかわいらしく、そしてとても大切な反省であった。
彼らのように語る者は多い。おとぎ話の英雄のような、華々しい冒険を目指して冒険者になったものの、実態は辛く苦しい力仕事。そんな理想と現実の違いに挫け冒険者から退く者もいれば、そもそも気が付くことすらなくこの世からいなくなる者もいる。
「帰る途中で、みんなで話し合ったんです」
「これからはもっと、用心深く冒険しようってね」
そう付け足すのは女武闘家と女神官。
彼らは幸運だったのだろう。
自分たちで冒険者の現実に、実態に気づき、しかしそこで終わることなく、折れることもなく、冒険者を続けようとしているのだから。
「えぇ、用心されるのはとてもいいことです。私たちギルドも、可能な限り皆様の手助けをできればと思います」
そう答えると、青年剣士たちは嬉しそうに笑い、受付を去っていった。
あのような、冒険を終えて一皮むけた一党を見ると、こちらまでどこか嬉しくなる。とはいえ、自分の仕事はまだ続くのだ。気を引き締めなおさなくては。
「はい、次の方~」
「ん、報告しに来た」
~~~~~
「はぁ~~~~」
「ちょっと。何凹んでるの」
冒険者ギルドと提携している酒場にて。本日初めての冒険を成し遂げた青年剣士は、なぜか大変落ち込み、溜息を吐いていた。
普通であれば、冒険から無事に帰ってきたら、酒場で大盛り上がりするものだろう。女武闘家はやけに落ち込んでいる青年剣士を心配して声をかける。
「いや、さぁ。俺たちの後に報告してた女の子、いたじゃん?」
「あぁ、あの
「あの子が、どうかした?」
女神官と女魔術師が、その人物を思い起こす。
灰色の髪とネズミの耳が特徴的な、自分たちよりも小柄な少女だった。首にかけている認識票が白磁だったため、おそらくは自分たちと同じ新人だろう。
「あぁ、なるほどね」
女武闘家が、何か腑に落ちたかのようにつぶやく。
「? 何かわかったの?」
「あの子さ、一人でゴブリン退治してたんだって。しかも私たちが退治した巣よりも大規模な奴」
「それで嫉妬しているのね」
「二人ともはっきり言わないでくれよぉ!」
「あはは……」
女武闘家が青年剣士の心の内を見抜き、それを聞いた女魔術師が辛辣に返す。
青年剣士の反応を見るに、図星だったのだろう。自分たちの後に報告した子の、成し遂げた規模が違い過ぎて、うらやましくなってしまっているのだ。
「まったく。他人は他人、私たちは私たち。でしょう?」
「そーよ、何比べて勝手に凹んでるの」
「だってよぉ、俺、今日あんまりいいとこなかったし。だってのに、あの子は一人でゴブリンの巣倒しちゃうんだぜ?」
そう言って、青年剣士は不貞腐れたように机に突っ伏す。
確かに、青年剣士は一党の中であまり活躍したとは言えなかった。
女武闘家はゴブリンたちの攻撃を食らうことなく一方的に殴り続けたし、最後のホブゴブリン戦ではあの巨体を転ばせ撃破に大きく貢献した。
女魔術師は自慢の《
女神官は回復がすごかった。三回も使える奇跡を全て《
それに比べて青年剣士は、ゴブリンの攻撃も喰らい、逆に振り下ろした長剣は躱され、当たったとしても一撃では仕留められない始末。せいぜいしたことと言えば、敵の注意を引き付けて殴られただけ。むしろ一番ボロボロになって女神官の手を煩わせてしまうぐらいだった。
「なんか、このまま冒険者続けてても、上手くいくのかなってさ」
少し、不安になった。
今日体験した冒険は、おとぎ話の中のように煌びやかなものではなかったし、劇的なものでもなかった。ただただ辛く苦しい現実がそこにはあった。
自分は、吟遊詩人に謳われる英雄のような活躍はできなかった。それどころか、一党の足を引っ張った気さえする。
そこに追撃するかのように現れた、自分よりもはるかに優れた同期。青年剣士は少し、ほんの少しだけ、落ち込んでしまっていた。
「でも、私たちだって赤ん坊を救ったじゃないですか」
凹んでいる青年剣士に女神官が声をかける。
「廃屋に乗り込んで、ゴブリンの親玉を倒して、魔法の武器まで見つけたじゃないですか」
自分たちの冒険を、自分たちが成し遂げたことを列挙していく。
「村の人たちを助けて、いっぱいの人に感謝されたじゃないですか」
自分たちが助けた人たちのことを思い出させる。
「だからきっと、私たちの冒険だって、頑張りだって、立派で、素晴らしいことなんです」
女神官は、笑顔でそういった。
「そーよ! それに、あんただって役に立ってたでしょ! ちょっとは!」
「肉盾になって、私たち後衛を守ってくれたわよね。まぁ、吹っ飛ばされてたけど」
「二人そろって一言多いんだよなぁ!!」
「ふふふっ」
女神官に続いて、女武闘家と女魔術師も青年剣士を励ます。少しからかい混じりの励ましに、青年剣士も思わず言い返してしまうが、少しは元気になったようだ。
「ほら、乾杯しよ乾杯!」
「一党のリーダーが号令してくれないと、始まらないのだけど?」
「そうですね、ご飯にしましょう」
「あーもう、わかった、わかったよ!」
まだ完全に吹っ切れたわけではない。冒険者に対する不安も、恐れも、まだしっかり残っている。
でも一先ずは、本日の冒険と、無事に帰れた幸運と、踏み出した一歩目を祝して。
「「「「かんぱ~い!」」」」
いつの日か、この一歩目が、英雄譚の序章にならんことを。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ゴブリンの描写描いてる時が一番筆が乗ってました。自分にはゴブリンの才能があったのかもしれません……。
この続きはほんとになんも考えていないので、なんか書いてほしいのあったら教えてください。
一応候補としては、このシナリオの続きのアンオフィシャルキャンペーンをこのキャラで駆け抜けるか。
もしくはゴブスレさん一党や青年剣士一党に混じって冒険するかですね。
あ、この下はおまけです。
~~~~~
小鬼殺しのキャラシ、勝手に作ってみたー。
経験点やら成長点やらは冒険者レベル8のものを採用しています(基本115頁)。
解釈違いがあったらすみません。知らんけど。
小鬼殺し
・第一能力値
体力3
魂魄2
技量3
知力3
集中2
持久4
反射2
・第二能力値
生命力31
移動力19
呪文回数0
・経歴
【農民】【孤児】【宿敵】
・職業レベル
【戦士】8【野伏】6【斥候】6
・冒険者技能
(1が初歩、2が習熟、3が熟練、4が達人、5が伝説)
過重行動1
投擲3
盾3
軽鎧3
速射1
拘束攻撃1
斬落1
刺突1
挑発1
戦術移動1
受け身1
護衛1
頑健3
忍耐3
隠密2
観察2
・一般技能
長距離移動3
農業1
博識3
工作2
地図製作3
交渉:説得2
・武技
《楯の城》《呪文偏向》《虎眼》《飛竜剣》《飛び込み》《盾打ち》《視線の罠》《戦士の手(粗悪な剣)(小剣)(粗悪な斧)(粗悪な槍)(棍棒)》《一傑の打(投擲)》×2《阿吽覆滅・乙》《阿吽覆滅・甲》《亀甲陣》
・装備(命中判定/威力)
小剣 2d6+13/1d6+9
粗悪シリーズと棍棒 2d6+13/1d3+9
投石紐 2d6+15/1d3+11
飛刀 2d6+13/1d3+13
南洋式投げナイフ 2d6+17/1d6+11 斬落
投分銅 2d6+11/1d3+9 拘束
短弓 2d6+11/1d6+6 速射(-4)
円盾 2d6+22/+6
硬い革鎧 +6
鋲付き鎧下 +2
・その他判定値
回避 2d6+12
観察 2d6+13
第六感 2d6+11
隠密 2d6+5
手仕事 2d6+11
・アイテム
冒険者ツール、石弾袋、短剣革帯、その他色々