忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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12_!

 竜胆本部へと戻った一行は、ゲンジも含めて指令室へと向かった。

 せかせかと足を動かし、廊下を急ぐ。

 大股のゲンジがその後を歩いた。

 

「急げ急げ……」

 

「走らないようにね〜」

 

 扉を開け、中に雪崩れ込む。

 ゲンジは廊下の様子を目に収め、ゆっくりと最後に続いた。

 

 五人は一列に並び、ハクが一歩前に出ていた。

 その正面で待ち構えているのはヒバリ。

 凛とした顔で、長い黒髪を垂らしている。

 隈は無く、健康的な目元だ。

 

「ただいま戻りました!」

 

「ああ、ご苦労」

 

「侵攻が止まったというのは、本当ですか?」

 

「本当だからこそ帰投を命じたんだ」

 

「よかった…………」

 

「…………それで──」

 

 五人の背後で首を巡らしている存在。

 あまりにも浮いていた。

 黒基調の影達。

 司令の白い服。

 明るい色で繕われた天忍の忍装。

 そのどれとも違う機械的な見た目。

 

 本部に同行する事を許容した彼の思惑とは何なのか。

 ヒバリは、五人の背後にいる背高の男? へ声をかけた。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてだな」

 

『ああ、どうやら疲労は取れたようだ』

 

「お陰様でな」

 

『なあに、お安いご用だ』

 

「…………皮肉だ」

 

『ふふ、知っているとも』

 

「ちっ……なんでここに来た」

 

『君が呼んで、彼女達もそれを望んだからだ』

 

「拘束される可能性は考えなかったのか?」

 

『拘束するのか?』

 

「…………命令は、来ている」

 

『質問を変えよう、出来ると思うのか?』

 

「………………」

 

『活動を続ける以上は、否応無しに此処へ来る必要性も出てくる。先に済ませただけだ』

 

「気に食わんやつめ……」

 

『それに君は、義に悖る輩ではない──そうだろう?』

 

「ふんっ、買い被るな」

 

『買い被りではない、自分の目で見てきた結果だ』

 

「…………気持ち悪いぞ」

 

『忍者の端くれだからな』

 

 五人は、二人のやりとりにヤキモキしていた。

 それと同時に、ゲンジを拘束するように指示が来ているということに憤慨した。

 サキがヒバリに詰め寄って、声を荒げた。

 

「ヒバリさん! それ、本当なのかよ! 捕まえろって指示が来てるって!」

 

「本当だ」

 

「っ…………恥ずかしくねえのかよ総本部の奴らは! ここまで助けられて、その相手を捕まえようとするなんて!」

 

「…………」

 

『宵闇咲、落ち着け』

 

 肩を怒らせるサキに手のひらを見せ、制止する。

 

「あんたは何とも思わないのか!?」

 

『少なくとも理解はできる』

 

「はぁ!?」

 

『既存の在り方に横入りする奴が出てきて、不満が生じるのは当たり前のことだ』

 

「だけど……納得できんのかよ!」

 

『なんとかするさ』

 

「この街で?」

 

『そうだ』

 

「無理だろ……」

 

『流石に一般の民へは君達も力を振るいはしないだろう? ならば大丈夫だ』

 

「……もし、強引に進めようとしたら?」

 

『その時は…………平和維持組織 オーバーウォッチとして正式にお相手させてもらう』

 

「──ひっ」

 

 全力の殺気。

 体が半透明に光り、緑色の何かが背後に浮かんでいく。

 その場にいた全員の体が細かく震え始める。

 

『とまぁ……そんな事にならないように、こうしてこの場に馳せ参じたというわけだ」

 

 気を収め、サキの身体を軽く叩いて退かせる。

 一歩後ずさったヒバリの正面へ立った。

 

「……顔を見せる気は、無いのか?」

 

『少なくとも今、この場はまだその時では無い』

 

「ならば、いつだ」

 

『この先、倭の国は動乱に包まれる。それまでにはきっと』

 

「この国が……動乱に包まれる……」

 

『今まさに世界は変わりつつある、だからこそ俺はこの力を表立って振るう事を決めたんだ』

 

「…………」

 

『それにここで明かさなくても、街中で買い物をしていれば俺を見かけることもあるかもしれないぞ?』

 

「…………それでは意味が無いだろう」

 

 ヒバリは、仕方がないと言わんばかりにため息をついた。

 

『──さて、では始めるか?」

 

「お前……実は、少し楽しみにしていたな?」

 

『何のことかな』

 

 恨めしげな目線を、愉快そうに受け止める。

 

「はぁ………………アンノウン、もといゲンジ! 我々天忍は、貴様を拘束する!」

 

『──なにっ』

 

「なにっ、じゃないだろ…………何をぼけっと突っ立っているんだ、直江! それに志村! 貴様らも協力しろ!」

 

「え、で、でも……でも……」

 

「へっ、えっ、あっ、えっ」

 

「穂高!」

 

「──わ、わかりました」

 

 いきなりの指示に、武器を構える五人とその場にいた影。

 ハクもミクも、ヒサメもサキも、構えはしてもその切先にはブレがあった。

 素人のようなへっぴり腰で、眉根は下がり、情けない表情をしている。

 

 恩人に対して刃を向ける。

 それは、恥を恥とも思わぬ所業だ。

 天忍は民を守るために存在する。

 同じく民を守るために尽力している彼に対して、こんなことを。

 

「あ…………あ……」

 

『…………』

 

 ゲンジは、無言で彼女達を見つめていた。

 怯えも、恐れも、震えも、全てが彼の眼前に曝け出されている。

 しかし、着込んでいるサイバネティックアーマーが全てを覆い隠し、彼女達には彼の表情を読むことはできない。

 

「おーっほっほっほ!」

 

 リッカだけは、いつもと同じように高笑いを見せる。

 サクラフブキを構え、大仰に宣言した。

 

「名誉の一番槍はいただきますわあああ!」

 

 上段に構え、猪みたいに突っ込んだ。

 

『……』

 

「キャアアー、ヤラレター」

 

 無手で薙刀を絡め取り、鉄山靠で吹き飛ばす。

 棒読みちゃんくらい棒読みの声で転がってきたリッカを、四人は怪訝な顔で見つめた。

 

「モウ、ヒロウ ガ ゲンカイ デスワー……ウゴケマセンワー」

 

「な、何してるのさ、リッカ……」

 

「大丈夫っすか? 西条先輩」

 

 リッカは四人を失望の目で見た。

 

「おまえら! いけ! いけ!」

 

「ウォォォオオオ」

 

「ツカマエテヤルー」

 

 リッカが吹っ飛ばされた後、ヒバリの指示により次々と飛びかかる影を捌いていく。

 まるで劇の悪役のように吹き飛ぶ影達。

 

「ウワー」

 

「グワー」

 

「ヤラレター」

 

 薙ぎ倒されていく影と薙ぎ倒していくゲンジを、呆気に取られながら見続ける四人。

 どうするべきか。

 何を言えば良いのか。

 瞳が揺れていた。

 

 そんな中で、やっとこさ動き出したのはヒサメだった。

 目に光を宿らせ、ヒバリの方を向く。

 

「──嫌だ」

 

「志村?」

 

「ヒバリさん……ごめんなさい」

 

「…………待て、お前まさか」

 

「私はこんなの嫌なんです……だから──」

 

『厄介な奴から黙らせるか』

 

「あぅっ……」

 

 何かをヒバリに対して言おうとして、背後に現れたゲンジが意識を奪った。

 その手には電気を散らすクナイが握られている。

 崩れ落ちた身体を抱き止め、そっと床に寝かせた。

 

「てめえ、よくもヒサメを! ヒサメはアンタの──」

 

『ペラペラと、余計な事を喋る口だな』

 

「あがっ……」

 

 残されたのはミクとハクだけになった。

 

『どうする、貴様らもやるか?』

 

「…………う……」

 

 怖い。

 悲しい。

 苦しい。

 

「な、なんで……」

 

 こんなつもりじゃなかった。

 ヒバリさんとも相性が良さそうだったし、良い人だから問題なんて起きないと思った。

 

 裏切られたような気持ちだった。

 心の芯である、天忍への信頼が少しだけ揺らいだような気がした。

 

「直江、どうした! 奴を拘束しろ!」

 

「…………で、できません……」

 

「できるかどうかは聞いていない! やれ!」

 

「う…………」

 

 絶対的な死。

 回避不能な筈のそれから助けてくれたのはこの人だった。

 だけど、私を強くしてくれたのは天忍で──

 

 目まぐるしく脳裏を駆け巡る思考は、肉体の制御を困難にした。

 

『……仕方ないな』

 

 ゆっくりと、二人へ歩み寄る。

 

「ひっ……」

 

 喉から漏れたような悲鳴。

 鉄火線を操るはずの手は震えていた。

 

『………………』

 

「や、やめるでし!」

 

『……』

 

「だめでし!」

 

 ミクは、何もできないハクの前に立ち塞がった。

 

「──ゲンジさんがハクさんに、そんなことしちゃダメでし!」

 

『…………』

 

 ピタリと、ミクの前で立ち止まる。

 自身を見下ろす超人を逆に睨みつけ、胴体へとしがみついた。

 武器では敵わないと知っているからだ。

 

「ど、どうだぁ!」

 

『…………』

 

「う゛っ──」

 

 ミクの身体を優しく横たえ、カタカタと震えるハクへとフルフェイスを向けた。

 怪しく光る緑の眼差しが、圧力すら伴っているようだった。

 

「わ、私は……私は……」

 

 それを見て、困ったように腕組みをする。

 

『潮目雲雀、天忍はもう少し別のことも教えるべきだ』

 

「反省しているところだよ……」

 

 ハクは涙目で質問した。

 

「……ど……どうしても……戦わなきゃ、ダメですか……?」

 

『…………戦意を喪失したことが明らかならば、その必要も無い、か』

 

「──あ」

 

『また会おう』

 

 監視カメラにクナイを投げつけ、霧のようにゲンジがその場から消えると、ハクはへたり込んだ。

 ヒバリがやってきて肩を叩く。

 

「お前はもう少し柔軟な奴だと思ってたがな」

 

「なんで……」

 

「はぁ…………見てみろ」

 

 俯いたハクを励ますことはなく、倒れているリッカ達を足で突く。

 もう動けないと言っていたはずのリッカは、むくりと起き上がった。

 

「ふぅ! 我ながら名演技でしたわ!」

 

「いや、かなりの大根だったぞ」

 

「おーほっほっほ! そこの四人に比べたら雲泥の差ですわ!」

 

「……それはそうだな」

 

 影達も次々と起き上がる。

 

「いやー……中々こういうのやらないから面白かったね」

 

「めっっちゃわざとらしかったよ?」

 

「いや! いやいや! 結構頑張ったって!」

 

 何が何だかわからず、室内を見回す。

 先ほど、あんなに激しくやり合っていたのに……

 

「演技だ」

 

「…………演技?」

 

「私としても、やつをどうこうしようなんてのは考えていなかった」

 

「──だから、芝居を打った?」

 

「そうだ」

 

「な、なんで私だけ教えてくれなかったんですか?」

 

「誰にも教えてなどいない」

 

「え」

 

「皆、気持ちは同じということだ」

 

 影達を見ると、笑顔で親指を立てている。

 

「え? ……じゃ、じゃあ本当にアドリブだったってこと!?」

 

「ああ」

 

「志村ちゃん達は!?」

 

「本当に気絶してる」

 

「ええっ!?」

 

 慌てて顔を確認すると、穏やかな顔だった。

 

「…………」

 

「コイツらは全部台無しにするところだったからな、お前みたいに戦意を喪失していればこうなることも無かった」

 

 それは褒め言葉では無かった。

 むしろ、叱責も含まれていた。

 

「直江、お前は選ぶべきだった。我々の敵になるか、それとも味方であり続けるか」

 

「…………はい」

 

「この事が原因でどうこうというのは無いが、きちんと考えておくんだぞ」

 

「…………」

 

 

 ──────

 

 

「どちらの味方であるべきか……」

 

 自室のベッドに横たわり、ヒバリに問われた事を反芻する。

 

「…………」

 

 選べるはずがなかった。

 

 天忍には、相棒がいる。

 そして後輩がいる。

 大切な仲間たちだ。

 彼女たちを敵になんてできない。

 

 だけど……彼を裏切ることが正しいだなんて、絶対に思えなかった。

 それをしてしまったら、自分の中の大事な何かが壊れてしまう。

 そんな予感があった。

 

 正義とは。

 

「どうしたら良いんだろう……」

 

 リッカは迷わなかった。

 ──というより、リッカに関しては演技であることを最初から見抜いていたからそういう話ではないんだろう。

 

「うぅ〜」

 

 ジタバタと足を動かす。

 答えなんて、出せそうにもない。

 少なくとも、今、起きているうちは無理だ。

 

「寝ちゃお……」

 

 一旦考えるのはやめて、明日のために体を横たえた。

 正直、疲れているのだ。

 

「────え?」

 

 気付いたら、あたり一面が炎だった。

 

「熱っ……!」

 

 その場を離れると、瓦礫の山。

 人の気配が無い。

 

「なに、これ……何があったの……?」

 

 いつの間にか着替えていた忍装。

 鉄火線をいつでも操れるようにしておく。

 

「まずは司令に状況確認を……」

 

『──────』

 

 ダメだ、繋がらない。

 砂嵐のような音が鳴るばかりで応答は無かった。

 まさか──と、嫌な予感がする。

 急いで本部へと向かった。

 

「…………嘘……だ……」

 

 本部が崩壊していた。

 必死に辺りを探すと、魔物がいきなり現れた。

 

「やらないと……! …………あ」

 

 巨大な手に握られているのは……

 

「潮目司令! ──離せええええ!」

 

 腕を切り落とし、ヒバリを離れた場所へと運ぶ。

 下腹部に大穴が空いている。

 既に瞳孔が開き切っていた。

 

「くっ…………え」

 

 その時、気付いた。

 周りが死体だらけだ。

 

「リ、リッカ……! 志村ちゃん! 宵闇ちゃん! 穂高ちゃん! …………な、なにこれ……なんで……みんなが……」

 

 よろめき、後ろへ倒れる。

 躓いたのは母親の死体だった。

 

「──うわあああああ!」

 

 何度も転びながら逃げ、やがて辿り着いたのは墓地。

 みんなの墓がある。

 人類のお墓。

 

「…………」

 

 ひとりぼっち。

 もはや守るものは無かった。

 魔界との戦争に負けた世界は崩壊し、孤独の中を生き続けた。

 何の意味も無いのに。

 

「何で……私だけ生き残っちゃったのかな……」

 

 寂しい。

 とても寂しい。

 言葉では言い表せないくらいに寂しい。

 誰かと話したい。

 

 リッカと会いたい。

 ヒサメちゃんと話したい。

 お母さんのご飯が食べたい。

 

「何で……こうなっちゃったのかなあ……」

 

 既に、涙は枯れていた。

 魂すら枯れていた。

 生きる意味を失い、それでも生きている屍。

 

 ──崖から身を投じた。

 

「………………さいあく」

 

 本当に、心の底から気分が悪くなった。

 こんな悪夢を見たのは初めてだった。

 

「はぁ……」

 

 このままじゃあ眠れそうに無い。

 外でも一旦散歩してこようかな。

 

 

 ──────

 

 

 散歩をしていると、こんな夜なのに犬を歩かせている人や会社帰りの人などがいる。

 来たばっかりで土地勘はあまり無いから、道は端末のナビ頼りだ。

 

 当て所なく歩き続け、公園に着いた。

 ベンチに腰掛けると夜空の月が見える。

 こうして、天忍である事とは関わりなく月を見る機会というのはあまり多く無い。

 

 何の意味も無い、こんな時間だからこそ月をありのまま見ることができた。

 ボーッと月を眺めていると、端末が鳴った。

 

「……魔物」

 

 こんな夜にとは珍しい。

 少なくとも私がこっちに来てからは一度も無かったはずだ。

 前の街ではたまにあったんだけど、竜胆はぬるいなぁと思っていた。

 最近までは。

 

 場所はとても近い。

 行ってみよう。

 

 忍装に着替えて端末が指し示す場所へ行くと、何もいなかった。

 一体何なのか。

 何かしらの痕跡は残っていないかと、念のために確認してみる。

 

「…………うーん……何も無いなあ」

 

『こんな夜中に起きているとは、いくら天忍といえど感心しないぞ』

 

「うひゃあああああ!」

 

『…………』

 

「び、びっくりしたぁぁ……」

 

『それはすまない』

 

「な、何でいるんですか!?」

 

 まさか、こんな夜中に出くわすとは思わなかった。

 しかも昼間、あんな別れ方をしたばかりなのに。

 

『無論、魔物だ』

 

「魔物……やっぱりいたんですか?」

 

『もう倒したから問題は無い』

 

「そ、そうなんだ……」

 

『さぁ、君も寝る時間だ。家に帰りなさい』

 

「……ゲンジさんは?」

 

『俺は瞑想をしていく』

 

「瞑想」

 

『戦いの後は、瞑想をして心を落ち着かせるものだ』

 

「なるほど……」

 

『では、おやすみ』

 

「──あ、あの!」

 

『うん?』

 

「………………」

 

『……少し話そうか』

 

 

 ──────

 

 

 ベンチに腰掛ける、忍装姿の天忍とサイバー忍者。

 人に見られたら通報待ったなしだ。

 だから、小規模な結界を張った。

 

『忍術とは便利なものだな』

 

「習得は大変でしたけどね……」

 

 辛い訓練の日々を思い出して若干鬱になりかけた。

 

『それで、何か話したいことがあったのだろう? 戦うしか能のない俺でよければ聞こう』

 

「ありがとうございます……実は──」

 

 どちらの味方であるかを選ぶべきだったのに、選べなかったこと。

 考えておくようにと言われたのに、何も分からなかったこと。

 

 昨日までのこと。

 

 とある街では、多くの遺体が丁寧に並べられていた。

 半身しか残っていなかったり、魔物達によって弄ばれたことが明らかなものもあった。

 私たちはそれを見て──リッカですら吐き気を、嗚咽を、恐怖を隠すことができなかった。

 

 犠牲者の中には天忍の女の子も。

 自分たちが一歩間違えればこうなっていたと、目の前に突きつけられた。

 

 私たちは着いて行ったのに結局、天忍らしいことは何一つできなかった。

 人命救助や炊き出しは影の方が上手で、戦闘はゲンジさんが片付けてしまう。

 私たちも瓦礫を片付けたりはしたけど……本当に役に立ったとは思えなかった。

 

「私……自分が何をしたいのか、よく分からなくなっちゃって……」

 

 こんな話をぶつけて何になるというんだろう。

 そもそも自分の実力不足が原因でこうなっているのに。

 あまつさえ、天忍ですらないゲンジさんにこんなこと言ったって困らせるだけだ。

 

「私もゲンジさんくらい強ければ良かったのに……」

 

『それは違うぞ、直江白』

 

「だって、強かったらもっと色々なことができます!」

 

『……際限が無いことを追い求めると、いつか破綻する』

 

「それは……でも……!」

 

『今回の件に関しては、俺が任務を失敗したということに他ならない。君が責任を感じる必要は無い』

 

「そんなわけないじゃ無いですか! 私は天忍です!」

 

『君たちはこの竜胆を守るという役目を与えられ、それを立派に果たしている』

 

「でもそれは……ゲンジさんがいたからです!」

 

『俺は、市民と天忍を守るという役目をこなす為に動いた…………君たちでは無い、俺が勝手にその役目を負っていたんだ』

 

「勝手じゃないです!」

 

 まるで、自分に言い聞かせるかのように。

 私の言葉を無視して続ける。

 

『助けられた子がいれば、助けられなかった子もいる。君は……俺が無力だと思うか?』

 

 首を激しく横に振った。

 そんなわけがない。

 彼が無力ならば私たちなんて……

 

『意地悪な質問をしてすまない。だが、役目を果たせなかったのは事実だ』

 

「そんなことは……」

 

『──直江白、どれだけ強くなっても人類全てを救うことなど出来はしない』

 

「そんなの……極論です」

 

『その通り。だからこそ俺たちはーー俺は、そして君は……自分にできる範囲で全力を尽くすしかないんだ』

 

「…………」

 

『あの光景を見るのは、初めてだったんだな』

 

「……はい」

 

『あの光景がこの世界に現れることがないように、俺はこれからも戦い続ける………だが』

 

「?」

 

『君たちにも戦ってもらう』

 

「…………あ、はい! もちろん戦います!」

 

『そして上から目線で申し訳ないが、君たちが死力を尽くしても勝てない敵や、どうしても被害が大きくなる敵に関しては間引かせてもらう。これまで通りな』

 

「なんか、先生みたいですね」

 

『…………やめてくれ』

 

 本当に嫌そうだった。

 なんで? 

 

『俺は、先生なんて言葉が似合うような人間じゃない』

 

「じゃあ、師匠?」

 

『それはもっとダメだ』

 

「えー」

 

『……どうやら気は紛れたようだし、ここらでお別れとしようか』

 

「はい! ありがとうございました!」

 

『例の話は、まだ決めかねているのかな?』

 

「ごめんなさい、まだ思い付かなくて……」

 

『ゆっくりと決めていい。では、おやすみ』

 

「おやすみなさい!」

 

 一度の跳躍で、ゲンジさんは視界の外に消えてしまった。

 私も、家に帰ることにした。

 

 今度こそ、普通に眠る事ができた。

 

 

 ──────

 

 

 何、あの子たち! 

 ゲンジさんといちゃいちゃしてるんだけど! 

 しかもあれ、メイガスじゃん! 

 

 

 

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