The Gauntlet ~ゴブリンの巣、ソロで蹂躙してみた~ 作:和菓子工房
ほんと、評価バーに色ついてからの伸びがやばいですね。当作品を読んでいただき、嬉しい限りです。
どうぞこれからも、よろしくお願いします。
では、どぞー。
「やぁ、ちょっと良いかな?」
「ん、……なに? というか誰?」
至高神に仕える司祭にしてギルドの監督官を務める女性は、鼠人の冒険者に声をかけ、……そして邪険に扱われていた。
「私はこのギルドの監督官。君と仲の良いあの受付嬢の、友人だよ〜」
「受付嬢さんの……」
この子、コミュニケーションに問題なしって聞いてたんだけどな〜。そんなことを思いながらも、仕事は仕事、監督官は鼠の少女に用件を伝える。
「君には、昇級試験を受けてもらいたくてね」
「それは、等級を上げるための?」
「そうそう、それそれ。白磁から黒曜に上がるための試験を、ぜひ受けてもらいたい」
「ん、わかった。願ってもない」
昇級試験について話すと、少女は平坦な口調で、しかしどこか食い気味に返事をした。
やや変わり者として有名になりつつある少女だが、人並みに昇級への憧れはあるようだ。その反応を見て、監督官は少し安心した。
「それで、どんな試験?」
「君は、冒険者になってから今まで、一党を組んだことがないよね」
「……ん」
「現状、君が他の冒険者と足並みを合わせて連携を取れるか、ギルドはわかっていない」
「……嫌な予感」
「そこで今回の試験だ。君には『四人以上の一党』を組んで、依頼を三つ達成してほしい」
「んんんんん!?」
試験内容を伝えると、少女はまるで拒否反応を示すかのように、独特な悲鳴をあげる。それほどまでに、一党を組むのに抵抗があるのだろうか。
少女にどんな背景があるのか気になりつつも、監督官は言葉を続ける。
「依頼はどんなものでも可。一から仲間を集める必要はなく、どこか既にある一党に混ぜてもらう形でも構わない」
「……一人で依頼を、6個達成するとかは」
「ダメだねー。別に君の実力に関しては疑ってないんだよ。気掛かりなのは、他者との協働ができるかどうかだけ」
そう告げられた少女は、顰めっ面になりながら、うぬぬぬぬと唸る。悩み苦しむ姿は見ていて少し同情するが、こればっかりは変えようがない。大人しく誰かと冒険に出てもらおう。
「……き、期限は」
「無期限だけど、達成するまで一生白磁のままだね〜」
「……ん」
そういうと、少女は渋々頷いて一党を探すために歩いていった。
監督官は、もしあまりにも一党が組めなさそうであれば、こちらから斡旋してあげようと心に決めたのであった。
〜〜〜〜〜
「そろそろ、次の依頼を受けよっか」
「賛成〜! あたしたち、もう十分に休んだもんねー」
貴族令嬢の言葉に、圃人野伏が応える。一党の仲間である森人魔術師と只人僧侶も、様子を見るに賛成なようだった。
彼女らは、最近鋼鉄等級に昇級したばかりの一党であった。昇級の決め手となった依頼が中々に厳しい依頼だったため、昇級後、しばらく休暇をとっていたのだ。
「とはいえ、いきなり難易度の高い依頼は受けないだろう?」
「もちろん。鋼鉄等級に上がったとはいえ、私たちはまだまだ未熟だしね」
「今のような、新米を脱したばかりの時期が危険とも言いますし、慎重に依頼を選んでいきましょう」
森人魔術師のもっともな質問に、一党の頭目である貴族令嬢が答え、只人僧侶が補足をする。
彼女らは、脱・新人と言っても良いほどの実力を持っていたが、それでも油断するような様子は見られなかった。
「復帰後最初は、ゴブリン退治みたいな軽めの依頼から受ける感じ〜?」
「そうね、他には手紙配達とか。比較的危険度の低い依頼で勘を戻しましょう」
「あくまで、
「分かっている。油断はないぞ」
一党内の意識の共有も出来ている。余裕はあっても油断はない。
これなら大丈夫だなと貴族令嬢が判断し、早速掲示板に向かおうとした時……。
「……あの、すみません」
「え?」
消え入りそうな声で呼び止められた。
声のした方向へと顔を向けると、こちらを見上げる
子供だろうか、もしや何か頼みごとを。善性あふれる貴族令嬢は最初にそのような予想を巡らせたが、少女の首に下がる白磁の認識票、同業の証を見てどうやら違うようだと判断する。
「あなたたちは、一党? ……ですか?」
「う、うん。そうだけど」
質問をした後に、慌てて敬語に直す少女に戸惑いながら、答えを返す。今のところ、彼女がどのような要件があるのかわからなかった。
ただ、ぎこちないとはいえ、敬語を使おうとしているあたり、無礼な者ではなさそうだ。
「えと、私、今昇級試験を受けてて。……ぁ、受けて、まして」
「無理に敬語じゃなくても大丈夫よ?」
「……なら、お言葉に甘えて」
必死に敬語を使おうとしている姿を、可愛らしく思いながら、無理はしなくて良いと声をかける。
にしても、見たことのない顔だ。おそらく少女は、貴族令嬢たちが休んでいる間に登録した新人なのだろう。だというのに、既に昇級試験を受けているとは。見かけによらず、優秀な冒険者のようだ。
「ん。それで、試験の内容が、誰かと一党を組んで依頼を解決することなの」
「なるほど。これまであまり、一党を組んでこなかったのね」
「あまり、じゃない」
「?」
「一度も」
「……はい?」
「ち、ちょっと待って。これまで誰かと一党を組んだことは?」
「ない」
「……そっかぁ」
華奢な体から、一党の只人僧侶と同じような術使いの類かと想像していたが、どうやら違うようだ。一人でも問題なく依頼をこなせたということは、その体格からは信じ難いが、戦士か斥候の類なのだろう。
「まぁ、話はわかったわ。その試験を突破するために、私たちの一党に混ぜてほしいってことでしょ?」
「ん」
「とりあえず、私の一存じゃ決められないから仲間と話し合うわ。あと、貴女のことを知りたいから、冒険者記録を持ってきてくれる?」
「ぼーけんしゃきろく?」
「貴女がこれまで、どんな依頼をどんなふうに受けてきたか、まとめてある書類よ。ギルドに聞けば渡してもらえるはず」
「わかった、もらってくる」
少女はトテトテと受付へと駆けていき、暫くして冒険者記録をもらって戻ってきた。貴族令嬢はそれを受け取り、一党の仲間たちとともにその内容に目を通す。
「で、どうしましょっか?」
「んー、受けてあげてもいいんじゃない? 今日はそんなに難しい依頼、受けるつもりじゃないわけだし」
「そうだな。彼女は既にゴブリン退治の経験もあるみたいだし、連れて行っても問題ないだろう」
「すごいですねこの子。上位種も一人で倒しているみたいですよ」
「へ~、なら少なくとも、自衛くらいはできそうじゃん。連れてってあげよーよ」
一党の面々は、どうやら少女の臨時加入に賛成なようだ。
彼女から受け取り、森人魔術師に読んでもらった冒険者記録には、中々衝撃的な情報が載っていた。
冒険者登録をして初めての依頼で、単騎ゴブリンの巣に突撃。十数匹ものゴブリンの他に、ホブとシャーマンも単独で討伐して、無傷で依頼達成。
読んで最初は虚偽報告を疑ったが、銀等級の冒険者がそれを裏付ける証言をしたとあって、納得せざるを得なかった。
「なら、彼女の昇級試験を手伝うってことでいいかしら」
「おっけ~」
「問題ない」
「大丈夫ですよ」
仲間たちの同意を得た貴族令嬢は、無表情な顔をやや不安げにした少女の元へと戻った。
「皆、連れて行っていいって」
「!」
「これからよろしくね」
「ん、よろしく!」
こうして貴族令嬢の一党に、鼠人の少女が加わった。
~~~~~
「ん。というわけで、一党を組むことになった」
「えっ! 本当ですかっ!?」
鼠人の少女の報告に、受付嬢は嬉しそうな声で驚く。
登録をしてから今まで、ソロでしか依頼を受けてこなかった彼女が初めて一党を組んだことに、心の底から喜んでいるのだ。
「どなたっ! 一体どなたですか、うちの子と組んでくださったのは!」
「……別に受付嬢さんの子供じゃない」
「登録してから、誰が面倒みてると思ってるんですか」
「たかだか一、二週間」
「それでも一、二週間です」
いささか喜びすぎているのか、普段の落ち着いた雰囲気からは想像できないほど取り乱した受付嬢に、少女がぼそりと言い返す。
しかしたかが一、二週間。短い付き合いだからと言って、世話を焼いていた子が臨時とはいえ一党を組んだという事実に、喜ばないわけではないのだ。
「えっと、一党を組んだのは私たちです」
「いや~。こんな受付嬢、初めて見たね~」
「ふふ、微笑ましいですね」
「だな」
「あぁ、貴女方でしたか」
少女の後ろについてきたのは、鋼鉄等級になったばかりの貴族令嬢の一党であった。
彼女たちは全員女性、全員が善よりな冒険者で組まれた一党であり、ギルド側からも信頼がおけると判断されている。
少女の体形であれば、男所帯の一党に入ってもそこまで心配せずに済むと考えていたが、女性のみの一党であればなおのこと安心だ。
「この子はスタミナもなく、迷惑をかけてしまうかもしれませんが、能力は本物です。何卒、よろしくお願いします」
「任せて、冒険者の先輩としていろいろと教えてあげるわ」
「貴女も、十分に気を付けて。彼女らの指示をよく聞いて慎重に、ですよ」
「わかった」
「……本当に、気を付けてくださいね」
「わかった!」
「本当にわかってます!?」
元気に返事をする少女にむしろ不安になりつつも、依頼を受理して送り出す。
依頼内容はゴブリン退治。少女が一人で達成したこともある、白磁が受けるような簡単な依頼だ。
今回の群れは森人が放棄した古い木製の砦に住み着いているらしく、規模も大きいだろうと目されている。
しかし、鋼鉄等級が四人揃った一党に、実力だけであればそれに並ぶであろう少女がいれば、そう簡単にやられることはないだろう。比較的安全だ。
冒険者に絶対安全なんてものはない。どんなに準備を重ね、用心をし、万全を期しても、骰子の目が悪ければ死んでしまうのだ。
だからこそ、受付嬢は祈る。冒険者たちの安全と幸運を祈って、ギルドから送り出す。
今回だってそうだ。ギルドから出発する少女たちの背を見ながら、どうか彼女らに幸運を、と祈るのだった。
~~~~~
「……ふーっ」
人気のない街道に、深く吐かれた息の音が響く。それは、鼠人の少女が、疲労から吐き出したものだった。
「そろそろ、小休止にしましょうか」
「ん、問題ない。まだ歩ける」
「ダメだよ~。まだ歩けるは、もうキツいの合図だからね~」
「冒険中何があるのかわからないし、ある程度余裕を持って休むのは大事よ」
「……ん」
一党の移動を妨げまいと気張る少女だったが、他の面々、冒険者としての先輩たちに嗜められ、小休止を受け入れる。
街道から少し外れ、日差しを遮れる木陰の下で小休止をとる。この一党は仲間に森人と圃人がいることから、こういった疲労による小休止には慣れていた。
「休憩をとるときは出来るだけ日差しは避け、腰を落ち着けろ。ただ休むよりも効率はいい」
「でも、体を寝かしちゃいけないよー。小休止は休むためじゃなくて、疲労が爆発する前に抜くものだからね~」
「ん」
スタミナない系冒険者の先輩たちの教えを受けながら、腰を下ろして足の疲れを抜く。日差しを受けず、足を休ませられるだけでもかなり楽だ。
「あとは小休止中に、余裕のある人が見張りをするのも重要ね。野盗の類は、休んでいる旅人なんかをよく狙ってくるから」
「まぁ、ある程度等級の高い冒険者は、ターゲットになりにくいんですけどね。あ、檸檬のはちみつ漬け、食べます?」
「ん、食べる!」
只人僧侶が差し出した檸檬、はちみつに付け込まれた嗜好品を、少女がぱくりと咥え、ちょうどいい甘みと酸味に目を輝かせる。
「これ、おいしい!」
「本当ですか。作り方簡単ですので、もしよろしければ今度教えますよ」
「ほんと!?」
「……ねぇ、はちみつって結構高いわよね」
「……言わないでおけ、無知も時には必要だ」
少女は貴族令嬢と森人魔術師の会話には気づかぬまま、無表情ではありながらもどこか顔を輝かせて檸檬をかじっていた。
「よし。じゃあそろそろ、出発しましょうか」
「「「はーい」」」
「ん」
貴族令嬢の号令で、一党は再び進みだす。少女の様子を見るに、疲労は十分に抜けたようだ。
「歩くときは、足をあんまり上げすぎないようにね~。けっこー疲れなくなるよ」
「ん」
「可能ならば、外套の類を買っておけ。動きにくくはなるが、日差しや雨風を防げる」
「ん」
「杖を持っているなら、突きながら歩いた方が疲れにくくはなりますよ」
「ん」
歩いている最中も、一党の面々は先輩として、少女に様々なことを教えていく。いくら能力が高くとも、こういった経験からしか得られない知識もあるのだ。そうでなくとも、こうしてコミュニケーションを取っておくのは一党の雰囲気づくりに役立つ。
なにより、初めてできた後輩が素直に返事をしながら、教えたことを実践する姿が可愛らしかったため、彼女らはこれでもかと細かな知識を教えた。
「……ん、そういえば」
「どうした?」
「森人のおねーさんはなんで、魔術師になったの?」
「ほう」
特に深い意味もなく、本当にふと思いついた何でもない質問を投げかける。
「まぁ確かに、
「ん、森人といえば精霊に愛された種族で、生まれついての野伏」
「一般的な森人はそうなのだが、私は少々変わり者でな」
「と、いうと?」
「精霊にはあまり好かれていなかったし、ましてや協力を仰ぐなんてできなかった。弓も成長してからは、胸のせいで中々な」
「ん、類い稀なる巨乳。羨ましい」
「はは、お前も育てばいつかはこうなるさ」
「……もう、成人済み」
「そ、そうか」
「……ん」
「と、ともかく、だ。そんな私は里の中でも見下されがちでな。術も起こせず弓も引けず、と、それなりに言われたものだ」
「陰湿。ダラダラ生きてきた成果が悪口のレパートリーだけとか、時間の無駄遣いが上手すぎる。祈る者やめたら?」
「おぉ、そ、そこまで言うか。……まぁ、私もそんな里の奴らに嫌気がさしてな。見返してやろうと思って、魔術を修め始めたんだ。精霊なんぞに頼らずとも術は起こせるのだ、とな。それが私が、魔術師になったきっかけさ」
「ん、すごくいい話だった」
「そ、そうか? 照れるな」
森人魔術師の話を聞き終わった少女は、その志にキラキラとした目を向ける。それを受けた森人魔術師は恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうに顔を背けた。
「はいはい、二人ともおしゃべりはそのくらいにして」
「村が見えてきましたよ」
「ふぃ~、やっと着いたよ~」
と、二人がそんな話をしているうちに、どうやら随分と歩いていたようで。前を向けば、依頼を出してくれた村が見えてきた。
さぁ、冒険の時間だ。
~~~~~
暇だ。
森人の砦、その見張り台にて物見をしているゴブリンは、そんなことを思いながら欠伸を噛み殺す。
こんな陽の高い真夜中に見張りを課すなど、同族には血も涙もないのか。なんて酷い奴らなんだ。いつか隙を見てこの群れを乗っ取った暁には、眠りこけている間抜けなあいつらに、物見を押し付けてやろう。ゴブリンはそんな妄想に浸る。
一緒に見張りをしているゴブリンも、眠たいのか船を漕いでしまっている。まったく、与えられた仕事をしないなんて怠け者だ。自分はこんなにも頑張って責務を果たしているのに、あいつは一人眠りかけている。理不尽で不平等だ。自分はなんて不遇で不幸なんだ。
そんな不幸な自分には、もっと相応しい地位がある。群れの長は、あんな喚き散らしているデカ物ではなく聡明な自分であるべきだし、村にいる孕み袋どもは全て自分の前で屈するべきなのだ。それがあるべき姿であり、そうでないこの世界は間違っているのだ。ゴブリンは、本気でそう思っていた。
そんな矢先、目の前で船を漕いでいた同族の頭に太矢が突き刺さった。頭部を貫通している、即死だろう。
なんて間抜けなやつなのだ。居眠りしている間に射殺されるなんて。自分はそんなことにならないと、根拠のない自信に溢れたゴブリンはくたばった同族を嘲笑い……。
飛来した礫に頭蓋を割られ、そのまま死に絶えた。
~~~~~
(この子、本当に白磁等級なの? 等級詐欺にもほどがあるよ〜)
圃人野伏は隣の少女に、そんな感想を抱いた。
隣で黙々と、圃人野伏と同じように索敵を担当している鼠人の少女。その手際は、鋼鉄等級である圃人野伏に負けず劣らず滑らかなものだった。
(さっきは遠距離からの投擲で見張りを仕留めるし、索敵能力は私と同じくらいあるし。ほんとに能力高いんだね~)
そう。隣の少女は、白磁等級とは思えないほどの実力を持っていた。
森人たちが遥か昔に仕掛けたのであろう陰湿な罠を、次々と発見しては解除したり。
真昼間にも関わらず起きているゴブリンを見つけては、奇襲して一撃で仕留めたり。
時には森人魔術師が行っている
どう考えても、白磁とは思えないほどの活躍を見せていた。
(こういう隠密作戦は斥候の得意分野。とはいえ、これ程とはね~。ぶっちゃけ、遠距離攻撃以外は私と同レベルなんじゃ)
鋼鉄等級にまで上がった圃人野伏の能力も、当然高い。それはこれまでの冒険によって、徐々に培われたものだ。
しかし鼠人の少女は、それと同等か、下手すればそれ以上の技能を有しているようで、次から次へと罠を見つけていく。
(まぁ、仲間である分にはありがたいんだけどね~。私の負担も減るし)
一党で唯一の探索役である圃人野伏は、これまでこういった索敵などを一手に担っていた。その負担は相当なものであり、種族柄体力に劣る彼女にとってはなかなか厳しいものがあった。
しかし今回は、鼠人の少女が隣にいる。二人で行えば当然、負担も半分になり、またダブルチェックによって見逃しの可能性も減る。圃人野伏は普段と比べて、余裕を持って探索できていた。
(この子、前衛も担えるみたいだし、私の消耗もかなり少なくなるよね~。どうにかして、一党に入ってもらえないかな)
純粋な前衛が貴族令嬢しかいないこの一党。術師の二人を守るために、圃人野伏が前線に駆り出されることも時々あるのだ。射手に専念したい彼女にとって、それはなるべく避けたい。
頼りになる後輩を、一党に正式に加えられないか。圃人野伏は索敵の傍で、そんなことを考えるのであった。
~~~~~
「皆、少しいいか」
森人の砦内部。入口からそれなりに進んだ場所にて。周囲の安全を確保した一党は、砦の中の一室で小休止を取っていた。こうして時折消耗を回復させないと、肝心な場面でミスをするかもしれない。それを見越しての小休止であった。
スタミナに余裕のある貴族令嬢と只人僧侶に見張りを任せ、各々一息ついているタイミングで、森人魔術師が声を上げた。
「お、どったの~?」
「この群れだが、おそらく上位種がいる。それも知能の高いタイプだ」
森人魔術師は己の推測を話す。あくまでも推測に過ぎず、もしかしたら外れているかもしれない。
しかし、用心することに越したことはない。それに、今回の推測が当たっている確率はかなり高かった。
「ん、根拠は?」
「そ~だよ、トーテムだって見つけてないし」
「まず、罠が仕掛けられていること。そして、既に発動した罠が見当たらないことだ」
質問を投げかける斥候役の二人に、森人魔術師は淡々と答える。
「二人が探すのに苦戦するほどの罠だ。ここを占拠した時に、ゴブリンどもが引っかからずに済んだとは思いにくい」
「ん、確かに」
「ゴブリンって、油断ならないけどバカだからね~」
「だというのに、罠は全て仕掛け直されていて、発動し続けている罠も見つからないときた。であれば、罠を仕掛け直すようにゴブリンたちに指示を出した上位種がいると考えるのが自然だろう」
「なるほど」
「おっけ~、納得納得」
自身の考えを伝えると、斥候役の二人はすんなり納得してくれた。実際に罠を探し、解除していることもあって、罠の難易度や悪辣さを実感しているというのも大きいのだろう。
「しっかしそーなると、結構群れの規模大きめ?」
「あぁ。砦を占拠し、村を襲ったという話を聞いた時点で想定はしていたが、数十匹単位でゴブリンがいると思った方がいいだろうな」
「……ん、多い」
「まぁ、ここに来るまでにも不意打ちで数は減らせている。多少はマシになっているはずだ」
そう、多少はマシになった、と思いたい。正直、ゴブリンの群れに上限値などない。いや、もしかしたらゴブリンの社会性などから群れが分裂しない限界値を推測できるのかもしれないが、そこまでゴブリンに詳しくはない。具体的な数を予想することなど、無理に決まっている。
そもそもゴブリンなぞ、所詮は最弱の怪物なのだ。
「皆さん、休息は取れましたか?」
「ん!」
「ばっちりだよ~、元気いっぱい」
「あぁ、問題ない」
「よし。それじゃ、出発しましょう」
そんな一抹の不安を他所に、一党は再び砦内の探索を始めた。
~~~~~」
一言で言い表すのであれば、彼女らは運が悪かったのだろう。
入念に準備を進め、油断なく二人がかりで探索し、消耗を恐れ、しっかりと休息をとった。
彼女ら一党に、油断や慢心の類はなく、また実力が不足していたなどということもなかった。
だから、偏に運が悪かったのだろう。
ここまで失敗せずに罠を見抜き、そして解除し続けてきた。入念に仕掛けられた、
本当に、どうしようもなく運が悪かったのだろう。骰子の出目が、どこまでも悪かったのだろう。
たまたま、ゴブリンが寝起きで物静かだったため、斥候役二人の索敵に引っ掛からなかったことも。
寝ぼけた足取りのまま、……その
ただただ、運が悪かったのだろう。
砦内に、ゴブリンどもを目覚めさせる警報が鳴り響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
(書き溜めの類は相変わらず)ないです。
さてさて、ゴブリンの群れをどう突破しましょうかね~。
今後も当作品をよろしくお願いいたします。
~~~~~
い つ も の お ま け
森人魔術師
・第一能力値
体力1
魂魄3
技量3
知力5
集中2
持久1
反射3
・第二能力値
生命力14
移動力20
呪文回数5
・経歴
【詩人】【平穏】【師匠】
・職業レベル
【魔術師】5
・冒険者技能
(1が初歩、2が習熟、3が熟練、4が達人、5が伝説)
弩弓1
幸運1
魔法の才2
怪物知識2
追加呪文:真言1
頑健1
・一般技能
暗視1
精霊の愛し子1
即興詩1
魔法知覚2
瞑想2
博識2
文献調査1
・魔法
《天候》《抗魔》《矢避》《粘糸》《突風》《力矢》
呪文行使判定:2d6+14
・装備(命中判定/威力)
紅玉の杖 2d6+6/1d3+1 呪文行使判定+1
旅人の外套 装甲値2
・その他判定値
回避 2d6+6
・アイテム
上質な触媒、その他各種アイテム
まとめ:
混じりけない純粋な