忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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11_!

 接骨木(ニワトコ)市内は酷い惨状と化していた。

 そこら中に倒れ伏す人々は、浅く呼吸をする者もいれば下半身のみのモノもいる。

 終わっていた。

 既にこの街は崩壊し、あとはどこまで血溜まりが増えるかという段階なのだ。

 それに、謎の爆発により発生した火災は火元から広がっている。

 このまま行けば、街全体が燃え尽きるのは確実だった。

 

 そんな街に、異音が響いた。

 

『はぁっ!』

 

「やぁっ!」

 

 研ぎ澄まされた長い爪と刀が衝突。

 一瞬の均衡、そして切り飛ばされる爪。

 そのまま踵落としが顔面に刺さり、爪が切り飛ばされたことに驚愕した顔のまま吹き飛んだ。

 

「ぐぁぁっ!?」

 

 燕尾服の裾がはためく。

 錐揉み回転しながら、ビルの外壁に衝突した。

 

 ゲンジが接骨木(ニワトコ)市にやってきて早々出会した両者。

 無言で交戦を開始して3分が経っていた。

 

「ぐっ……! お前なんなんだ!」

 

『貴様こそ、何者だ』

 

 少年の声。

 少年の見た目。

 金髪、青い目。

 背丈は140cmほど。

 人間の容姿だ。

 しかしゲンジは、目の前の存在が人間ではないとすでに見抜いていた。

 

 気配も、こんなところを燕尾服で彷徨いている事も、戦闘力も、伸びる爪も、明らかにおかしい。

 

「ふふんっ! どうやら天忍じゃあないみたいだね!」

 

『なに?』

 

「魔力が見えるなら、恐怖で立ち上がることすらできないだろうからねっ──あの天忍みたいにさっ!」

 

『……なるほど、魔人とは貴様のような者のことを言うのか』

 

「せいかーい!」

 

 パチパチパチと、拍手を鳴らす。

 ニッ、と笑う口元に人との違いを垣間見た。

 鋭い犬歯がそこには生えていた。

 

『で……どうする?』

 

 刀を構えたゲンジは、問いかけた。

 会話を続けるか、死ぬか。

 

「……調子に乗ってるな? 僕の爪を切ったくらいで」

 

『…………』

 

「ぶっ殺してやる!」

 

 目が赤く染まり、一気に跳ぶ。

 ジェット機のような音を発しながら腕は大気を切り裂き、ゲンジの左腕目掛けて突き進んだ。

 魔力の噴射による加速。

 視認するのは難しいだろう。

 

 ──獲った。

 

 魔人アスタリスクは、確信していた。

 自分の動きに全く反応できていない。

 このまま嬲り殺しにしてやる。

 泣き叫ぶ声を肴に、若い女を喰おう。

 

 そんなことを考えていたからだろうか。

 

 刀がいつのまにか、腕を斬り上げていた。

 

「え」

 

『ぬぅん!』

 

 拳を頬に叩きつけられ、水平に吹き飛ぶ。

 

「ぐへっ……あがっ……ごっ──」

 

 地面を転がり、滑っていった。

 

「な、なにが………あぁっ! あぁぁぁぁ!」

 

『ここで滅びてもらうぞ、魔人』

 

 なくなった腕を抑えて叫ぶ魔人アスタリスク。

 ゲンジは静かに歩いてきた。

 

「お、お前……お前ええええ! 僕の! この魔人アスタリスク様の腕をよくもおおおおお!」

 

『──むっ』

 

 膨れ上がっていく肉体。

 そして殺気。

 今の一撃で相手を本気にさせたということに、ゲンジは気付いた。

 ボコボコと泡のように肉が盛り上がり、姿が変じていく。

 燕尾服がビリビリに破れ、布が風に乗って消えた。

 

「オマエ……オマエ……! ゼッタイニ! コロス!」

 

『……それが、オマエの真の姿というわけか!』

 

「シネ! シネ!」

 

 大砲のような形になった右腕からエネルギー弾を発射する。

 

『ふっ! はぁっ!』

 

「ーーウワッ!」

 

 それを弾き返し、アスタリスク目掛けてぶち当てる。

 爆煙が包み込むが、晴れた後には無傷の姿があった。

 

「ジブンノ コウゲキ デ キズツクワケ ナイダロ〜?」

 

『ふん』

 

「ダケド アレヲ カエセルナンテ ヤルジャン」

 

 傲慢な物言い。

 それは、戦歴が補強している自信からくるものだった。

 

「グフフフ! デモ ザンネン ダッタネ! コノ スガタヲ ミテ、イキノコッタ ヤツ ハ イナイヨ! コノマチヲ マモッテイタ テンニン モ!」

 

『…………』

 

「キカセテ アゲタカッタ ナア! イタイ イタイ ヤダ ヤメテ ゴメンナサイ ダレカ タスケテ ッテサ! ……グフフフ! スッゴク コウフン シタナア!」

 

 それを聞いて、ゲンジは構えていた刀を鞘に収めた。

 そしてどのような意図か、首を垂れる。

 通常、その行動は命を差し出すことを意味する。

 魔人アスタリスクもそのように受け取った。 

 

「アレレ、アキラメチャッタ カナ? ヤルキ ナクナッチャッタ カナ? …………ジャア オワリ カナ?」

 

『────』

 

 ゲンジは何かを小さく呟いていた。

 心臓の位置に手を当て、首を振る。

 何かを葛藤しているようだ。

 

「ゴチャゴチャト ナニ ツブヤイテル ノカ シラナイ ケド──」

 

 そして、頷いた。

 何かを決意するかのように。

 それは──

 

『感傷だ……これはきっと、無意味なことだ…………だが……だとしても……! 一族の力、お借りいたします!』

 

 ぶわりと、嫌なものが広がっていくのを魔人アスタリスクは感じた。

 

「ナニ、イマノ」

 

 明らかに、目の前の人間は嫌なものを纏っている。

 それは魔力では無い。

 そう。

 言うなれば、嫌な気配。

 

「オマエ ナニ?」

 

『……来い』

 

 その挑発に応え、全体が巨大な刃と化した左腕を静かに振り上げた。

 

「シンジャエ!!」

 

 超重量を感じさせぬ速度で走り寄る。

 人が食らえば間違いなくミンチになるであろう一撃が忍者を襲うのは、必定だった。

 未来を確定させるべく、魔人が凶悪な刃腕を振り下ろした刹那。

 

『──竜神の剣を喰らえええ!!』

 

 居合が抜き放たれ、矮小な人間の身体から現れたモノ。

 加速する意識。

 アスタリスクは、人が走馬灯と呼ぶ景色の中で、忍者の背後から現れた龍を見た。

 龍は、突進してきていたアスタリスクの胴体の中心へぶち当たり、容易く押し返した。

 何もできず空へと押し上げられる。

 

「オワワワワワワワ!!」

 

 上空へ、高く、高く。

 身体を龍が貪り、その形がボロボロと崩れていく。

 抗うことすらできないという事実に、困惑しながら恐怖した。

 

「ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ!」

 

 懇願する声を無視し、龍は突き進む。

 慈悲は、無い。

 

「ガアアアアアアアア!!」

 

 緑色の靄が弾け、断末魔と共に花火となった。

 

 

 ──────

 

 

 それは、離れたところにいたヒサメ達からも見えていた。

 恐るべき魔力を感じ、進むことを躊躇っていた一行の目の前に現れた、清浄なる力。

 龍が天へと昇っていった。

 翠緑の光。

 パイロットを務めている影が、感嘆の声を漏らす。

 

「あぁ……なんて神々しいの……」

 

 ハクは急いで指示を出した。

 

「お願いします! あそこに連れていってください!」

 

「……りょーかい!」

 

 その場に急行した面々は、ゲンジの姿を見つけた。

 少し離れたところに、倒れ伏した裸の少年がいる。

 どういう状況かなんて、問う必要すらなかった。

 

「魔人……!」

 

 ハクは、武器を構える。

 自分たちにできることはない。

 だけど自然に、肉体の警鐘反応がそうさせていた。

 

「ぐ…………くそっ…………僕は……僕は、魔人アスタリスク様……だぞっ……!」

 

『せめて一思いに終わらせてやる』

 

「こ、んなところでぇ……終わって……たまるかぁぁぁぁあああああ!!」

 

『むっ!』

 

 叫び声の直後──もう一つ、巨大な気配が突然に現れた。

 ゲンジは、すでに死に体のアスタリスクを放置して、その気配に向き直る。

 視界の端には、蛇に睨まれたカエルのように全く動けなくなっているヒサメ達の姿があった。

 内心で舌打ちをする。

 タイミングが悪すぎた。

 

 現れたのは、大胆に胸元が開いたドレスに身を包み、絢爛な装飾を施した絶世の美女。

 笑顔を湛え、ゲンジのことを見つめている。

 

「──やはりあなたは、素晴らしい」

 

『…………』

 

「魔物も、アンチドートも──魔人すらも容易く打ち取るその力……是非とも、我らが一族に加えたい」

 

 その発言に、倒れたままの少年が反論した。

 

「僕は……僕はまだ負けてない!」

 

「黙りなさい、みっともない」

 

「っ……」

 

 一喝で黙り込んだ。

 それはつまり、明らかに序列に差があるということだ。

 

「貴方のお名前を伺ってもよろしいかしら、失礼なことは承知ですが、人間の名前など覚える価値が無かったもので」

 

『ゲンジ』

 

「そう……ゲンジというのね……ゲンジ……ゲンジ……」

 

 何度も名前を呟くと、両頬に手を当てて恍惚とした表情を浮かべる。

 

「あぁ……なんて素晴らしい響きなのかしら」

 

『……それで、何のためにここへ来た』

 

「えぇ、まずは謝罪を」

 

 恭しくドレスの裾を持ち上げ、丁寧にお辞儀をする。

 

「このような未熟者を貴方と戦わせたこと、申し訳なく思っています」

 

『…………』

 

「その上で提案なのですが……この場は、引き分けとして下さらないでしょうか」

 

 女とゲンジの視線は、同じところへと向かった。

 それはヒサメ達。

 無言下で行われる、意識の共有。

 彼女達は、この場において一般人と何ら変わりなかった。

 

『いいだろう』

 

「感謝致します」

 

『行け』

 

 黒い靄が現れ、倒れていた少年を包み込んだ。

 その中に自身も足を踏み入れる直前、女はゲンジを振り返った。

 

「私はクロエと申します──以後お見知り置きを、ゲンジ様」

 

『…………』

 

「またお会いできるその時まで、ご健勝のあらんことを」

 

 

 ──────

 

 

『皆、怪我はないか』

 

「はぁぁぁぁぁぁあああ! ……し、死ぬかと思った……」

 

「あ、足が震えてるでし」

 

「ふぅぅぅ……ちょっと漏らしたかも……」

 

「ご、ごめんなさい……何もできなくて」

 

 ハクは恥いる気持ちで胸が埋め尽くされていた。

 助けに来たつもりだったのに、魔人との交渉を不利に進める材料にされてしまった。

 

 そんなハクの肩に、ポンと手が置かれた。

 

『恥じる必要は無い、その気持ちだけで十分だ』

 

「で、でも……」

 

『これまで一人で活動していた俺を、こんなにも想ってくれる同志が出来た…………それが嬉しいよ』

 

「あ────はいっ!」

 

 顔は見えずとも、その雰囲気が。

 嬉しいと思っていることを伝えてくる。

 ハクは、大きく頷いた。

 

 サキがミクの肩に腕を回す。

 ニヤニヤと笑っていた。

 

「ちょっとちょっと、奥さん」

 

「……なんでし」

 

「あの二人、いい感じじゃないかしら〜?」

 

「…………分からないでし……というかサキ、キモイでし。サキモイでし」

 

「おい、バカにしてんのか」

 

「バカにしてるんじゃなくて、バカでし」

 

「んだこらぁ!」

 

 パンパンと音が鳴る。

 リッカが背筋を伸ばし、

 

「はいはいみなさま! この街の救護が先ですわよ!」

 

『うむ、俺は瓦礫を掘り起こす』

 

 ゲンジはやる事を告げると、かけだした。

 リッカの制止が叶わぬ速さで。

 

「あっ、ちょっ……はぁ……殿方って、皆こうなのかしら……」

 

「リッカ、ひとまずは手分けして作業しよう」

 

「……そうですわね!」

 

 

 ──────

 

 

 生き残った影が集まり、なんとか陣地を敷いていた。

 そこに押し寄せる市民達。

 怯え隠れ、何とか生き延びたもの達だ。

 しかし、何もかもが足りない。

 食料も、水も、テントも。

 本来ならば記憶処理などを行わなければならないのに、それすらできない。歯噛みしながらも、それでも彼女達は懸命に、自分たちにできる事を成していく。

 

 だが、当然のように募る不満。

 折角避難所にやってきたと思ったのに、この様とは何だ、と影に詰め寄る。

 ヒサメ達も宥めるが、所詮は小娘の話など聞く耳持たない。

 それどころか暴力沙汰にまで発展しそうになった。

 

 そんな一触即発の空気を切り伏せたのは、ゲンジ。

 電柱を細切れにし、1発で場を掌握した。

 自らがこの場において、ただの暴力装置であると割り切っているからこそできる行動だった。

 

 ハク達は街へと繰り出した。さまざまな場所から物資をかき集める。

 企業や学校の備蓄倉庫から勝手に調達し、避難所へと運ぶ。

 その間、ゲンジは陣地の上から全体を見下ろし、監視を行っていた。

 不埒な行動を起こそうとする者がいれば即座に叩き潰す。そういう役目だ。

 

「──申し訳ございません、貴方にこのような役目を」

 

 影が近づき、謝罪を行う。

 街を守った張本人であるにもかかわらず、市民からのヘイトが最も集まっているのはこの男だった。

 

『気にするな、待っていれば総本部からの支援も来るだろう』

 

「ありがとうございます……うっ……」

 

 ふらり。

 影がよろめいた。

 頭に片手を当てている。

 

『大丈夫か』

 

「え、ええ……大丈夫です」

 

『疲労だな、休憩所まで運ぼう』

 

「あ、歩いていけます」

 

『無理をするものではない』

 

「…………ありがとうございます」

 

『ああ』

 

 影を休憩所のベッドに寝かせ、待機していた医務班に事情を説明する。

 

「なるほどね……今永さん、今はお休みなさい」

 

「はい」

 

「ゲンジさん、態々ありがとうございます」

 

『大事にな』

 

 再び陣地の上に戻ると、端末に通信が入った。

 ハク達の誰かかと思えば、ヒバリからだ。

 

『どうした』

 

『…………侵攻が……止んだ』

 

『なに?』

 

『事情は……後で…………でも、いいか……』

 

『……ああ、ゆっくり休め』

 

『すま、ない……』

 

 プツッと通信が途切れる。

 きっと、この瞬間には眠っているんだろう。

 ゲンジは端末を数巡見つめると、監視を再開した。

 

 

 ──────

 

 

「あの……一つ聞いてもいいですか?」

 

『どうした?』

 

 情報共有などの有事の際の対処のため、影が一人だけ傍に待機している。ゲンジが休憩所に運んだ彼女だ。疲労から回復したのち、申し出た。

 そんな彼女は、どうしてもある事が気になった。

 

「ゲンジ様は、いつご飯を食べていらっしゃるんですか?」

 

 それは、素朴な質問だった。

 

『ご飯?』

 

「その鎧を着ていることもありますし……この街に来てから、ゲンジ様が何かを口にしているのを誰も見ていません」

 

『そうだな』

 

「お腹は空かないのですか?」

 

『無論、腹は減る。だが、今は任務中だ』

 

 そんなどうでもいいことにかまけている暇はない、と言外に示していた。

 

「市民は既に、言う事を聞いてくれます。この場から動くこともほとんど無いでしょうし……」

 

『?』

 

 発言の意図がつかめなかった。

 動くことが実際にあるかないかは関係無い。

 可能性に備えるのが彼の仕事なのだ。

 

「こ、これを……」

 

『!』

 

 それは、おにぎりだった。

 古来より携行食として根付いてきたシンプルな食事。

 恥ずかしそうに差し出されたそれは、若干型崩れはしているが、紛れもなくおにぎりだった。

 おにぎりが二つ。

 笹に包まれている。

 

『……これを……俺に?』

 

「は、はいっ! 塩しか味付けがなくて申し訳ないのですが……お、お気に召さなければ廃棄いたします!」

 

『──いただこう』

 

「あ…………」

 

 影からおにぎりを受け取り、片手に載せる。

 どうやって食べるのかと緊張しながら見ていると、躊躇なくヘルムを脱いだ。

 というより、ヘルムだけが霧のように消えた。

 当然、顕になる素顔。

 

「あ……お顔が……」

 

「皆には内緒だぞ」

 

「も、もちろんです!」

 

「では……いただきます」

 

 彼がおにぎりを食べている間、影は瞬きをすることすら忘れて見つめていた。

 

 しかし、食事中にまじまじと見つめられると居心地悪く感じるのは人のサガだ。

 

「……すまないが、そんなに見られると流石に緊張するな」

 

「あ、ご、ごめんなさいっ!」

 

 影は、黒い頭巾に身を包んでいる自分が、ひどく不公平なことをしている気分になった。

 

「え、えいっ!」

 

「…………どうしたんだ?」

 

「げ、ゲンジ様が兜を脱ぐのなら、私もこれを脱ぎます! これでおあいこです!」

 

「……ふふっ、そうか」

 

「ひゃい」

 

 

 ──────

 

 

『美味かった、ありがとう』

 

「光栄でしゅっ!」

 

『……そんなに畏るな、俺は所詮外様だ。立場は君と変わらない』

 

「そ、そんなことはありません! ゲンジ様のあの戦いは、すぐに天忍の誰もが知るところになります!」

 

『そうなのか?』

 

「はい! 魔人と一対一で戦える者など、歴史上の人物としてしか存在していません! 今代では、ファーストオーダーの頂点──天谷翼(アマタニツバサ)が辛うじてというところでしょうが……そういうことなのです!」

 

『そうか』

 

 おにぎりを食べ終えると、監視を続けながらも談笑に花を咲かせる二人。

 既に二人とも頭巾と兜をそれぞれ被りなおしていた。

 

「ゲンジ様はいつほど出発されるのですか?」

 

『取り敢えず、今日1日は滞在するつもりだ』

 

「そうなのですね! であれば、次はもう少し味のあるご飯を──」

 

『いや、それはやめてくれ』

 

「はい?」

 

『あれは本来、避難民や君達のための物だ』

 

「で、ですが……」

 

『君の気持ちはとても嬉しかった。だが……だからこそ、その気持ちを民に向けて欲しい』

 

「…………」

 

『またいつか会うこともあるだろう。その時には、とびきり美味しい手料理を作ってくれないか?』

 

「!」

 

『今永彩芽(イマナガアヤメ)、これは君と俺との個人的な約束だ』

 

「はい! 約束です! ……あれ……私、名乗りましたっけ?」

 

『情報収集は忍者の嗜みだよ』

 

「な、なるほど」

 

 

 ──────

 

 

 襲撃が終わったことで、一同は竜胆へと帰投する運びとなった。

 そのヘリの中。

 

「ずるい」

 

『?』

 

「ずるいずるいずるいずるい、ずるーい!」

 

 駄々をこねる小児のように、ハクは抗議をしていた。

 

「ずるいですよ! ずるいです! 絶対ずるいです!」

 

 ヒサメも同じだ。

 ずるいずるいと、理由も言わず繰り返す。

 ヘリ内で女子二人から同じ詰めかたをされ、ゲンジは両手をあげて降参した。

 

『一体、何の話だ?』

 

「とぼけるんですか!?」

 

『とぼけるも何も……』

 

「影の女の子に、素顔を見せたらしいじゃ無いですか! 私たちには見せてくれないのに!」

 

 ヒサメとハクは、出発する前に影と女子トークをしていた。

 

「それは確かにずるいでし」

 

「私達だってここまで一緒にやってきたんだから、見せてくれてもいいよなあ」

 

『…………』

 

 遠く離れた街の影と、同じ街で活動をする天忍。

 その二者では、顔を見せることの重要性が変わってくる。

 しかし、そんなことはわかった上で言っているのだろう。

 

『あれは……おにぎりを食べるためにやむを得ず外しただけだ』

 

「じゃあ、はい!」

 

 ハクは胸元に手を突っ込むと、何かを取り出した。

 

『…………飴?』

 

 グレープ味の飴だった。

 

「飴あげるから、顔見せてください!」

 

『無茶な事を言うな』

 

「ほら! 贔屓だ! 好みの女の子だったんだ!」

 

『………………ぐがぁああああああ』

 

 もはや侮辱に近い発言。

 喚き散らすハクに困り果て、睡眠に逃げた。

 

「起きろお!」

 

「ハクさん……みっともないですわぁ……」

 

 リッカは頭を抱えていた。

 相棒が半ば正気を失っている。

 こんなことは初めてだ。

 いや、これが抑圧されていた彼女の素なのかもしれない。

 しかし、みっともない姿を晒すのはやめて欲しかった。

 

「起きたら命令権使ってやる……」

 

「ハクさん! おやめなさい!」

 

 ピシャリと、リッカは完全にお怒りモードでハクへと言葉の雷を飛ばした。

 

「そういうのは信頼関係をもっと築いてからにしなさい」

 

「…………はーい」

 

「志村さんもですわよ」

 

「……………………」

 

「志村さん?」

 

「…………ぷぅ」

 

 こ、こいつら……

 

 リッカはすぐさまアンガーマネジメントを行った。

 人の上に立つものとして、優雅さを崩してはならない。

 彼女が昔から習ってきたことだった。

 

『んごごごごごご……むぐぐぐぐぐぐ』

 




解説

この「ゲンジ」のULTはゲームにおけるものーー龍撃剣の解放とは異なります。当たり前の話ですが、戦闘時は基本的に抜刀しているため、龍撃剣の使用自体は通常攻撃となります。
ULTの仕様は具体的には
Overwatch Animated Short | "DRAGONS"
によります。
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