忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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忍者になりたいと願った男1

 俺は、ただの人間だった。

 

 特別な力なんて無い。

 サヴァン症候群でも無い。

 何かを作り出すこともできない。

 面白みのない、何の取り柄もない無味な人間だ。

 

 それどころではない。

 何かを強く面白いと思うことができなかった。

 何かに熱中することができなかった。

 なんてつまらない人間だよ。

 

 中学校までは良い成績を取っていたこと。

 それだけが唯一自慢できる程度の人生。

 大学受験に失敗して、ウダウダと生きているだけのクズ。

 だけど、こうなるとは……

 

 ──腹に熱が走る。

 少しずつ垂れていく、俺の性根のように濁った赤色。

 灼熱の痛みは、立ったままでいることを許してはくれなかった。

 尻餅をつき、震える手で腹に刺さっているものに触れた。

 

「あ…………」

 

 声が出せない。

 刺されるとは、こんなにも痛みに満ちた事だったんだな。

 それすらも知らないほどに、俺は世界に目を向けていなかった。

 

「……ぞ…………あ」

 

 ぶつぶつと、下手人は何事かを呟きながら歩いていく。

 まさか、買い物に来た帰りにこんな目に遭うなんてな。

 どうすれば良いんだっけ。

 腹圧が上がらないように寝ているべきなんだっけ。

 一応そうしようかな。

 助かるなら、それに越したことはない。

 

「やる…………が……」

 

 ソイツは、もう一本ナイフを持っていた。

 次の獲物を探しているんだろう。

 店の入り口へと向かっている。

 買い物客が散り散りに逃げていく。

 そうだよな……普通はそうするよな。

 

 俺も、もう少し前見ていれば刺されたりしなかったんだろうな。

 

「────あ」

 

 女の子が震えて、動けなくなっていた。

 7歳くらいの小さな女の子だ。

 ソイツは立ち止まり、女の子をじっと見つめた。

 

 おいおい、何をする気だよ。

 やめろよ。

 俺みたいなロクデナシならともかく、子供に手を出しちゃダメだろ。

 誰か止めてくれよ。

 

 ……何で、誰も動かないんだ。

 お前ら腹なんて刺されてないだろうが。

 5体満足で駆け回れるだろ? 

 なんで、そんな顔して見ているだけなんだ。

 

 …………そうか。

 分かったよ。

 

「…………っ」

 

 激痛なんて生易しい表現じゃ足りないほどの熱が、刺さったナイフから広がった。

 起きあがろうとしただけでこれだ。

 まともに動くなんてできやしないな。

 だけど……人生で初めて、思った気がする。

 絶対にこの行動を完遂しなくちゃいけないって。

 

 そう自覚したら、途端に痛みが薄くなった。

 ゆっくりと四つん這いに体勢を変え、起き上がる。

 腹筋を刺されているせいか、歩くだけでも激痛だ。

 それでも動ける程度には和らいだ。

 はは……これがアドレナリンってやつかね。

 

「……だから……は……」

 

 ──なぁ、アンタ。

 さっきのアンタの目……分かるよ。

 何も無いんだよな。

 自分を形作るものが希薄なんだ。

 誇れるものが無い。

 心を支えるものが無い。

 

 俺たちには、何も無いんだ。

 

 流されることすらできない。

 流されるほど、他者との関わりっていう流れの中に身を置いていないから。

 伽藍堂で、死んでいるのと変わらない。

 こんな社会でなきゃ、捨てられて大人にすらなれなかった。

 ……いや、俺なんかそもそも大人になってないか。

 

『────』

 

 外野が何かを言っている。

 

『────!』

 

 うるさい。

 俺はやっと見つけたんだ。

 俺と同じ、無価値の人間を。

 そして自分の役目を。

 こんな時くらい静かにしていてくれ。

 やっと、コイツに近付けたんだから。

 

 腹に刺さったナイフを、抜いた。

 途端に溢れ出す血。

 そして、今にもはみ出しそうな内臓。

 肩を叩いた。

 

「え?」

 

 驚いた表情。

 分かるよ。

 こうなったら、同じような顔するだろうな。

 

 いつも鏡で見るのと同じガラス玉。

 それを嵌めた頭部を支える首筋へ、ナイフを走らせた。

 

「かっ……!?」

 

 飛沫が顔へかかるのを感じた。

 ソイツは首を抑え、ヨロヨロとふらついて横向きに体勢を崩していく。

 女の子は涙目だけど、でも……助かった。

 あぁ、気分が良い。

 母親らしき人物が駆け寄ってきている。

 

 ──限界だった。

 その場にうつ伏せで、落ちるように倒れた。

 手をつくことすらできない。

 ガクガクと身体が震えている。

 失血によるショック症状に違いない。

 寒い。

 痛い。

 

 なんだったかな。

 書店でちらっと見ただけの……あの、本。

 ……そうだ、確かタイトルは忍者ハットリくんだった。少しだけ気になったから、覚えていた。

 父さんは好きだと言っていたな。

 こんな事になるなら、読んでいれば良かったかも。

 

 

 ──────

 

 

『…………』

 

「…………」

 

 気付いたらどこかにいた。

 どこだここは。

 病院か? 

 ……いや、病院で目が覚めるなら上を向いているはずだ。

 何で俺は立っているんだ。

 

『ようこそ』

 

「はぁ」

 

 医者では無い。

 目の前の人物は少なくとも、俺が知っている職業の人間では無い。

 翼を生やしている人間なんて、鳥人間コンテストかコスプレイヤーぐらいでしか見ないだろう。

 

『ここがどこだと思う?』

 

「さぁ」

 

 確かなのは、どうでも良いということだった。

 どこの誰でも構わない。

 すごく清々しい気分なんだ。

 初めて、役目ってやつを真っ当にこなせた気がしている。

 その余韻に浸らせてくれ。

 

『じゃあ、私は誰だと思う?』

 

「さぁ……帰りたいな」

 

 今なら、父さんと母さんにも胸を張って顔を出せそうな気がした。

 たとえ一時だけの虚勢だとしても、それで良かった。

 きっと優しく迎えてくれる。

 家に帰ろう。

 

『君は帰れないよ』

 

「……なんで」

 

 それは困る。

 俺は今から母さんたちに会って、ネットニュースを見せる必要があるんだ。

 

『死んだからさ』

 

「ああ、やっぱり」

 

 そりゃそうだよな。

 あの痛みが偽物なわけない。

 そもそも、偽物だったらあれも起こっていなかったって事になる。

 それはダメだ。

 

『どうする?』

 

「地獄はどっちだ?」

 

『地獄ねえ』

 

 俺みたいなのが天国に行けるわけないってことは、分かっていた。

 きっと、ひでぇところに行くんだろうな。

 ナイフで刺されるのとはわけが違う。

 ああ、怖い。

 嫌だなあ。

 

『宗教とか信じてないくせに、天国と地獄だけは信じてるんだから不思議だね』

 

「無いのか?」

 

『無いよあんな恐ろしいの、管理もめんどくさそうだし』

 

「そうなんだ」

 

 それは良かった。

 痛く無いならそれに越したことはない。

 

『あ、そうだ! どうせなら、何かになってみない?』

 

「なにかになる?」

 

 それは、コンニャクとか? 

 

『コンニャクでも良いよ? 別に総理大臣でも良いし、何でも願ってみな』

 

 総理大臣ってそういうのじゃないだろ。

 

『いいから』

 

 目の前で、時の総理大臣を出されたり、牛を出されたり、ウルトラマンを出されたりしたら、信じざるを得なかった。

 

「何かに……なる……」

 

 それは、とても難しい質問だった。

 他のやつなら簡単に出せたかもしれない。

 だけど俺は他のやつより劣っている。

 情熱の薄い、やる気の無いダメ野郎。

 

 どれだけ悩んだかわからない。

 幸いな事に、ソイツはとても気が長かった。

 気長に、俺なんかの言葉を待っていてくれた。

 

『暇つぶしに君の心を読んでみたんだけど、本当に何も無いね』

 

「……まぁ、な」

 

『最近の子供はそんな感じなのかい?』

 

「さぁ」

 

『回答すら何もねぇ〜!』

 

 カラカラと笑っている。

 何が面白いんだか。

 

『そんな真剣に悩むようなものじゃ無いんだよ?』

 

「だけど……」

 

『力をあげるって言ってるだけなんだから』

 

「うーん…………あっ」

 

 忍者ハットリくん。

 何も分からないけど、一体どんな能力なんだろう。

 気になったのは、それだけだった。

 

「忍者になって……なんか、こう……活躍してみたい、かも……」

 

 妙に気恥ずかしくて、照れながら言ってしまった。

 

『はいはい、忍者ね〜…………えっと、最近の忍者は……あぁ、これか!』

 

 ワクワクとしながら待った。

 この、湧き上がる熱……

 久しぶりに情熱をもって生きているって感じがする。

 死んだけど。

 

「う……?」

 

 何か、変なものが身体に入ってくる感覚があった。

 吐き気を堪えて、その感覚を受け入れる。

 きっとコレが、与えられてるって事なんだ。

 

『ほーい!』

 

「…………ふぅ」

 

 掛け声とともに、何かが身体の中におさまった。

 間違いなく、歯車が噛み合っている。

 

『ほら、出してみな』

 

「出す……?」

 

『分かるでしょ? ぐぐぐって、さ!』

 

 ぐぐぐぐ……身体に力を込めた。

 そうしたら、全身が何かに覆われた。

 

『はい、鏡!』

 

 俺は白い鎧を着ているようだ。

 …………白い鎧!? 

 コレが忍者ハットリくんなのか!? 

 

 そして、全く動けない。

 重い。

 

「お、おも、い……」

 

『そりゃそうでしょ』

 

「ふ、普通こういうのって……扱える、力とか……」

 

『龍を操る力のこと? それならちゃんとあげたよ』

 

「ち、ちが……たいりょく、とか……って、龍?」

 

 お話にならなかった。

 俺は体力も筋力もからっきしで、その鎧を扱うなんて無理だった。

 この調子だと、龍とやらも操れないことは間違いなかった。

 

『全部与えたら、君が頑張ってる姿が見られないじゃん』

 

「…………なんっ、だ……よ、ソレ……」

 

 なんとか身体を動かそうとしても、一歩を動かすのが限界で、膝をついてしまう。

 

『でも私は優しいから、君がソレを扱えるようにしてあげる!』

 

「おお……ありがたいです」

 

『頑張って修行してきてね!』

 

「…………え?」

 

 光に包まれた。

 

 

 ──────

 

 

『──いつの間に後ろに!? ……なぜその鎧を! 何者だ!』

 

 俺の目の前にいたのは、俺が纏っている鎧を、まんま纏っている人だった。

 刀を抜いて、俺に向けている。

 声も剣呑な色を帯びていた。

 こんなにも重い鎧を装着して、軽々と動いている。

 流石にまずい状況だと分かったので、必死に弁明を行なった。

 助かった命を捨てるのは惜しいと思うだけの気持ちは持ち合わせている。

 

「ち、ちがうんです……これには事情が……! 俺の意思じゃなくて!』

 

『事情だと?』

 

 意外にもちゃんと話を聞いてくれる人のようだった。

 

「き、消えろ! きえろきえろきえろきえろ……おおっ、消えた!」

 

『…………珍妙な』

 

 俺は必死に説明した。

 腹を刺されて、気が付いたら変な空間にいたこと。

 そこでよく分からないやつに、忍者の力を欲しいって言ったらこの力を授けられたこと。

 

『腹を見せてみろ』

 

「はいっ!」

 

 慌ててシャツを捲った。

 これで信じてもらえるという確信とともに。

 

『何も無いぞ』

 

「え……あれっ!? うそっ、な、なんで!?」

 

『…………』

 

 こいつ、大丈夫か? 

 みたいな空気を纏っている、ような気がする。

 フルフェイスで表情が読めないから、自信が無かった。

 

「ほ、ほんとうなんです! 許してください! 俺は本当に、あなたの鎧を掠め取ろうなんて気は! これっぽっちもなかったんです!」

 

 俺は、薄っぺらい人生の中で使わなかったエネルギーをここに注ぎ込んだ。

 

 この人に修行をつけてもらうこと以外に、俺が生き残る道はない。

 せっかく助かった命。

 ソレも、よく分からないけどカッコいい鎧つきだ。

 土下座をしまくって、なんとか修行をつけてもらうことになった。

 土下座じゃ済まなかったけど。

 

 そこからは、地獄だった。

 あのよく分からん神様みたいなやつに否定された地獄が、まさかこんなところにあったなんて。

 毎日マラソン。

 毎日素振り。

 毎日早寝早起き。

 毎日座学。

 そして毎日、稽古で叩きのめされた。

 

 いっぱい吐いて、いっぱい泣いた。

 いっぱい切られて、いっぱい殴られた。

 心も折れたし、骨も折れた。

 合計の出血量で言えば、ナイフで刺された時なんか目じゃない。

 

 そんな生活をしていると傷だらけになるし……肉体には大きな変化が出る。

 鏡を見ると、元の体からは考えられない引き絞った身体が写っていた。

 バキバキってやつだ。

 

 師匠は、オーバーウォッチという組織に所属しているエージェントだった。

 オーバーウォッチの職員や救った人々からはヒーローと呼ばれたりもしていた。

 職名がヒーローってどうなんだろう。

 そんな疑問が浮かぶ隙がないほどには、彼らはヒーローだった。

 各地へ飛んで、現れたオムニック──敵性ロボット達やテロリスト、犯罪組織を他のエージェントと共に倒していく。

 俺は、そんな道程に着いて行った。

 

 彼らは、俺の元の世界にはいなかった。

 オーバーウォッチなんて組織はなかったし、オムニックって奴らもいなかった。

 度を越した人工知能や、エネルギーフィールドみたいな超科学。

 つまり同じ地球ではあっても、シンギュラリティ真っ只中の世界だった。

 

 そしてあのオムニック達を寄越したのは、ヌルセクターっていう大層な名前の組織。

 正体は知らないけど、世界中に現れてテロ活動を行っている奴らだ。

 そしてもう一つ、タロンという組織も。

 こちらは人間が中核にいるらしい。

 こいつらもテロ組織。

 言ってしまえば、俺は戦争中の世界──もう一つの地球に送り込まれたんだ。

 

 オムニッククライシスっていうハルマゲドンを乗り越えたにも関わらず、地球は火種に包まれていた。

 

 俺はそんな世界でエージェントや職員と触れ合って、人並みの感性ってやつを手に入れていった。

 俺みたいな未熟な人間を、みんなは厳しく、やさしく、迎えてくれた。

 年上でも年下でも、みんな、俺なんかよりよっぽど大人だった。

 

 修行の合間に多くのものを見た。

 

 初めて戦場に出た時のことだ。

 それは、否応なしに吐き気を催すようなものだった。

 日本では想像すらしなかった。

 あのとき俺が、スーパーで救ったくらいの歳の女の子が、顔だけ残してロボットにミンチにされていた。

 恋人らしき二人が、蜂の巣にされていた。

 家族が、丸ごと焼き尽くされていた。

 ──俺はどんな表情をしていただろう。

 

 破壊され尽くした街を見回した。

 大震災ですらこうはならないだろうというような、筆舌に尽くし難い惨状。

 後ろから肩に置かれたのは、トール爺のゴツゴツした手。

 トール爺は悲しそうな顔をしていた。

 

 あの人が作り出したロボットは、人類を抹殺するためにいまだに使われていた。

 人々のために生み出した、最高の発明。

 それが、最悪の進化を遂げた。

 どれだけ辛かっただろう。

 

 俺はトール爺の前で、人目を憚らずに泣いてしまった。

 感情を堪える事ができなかった。

 師匠と、その一族の力をなんの代償もなく手に入れたのに、それに見合うだけのものを何も提示できていなかった。

 彼らの元にいるのに、俺は何者にもなれなかった。

 ……目の前にいた人たちを、誰も救えなかった。

 

 俺は、ヒーローでは無かった。

 

 師匠は一言、修行が足りないからだと言った。

 自らもまた苦しみの中にあるのに、俺のことを導かんとしてくれた。

 

 

 ──────

 

 

 俺の住む家の近く。

 猫を撫でるオムニックがいた。

 とても穏やかな方だった。

 思わず話をしてしまいたくなるような、そんな雰囲気を纏っていた。

 

 俺は、彼と話をした。

 それは、答えのない話だった。

 俺の境遇や、彼の思い。

 友人や世界の在り方。

 なぜ人は──なぜオムニックは争わなければならないのか。

 

『我々は、諍いを望むべきではない。融和こそ、虹彩が我らに与えた運命であり、君が望む未来なのだ』

 

「俺は……俺には、何が正しいのかがわかりません」

 

『正しいかどうかではない、より良い未来を目指すのだ。そうありたいと振る舞う事、それそのものが未来を作るのだから』

 

「ですが……世界は、こんなにも苦しみに満ちている」

 

 子供が潰され、彼の仲間が壊され、愛するものを失ったもの達はそれでも戦いをやめない。

 俺には、世界が自らを食い尽くそうとしているようにすら見えた。

 

『諦めるな』

 

 彼は、俺の胸に指をトンと当てた。

 優しく。

 

『だからこそ君は苦しみ、私はこうして思うのだ』

 

「……はい」

 

 彼は、暴徒に殺された。

 雨の降る日、俺が彼の元を訪ねた時にはすでに。

 

「…………」

 

 降り頻る雨が、彼の体から漏れ出すオイルを側溝へと流していく。

 言葉も、思いも、全て流れていった。

 

 

 ──────

 

 

 俺は師匠と稽古をする時、必ず師匠の鎧を纏っていた。

 傍目には、全く同じ二人が戦っているように見えただろう。

 だが、実際は違う。

 一方的だ。

 俺の剣筋は絡め取られ、逸らされ、全ての攻撃が掠りもしない。

 対して師匠の攻撃は、俺の防御をすり抜けているかのようだった。

 

 当然といえば当然だ。

 師匠の剣技はヒーロー達の中でも長じていて、俺みたいなパンピーに毛が生えただけのやつが敵うはずもなかった。

 しかも、教わっているのは師匠の流派の剣技であり、師匠はその流派のトップ。

 ……当然ではあるけど、落ち込みはした。

 

 科学者達により、俺の鎧を解析してもらいもした。

 装着している時に一部だけ取り外してというのができないので、顕現させた状態で削り、その成分を分析してもらった。

 師匠の鎧と全く同じ成分だった。

 

 ソレがなぜ霧のように消えるのか、科学者達はこぞって研究した。

 解析が成功すればマジックポケットが作れるだの、量子物理学がひっくり返るだの、完全なテレポーテーションが実現できるようになるだの。

 

 解析は難航した。

 だろうな、というのが正直な感想だった。

 彼らは──トール爺も含め、度を越した天才ではあったが、相手はともすれば形而上の存在かも知れなかった。

 だが、ソレを伝えると科学者達の目は一層輝いた。

 

 科学者冥利に尽きるそうだ。

 

 消える瞬間の粒子を電磁気によって止めようとしたり、極低温にすることで固定しようとしたり、エネルギーフィールドを極大の密度にして包み込んだり、そもそも消えさせないように反物質による対消滅反応でエネルギーとしてこの世界に残そうとしたり。

 流石に俺が死ぬから止めさせた。

 

 だけど、楽しかった。

 理論なんてものはさっぱりだけど、ラボは遊び場みたいなもので、見るもの全てが新鮮だった。

 

 師匠に毎日シゴき抜かれ、動きが良くなったかを確かめるのも含めて新武器の試し撃ち相手にされ、たまの休日は師匠の言葉を受けて女の子と遊び、また師匠にボコられ、ラインハルトと酒盛りをし、みんなの夢を聞き、少しずつ俺は強くなっていった。

 俺は、幸せだった。

 

 そうやって修行したりガジェットを爆発させたり俺の異能を実験しているうちに、黄金時代は終わりを迎えた。

 

 

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