忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
空中、夜闇が明るく光った。
照らし出すのは光の翼を背負った女。
全身から棘を生やした人型の異形と相対していた。
何かを呟いた後、吶喊。
「ぜりゃあああああ!」
女が持つ刀が閃き、爆炎を放つ。
異形が飲み込まれた。
普通の人間であれば燃え尽きるだろう。本来ならば警戒などその時点で切ってもいい。
しかし、女は油断なく剣を構えていた。
上下左右のどこへもアンテナを張り、殺気を迸らせている。
「っ……うぁっ!」
一直線に炎を抜けてきた異形が、拳を振り抜いた。
咄嗟に刀で受け、あまりの重さに吹き飛ばされる。
空中をクルクルと縦回転しつつ、やがて体勢を整えて、すぐさま視線を巡らせる。
「そこかっ!」
市街地へ向けて手を伸ばす異形。
掌には無数の棘があり、それを下へ向けて飛ばそうとしていた。
「──らぁっ!」
その腕を切り落とす。
「…………」
しかし、異形はそのダメージに対して無反応。
切断面を見ることもなく、女へと目線を向けた。
腕は勝手に再生し、元通り。
「ちっ…………それなら!」
刀へと手を添える。
次の瞬間、刀が白く発光した。
否、白く見えるほどの熱量を纏ったのだ。
「くたばれやあ!」
最期の瞬間まで無反応だった異形に対し、しかし女は肩で息をしていた。
あの技は魔力の消費が激しい。
そう連発できるものでは無い。
そんな技を、もう何度使ったか。
「だってのに──」
太陽の沈んだ世界、燃え上がる街。
影がいくつも飛び回っている。
あの魔物に手一杯のうちに、更なる大惨劇となっていた。
「くそがっ! あいつはどうしてるっ!」
目を凝らし、必死に仲間の姿を探す。
そして、目を見開いた。
「──やめろぉぉぉぉおおおお!」
一気に加速し、下へと向けて突っ込む。
倒れ伏した仲間が、三体の魔物に囲まれていた。
そこへ、大声を上げながら乱入する。
すんでのところで、仲間の前へ立ち塞がった。
「テメェら! ぶっ殺す!」
「…………げぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「がががががが!」
「ぶぐぐぐぐ!」
そんな女を、三体の魔物は嘲笑った。
「何がおかしいんだ、ごみどもが! ──あぁっ!?」
背後で、大爆発。
ビルが一つ、倒壊した。
もはや防衛任務は失敗に等しい。
いや、最初から失敗していた。
最初に現れた第二等級を倒すのに手間取った時点で。
故にこの戦闘は、天忍としての意地だ。
──だが。
「くそっ……くっ……力、が……」
舗装をぶち抜いて、新たな刺客が彼女の周りに現れた。
それなのに、彼女は膝をついていた。
顔を前に向けることすらできない。
昼間から休まずの連戦、既に疲労の壁など超えていた。
本当の限界。
腕が、身体が震えている。
エネルギーが足りないのだ。
「げぎゃぎゃぎゃぎゃ」
「ぎぎぎ」
「ここまで……かよ……っ!」
取り囲んでいる奴らを斬り殺してやりたいのに、腕が動かない。
足を掴まれた。
咄嗟に振り向くと、倒れていた仲間だった。
脇腹からの出血。
肉が、千切るように裂かれていた。
「っ!」
「──ごめん、なさい」
「やめろ! 話すな!」
「本当に、ごめんね……ユキちゃん……」
「……馬鹿野郎! 何……謝ってんだ!」
「私が……もっと……強ければ……」
ユキと呼ばれた彼女──仁科雪(ニシナユキ)は、倒れていた相棒──我孫子星羅(アビコセイラ)を抱き起こした。
「……セイラ」
「ユキちゃん……私たち、頑張ったよね?」
「…………あぁ、死ぬほど頑張ったよ」
「……お母さんに……顔向けできる、かな?」
「当たり前……だろ……」
「そっ……か……」
「何、泣いてんだよ……」
「……ふふ、ユキちゃん……だって……」
ザリッと、音が鳴る。
敵が近付いてくる足音。
魔物達は、御涙頂戴の茶番を見て目を細めていた。
心からの軽蔑。
抗った下等生物をどうやって嬲り殺してやろうかと、喉を鳴らす。
「げぎゃぎゃ」
「ぐぎぎ」
「ぶぐぐぐ」
言葉の意味などわからない。
だが、それが良くないことだろうというのは二人にも分かっていた。
チャキ、とクナイを手に取る。
まだコレくらいは持つことができた。
「……ユキちゃん」
「あぁ」
「……また……いっぱい、遊ぼうね?」
「…………あぁ」
お互いの首筋にそれを向ける。
鍛錬を積んだ腕前によって、一息に首を掻き切ろうとして──
『遊ぶのは、怪我が治ったら好きなだけすれば良い』
見知らぬ存在だった。
弾き飛ばされたクナイは、2本仲良く地面に突き刺さる。
「ぶぎ?」
「げぎゃ?」
サイバー忍者とでも呼称すべき見た目。
この場の誰も、ソイツが目の前に姿を現すまで気付くことができなかった。
「──音が、しない……?」
ユキは気付く。
今も火災の音は鳴っている。
しかし、先ほどまで聞こえていた悲鳴や破壊音が聞こえなかった。
『あとは、貴様らだけだ』
一瞬だった。
強烈な風が吹き、目を閉じた次の瞬間には魔物が切り崩されていた。
「あ、あんたは……」
ユキは、震える声で誰何を問う。
目の前の存在──サイバネティックな忍者が、敵か味方か判別できなかった。
忍者は声を無視して、荷物を漁る。
『まずは治療だ』
「──あ……た、たすかる!」
それは天忍の薬だった。
コレを持っているということは、きっと救援なのだ。
問うのは後にして、まずはセイラの治療を終わらせるのが優先だ。
『傷を見せろ』
「は、はい」
『塗るぞ』
「……痛っ…………」
『耐えろ』
「ふぅ……ぐっ……あ……」
『……塗るだけで済むというのだから、凄まじい効能だな』
効能は確かだ。
しかし、傷に直接塗る必要があるため大きな苦痛を伴う。
セイラは、視界が明滅するのを必死に耐えた。
塗り終え、全身の力を抜いたセイラは気絶した。
今度はユキだった。
忍者がそばに片膝をつき、その身体を支える。
様子を観察していた。
「はぁ……はぁ……うっ……」
『極度の疲労──いや、ハンガーノックか?』
「が、丸薬を……」
『ああ』
手渡された丸薬と水を飲み、セイラの横に寝そべった。
丸薬は一つで1日分のカロリーを摂取できる。
空腹はともかく、栄養は問題無いだろう。
『ふむ……ここは崩落の危険も無さそうだな。俺は市民の救護にあたる、お前らはここで休んでいろ』
「あ、ああ」
ポンポンと話を進めていく。
こんな闇の中で? と思いつつも、止めることはできない。
なにせ助けられたばかりだし、今は戦う力も無いのだから。
『ここは確かアセビ本部の管轄だったな……仁科雪、本部はどうなった?』
「……壊滅、した」
『そうか』
サイバー忍者は闇の中へ溶けるように消えた。
「…………はぁ」
「すぅ……すぅ……」
ユキは、隣で気絶するセイラの頬を触った。
大切な仲間。
誰よりも守りたいヤツ。
「──よかった」
生きていることに安堵して、いつの間にか微睡の中へと落ちていた。
──────
火災の中に突っ込み──
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
『ああ、後はあそこにいる黒い服の女性達についていくんだ』
「はい!」
瓦礫を掘り起こし──
「娘……が……」
『大丈夫だ、既に救出した』
「……ああ、よかった……」
怪我人を影達の元へと搬送した。
『こいつを頼む』
「は、はい……ご協力感謝します」
『物資はとりあえずコレを渡しておく』
「助かります」
最後に二人の様子を見に戻った。
「すぅ……すぅ……」
「う……」
ユキは規則的で穏やかな寝息。
しかし、セイラの顔が赤い。
息も荒い。
体温は高くなっていた。
免疫反応だろうか。
このまま硬い地面の上で寝させるのは良く無い。
彼女とユキを影達の元へと届けた。
「こ、この二人……生きていたのか!」
『ああ、仁科雪は極度の疲労で眠っているだけだが、我孫子星羅は脇腹を深く負傷していた。既に薬は塗ったが、熱が出ている』
「わ、分かりました、ベッドへ」
この町で出来ることは終え、次の街へと向かうことを決めたゲンジ。
次に向かうべきは杜若(カキツバタ)。
しかし、影が引き留めた。
「お待ち下さい」
『ん?』
「聞けば、全く休まず活動していたというではありませんか。いくら天忍と言えど、無理をしてはなりません」
『俺は天忍では無い』
「…………へ?」
『あなた達がアンノウンと呼んでいた者だ』
「…………へ!?」
『そして、俺は全く問題なく活動出来る』
「お、驚きました……まさか、私たちの前に姿を現すとは……竜胆市でのみ活動していたのでは?」
『竜胆本部の潮目雲雀から情報提供を受けて、救援に来た』
端的に答えると、再び出発の準備をし始めた。
慌てて押し留める。
情報が欲しかった。
「こ、この街の魔物はどうなったのでしょうか?」
『すべて滅した』
「全て……では、その──」
『大丈夫だ、暫くはこの街に魔物の出現は無い』
「分かるのですか?」
『勘だがな』
「勘……」
『本部も壊滅して大変だろうが……後始末は頼んだぞ』
「は、はい」
──────
夜が明けると、アンノウンの言っていた通りユキは目覚めた。
「う……ん……はっ!?」
1分ほど微睡んでいたが、すぐさま覚醒し、自分の胸や顔を触って何事もないことを確認した。
そして気付く。
硬いアスファルトの上から、簡易ベッドに移っていた。
天蓋は薄い布。
どうやら、設営されたテントの中のようだ。
「セイラ……セイラは!?」
まさか、と嫌な予感が脳裏に過ぎる。
ベッドから足を下ろして、立ちくらみに襲われながらも辺りを探す。
「……ほっ」
セイラがいた。
パーテーションで見えなくなっていただけで、近くのベッドにいたのだ。
近付こうとして、背後から声をかけられる。
「起きたのですね」
影が立っていた。
振り返ると、水を差し出された。
「ありがとうございます」
戦闘時は荒々しい口調になるユキも、普段はそこまででは無い。
「アンノウン様は既に出発されました」
「──あの人がアンノウン!?」
「はい、そう名乗りました」
「自分でアンノウンって名乗ったのか……どこへ向かったんですか?」
「杜若本部に向かうとおっしゃっていました」
「……まさか、全国を周るつもりか?」
そんなバカなと否定する心と、目で追うことすらできなかった動きを目の当たりにしたという現実の記憶が喧嘩していた。
「竜胆本部、潮目司令より情報提供を受けて救援にまわっていたそうです」
「…………情けねえ」
俯き、吐き捨てる。
土壇場で役に立てなかった事が、心に重くのしかかっていた。
「そのような事を仰ってはなりません」
「……」
「ずっとこの街を守ってくださっていたのは、あなた方ではありませんか」
「くっ……!」
「今は休んでください、襲撃も一旦止みました」
──────
「ひどい……」
「でし」
「これが……普通なんだね」
ヒサメとミクの呟きに、ハクが続けた。
ヘリから見下ろす光景。
火災の跡。
崩壊したビル。
設置されたテント。
そして集まる人々。
防衛失敗の4文字が浮かぶ。
現状を見るに、魔物の襲撃は止んだようだ。
それとも、終わらせたのか。
「あの人がいなかったら、竜胆だって……」
「…………」
絶句。
サキは、その光景を前に言葉を発することができなかった。
防衛に失敗した街の末路。
辛うじて幸いなのは、まだ人々が生き残っていることだろうか。
「私達が出来ることは、何もありませんわ。ゲンジ様の後を追いましょう」
所詮は戦うしか能がない戦闘集団。
終わった後は、右往左往するか重いものを運ぶくらいしかできない。
この場に降り立ったとしても、何一つ成せないだろう。
ゲンジが受け取った端末の信号はさらに先だ。
ヘリを急がせた。
「なんつーか……無力だ」
静かな機内で、サキは沈鬱な表情を浮かべながらそんな事を宣った。
「天忍、か……」
ゲンジは、天忍の事を人類の守護者だと評した。
それがこのザマだ。
あの街の天忍は、生きているらしい。
彼は間に合ったのだ。
辛うじて、大事な瞬間に。
だが……天忍の本分を全うできなかった彼女達の心中は、察して余りある。
「強くなりてえなあ」
「帰ったら、修行だね」
ヒサメは笑顔で告げた。
強くなりたい。
それは、サキだけの想いではない。
ここにいる皆が痛感している事だ。
「────」
そんな想いをへし折るように、次の街も、その次の街も壊滅していた。少なくとも、復興に時間がかかるような状態の街がほとんど。
既に天忍が死亡している街すら。
移動を続けるほどに彼女達の口数は減り、沈鬱な空気が流れ出す。
天忍は死を覚悟している。
それが死の間際に機能するかはともかく、死と近い生き方であるということは理解している。
だが、これは違った。
大衆が殺され、街が破壊される。
それを見せられるということは、直に突きつけられているということに他ならない。
即ち、『お前達はなんの役目も果たしていない』という事実を。
存在意義の否定。
これまでの努力の否定。
人生の価値の否定。
彼女達は打ちのめされていった。
だが、打ちのめされている彼女達とは別に、行く街の襲撃が止んでいることは確かだった。
彼は休む事すらなく、活動を続けているのだ。
脅威的なスタミナだった。
そして同時に。
彼女達よりも一足先に街を訪れ、この惨状を目の当たりにしていたという事だ。
「──くん」
ヒサメが、ポツリと何かをつぶやいた。
その声にハクが反応した。
「……どう、したの?」
「いいえ……ただ、祈りを……」
両手を合わせ、胸の前で祈り手を作る。
人事を尽くす筈の天忍が祈るなど。
そう、笑って切り捨てることはできなかった。
運転席に座る影ですら、同じ気持ちなのだから。
──────
どんよりと、ヒバリの目元が黒くなっていた。
濃い疲労を隠すことはできない。
化粧をする時間すら無い。
それでも、寝ることはできない。
時折、通信が入るのだ。
影達も同じく、目元を暗くしながら必死に喰らい付いていた。
──通信が入った。
『潮目雲雀、まだ起きているか』
「……ああ」
『藤本部はダメだった』
「…………そうか」
『疲労の色が濃いようだな』
「問題ない」
『いいや、お前は司令だ。脳を休めなければ正確な指示は出せなくなるぞ? 休憩を推奨する』
「…………お前は今、何をしている」
背後から物音が聞こえていた。
『無論、次の街へと向けて移動している最中だ。街から離れたから通信を開始した』
「ならば……私が休むわけには……行くまい」
『無理をするな』
「……お前は……存外……気が、利くんだ、な」
『ははは』
この男、本当に同じ人間か。
ただ起きているだけではない。
一体どれだけの修行を積めば、こんなスタミナを手に入れられるのだ。
ヒバリは半ば茹で上がった脳みそで、余計な事を考えた。
『休む時は一声かけてくれると助かる。では、失礼』
「…………はぁぁぁぁ……」
協力を要請したのは自分とはいえ、まさか全く休みなく動き続けるとは思わなかった。
デスクに座る影の中には白目を向いているものも数人いる。
こればっかりは仕方があるまい。
「……直江達は今……何をしている」
「はい……ヘリで今もゲンジ様を追跡中です──ですが……」
「なんだ……」
「……ゲンジ様の方が速いため……追い付けていません」
「…………そうか」
「次の街に到着すれば……追いつける……はずです」
「──」
こんな場所にいるのがもどかしく、恥ずかしかった。